研究ブログ

研究ブログ >> 記事詳細

2015/09/04

科学哲学を専門的に学びたい高校生・大学生・社会人のために

Tweet ThisSend to Facebook | by Yuki Sugawara

科学哲学を専門的に学びたい高校生・大学生・社会人のために
(随時更新)

 

菅原裕輝(大阪大学COデザインセンター)

 

[最終更新日:201771日]

 


0.はじめに

 

Q1.「科学哲学」とは?

A1.ここでは「科学を哲学的枠組み(認識論・存在論・倫理学・論理学的観点)から分析する学問分野である」とする。

 

[参考]

「科学哲学は、科学に関わる問題を扱う哲学である。科学哲学が取り組む問題には異なった二つのタイプがある。まず、科学一般の本性に関わる問題に取り組む哲学者がいる。彼らの扱う問いとは、理論上のモノ(entity)は実在するのか、科学は真理を探求しているのか、科学的な方法なるものが存在するのか、などである。次に、個別の科学で生じる哲学的問題に取り組む哲学者たちもいる。たとえば物理学の哲学者は、相対性理論や量子力学にどのような解釈が可能かについて頭を悩ませる。そして生物学の哲学者は、生物種の定義や進化論の理解に関する概念的な問題に取り組んでいる。本書は精神医学を扱うが、本書で出てくるトピックは科学一般の問題にもまたがる。科学一般の哲学におけるトピックが特に精神医学に関連づけて論じられる場合もある。また、まさに精神医学の哲学に固有のトピックもある。科学哲学者がどのように研究しているかをこれ以上詳しく説明するのは難しい。というのも、彼らが問う問題も、それを取り扱う方法も、一つの類型というものはないからである。それゆえ、科学哲学とはどのようなものであるかを説明するのではなく、本書を通じてそれがどのようなものであるかを説明するのではなく、本書を通じてそれがどのようなものかを例示しよう」(レイチェル・クーパー著.伊勢田哲治・村井俊哉監訳.2015.『精神医学の科学哲学』.名古屋大学出版会.6)

 

Q2.「科学哲学を専門的に学ぶ」とは?

A2.自分が関心のあるトピック(事柄)を学術研究の文脈で理解することを指す。具体的には、科学哲学的において関心のあるトピックに関する文献を読み、これまでにどのような議論がなされてきたかを知り、これまでになされた議論の長所・短所をそれぞれ整理し、残された問題が何か(学術上の問題は何か)を整理し、どのような前提のもとで何が争点となっているかを理解することを指す。

 

 

1.科学哲学初学者のための文献リスト

 

 (文字数超過のため、PDFファイルをご覧下さい。〈PDF版のダウンロードはこちらから〉)

 

2.科学哲学とは

 

 大塚淳氏のホームページに載っている「私家版『科学哲学とは何か』」を通して科学哲学の目的や役割、面白さについて知ることが出来る.

 

〈ウェブページ〉http://bit.ly/1MW1mom

 

3.日本国内にある科学哲学研究室のリスト

 

a)大学院生に対して科学哲学の研究指導を多くの学生に対して継続的に行っている教員が在籍している研究室

 

1)京都大学文学研究科科学哲学科学史研究室(伊勢田哲治准教授;一般科学哲学;社会科学の哲学;博士)

〈ウェブページ1https://goo.gl/KmSkTm

〈ウェブページ2http://tiseda.sakura.ne.jp/index_japanese.html

 

2)名古屋大学情報科学研究科情報創造論講座(戸田山和久教授;一般科学哲学、心理学の哲学;修士)

〈ウェブページ〉http://www.info.human.nagoya-u.ac.jp/lab/phil/todayama/

 

3)北海道大学理学院自然史科学 科学基礎論研究室(松王政浩教授;一般科学哲学;博士)

〈ウェブページ〉http://phys.sci.hokudai.ac.jp/LABS/kisoron/prof_matsuo.html

 

b)大学院で科学哲学を勉強したい学生の受け入れ・指導可能な教員が在籍している研究室

 

4)京都大学文学研究科哲学研究室(大塚淳准教授;生物学の哲学;博士)

〈ウェブページ1http://www.philosophy.bun.kyoto-u.ac.jp/

〈ウェブページ2https://junotkja.wordpress.com/

 

5)一橋大学社会学研究科総合社会科学専攻社会文化研究分野(井頭昌彦准教授;一般科学哲学;博士)

〈ウェブページ〉http://www.soc.hit-u.ac.jp/teaching_staff/igashira.html

 

c)過去には多くの優秀な科学哲学者を輩出しているものの、現在は科学哲学の専門家として学位を取っていない研究者が教員となっている研究室

 

6)東京大学総合文化研究科科学史科学哲学研究室(石原孝二准教授;科学・技術の哲学、現象学、精神医学の哲学;博士)

〈ウェブページ〉http://hps.c.u-tokyo.ac.jp/

 

7)東北大学文学部哲学・倫理学合同研究室(原塑准教授;心の哲学、現象学、脳神経科学の哲学;博士)

〈ウェブページ〉http://www.sal.tohoku.ac.jp/philosophy/index-j.html

 

•海外の大学・大学院で科学哲学を専門的に学ぶという道もある。科学哲学の専門家になる上では日本国内の研究室へ進学するよりも海外の大学・大学院へ進む方が望ましい。

 

•参考情報:上のリスト以外にも、「日本の科学哲学関連大学院研究室」(http://philscijp.wikidot.com)も参考になさって下さい.

 

【より詳しい情報の共有/コンサルテーション/科学哲学者の紹介】

上記の研究室に受験志望の方で、ここには書かれていないより詳しい事情(指導教員の研究状況(指導教員自身がどれだけ科学哲学の研究をしてきているのか)・教育状況(指導教員自身がどれだけ科学哲学の教育をしてきているのか)、研究室の院生・ODの研究状況・進路状況など)を知りたい方は、本記事の著者のメールアドレス(researchmapのページ参照)までご連絡いただければ僕が知っている限りのことはお伝えさせて頂きます。気軽にご連絡下さい。

 

 

4.大学院修士課程への進学・受験希望者が行うべき7つのこと

 

〈ステップ1

興味のある研究室の先生に連絡をしてみる。予定を調整してもらい、会ってみる。自分の研究計画(おおまかな関心でも可)を伝え、その先生が進学・受験希望者の研究内容の指導が可能かどうかを確認する。半年前から一年前に行うのが望ましい。

 

〈ステップ2

興味のある研究室の先生と直接会った際、自分自身がその先生と上手くやっていけそうかを判断する。どんなに人柄がよい人であっても、合う/合わないというものはある。

 

〈ステップ3

興味のある研究室の先生と直接会う際、研究室の院生を紹介して貰う。そこでは、(1)研究室のメンバーと上手くやっていけそうかどうかを判断するほか、(2)研究室の院生に対して、その先生の人柄や印象、その先生の最近の研究状況・教育状況・研究費獲得状況・学務状況・雑務状況などを伺う。

 

〈ステップ4

訪問後、研究室の院生の就職状況・研究状況を調査する。院生に直接訊くと不穏な空気になる恐れがあるため、お会いした院生やODの名前を控えておき訪問後に調査(google検索)することを推奨する。もちろん率直に話してくれそうな院生には直接訊いてみると良い。研究室の院生がどれだけ真剣に科学哲学の研究をしているのかを見極めることが大事である。

 

〈ステップ5

〈ステップ1〉から〈ステップ4〉までの過程で得た情報を踏まえて、その研究室を受験するかどうかを考える。

 

〈ステップ6

進学・受験する意志を固めた後は、進学・受験希望の研究室の先生にその旨を伝え、大学院試験で準備しておくこと・勉強しておくこと(読むべき文献)を尋ねる。大学院試験の過去問題を教務や研究室の院生より入手し対策を練る。受験対策を院生に相談するのも良い。

 

〈ステップ7

体調を管理しながら無理せず受験勉強を頑張る。

 

 

5.大学院博士課程に進学するうえでの注意点

 

 大学院修士課程(博士前期課程)の場合は一般企業に就職する道が開けているが、大学院博士課程(博士後期課程)まで進学するとその道は一気に狭まる。

 

 大学の任期なし常勤職は非常に限られている。哲学分野において、博士課程を修了後すぐに任期なし常勤職に就職できる可能性は殆どないと考えた方が良い。任期付きの常勤教員や研究職に就ける研究者はごく一部である。日本学術振興会特別研究員(PD)になれる研究者もごく一部である。非常勤講師として生活するという道もあるが、非常勤講師の給与だけで生活することは難しく、生活費を稼ぐためにアルバイトをする必要が生じる。

 

[参考:研究者になるうえでの最初のハードルとしての「日本学術振興会特別研究員」]

      日本学術振興会特別研究員:https://www.jsps.go.jp/j-pd/

      「学振特別研究員になるために(2018年度申請版)」:https://www.slideshare.net/tonets/2018-73100489

 

[参考:研究者のキャリアパスについての事例集]

      栗田佳代子監修.2017.『博士になったらどう生きる?―78名が語るキャリアパス』.勉誠出版.

〈書籍情報〉www.amazon.co.jp/dp/4585230564

→ただし、哲学分野の事例に関しては十分な多様性が確保出来ていないため(一つの事例を除き東大出身者の事例で占められ、東大出身者以外の事例は出身校への就職となっているため)、決して鵜呑みにしてはいけない(楽観視してはいけない)。キャリアパスに関する本に登場するような、キャリア形成に成功した研究者の事例から学ぶことも多いが、キャリア形成に失敗している研究者の事例から学べることも多い。キャリアパスについて事例を本などの媒体を通して知ることは重要だが、キャリア形成初期(学部〜大学院修士課程)においては、異なるキャリアパスを歩んでいる多様な研究者と会い、キャリアパスについての話を訊き、「自分がどのようになったら成功したと言えるのか」を自分自身で具体的にイメージ出来るようになることが重要である。具体的なイメージを持ったうえで、計画的に動き始める(勉強・研究・活動の計画を立て実行する)ことが大事である。

 

[参考]

      伊勢田哲治氏のask.fm「修士あるいは博士課程に進むことを迷っている学生が相談に来たらどのようにアドバイスしていますか?」に対する回答]

 

現在の日本の状況ですと、修士まで哲学の大学院に行ってもまだ一般企業への就職は十分可能です。博士まで行ってしまうと研究職以外の間口は非常に狭くなります。

 

それを踏まえて、修士については、英語力や基礎学力などの基準をクリアしている人に対しては、学部での研究でやり残したり物足りなかったりという感触をもっているならどうぞ、という感じで進学を勧めます。

 

博士課程については、研究職につきたいという意思が非常に固い人やお寺さんなどの確実な「出口」が確保されている人以外には勧めません。あと、相談にこられた方には、哲学の就職市場の状況や就職できたとしてどういう仕事をすることになるか(ほとんどのポストは研究と関係のない業務がメインになることとか、研究しないでくれと言われる場合もあるとか)などについて説明して、リスクは理解した上で進学するように言っています。進学する際に求められる能力も、博士の場合は「研究者として一生やっていけそうか」というあたりが基準線になります。その見極めは自分ではできないので、必要であれば論文などを実際に書いてもらって判断することになります。

 

〈ウェブページ〉http://ask.fm/tiseda/answer/106836876094

 

 科学哲学の研究をすること自体は面白いが、科学哲学研究者として生きていくのは大変である。大学院博士課程に進学することは決してお勧め出来ない。研究者として生きていく覚悟を決めた方のみ博士課程に進んで貰いたい。ただ繰り返すが、お勧めは出来ない。

 

 

6.付記:「科学哲学を専門的に学びたい高校生・大学生のために」という記事を作成した理由(20151019日更新)

 

 僕が科学哲学という学問の存在を知り科学哲学を専門的に学びたいと真剣に考え始めたのは、秋田高専に在籍していた時のことでした。当時高専3年生で、17才でした。今からちょうど10年前のことです。技術者倫理の授業のなかで『誇り高い技術者になろう』が課題図書として紹介され、当時真面目だった僕は教師の教えに従いその本を読み始めました。『誇り高き技術者になろう』を読み終えた後、その本の編者である戸田山和久先生の著書『科学哲学の冒険』や伊勢田哲治先生の著書『疑似科学と科学の哲学』の存在を知り、読みました。僕はそれらの本を通じて「科学哲学」というメタな視点から科学を分析・総合することの面白さを知りました。そして誇り高き技術者になるのを辞めて誇り高き科学哲学者になると強く心に誓ったのでした。

 

 

 そうして僕は科学哲学の勉強を始めました。高専の先生の視線は冷たかったのですが、なかには応援してくれる先生もいました。ただ、応援してくれていた国語の先生も科学哲学については殆ど何も知りませんでした。僕は学ぶ意欲はありました。しかしどのようにしたら科学哲学を専門的に学べるのかは何も分かりませんでした。頼れる科学哲学研究者も周りにはいませんでした。ただひたすら手探りで本を読み漁っていました。そうした手探りの迷子状態は暫く続きました。名古屋大学情報科学研究科博士前期課程に入り戸田山和久先生から指導を受けるまで、「どうやったら科学哲学をちゃんと勉強できるのだろう?」といった不安を抱いていました。

 

 

 当時の僕のように科学哲学を専門的に学びたいが何をどうすれば分からないという方のために、このブログ記事を作成しました。そういった方が日本にいるのかは、正直わかりません。もしそういった方がいるのだとすれば、かつて僕がそうだったような迷子にはさせず、科学哲学を専門的に学ぶための道筋を示してあげたいと思います。この記事がそういった方の役に少しでも立つことができるのであれば僕はとても嬉しいです。

                            

 

追記(201771日)

 

「科学哲学を専門的に学びたいけど学び方がよく分からない」という方はどうやら日本に何人かいるようです。これまでに何人かから連絡を頂きました。直接会い、相談に乗った方もいます。科学哲学を専門的に学ぶうえで不安を抱えている方は、気軽にご連絡頂ければ嬉しいです。

 


23:10 | 投票する | 投票数(10) | コメント(0) | 教育