カウンタ

2029288(Since 21st May 2010)

研究ブログ

研究ブログ >> 記事詳細

2017/03/16

国会の「今上陛下の退位に関する提言案」は議論の不十分さを示す

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

昨日、衆参両院の正副議長は両院を構成する8党2会派の代表者に対し、今上陛下の退位に関する法整備に関する国会としての提言の案を示しました1


提言の中では、今上陛下の退位は皇室典範の改正ではなく今上陛下のみに適用される特例法によって法的に根拠付けるとともに、皇室典範の付則に「この法律の特例として天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法は、この法律と一体をなすものである」と、新たに制定される特例法が皇室典範と一体であることを明記する考えが示されています2


こうした措置は、皇位の継承について「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」とする日本国憲法第二条の規定3があるにもかかわらず皇室典範を改めず、特例法によって天皇の退位を正当化しようという考えが憲法違反になることを避けることを目的とするとされています1


しかし、付則に特例法と皇室典範が一体であると記すなら、むしろ特例法の制定ではなく皇室典範そのものを改める方が適切であるばかりでなく簡潔であって、特例法の制定は便法であり弥縫策であることに変わりはありません。


その意味で、国会による提言案は、後世の人々から、衆参両院の8党2会派が問題に対して真摯な検討をせず、安易な解決策を求めて妥協した結果と評されたとしても不思議ではありません。


また、提言案は、「はじめに」において「「天皇の退位等」に関する問題を議論するに当たって、各政党・各会派は、象徴天皇制を定める日本国憲法を基本として、国民代表機関たる立法府の主体的な取り組みが必要であるとの認識で一致し、我々4者に対し、「立法府の総意」をとりまとめるべく、ご下命をいただいた。」と各党各会派と衆参両院の正副議長との関係を対等ではなく、前者を上位とし、後者を下位とする表現を用いていることが分かります2


もとより各党各会派は国会を構成していますから、両院の正副議長が構成員である各党各会派に敬意を表することは当然です。


しかしながら、議長が議院を代表する議長や副議長4が構成員である各党各会派に対して「ご下命をいただいた」と謙遜することは、読み手に対してあたかも今回の提言が各党各会派の要請によって行われたかのような印象を抱かせます。


しかも、「今上天皇の「おことば」および退位・皇位継承の安定性に関する共通認識」において「その上で、各政党・各会派におかれては、ともに真摯に議論を重ねていただき」2としていますから、表現の上で、各党各会派は両院の正副議長に「立法府の総意」を要請しながら自分たちで議論を行ったことになります。

こうした表現は、今回の提言が本来安倍晋三首相の要請を受けて始まったという基本的な構図5を見失わせることになりかねません。


むしろ、この箇所は「「天皇の退位等」に関する問題を議論するに当たって、政府は、象徴天皇制を定める日本国憲法を基本として、国民代表機関たる立法府の主体的な取り組みが必要であるとの考えから、我々4者に対し、「立法府の総意」をとりまとめるべく、要請した。」と実態に即した表現を用いるべきであったといえるでしょう。


さらに、提言案を子細に眺めると、特例法の概要として「退位後の天皇のご身位、敬称、待遇等および皇嗣に係る事項」を挙げてはいるものの、退位後の今上陛下に憲法の遵守を求める規定について何らの言及もされていません2


憲法第九十九条には天皇に憲法の遵守を命じているのだから退位後も憲法を守るのは当然と考えてあえて提言に記載しないのか、それとも憲法の遵守は特例法の概要には含まれていないだけで今後個別の条項を検討する中で当然制定されるために提言に記さなかったのかは分かりません。


それでも、皇室典範と憲法の関係が取り沙汰されている中で憲法の遵守義務について少しも言及していないことは、提言の妥当性を低めこそすれ、高めることにはなりません。


このように一瞥するだけでも容易に問題点を指摘できる提言案を見る限り、各党各会派はもとより、両院の正副議長も「真摯な議論」を行ったとは言い難いといえるでしょう。


1 特例法「典範と一体」明記. 日本経済新聞, 2017年3月16日朝刊1面.
2 退位国会提言案の全文. 日本経済新聞, 2017年3月16日朝刊4面.
3 日本国憲法. 第二条.
4 国会法. 第十六条.
5 退位各党本格協議へ. 日本経済新聞, 2017年1月25日朝刊1面.


<Executive Summary>
Did the Both of the Diet Discuss Sincerely the "His Majesty Emperor's Intention to Abdicate the Throne" Issue? (Yusuke Suzumura)


Chariperson and Vice Chairperson of the both houses the Diet proposed the draft of the answer for the "His Majesty Emperor's Intention to Abdicate the Throne" Issue on 15th March 2017. This draft shows a shortage of discussion, since we can find deficiencies in many part of it.


トラックバックURLhttp://researchmap.jp/index.php?action=journal_action_main_trackback&post_id=59555
16:23 | 投票する | 投票数(0) | コメント(0) | トラックバック(0) | 評論