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南国雑記帳(全卓樹)

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2010/08/02

楽園のアップルストアにて

Tweet ThisSend to Facebook | by:T_Zen
このあいだ天国に開店したばかりの、輝くガラス張りのアップル社の新店舗にて、「iPadパラダイス特別版」の予約展示会が行われた。外見や手に取った感触は地上版と同じだった。ただメモリーが64ペタバイトと桁違いに大きく、天国中央図書館の想像を絶する量の蔵書のデータを、専用の無線回線で瞬時にダウンロードできるのが、天国版の強みだという説明だった。

展示会を訪れた多くの人たちの中に、著名な読書家を幾人かみつけて、早速感想を聞いてみた。

オマル・ハイヤーム
書物とはポケットに入れることのできる庭園である。そしてiPadは千の庭園を持つ大都市である。ポケットに無理に入れると破けてしまうけど。

ソクラテス
私はiPadよりは、たまごっちを求めようと思う。iPadは結局のところ書物、つまりは死んだ知識の収納庫にすぎないからだ。たまごっちとの対話によって、私はわずかながら賢くなるかもしれないが、対話の出来ないiPadで賢くなる事は決してない。

ユキオ・ミシマ
あるiPadは画面のグレアで,あるiPadはバッテリー不足で、あるiPadは堪え難い重さで読書家を裏切る。それはちょうど、ある女は心で、ある女は肉体で、ある女は脂肪で夫を裏切るのと同様である。

サミュエル・ジョンソン
人生とは、探している言葉を求めて図書館の半分をひっくり返すようなものである。探している言葉が即座に検索できるiPadのような人生というのは、どうであろうか。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス
iPadは私の考案した無限のページをもつ書物の実現だと人が語るのを聴いた。驚嘆すべき事だ。しかし今の不条理なほどの小容量では、我がバベルの図書館の蔵書のかけらすら入りそうにない。私の推測では、世界中の全てのiPadを収納する図書館の計画が進んでいるのだろう。それはいずれ天国全体を覆うのかもしれない。

ステファヌ・マラルメ
ああ、肉体は悲しい。私はすべての携帯小説を読み終えた。遁れよう彼方へ。潮の香の微風に浸された、百の物語を探すため。私はiPadを買い求めて、鳥たちが酔ったように群がり舞う、泡立つアンテルネットの大海原に漕ぎだすだろう。

タクボク・イシカワ
三行詩の二百もあれば、世の哀しみ世の美しさを、余さず言葉にできるのに。

アルトゥール・ショーペンハウエル
iPadを買って多くの書物を手元に置けるのは素晴らしいことだ。それらを読む時間も同時に買うことが出来るならば、さらにすばらしかったろう。



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