基本情報

所属
南山大学 外国語学部 ドイツ学科 准教授
学位
doctor philosophiae (Dr. phil.)(2018年3月 Technische Universität Dresden)
修士(教育学)(2010年3月 早稲田大学)
学士(文学)(2008年3月 早稲田大学)

研究者番号
20822977
ORCID ID
 https://orcid.org/0009-0000-0130-1575
J-GLOBAL ID
201101040329782750
researchmap会員ID
B000005508

外部リンク

[2020年10月更新]

◎これまでの研究
研究テーマは近世ドイツ都市における治安維持と暴力をはじめとする犯罪行為の分析です。治安維持はいかなる時代や地域にも見られますが、その意味や手法はそれぞれに異なります。というのも、そうした治安維持行為の対象である犯罪それ自体が社会の中に位置づけられ、その意味や形態も歴史的に変化しているからです。本研究テーマは、1990年代初頭からドイツ歴史学の中で盛り上がりを見せる歴史犯罪研究(Historische Kriminalitätsforschung)の動向に位置づけられます。この研究分野は、犯罪とされる行為を単に法規範に従って処罰の対象と見なすのではなく、社会学や文化人類学とも接続しながらその社会的及び文化的意味を分析し、歴史的変化の指標として扱っている点に特徴があります。この分野ではとくに中世後期から近世初頭にかけてのドイツ都市における治安維持や犯罪に関する業績が蓄積され、比較参照すべき点が多くあります。こうした理由から私の研究でも、中世後期以降のドイツ都市における公権力が平和や治安の維持のために具体的にいかなる規範を立ていかなる対策を進めていたか、及び(都市)住民が平和やその維持/破壊にどういう態度や反応を示していたか、といった点が分析の対象となります。
博士後期課程進学以後、対象事例をザクセン選帝侯領の領邦都市ライプツィヒに据え、2010年から2011年にかけて大学間協定の交換留学によりライプツィヒ大学に留学しました。また、2013年から2017年春にかけてドイツ学術交流会(DAAD)の研究奨学金を受給し、2013年10月から2018年3月までドレスデン工科大学哲学部歴史学科、近世史講座の正教授であり上記の歴史犯罪研究の第一人者であるG・シュヴェアホフ(Prof. Dr. Gerd Schwerhoff)教授のもとに所属しました。同教授の指導の下で2018年1月に博士論文を提出し、2018年3月に口頭試問を終了しました(博士論文主査:G・シュヴェアホフ教授(ドレスデン工科大学)、副査:B・クルーク・リヒター教授(Prof. Dr. Barbara Krug-Richter、ザールブリュッケン大学)、論文評価:magna cum laude、口頭試問評価:magna cum laude)。2019年2月6日付で、博士論文の全文がザクセン州立図書館のリポジトリサーバーQucosaにて公開されました(こちらより全文ダウンロード可)。

*博士論文の概要

題目
"Jugendliche Gewaltkultur und soziale Kontrolle in der frühneuzeitlichen Stadt: Das Beispiel Leipzig, ca. 1570–1650"(近世都市における若者の暴力文化と社会的コントロール:おおよそ1570年から1650年までのライプツィヒを事例に)(執筆言語:ドイツ語)
構成
1. 導入
1.1. 出発点
1.2. 研究動向
1.3. 史料状況
1.4. 問題設定と論文の構成
2. 中近世ライプツィヒの制度上の枠組条件(とくに裁判権を中心に)
2.1. 都市の裁判機
2.2. 手工業組合(ツンフト、職人組合)
2.3. 大学
2.4. 都市裁判権と大学裁判権の併存及び衝突
3. 規範上の基礎I:における柔軟な制裁設定
3.1. 導入
3.2. 殺人
3.3. 傷害
3.4. 未成年の犯罪
3.5. Poena extraordinaria; Poena arbitraria
3.6. 小括
4. 規範上の基礎II:予防的施策
4.1. 都市の諸条令
4.2. 手工業者の規範
4.3. 大学規約
4.4. 規範をめぐる諸問題
5. 社会的コントロールの交差点:裁判所への請願とコントロールの担い手の協働
5.1. 導入
5.2. ライプツィヒの判決の実践の基本線
5.3. 請願における戦略―1608年の事例から
5.4. 多様な論拠
5.5. 減刑を約束する手段としての請願?
5.6. 小括
6. 若者の暴力の諸形態と暴力へのリアクション
6.1. 導入、問題設定
6.2. 裁判史料の史料批判的な考察
6.3. 暴力紛争の発端
6.4. エスカレートを示す身振りや武器の使用
6.5. 暴力行為へのリアクション
6.6. 暴力行為に関するさまざまな証言と認識
6.7. 小括
7. まとめ
要旨
本論文は、近世ドイツ大学都市ライプツィヒにおける1570年から1650年頃にかけての暴力犯罪を分析したものです。その重点は、とくに手工業職人と学生などの若者男性の暴力形態やその論理の分析、そしてそれらを当時の都市社会の解釈や認識の地平に位置づけることに置かれています。社会学上のコンセプトである「社会的コントロール」を用い、諸規範がいかなるものであったのか、そして一方で(領邦政府や都市当局、大学当局といった)公権力が、他方で都市社会が暴力犯罪や加害者にどう対処したのか、といった点が分析されています。この分析から、暴力がたいていは上記若者男性の集団内あるいは集団間で生じていたこと、それゆえ必ずしも近隣住民や都市社会全体を脅かすわけではなかったこと、といった考えが存在していたことが明らかとなりました。こうした当時の都市社会での見方に、しばしば規範史料に表れる「争い好きで粗暴、かつ危険な治安を乱す若者」像との相違も見出すことができました。

 

◎目下の研究
博士論文では16世紀後半から17世紀前半を対象としましたが、その考察と成果を通じて、近世前期の暴力犯罪の性質やその処理及び暴力犯罪に対する認識が18世紀末まで至る近世全体の中でどう変化したのかを総合的に論じる必要性を感じました。暴力の歴史的変化を問う場合、N・エリアスの「文明化」論に代表される、近代に向かう中での暴力(とくに殺人)の抑圧や減少といった量的変化を根拠とする発展史的な見方がまず想起されますが、こうした見方では、暴力を「非文明的」で「悪い」行為と前提にし、暴力の多かったあるいは暴力を容認していた前近代社会を否定的に捉えてしまう危険性があります。
そこで、博士論文でも論じたように、暴力の行使と名誉が結びついていることを踏まえ、近世当時の暴力の性質や暴力行使の正当化の論理、第三者による暴力の受け止め方の変化を当時の社会の文脈に位置付ける必要があると考えます。すでに歴史犯罪研究では、①18世紀以降の都市での社交形態の変化とともに、多くの都市民が公的な場で生じる名誉をめぐる争いでの実力行使から距離を取るようになり、下層市民のみがこうした実力行使を保持するという、暴力が社会的に周縁化していくプロセスが見られたこと、及び②高度に儀礼化された暴力としての「決闘」がとくに17世紀以降貴族や学生、軍人といった特定の社会集団内で発展したこと、といった点が論じられています。そこでこの二点を踏まえ、名誉との関連で行使された暴力の形態や性質、それらの描写や正当化、さらにはそうした暴力に対する態度の変化を統合的に分析する必要があると考えています。こうした関心に基づいて以下のような課題を設定しています。すなわち、課題①「暴力犯罪やその処罰の諸相、とくに中傷や挑発といった行為が傷害や殺人とどう関連付けられて処罰の対象になっていたのかを明らかにすること」、課題②「暴力の行使に関する当事者の説明や正当化の言説を分析するとともに、それが近世を通じてどのように変化したのかをたどること」、課題③「第三者による暴力及びそれに対する自身のリアクションに関する説明、そしてその通時的変化を分析し、暴力の社会的位置づけとその変化を探ること」です。
対象事例としては、博士論文を引き継ぎ、ザクセン選帝侯領及び都市ライプツィヒを取り上げます。同領邦では、16世紀後半以降司法制度や法規範の体系化が明確に見られ、それに対応して領邦レベルや都市レベルでの裁判記録や決闘に関する史料などが豊富に残存している点、そしてザクセン選帝侯領は17世紀半ば以降精力的に決闘の抑制や禁止を進めた領邦のひとつであり、参照すべき新たな研究成果も見られる点がその理由です。

こうした研究の遂行に当たって、以下の研究費の交付を受けています。

  • 2019年度科学研究費助成事業、研究種目:若手研究、研究課題名:近世ドイツ都市社会における暴力と名誉の関係及びその変化に関する実証的研究
  • 2022年度科学研究費助成事業、研究種目:若手研究、研究課題名:近世後期ドイツにおける暴力の性質に関する犯罪史および感情史的研究

書籍等出版物

  4

論文

  14

講演・口頭発表等

  16

MISC

  11

共同研究・競争的資金等の研究課題

  7

所属学協会

  9

担当経験のある科目(授業)

  15

社会貢献活動

  2