本棚フェアで選書した本とその小解説
数学書 本棚フェア解説集 増補版
2015年8月3日から10月4日まで、書泉グランデ(神保町店)さんと、MARZEN&ジュンク堂(梅田店)さんで『数学者 新井仁之先生の本棚フェア』が開催されました。そこで取り上げた本とそのときに書いた解説です。長いため、PART 1 と PART 2 に分けました。下線を引いた部分が、書店に展示されたポップの解説です。それ以外の部分は書店公開しなかったものです。PART 1 は解析学、線形代数。微分幾何学、確率論からの選書です。PART 2 は応用系、その他、及び自著からの選書です。
第1版 2015/08
増補改訂 2023/07
PART 1
【微分積分 - Calculus -】
1.藤原松三郎 微分積分学、内田老鶴圃
微分積分に関する数多くの定理が集録。出典の引用もしっかりしています。微分積分学の貴重な文献です。
この本は、今ではどの教科書にも載っていないような定理が数多く集録されています。微分積分に関する古い定理は、演習問題の形で残っても、それを誰がいつ発表したのかは埋もれてしまうことがあります。この本には、本文だけでなく、演習問題にも出典が明記されています。微分積分学の貴重な文献といえるでしょう。
2.ルディン、現代解析学、共立出版
微分積分のしっかりした入門書です。最後の二章に書かれている多変数関数の一般的な扱いとルベーグ積分のコンパクトな解説は出色です。
3.赤 攝也、実数論講義、SEG出版
素朴集合論に基づく議論で、実数論を初学者向けにていねいに展開しています。小数に関する詳細な解説もあります。 解析学の基礎として重要なのが「実数の構成」と「実数の完備性」です。そもそも実数とは何か。これについて学ぶには、たとえばデデキント著『数について』(ちくま学芸文庫、岩波文庫)などの原典をあたるという手もありますが、こちらの方が初心者向けの本として読みやすいように思います。
4.田代嘉宏、テンソル解析、裳華房
科学技術の分野によっては、スカラーやベクトルだけでなく、テンソルも計算する必要があります。本書はテンソル解析のわかりやすい入門書です。最終章が自然にリーマン幾何学へと誘ってくれます。
【線形代数関係】
線形代数を初めて学ぶときは、その先にどのような応用があるのかわかりにくいかもしれません。応用面を詳説した入門書としては次のものが丁寧に書かれています。
5. ギルバート・ストラング『線形代数とその応用』、産業図書
日本の教科書では無視されがちな擬逆行列、特異値分解の解説もあります。後半では、数値計算法、線形計画法、ゲーム理論も。生き生きとした線形代数の本。
原書第1版の翻訳ですが、原書第3版では高速フーリエ変換が加わっています。
6. 田村三郎『文系のための線形代数の応用』、現代数学社
【複素解析関連】
複素関数論の和書は、これまで数多くのものが出版されてきました。その中で、私が好きなものは、辻正次『複素函数論』槇書店(1968)、竜沢周雄『関数論』共立選書(1980)、高橋礼司『複素解析』筑摩書房(1979)です。残念ながら現在はどれも品切れ状態のようですが、しかし幸いなことに、高橋先生の本は、新版として出版されています。
7.高橋礼司『複素解析』、東京大学出版会
すっきりとスマートな記述で、複素関数論が展開されていきます。巻末にある関数論の本の寸評も面白く読めます。
ちなみに辻正次『複素函数論』はかなり厚い本で、初歩的なことから関数論のさまざまな古典的定理が書かれています。等角写像の境界挙動、ネヴァンリンナ理論がここまで詳しく解説された和書の現役版はないかもしれません。竜沢『関数論』は共立選書で、やや小ぶりの本ですが、中身は非常に濃いものです。特に解析数論を意識して書かれていて、個々の「複素関数」について論じられています。
関数論の標準的な教科書ではありませんが、次の本はわかりやすく書かれています。
8. 楠幸男『無限級数入門』、朝倉書店
無限級数という視点から、フーリエ級数、解析関数、ディリクレ級数などを概観した特色ある本です。無限級数は解析学の基本的な話題なので、こういうまとまった学習ができる本は便利です。
9. 梶原壤二『複素関数論』、森北出版、POD版(数学ライブラリー)
ヘルマンダーのデルバー方程式による多変数複素解析への入門書。関数論と関数解析に関する必要最小限の予備知識も解説されています。
10. 倉田令二朗『多変数複素関数論を学ぶ』、日本評論社
岡潔によるクザンの問題、近似の問題、レヴィの問題の解決を軸に、多変数関数論の流れが語られています。エキサイティングな語り口は著者独特のものでしょう。倉田氏の面目躍如たる解説です。
私が大学1年になったとき、数学セミナーでの連載最終回を見ました。その後、大学の図書室でコピーして、拾い読みしていました。今回、1冊の本としてまとまり、非常に読みやすくなりました。ヘルマンダリズムという言葉が的を射た印象を受けます。
【実解析学】
11. G. H. ハーディ、J.E. リトルウッド、G. ポーヤ『不等式』、丸善出版
解析学の基本的な道具は、不等式です。本書は不等式の古典的名著。解析学のさまざまな基本的なノウハウが学べます。
12.薮田公三『特異積分』、岩波書店
特異積分論に関する実解析的方法を解説した本。カルデロン-ジグムントの特異積分に関するいろいろな評価式を学べます。
【関数解析・偏微分方程式】
関数解析の本格的な入門書。偏微分方程式への応用を念頭におき、重要事項がわかりやすく網羅されています。解析的半群、一般化された固有値関数系など、入門書で扱われることが少ない話題の丁寧な解説も含まれています。
関数解析の源流の一つである古典的積分方程式。関数解析学を学ぶ際の副読本としても良い本です。
超関数論の創始者である L. シュワルツの記念碑的な著作です。超関数について、いろいろ細かいことまで記述されていて、便利な本でもあります。あくまでも個人的な印象ですが、シュワルツの他の数学書は、ラドン測度や多様体上のマルチンゲールの本など定式化を重視していて抽象的なものが多いように思います。しかし、この本では、一般論的な記述に終始するのではなく、シュワルツの超関数論が物理に現れる線形偏微分方程式、フーリエ解析、多様体上の解析などへの即戦力となることが示されています。本書には一つの数学理論を組み立てるという著者の力強い意思が感じられます。オリジネーターだからこそ書けた本といえるでしょう。
本書は線形偏微分方程式論の基礎的な話から、超関数論の応用、さらには擬微分作用素まで解説した本格的入門書です。
内容は非常に濃厚です。著者は擬微分作用素に関する著名な研究者だった人で、『擬微分作用素』(岩波書店)という本も著しています。
複雑な境界をもつ領域上の調和関数の境界挙動、ハルナック型不等式、ディリクレ問題など、楕円型偏微分方程式論の一つのモデルケースがここにあります。
前半は増田久弥先生による関数解析の解説、後半は、8名の専門家による応用解析学の発展的な話題の解説が集録されています。非線形関数解析、調和解析、ウェーブレット、粘性解、界面ダイナミクス、Navier-Stokes方程式、衝撃波等々、応用解析の有用なハンドブックです。
Navier-Stokes 方程式、Stokes方程式のコンパクトな入門書。実解析、関数解析が駆使されています。
いろいろな場面で遭遇する逆問題ですが、本書は実解析と関数解析ベースの本です。ラドン変換にも一章がさかれています。
不動点定理について、幾何学、関数解析、偏微分方程式、経済学など多方面から光を当てた ユニークな特集です。
ウェーブレットは20世紀末に現れた応用数学。本書は純粋数学としてのウェーブレット理論を解説したもの。調和解析への一つの入門にもなっています。
【幾何学】
23. 志賀浩二『多様体』、岩波書店(品切れ、2015/10/8現在)
多様体の誕生から、多様体論の展開までを学べます。特にジェット・バンドルと微分作用素の丁寧な解説、楕円型複体への導入が便利です。
多様体とリーマン幾何学の入門書。後半では複素多様体も扱われています。微分形式、テンソル計算なども丁寧に解説されています。
25.野水克己『現代微分幾何入門』、裳華房
"Kobayashi and Nomizu "Foundation of Differential Geometry" が微分幾何学の本では有名ですが、これを勉強するときに参考にしたのが、この本です。多様体、ベクトル束、ファイバー束、接続などが手際よく解説されています。
微分幾何の本ですが、多様体上の解析学の醍醐味を味わうこともできます。
20世紀後半、マンデルブロが「フラクタル幾何学」という分野を提唱しました。これは従来の幾何学で扱ってきた図形とは違い、非常に複雑な形の図形を研究対象とするものです。たとえば、入り組んだ海岸線や、コッホ曲線などです。
フラクタル幾何学の基盤になっているのが、ハウスドルフ測度に関する実解析です。その詳細を学ぶことのできる本です。本書に「このような密度定理をハウスドルフ測度に対しても定式化しようという試みが、本書における大部分の研究の起源になっているのである」(上掲書、p.18より)とあるように、ルベーグの密度定理が出発点になっています。
28.K. Falconer『フラクタル幾何学』、共立出版
同じ著者の「フラクタル集合の幾何学」が実解析色の濃い本であるのに対し、本書では、より広い視点からフラクタル幾何学が紹介されています。フラクタル幾何学の応用も垣間見ることができます。
【確率論】
29.ウィリアム・フェラー『確率論とその応用1上、1下』、紀伊国屋書店
測度論を仮定しない確率論の本。様々な具体例がていねいに解説されていて、確率論の面白さを素朴に楽しめます。高校生でも十分読み始められる内容です。
30. 渡辺信三『確率微分方程式』、産業図書(2015/10/8現在 品切れ)
ブラウン運動、確率積分、伊藤の公式、確率微分方程式がコンパクトにまとめられている確率解析の入門書です。ブラウン運動の四つ組に関する解説、連続マルチンゲールの表現定理などの基礎的事項についても書かれていて便利です。
31. 福島正俊、竹田雅好『マルコフ過程』、培風館
確率論と解析学の接点にある重要な確率過程の一つであるマルコフ過程。本書はマルコフ過程とそれに関連するディリクレ形式の希有な入門書です。
32. 数学のたのしみ 2004 秋『ウェーブレット解析の展開』、日本評論社
ウェーブレットの特集。ウェーブレット入門、偏微分方程式、統計学、乱流、視覚科学への応用を専門家が解説しています。
33. 甘利俊一『神経回路網モデルとコネクショニズム』、東京大学出版会
神経回路網、学習理論の数理。哲学者の黒崎政男氏による哲学からの議論も載っています。
34. 樋口保成『パーコレーション』(新版)、遊星社
パーコレーションという現象の数学モデル化を中心に確率論を解説する異色の入門書。臨界確率に関する巧妙な評価の導出は圧巻です。
35. キース・デブリン、ゲーリー・ローデン『数学で犯罪を解決する』、ダイヤモンド社
応用数学を題材にしたアメリカのTV番組「ナンバーズ」から、その数学的な部分を抜き出して解説したもの。ドラマの主人公は、FBIに協力する応用数学者。
【その他】
36.寺坂英孝編『現代数学小辞典』(ブルーバックス)
個人的なことを言えば、よく大学生1年生のとき、長い通学電車の中でこれを読んでいました。数学のさまざまな分野がコンパクトに基礎から紹介されています。内容としては基礎論、代数、幾何、解析、確率・統計、情報などの話がカバーされています。コラムになっている数学者のミニ評伝も、大学の数学の世界に初めて足を踏み入れたときには興味津々でした。
37.R. カウージャ『バナッハとポーランド数学』、丸善出版
20世紀はじめ、ポーランドで開花した関数解析。その立役者バナッハの生涯と数学、そして仲間たちの足跡をたどる。関数解析を学ぶ際に併せて読むと臨場感溢れる学習ができると思います。
38. モリス・クライン『数学の文化史』、河出書房新社
数学がいかに歴史的に文化の形成に貢献してきたかをシステマティックに論じた力作。本書からの古代ローマに関する引用
「数学、科学、哲学、芸術などにおけるローマ人の業績の不毛性は、実用性を動機としない抽象的思索を非難した「実利的」民族への当然の報いである。」
39. 『オプティカ』エウクレイデス全集 第4巻、東京大学出版会
ユークリッドによる視線、見え方の幾何学的研究。詳細な注解と解説があります。古代ギリシャの視覚理論の概略も便利です。
40. 上野健爾、高橋陽一郎、中島啓共編『数学の未解決問題 21世紀数学への序章』、SGCライブラリ21、サイエンス社
数学の諸分野における未解決問題を概観できます。雑誌「数理科学」に連載された多くの著者による解説記事がまとめられたものです。
41. 田中尚夫『選択公理と数学―発生と論争、そして確立への道』、日本評論社
選択公理の由来、諸結果がエピソードを交えながら解説されています。数学の基礎に関する話題に思いを巡らすための良い案内書にもなっています。
42. 落合卓四郎監修『東大教授が語る,東大新入生のための数学ブックガイド』,東京図書
東大の数学に関連する教授陣が、それぞれの視点から選んだ本の本。解説や感想などを読むことができます。
【その他 数学以外】
43. チャールズ・テイラー『音の不思議をさぐる-音楽と楽器の科学』、大月書店
イギリス王立研究所での伝統あるクリスマス講演をもとにして書かれた本。音や楽器の物理学的な考察を楽しめます。ストーリーの組み立て方など、一般向け講義のお手本としても参考になります。
44. ジャスティン・ボラード、ハワード・リード『アレクサンドリアの興亡』、主婦の友社(品切れ)
数学、科学、哲学に関する驚異的な研究が生まれた学術の都、古代アレクサンドリア。その誕生、発展、崩壊の歴史が記されています。世界の知を集めた大図書館の消失は、人類の大きな損失でした。
45. 北岡明佳監修『錯視と錯覚の科学』、ニュートン別冊
人の脳はどのような錯覚を起こすのか?日本の錯視関係研究者がほぼ総動員でさまざまな錯視を解説。私が参画した「数理視覚科学の世界」も最終章にあります。
46. スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』(飯田規和訳)、早川文庫
スタニスワフ・レム『ソラリス』(沼野充義訳)、早川文庫
数学的言語を使う高度な生命ともいわれているソラリスの海。ソラリスの海からのコンタクトのなぞ。この本を読んでから、しばらく他のSFを読めなくなるほどの衝撃を受けた深い作品です。
ロシア語版からの飯田訳と、ポーランド語のオリジナル版からの完全新訳である沼野訳。文章の雰囲気は全く異なっています。
47. V. S. ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊、ふたたび』、角川文庫
幻肢、盲視、半側空間無視など症例、共感覚の神経科学的考察を軸に、脳と視覚という広大な未知の領域に踏み込んでいく本です。
【自著コーナー(単著)】
1.新井仁之 監修・著『錯視のひみつにせまる本 全3巻』、ミネルヴァ書房
錯視の歴史(1巻)、錯視の技(2巻)、そして第3巻では数学的方法で錯視のひみつに迫ります。私たちの脳は錯視を起こします。第1巻では錯視研究の歴史、第2巻では、錯視を私たちはどのように利用してきたかを解説します。そして、第3巻では錯視のひみつに数学的方法を使って迫ります。子どもから大人まで楽しめる錯視の新しいタイプの入門書。
2.新井仁之『ウェーブレット』、共立出版
純粋数学と応用数学の縦横無尽に。ウェーブレットを有限離散、無限離散、連続の場合に分けて詳解。
3.新井仁之『フーリエ解析学』、朝倉書店
多変数離散フーリエ解析、多変数フーリエ級数、多変数フーリエ変換の入門書。ディジタル信号処理の厳密な数学的基盤も整備して記してあります。
4.新井仁之『新・フーリエ解析と関数解析学』、培風館
フーリエ解析、直交関数系、ウェーブレット、自己共役作用素のスペクトルを一つの流れのなかで解説。緩増加超関数、ソボレフ空間の入門も含んでいます。
5.新井仁之『ルベーグ積分講義 【改訂版】- 面積0の不思議な図形たち』、日本評論社
ルベーグ測度、ルベーグ積分を丁寧に解説し。フラクタルや掛谷問題なども扱いました。
6.新井仁之『微分積分の世界』、日本評論社
逆接線の問題を考究していくという学術的なストーリー展開で、微分と積分の初歩を解説しました。力学との関係にも力点をおいています。
7.新井仁之『線形代数 基礎と応用』、日本評論社
線形代数の理論の丁寧な解説をして、その後、多変量解析、離散フーリエ解析、ウェーブレット、画像処理などの応用を数学的に完全な形で記述。特異値分解や一般逆行列のわかりやすい解説もしました。
【自著コーナー(分担執筆)】
11.新井仁之「視覚と錯覚の数理科学」 in 西浦廉政編著『越境する数学』、岩波書店
「さきがけ」1期生による六つの研究が紹介。拙稿「視覚と錯覚の数理科学」も掲載されています。表紙、うら表紙のために数学を用いた錯視アートも作成しました。
12.新井仁之「錯視の数理」 in 合原一幸編著『社会を変える驚きの数学』、ウェッジ
「錯視の数理」という解説を執筆しました。
13.織田孝幸編著『なぜ!こんなに数学はおもしろいのか』、技術評論社
第5夜「無限を極める」を編者とともに担当しました。
数学書 本棚フェア解説集 PART 2 -応用系、数理視覚科学、その他-
PART 2 は応用系、その他、及び自著からの選書です。
【応用系】
32. 数学のたのしみ 2004 秋『ウェーブレット解析の展開』、日本評論社
ウェーブレットの特集。ウェーブレット入門、偏微分方程式、統計学、乱流、視覚科学への応用を専門家が解説しています。
33. 甘利俊一『神経回路網モデルとコネクショニズム』、東京大学出版会
神経回路網、学習理論の数理。哲学者の黒崎政男氏による哲学からの議論も載っています。
34. 樋口保成『パーコレーション』(新版)、遊星社
パーコレーションという現象の数学モデル化を中心に確率論を解説する異色の入門書。臨界確率に関する巧妙な評価の導出は圧巻です。
35. キース・デブリン、ゲーリー・ローデン『数学で犯罪を解決する』、ダイヤモンド社
応用数学を題材にしたアメリカのTV番組「ナンバーズ」から、その数学的な部分を抜き出して解説したもの。ドラマの主人公は、FBIに協力する応用数学者。
【その他】
36.寺坂英孝編『現代数学小辞典』(ブルーバックス)
個人的なことを言えば、よく大学生1年生のとき、長い通学電車の中でこれを読んでいました。数学のさまざまな分野がコンパクトに基礎から紹介されています。内容としては基礎論、代数、幾何、解析、確率・統計、情報などの話がカバーされています。コラムになっている数学者のミニ評伝も、大学の数学の世界に初めて足を踏み入れたときには興味津々でした。
37.R. カウージャ『バナッハとポーランド数学』、丸善出版
20世紀はじめ、ポーランドで開花した関数解析。その立役者バナッハの生涯と数学、そして仲間たちの足跡をたどる。関数解析を学ぶ際に併せて読むと臨場感溢れる学習ができると思います。
38. モリス・クライン『数学の文化史』、河出書房新社
数学がいかに歴史的に文化の形成に貢献してきたかをシステマティックに論じた力作。本書からの古代ローマに関する引用
「数学、科学、哲学、芸術などにおけるローマ人の業績の不毛性は、実用性を動機としない抽象的思索を非難した「実利的」民族への当然の報いである。」
39. 『オプティカ』エウクレイデス全集 第4巻、東京大学出版会
ユークリッドによる視線、見え方の幾何学的研究。詳細な注解と解説があります。古代ギリシャの視覚理論の概略も便利です。
40. 上野健爾、高橋陽一郎、中島啓共編『数学の未解決問題 21世紀数学への序章』、SGCライブラリ21、サイエンス社
数学の諸分野における未解決問題を概観できます。雑誌「数理科学」に連載された多くの著者による解説記事がまとめられたものです。
41. 田中尚夫『選択公理と数学―発生と論争、そして確立への道』、日本評論社
選択公理の由来、諸結果がエピソードを交えながら解説されています。数学の基礎に関する話題に思いを巡らすための良い案内書にもなっています。
42. 落合卓四郎監修『東大教授が語る,東大新入生のための数学ブックガイド』,東京図書
東大の数学に関連する教授陣が、それぞれの視点から選んだ本の本。解説や感想などを読むことができます。
【その他 数学以外】
43. チャールズ・テイラー『音の不思議をさぐる-音楽と楽器の科学』、大月書店
イギリス王立研究所での伝統あるクリスマス講演をもとにして書かれた本。音や楽器の物理学的な考察を楽しめます。ストーリーの組み立て方など、一般向け講義のお手本としても参考になります。
44. ジャスティン・ボラード、ハワード・リード『アレクサンドリアの興亡』、主婦の友社(品切れ)
数学、科学、哲学に関する驚異的な研究が生まれた学術の都、古代アレクサンドリア。その誕生、発展、崩壊の歴史が記されています。世界の知を集めた大図書館の消失は、人類の大きな損失でした。
45. 北岡明佳監修『錯視と錯覚の科学』、ニュートン別冊
人の脳はどのような錯覚を起こすのか?日本の錯視関係研究者がほぼ総動員でさまざまな錯視を解説。私が参画した「数理視覚科学の世界」も最終章にあります。
46. スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』(飯田規和訳)、早川文庫
スタニスワフ・レム『ソラリス』(沼野充義訳)、早川文庫
数学的言語を使う高度な生命ともいわれているソラリスの海。ソラリスの海からのコンタクトのなぞ。この本を読んでから、しばらく他のSFを読めなくなるほどの衝撃を受けた深い作品です。
ロシア語版からの飯田訳と、ポーランド語のオリジナル版からの完全新訳である沼野訳。文章の雰囲気は全く異なっています。
47. V. S. ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊、ふたたび』、角川文庫
幻肢、盲視、半側空間無視など症例、共感覚の神経科学的考察を軸に、脳と視覚という広大な未知の領域に踏み込んでいく本です。
【自著コーナー(単著)】
1.新井仁之 監修・著『錯視のひみつにせまる本 全3巻』、ミネルヴァ書房
錯視の歴史(1巻)、錯視の技(2巻)、そして第3巻では数学的方法で錯視のひみつに迫ります。私たちの脳は錯視を起こします。第1巻では錯視研究の歴史、第2巻では、錯視を私たちはどのように利用してきたかを解説します。そして、第3巻では錯視のひみつに数学的方法を使って迫ります。子どもから大人まで楽しめる錯視の新しいタイプの入門書。
2.新井仁之『ウェーブレット』、共立出版
純粋数学と応用数学の縦横無尽に。ウェーブレットを有限離散、無限離散、連続の場合に分けて詳解。
多変数離散フーリエ解析、多変数フーリエ級数、多変数フーリエ変換の入門書。ディジタル信号処理の厳密な数学的基盤も整備して記してあります。
4.新井仁之『新・フーリエ解析と関数解析学』、培風館
フーリエ解析、直交関数系、ウェーブレット、自己共役作用素のスペクトルを一つの流れのなかで解説。緩増加超関数、ソボレフ空間の入門も含んでいます。
5.新井仁之『ルベーグ積分講義 - 面積0の不思議な図形たち』、日本評論社
ルベーグ測度、ルベーグ積分を丁寧に解説し。フラクタルや掛谷問題なども扱いました。
6.新井仁之『微分積分の世界』、日本評論社
逆接線の問題を考究していくという学術的なストーリー展開で、微分と積分の初歩を解説しました。力学との関係にも力点をおいています。
7.新井仁之『線形代数 基礎と応用』、日本評論社
線形代数の理論の丁寧な解説をして、その後、多変量解析、離散フーリエ解析、ウェーブレット、画像処理などの応用を数学的に完全な形で記述。特異値分解や一般逆行列のわかりやすい解説もしました。
【自著コーナー(分担執筆)】
8.新井仁之「視覚と錯覚の数理科学」 in 西浦廉政編著『越境する数学』、岩波書店
「さきがけ」1期生による六つの研究が紹介。拙稿「視覚と錯覚の数理科学」も掲載されています。表紙、うら表紙のために数学を用いた錯視アートも作成しました。
9.新井仁之「錯視の数理」 in 合原一幸編著『社会を変える驚きの数学』、ウェッジ
「錯視の数理」という解説を執筆しました。
10.織田孝幸編著『なぜ!こんなに数学はおもしろいのか』、技術評論社
第5夜「無限を極める」を編者とともに担当しました。