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2010/02/08

シルクロード古地図Google Maps版オープン

Tweet ThisSend to Facebook | by kitamoto


シルクロード古地図Google Maps版をオープンしました。シルクロード地域の特にタリム盆地を中心とした古地図である、スタイン著「Serindia」と「Innermost Asia」の地図を、Google Maps上で現在の地図と重ねて閲覧するためのサイトです。この2冊の本について、詳細は以下のページをご覧下さい。
これらは100年ほど前に作られた地図ですので、決して最新の地図ではないのですが、遺跡などの場所が詳細に描きこまれていること、そしてこの地域の詳細な地図が今もって入手しづらいこと(新彊は軍事的に敏感な地域でもあります)もあって、未だにこの地域の研究においては最重要の地図という位置づけになっています。多くの研究者がこれらの地図を自分たちの研究の基盤地図として利用しています。

これまでこれらの地図は、地図で探るシルクロードにおいてKML形式(Google Earthでの閲覧に適した形式)で提供していましたが、今回は新たにGoogle Mapsでも閲覧できる形式に作り直しました。これで閲覧のためにGoogle Earth等をインストールする必要がなくなりましたので、誰でも閲覧しやすくなるとともに、他のデータとの連携も広げやすくなるというメリットがあります。

さて、これらの古地図の分析から、いろいろと面白いことがわかってきました。この記事では、地図の誤差を中心に紹介しましょう。

これらの地図は100年前に作られた地図ですので、当時の技術的な限界から地図に誤差が生じています。実は地図に誤差が生じていることも従来は未知だったのですが、我々の研究によって地域ごとに異なる誤差が生じていることが判明しました。さてここからが面白いところです。誤差の分布は地域ごとに異なるのですが、一つだけ、どの地域にも共通する誤差のパターンが見つかりました。どんなパターンかおわかりでしょうか?

実は、誤差は東西方向に大きく、南北方向に小さいというパターンが、どの地域にも共通していたのです。なぜそうなるのでしょうか?

現代のようにGPSで簡単に緯度経度を測定できる時代には想像できないことかもしれませんが、実は100年前の当時は、ある場所の緯度と経度を測定するのが非常に難しかったのです。そのうち緯度については、天体観測から緯度を測定する方法が着実に進歩を遂げており、そこそこの精度で測定できるようにはなっていました。ところが問題は経度です。経度は天文学的な方法では測定するのが困難なため、グリニッジ天文台との時差(あるいは経度既知の点との時差)から測定する方法が主に使われていました。しかし時差はどうやって測定すればよいのでしょうか?

一番簡単な方法は、グリニッジで正確に合わせた時計を現地に持っていく方法です。しかしこれも現代からは想像できないかもしれませんが、どこに持っていっても狂わない時計を開発するというのは、当時としては大変な難事業でした。特にシルクロードは砂漠地帯なので、昼は暑く夜は寒い。こんな激しい温度変化にも耐えて正確な時を刻む時計を開発しなければなりません。しかも携帯するためには、時計を小型化する必要もあります。それはほとんど不可能にも思える技術的挑戦でした。

つまり、精密な時計が入手できないから、時差を測っても誤差が生じてしまったというのが、緯度に比べて経度の誤差が拡大した本当の原因なのです。こうした事情については、「経度への挑戦ー一秒にかけた四百年」という非常に面白い本がありますので、ぜひ読んでみてください。どうして精密な時計の開発が国家的な重要プロジェクトだったのかが理解できると思います。

そしてこの問題は、無線電信の時代に入ってようやく本質的な解決へと進み始めました。要するにロンドンのビッグベンの音がリアルタイムで聞けるのなら時刻合わせは簡単なのですから、無線電信は決定的な技術と言えるでしょう。当時はちょうど無線電信の時代に入りかけたところで、この地図の作成にあたっても一部では無線電信を利用し始めたとの記録が残っています。タイタニックが無線電信で遭難信号を発し、皮肉にも無線電信の有効性を示したのが1912年。この地図が作られたのはそんな時代です。この技術を地図作成に利用するにはまだ早すぎました。

なお、上記のGoogle Maps版の地図は誤差を補正しないまま提供していますので、現在の地図とは正確には重なりません。誤差の大きさは数百メートルから30km以上に及ぶことがわかっています。そうした研究結果については出版物・メディアに随時掲載していきますので、そちらもご覧下さい。

この古地図の研究によって、現代では行方不明になっていた遺跡を再発見できることがわかったなどの成果もあるのですが、もう長くなりましたのでまた別の機会に。

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