齋藤 敬之

J-GLOBALへ         更新日: 17/03/23 05:33
 
アバター
研究者氏名
齋藤 敬之
 
サイトウ ヒロユキ
URL
https://tu-dresden.academia.edu/HiroyukiSaito
所属
ドレスデン工科大学哲学部
部署
近世史講座
職名
Doktorand(博士候補生), DAAD-Stipendiat(DAAD奨学生)
その他の所属
早稲田大学

プロフィール

◎研究テーマ
研究テーマは近世ドイツ都市における治安維持と犯罪行為の分析です。治安維持はいかなる時代や地域にも見られますが、その意味や手法はそれぞれに異なります。というのも、そうした治安維持行為の対象である犯罪それ自体が(古くはE.デュルケームが指摘したように)社会の中に位置づけられ、その意味や形態も歴史的に変化しているからです。
とりわけ関心を持っているのは、中世後期以降のドイツ都市において公権力が平和や治安を維持するさまざまな試みです。当該時期に、犯罪処理とくに刑法の面での変化や進展、それとパラレルに新たな行為の「犯罪化」といったプロセスが見られます。このようなプロセスにおいて、公権力が具体的にいかなる規範を立ていかなる対策を進めていたか、及び(都市)住民が平和やその維持/破壊にどういう態度や反応を示していたか、といった点が分析の対象となります。
この中で、前近代のヨーロッパ、とくにドイツで見られた「ポリツァイ(Policey/Polizei)」の概念及び試みが注目されます。近現代でのポリツァイは、国家的組織としての「警察」を意味しますが、近世のポリツァイは、「(維持すべき/目指すべき)よき秩序」そのもの、及びそのための諸政策を意味する政治的概念でした。主としてポリツァイの名が冠されたポリツァイ条令(Policeyordnung)の形で、さまざまな政策が進められていきますが、それと同時に「よき秩序」に反する逸脱行為の範囲や定義づけも変化・拡大していきました。こうしたプロセスに注目することで「何が秩序や治安を乱し得る行為/逸脱した行為と見なされたのか」という点を考察することが可能になり、加えてそうした秩序維持や治安維持の際に採られた手法(人員採用など)、犯罪の性質や形態から前近代社会の性質の一端を見出すことを目標としています。

◎研究アプローチ
本研究にとっては、近年のドイツ歴史学で精力的に進められているポリツァイ研究(Polizeiforschung)及び歴史犯罪研究(Historische Kriminalitätsforschung)の動向が重要になります。この両研究は、とくに中世後期から近世初頭にかけての都市社会の変容に対し、都市の公権力が規範の定立や諸規制を通じて「よき秩序」の維持や構築を目指す試みを続けてきた点を踏まえ、ドイツ都市における治安維持や犯罪を主たる考察の対象としてきました。それゆえ、私の研究も近世ドイツ都市に向けられます。
ポリツァイ研究における重要な論点の一つは、法規範の公布や運用の際に公権力と都市社会との間にいかなる協働関係が見られたかというものでした。さらに、歴史犯罪研究では、裁判史料を用いた犯罪処理の分析を通じ、司法機能における公権力と都市社会との関係の問い直しが試みられてきました。公権力による司法が、規律的な機能や犯罪者の排除を目指したのではなく調停的な機能を果たしていたことが明らかにされ、公権力と都市社会との交渉や、都市社会からの恩赦の請願を受けた刑罰の柔軟な実施の意義が強調されています。これらの議論では、紛争解決が公権力による一方的な統制によって進められたのではなく、公権力と都市社会との間での頻繁なコミュニケーションが図られることで進められ、都市の秩序が保たれていたことが強調されています。
ここで述べた公権力と都市社会との間での協働関係やコミュニケーションに関して重要なのが、社会的コントロール(social control)の観点です。この観点はすでに社会学の分野でしばしば議論されてきましたが、歴史学においても上記の両研究分野で積極的に受容されてきました。こうした観点に従えば、逸脱行為の定義づけに作用する規範は必ずしも公権力によるフォーマルなものに限られず、家族や職業集団などの集団内で有効なインフォーマルな慣習も意義を有していたと理解されます。とりわけこの傾向は、さまざまな規範が同時に存在する前近代で顕著であり、その点からも社会的コントロールの観点を本研究で扱う暴力犯罪に関する問題に用いることは有効であると思われます。

◎研究対象
ポリツァイ研究や歴史犯罪研究では、主に南ドイツの諸都市(ニュルンベルクやアウクスブルク)、ケルンなどが多く挙がっています。領邦レベルでも、ヴュルテンベルクやマインツ、バイエルンなど西・南の地域に関する諸研究が蓄積されてきました。
そこで私は、ドイツ東部ザクセン地方の領邦都市ライプツィヒを対象に研究を進めています。ポリツァイや犯罪史に関する研究が我が国のみならずドイツにおいても相対的に少ない点、上記南ドイツ諸都市とは都市社会や都市政治の形態が異なる点が主な理由です。とくに、ライプツィヒは1409年の設立以来現在でも著名な大学都市であり、大学学生と都市の手工業職人との争いといった「若者の暴力文化」にも着目できる恰好の事例であると考えています。実際、ライプツィヒ参事会はとくに16世紀以降学生や手工業職人を名指しした命令や政策を繰り返し出しています。何故彼らの行為が「目立って平和を乱すもの」として扱われたのかを、規範史料によって公権力の見方から迫るだけでなく、裁判史料(Gerichtsakten)を主として用いることで彼ら本人の認識や第三者(証人等)の立場から分析し、そうした若者の暴力行為とどのように付き合っていたのかを論じることを主たる課題として設定しています。ライプツィヒ以外の大学都市(フライブルクやゲッティンゲン、ハレなど)を扱った先行研究ではすでに固有の形態や意味を持つ学生の文化について論じられてきていますが、本研究では先述の第三者の証言から彼らの学生や手工業職人の文化に対する見方や認識を解明することにも重点が置かれます。その際に、先述の社会的コントロールの観点を中心的な分析視角として用います。そして、公権力による(フォーマルな)コントロールの試みだけでなく家族や社会集団による(インフォーマルな)コントロールにをも視野に収め、若者の暴力行為に対する複数の社会的コントロールの可能性とその諸関係を明らかにすることを目標とします。これにより、これまでの研究で単に「無規律」で「逸脱的」と扱われてきた近世の若者の暴力行為を、都市社会といったより広い文脈に位置づけて再解釈することが可能になると思われます。

◎これまでの研究(業績は「論文」「講演・口頭発表等」「Misc」を参照)
ポリツァイについては、修士課程在学中から関心を向けています。修士論文では、刊行史料の状況のよいアウクスブルクを事例に、16世紀から17世紀に出された包括的な内容を持つポリツァイ条令(Policeyordnung)の内容を概観しつつ、ポリツァイの性質の一端を考察しました。
この修士論文をもとに、2010年7月の口頭発表、12月の論文発表を行いました。これらでは、修士論文では不十分だった当時のアウクスブルクの政治・社会構造にも視野を広げてポリツァイ条令の性質を論じました。
博士後期課程進学後に研究対象をライプツィヒに変えました。2010年から2011年にかけて大学間協定の交換留学によりライプツィヒ大学に留学しました。帰国後の2011年後期よりライプツィヒに関する成果を発表しています。
2013年度よりドイツ学術交流会(DAAD)の長期留学奨学金を受給しています。それをもとに2013年10月からドレスデン工科大学哲学部に所属し、近世史講座のG・シュヴェアホフ(Prof. Dr. Gerd Schwerhoff)教授のもとで博士論文を執筆中です。

◎博士論文の題目と構成
"Jugendliche Gewaltkultur und soziale Kontrolle in der frühneuzeitlichen Stadt: Das Beispiel Leipzig, ca. 1570–1650"(仮題)
(邦訳:近世都市における若者の暴力文化と社会的コントロール:およそ1570年から1650年までのライプツィヒを事例に)
第1章 導入
第2章 中近世ライプツィヒ都市史の枠組条件
第3章 規範上の基礎I:刑法における柔軟な制裁設定
第4章 規範上の基礎II:予防的施策(都市の条令や大学の規約)
(第5章 裁判権をめぐる都市と大学との争い)
第6章 社会的コントロールの交差点:裁判所への請願とコントロールの担い手の協働
第7章 若者の暴力の諸形態と暴力へのリアクション
第8章 まとめ

◎関連文献(邦語のみ)
私の研究に関わる文献を以下に挙げます。ご参照ください。
池田利昭「中世後期・近世ドイツの犯罪史研究と「公的刑法の成立」―近年の動向から―」(『史学雑誌』第114編、第9号(2005年)、60-84頁。)
―――『中世後期ドイツの犯罪と刑罰 ニュルンベルクの暴力紛争を中心に』北海道大学出版会、2010年。
佐久間弘展「近世ドイツ職人をめぐる暴力と秩序」(『歴史学研究』第742号(2000年)、171-177頁。)
―――「ドイツ中近世史におけるポリツァイ研究の新動向」(『比較都市史研究』第25巻、第1号(2006年)、57-70頁。)
―――『若者職人の社会と文化 14~17世紀ドイツ』青木書店、2007年。
紫垣聡「バイエルンにおけるポリツァイ立法の成立と都市―市場ポリツァイを中心に―」(『パブリック・ヒストリー』第4号(2007年)、95-110頁。)
―――「ドイツ中近世の地域社会における秩序形成をめぐる研究状況」(『パブリック・ヒストリー』第9号(2012)、37-46頁。)
田中俊之「名誉の喪失と回復―中世後期ドイツ都市の手工業者の場合」(前川和也編著『コミュニケーションの社会史』ミネルヴァ書房、2001、409-432頁。)
服部良久『アルプスの農民紛争 中・近世の地域公共性と国家』京都大学学術出版会、2009.
K・ブラシュケ著、寺尾誠訳『ルター時代のザクセン 宗教改革の社会・経済・文化史』ヨルダン社、1983(改訂版).
松本尚子「近世ドイツの治安イメージとポリツァイ―廷吏から治安部隊へ」(林田敏子、大日方純夫編著『近代ヨーロッパの探求13 警察』ミネルヴァ書房、2012年、17-70頁。)
若曽根健治「契約と服従と―バーゼル・ウアフェーデ管見―」(藤木久志監修、服部良久・蔵持重裕編集『紛争史の現在 日本とヨーロッパ』高志書院、2010、91-116頁。)

◎関連URL
現在の所属先のウェブサイト:
https://tu-dresden.de/gsw/phil/ige/fnz
Academia.edu:
https://tu-dresden.academia.edu/HiroyukiSaito

研究分野

 
 

学歴

 
2013年10月
 - 
現在
Technische Universität Dresden Philosophische Fakultät Institut für Geschichte, Doktorand (ドレスデン工科大学哲学部歴史学科 博士候補生)
 
2013年6月
 - 
2013年9月
interDaF e. V. am Herder-Institut der Universität Leipzig  
 
2010年9月
 - 
2011年8月
Universität Leipzig(交換留学)  Historisches Seminar
 
2010年4月
 - 
現在
早稲田大学 大学院文学研究科博士後期課程 西洋史学コース
 
2008年4月
 - 
2010年3月
早稲田大学 大学院教育学研究科修士課程 社会科教育専攻
 

経歴

 
2017年4月
 - 
2017年7月
ドレスデン工科大学 Graduiertenakademie 短期奨学金 奨学生
 
2013年10月
 - 
2017年3月
DAAD研究・留学奨学金(長期) 奨学生
 

論文

 
齋藤 敬之
西洋史論叢 = Studies in western history   (38) 79-93   2016年12月
齋藤 敬之
早稲田大学大学院文学研究科紀要. 第4分冊, 日本史学 東洋史学 西洋史学 考古学 文化人類学 日本語日本文化 アジア地域文化学   59 63-76   2014年2月   [査読有り]
齋藤 敬之
比較都市史研究   31(2) 43-58   2012年12月   [査読有り]
齋藤 敬之
西洋史論叢   (34) 47-59   2012年12月   [査読有り]

講演・口頭発表等

 
齋藤 敬之
Dresdner Frühneuzeitgespräche   2016年1月15日   Lehrstuhl für Geschichte der Frühen Neuzeit
Presentation at the open colloquium "Dresdner Frühneuzeitgespräche"
Hiroyuki Saito
4. Kolloquium zu Kriminalität und Strafjustiz – Schwerpunktthema Gewalt   2015年9月10日   
This is the Handout for my presentation.
I have introduced the provisional theme of my doctral thesis in brief.
齋藤 敬之
Dresdner Frühneuzeitgespräche   2015年1月16日   Lehrstuhl für Geschichte der Frühen Neuzeit
Presentation at the open colloquium "Dresdner Frühneuzeitgespräche"
齋藤 敬之
Dresdner Frühneuzeitgespräche   2013年11月15日   Lehrstuhl für Geschichte der Frühen Neuzeit
Presentation at the open colloquium "Dresdner Frühneuzeitgespräche"
齋藤 敬之
2012年度早稲田大学史学会大会 西洋史部会   2012年10月   

Misc

 
齋藤 敬之
比較都市史研究   32(2)    2013年12月

競争的資金等の研究課題

 
TU Dresden Graduiertenakademie: 
研究期間: 2017年4月 - 2017年7月    代表者: 齋藤 敬之
博士号取得最終段階のための短期奨学金
ドイツ学術交流会(DAAD): 研究・留学奨学金(長期)
研究期間: 2013年10月 - 2017年3月    代表者: 齋藤 敬之
「プロフィール」欄もご参照ください。