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2010/03/25

「台風なう!」をオープンしました

Tweet ThisSend to Facebook | by kitamoto
昨日夜、2010年の台風第1号が発生しました。今年も台風シーズンがはじまりました。ページの右側に表示しているブログパーツでも台風情報が表示されるようになりましたね。

さて、台風1号発生を記念して、昨日新サイトがオープンしました。その名も台風なう!です。



このサイトは、ツイッター(Twitter)ユーザの状況に応じた台風情報を返信するとともに共有するためのサービスです。

例えば、@TyphoonNowにむけて「東京都千代田区」と返信すると、

台風201001号 (OMAIS)、東京都千代田区から南南西に2550kmなう。

と答えてくれるという、まあそんなサービスです。「なんだそれだけか」と思うかもしれません。ただ、サイト名に「個人化メディアによる台風情報」とうたっているように、その目指すところはなかなか大きいのです。

これまでのデジタル台風、あるいはマスメディアによる台風情報は、3人称視点による情報でした。台風の位置を「フィリピンの東」と表現するのは、客観的に場所を指示する表現としては正確ですけれども、問題は「それは私にとって重大な情報なの?」ということなのです。@DigitalTyphoonによる情報が「わかりにくい」という指摘を人々から受けていた理由も、緯度経度という座標系に基づく客観的な情報が、自分中心(エゴセントリック)視点では必ずしも理解しやすいわけではない、という点にありました。

それに対してツイフーンで試みたのは、1人称視点による台風情報です。ツイフーンにおいて、@twiphoonに集められた「木が倒れたなう」というような情報は、「私」が目撃して何らかの強い感情をもった事象であるということが重要です。「木が倒れたなう」という言葉は、必ずしも客観的に風が強かったことを意味するわけではありません。しかし、たとえ主観的であってもそこに送信者の感情がこもっているがゆえに、他の人にとっても一定の有用性を持つ情報になるのです。

さて、3人称から1人称ときて、残りは2人称です。ということで、「台風なう!」では2人称視点のメディア、すなわち「あなたにとってこれは重要だ」という情報を届けるメディアを試みてみようと思います。「私からみて台風がどこにあるか」という情報を届けるためには、私と台風という2つの視点をうまく扱えなければなりません。またこれは同時に、従来のマスメディアでは扱えなかった情報でもあります。個別のユーザにカスタマイズした情報を届けることは、「マス」相手のメディアでは無理なのです。

そう考えると、この「台風なう!」にはいろいろな可能性があることがわかります。例えば現在の「台風なう!」は、台風がどこにあるかを計算するだけではなく、問い合わせ場所が「強風域」や「暴風域」の中にあるかを判定して「暴風域なう」とつぶやく機能も持っていますが、これもユーザにとって重要な情報を返答するという機能の一つです。さらにこのアイデアを発展させていけば、ユーザの現在地の状況にあわせてデータベースを検索し、「川が溢れそうなう」「通行止めなう」といった情報を返すことも将来的には可能になるでしょう。

とはいえ、ここで問題となってくるのが2人称メディアの独特の困難性です。世の中には1人称小説や3人称小説はたくさんありますが、2人称小説はほどんどありません。その理由は、2人称小説を破綻なく書くのが非常に難しいから。実は「台風なう!」もサイトとしては公開しましたが、いまだに返答ツイートの視点はきちんと統一できてないのが実情です。「台風なう!」で「なう」とつぶやいている主体は、いったい誰なのでしょうか?

例えば「なう」小考という記事では「なう」に関する言語学的な考察が展開されています。「なう」はどういう種類の言葉にくっついてもよいのか、使ってもおかしくない表現と不自然な表現はどうわけられるのか。コメントには「なうは一人称なのか」という疑問も取り上げられており、一人称に近い視点が感じられるほど自然な「なう」になるのでは、という議論もありました。こうした議論を踏まえれば、「台風なう!」で「なう」とつぶやく時には、その主体が誰であるかを明確にする必要がありそうです。

一つの可能性は、台風が「なう」とつぶやいているという解釈です。これはいわゆる「台風の擬人化」というもので、台風に何らかの人格を仮定してそこから返答を生成するやり方です。最初は私もこの方法でやるつもりでしたが、そのうち得策ではないと考えるようになりました。というのも、台風に意味のある人格を設定してそれに応じた返答を生成するのが、一言でいえば面倒なのです。おちゃらけ人格ではふさわしくないし、マジメ人格では面白くない。それで思い出すのが、現在は閉鎖されてしまった「台風ステーション」というウェブサイトに存在した、「台風にインタビューする」企画です。このコーナーでは、台風がインタビューを受けて現在の状況を面白おかしく(?)話すというスタイルを用いていましたが、あまり長続きしなかったのは、台風が発生するたびにいちいちキャラ設定するのが面倒だったからではないでしょうか?しかもこのスタイルには、視点を広げにくいし単調で飽きやすいという問題もあります。台風が「なう」とつぶやくという方向でうまくやるのは、意外に面倒かもしれないと考えを変えました。

もう一つの可能性は、情報を問い合わせた人が「なう」とつぶやいているという解釈です。すなわち「台風なう!」が返信した「東京都千代田区から南南西に2550kmなう」というツイートは、「(君は)東京都千代田区から南南西に2550kmなう(とつぶやく)」の省略形だと考えるのです。これはまさに2人称小説のスタイルで、直観的にはわかりにくいかもしれませんが、情報を問い合わせた人の代理としてボットがつぶやいているのだと考えれば、あながち無理な解釈とも言えないでしょう。しかしここで2人称小説の困難さにぶち当たることになります。こういうややこしい視点を破綻なく組み立てるのは私には難しすぎる。。。

ということで、いま自分からみて台風がどこにあるかがわかると面白いよね、という単純な思いつきではじまったプロジェクトは、進むうちに2人称という思わぬ困難に出会ってしまった感があります。ただこの問題をもっと整理すれば、そんなに難しく考える必要もないという結論になりそうな気もします。それに「個人化メディア」という方向性は、「参加型メディア」とならぶ「デジタル台風」プロジェクトの大きな柱に成長しうるものです。今後もいろいろな方向からこの問題を考察していきたいと考えています。

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