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本棚フェアで選書した本とポップ解説など


2015/10/08

数学書 本棚フェア解説集 PART 1 ー解析学、微分幾何、確率論など-

Tweet ThisSend to Facebook | by araih
 2015年8月3日から10月4日まで、書泉グランデ(神保町店)と、MARZEN&ジュンク堂(梅田店)で『数学者 新井仁之先生の本棚フェア』が開催されました。そこで取り上げた本とそのときに書いた解説です。長いため、PART 1 と PART 2 に分けました。下線を引いた部分が、書店に展示されたポップの解説です。それ以外の部分は書店公開しなかったものです。PART 1 は解析学、線形代数。微分幾何学、確率論からの選書です。
 

【微分積分 - Calculus -】

1.藤原松三郎 微分積分学

 微分積分に関する数多くの定理が集録。出典の引用もしっかりしています。微分積分学の貴重な文献です。

 この本は、今ではどの教科書にも載っていないような定理が数多く集録されています。微分積分に関する古い定理は、演習問題の形で残っても、それを誰がいつ発表したのかは埋もれてしまうことがあります。この本には、本文だけでなく、演習問題にも出典が明記されています。微分積分学の貴重な文献といえるでしょう。


ルディン、現代解析学

 微分積分のしっかりした入門書です。最後の二章に書かれている多変数関数の一般的な扱いとルベーグ積分のコンパクトな解説は出色です。

 原書と照らし合わせて読めば、数学英語の良い勉強にもなると思います。原書は次のものです。ただし版が違うので注意が必要です。


3.赤 攝也、実数論講義

 素朴集合論に基づく議論で、実数論を初学者向けにていねいに展開しています。小数に関する詳細な解説もあります。 解析学の基礎として重要なのが「実数の構成」と「実数の完備性」です。そもそも実数とは何か。これについて学ぶには、たとえばデデキント著『数について』(ちくま学芸文庫、岩波文庫)などの原典をあたるという手もありますが、こちらの方が初心者向けの本として読みやすいように思います。


4.田代嘉宏、テンソル解析

 科学技術の分野によっては、スカラーやベクトルだけでなく、テンソルも計算する必要があります。本書はテンソル解析のわかりやすい入門書です。最終章が自然にリーマン幾何学へと誘ってくれます。

【線形代数関係】

線形代数を初めて学ぶときは、その先にどのような応用があるのかわかりにくいかもしれません。応用面を詳説した入門書としては次のものが丁寧に書かれています。



. ギルバート・ストラング『線形代数とその応用』、産業図書

 日本の教科書では無視されがちな擬逆行列、特異値分解の解説もあります。後半では、数値計算法、線形計画法、ゲーム理論も。生き生きとした線形代数の本。

原書第1版の翻訳ですが、原書第3版では高速フーリエ変換が加わっています。



. 田村三郎『文系のための線形代数の応用』、現代数学社

 

 線形代数の実際的な応用例題が満載。文系の方に限らず、線形代数が具体的問題に応用される姿に接してみたいという人向けです。


【複素解析関連】

 複素関数論の和書は、これまで数多くのものが出版されてきました。その中で、私が好きなものは、辻正次『複素函数論』槇書店(1968)、竜沢周雄『関数論』共立選書(1980)、高橋礼司『複素解析』筑摩書房(1979)です。残念ながら現在はどれも品切れ状態のようですが、しかし幸いなことに、高橋先生の本は、新版として出版されています。

7.高橋礼司『複素解析』、東京大学出版会


 すっきりとスマートな記述で、複素関数論が展開されていきます。巻末にある関数論の本の寸評も面白く読めます。


 ちなみに辻正次『複素函数論』はかなり厚い本で、初歩的なことから関数論のさまざまな古典的定理が書かれています。等角写像の境界挙動、ネヴァンリンナ理論がここまで詳しく解説された和書の現役版はないかもしれません。竜沢『関数論』は共立選書で、やや小ぶりの本ですが、中身は非常に濃いものです。特に解析数論を意識して書かれていて、個々の「複素関数」について論じられています。

 関数論の標準的な教科書ではありませんが、次の本はわかりやすく書かれています。


. 楠幸男『無限級数入門』、朝倉書店


 無限級数という視点から、フーリエ級数、解析関数、ディリクレ級数などを概観した特色ある本です。無限級数は解析学の基本的な話題なので、こういうまとまった学習ができる本は便利です。


 

. 梶原壤二『複素関数論』、森北出版、POD版(数学ライブラリー)

 ヘルマンダーのデルバー方程式による多変数複素解析への入門書。関数論と関数解析に関する必要最小限の予備知識も解説されています。


10. 倉田令二朗『多変数複素関数論を学ぶ』、日本評論社


 岡潔によるクザンの問題、近似の問題、レヴィの問題の解決を軸に、多変数関数論の流れが語られています。エキサイティングな語り口は著者独特のものでしょう。倉田氏の面目躍如たる解説です。

 私が大学1年になったとき、数学セミナーでの連載最終回を見ました。その後、大学の図書室でコピーして、拾い読みしていました。今回、1冊の本としてまとまり、非常に読みやすくなりました。ヘルマンダリズムという言葉が的を射た印象を受けます。

【実解析学】

11.  G. H. ハーディ、J.E. リトルウッド、G. ポーヤ『不等式』、丸善出版


 解析学の基本的な道具は、不等式です。本書は不等式の古典的名著。解析学のさまざまな基本的なノウハウが学べます。

 

12.薮田公三『特異積分』、岩波書店

 特異積分論に関する実解析的方法を解説した本。カルデロン-ジグムントの特異積分に関するいろいろな評価式を学べます。


 【関数解析・偏微分方程式】

13. 藤田宏、伊藤清三、黒田茂俊『関数解析』(岩波基礎数学選書)、岩波書店

 関数解析の本格的な入門書。偏微分方程式への応用を念頭におき、重要事項がわかりやすく網羅されています。解析的半群、一般化された固有値関数系など、入門書で扱われることが少ない話題の丁寧な解説も含まれています。

 
14. 溝畑茂『積分方程式入門』、朝倉書店

 関数解析の源流の一つである古典的積分方程式。関数解析学を学ぶ際の副読本としても良い本です。

 
20世紀の解析学のエポックメーキングな事件の一つは、超関数論が現れたことです。これにより現代解析学が飛躍的に発展しました。

15.L. シュワルツ『超函数の理論(原書第3版)』岩波書店

超関数論の創始者である L. シュワルツの記念碑的な著作です。超関数について、いろいろ細かいことまで記述されていて、便利な本でもあります。あくまでも個人的な印象ですが、シュワツルの他の数学書は、ラドン測度や多様体上のマルチンゲールの本など定式化を重視していて抽象的なものが多いように思います。しかし、この本では、一般論的な記述に終始するのではなく、シュワルツの超関数論が物理に現れる線形偏微分方程式、フーリエ解析、多様体上の解析などへの即戦力となることが示されています。本書には一つの数学理論を組み立てるという著者の力強い意思が感じられます。オリジネーターだからこそ書けた本といえるでしょう。

 
 超関数論によりすぐに著しく進展したのが線形偏微分方程式論です。偏微分方程式論の本としては次のものがあります。

16.熊ノ郷準『偏微分方程式』、共立出版

本書は線形偏微分方程式論の基礎的な話から、超関数論の応用、さらには擬微分作用素まで解説した本格的入門書です。
内容は非常に濃厚です。著者は擬微分作用素に関する著名な研究者だった人で、『擬微分作用素』(岩波書店)という本も著しています。

17. 相川弘明『複雑領域上のディリクレ問題―ポテンシャル論の観点から』、岩波書店

 複雑な境界をもつ領域上の調和関数の境界挙動、ハルナック型不等式、ディリクレ問題など、楕円型偏微分方程式論の一つのモデルケースがここにあります。

 
18. 増田久弥編著『応用解析ハンドブック』、丸善出版

 前半は増田久弥先生による関数解析の解説、後半は、8名の専門家による応用解析学の発展的な話題の解説が集録されています。非線形関数解析、調和解析、ウェーブレット、粘性解、界面ダイナミクス、Navier-Stokes方程式、衝撃波等々、応用解析の有用なハンドブックです。

 
19. 柴田良弘、久保隆徹『非線形偏微分方程式』、朝倉書店

 Navier-Stokes 方程式、Stokes方程式のコンパクトな入門書。実解析、関数解析が駆使されています。

 
20. 堤正義『逆問題 -理論および数理科学への応用-』、朝倉書店

 いろいろな場面で遭遇する逆問題ですが、本書は実解析と関数解析ベースの本です。ラドン変換にも一章がさかれています。

 
21. 数学のたのしみ 2007冬『不動点定理とは何だろう?』、日本評論社

 不動点定理について、幾何学、関数解析、偏微分方程式、経済学など多方面から光を当てた ユニークな特集です。

 
22. ヘルナンデス、ワイス『ウェーブレットの基礎』、科学技術出版

 ウェーブレットは20世紀末に現れた応用数学。本書は純粋数学としてのウェーブレット理論を解説したもの。調和解析への一つの入門にもなっています。
 

【幾何学】

23. 志賀浩二『多様体』、岩波書店(品切れ、2015/10/8現在)

 多様体の誕生から、多様体論の展開までを学べます。特にジェット・バンドルと微分作用素の丁寧な解説、楕円型複体への導入が便利です。

24. 村上信吾『多様体 第2版』、共立出版

多様体とリーマン幾何学の入門書。後半では複素多様体も扱われています。微分形式、テンソル計算なども丁寧に解説されています。
 

 
25.野水克己『現代微分幾何入門』、裳華房

 "Kobayashi and Nomizu "Foundation of Differential Geometry" が微分幾何学の本では有名ですが、これを勉強するときに参考にしたのが、この本です。多様体、ベクトル束、ファイバー束、接続などが手際よく解説されています。

26.浦川肇『スペクトル幾何』、共立出版

 微分幾何の本ですが、多様体上の解析学の醍醐味を味わうこともできます。


 20世紀後半、マンデルブロが「フラクタル幾何学」という分野を提唱しました。これは従来の幾何学で扱ってきた図形とは違い、非常に複雑な形の図形を研究対象とするものです。たとえば、入り組んだ海岸線や、コッホ曲線などです。

27.K. J. ファルコナー『フラクタル集合の幾何学』、近代科学社 (品切れ?)

 フラクタル幾何学の基盤になっているのが、ハウスドルフ測度に関する実解析です。その詳細を学ぶことのできる本です。本書に「このような密度定理をハウスドルフ測度に対しても定式化しようという試みが、本書における大部分の研究の起源になっているのである」(上掲書、p.18より)とあるように、ルベーグの密度定理が出発点になっています。

 
28.K. Falconer『フラクタル幾何学』、共立出版

 同じ著者の「フラクタル集合の幾何学」が実解析色の濃い本であるのに対し、本書では、より広い視点からフラクタル幾何学が紹介されています。フラクタル幾何学の応用も垣間見ることができます。


【確率論】

29.ウィリアム・フェラー『確率論とその応用1上、1下』、紀伊国屋書店

 測度論を仮定しない確率論の本。様々な具体例がていねいに解説されていて、確率論の面白さを素朴に楽しめます。高校生でも十分読み始められる内容です。


30. 渡辺信三『確率微分方程式』、産業図書(2015/10/8現在 品切れ)

 ブラウン運動、確率積分、伊藤の公式、確率微分方程式がコンパクトにまとめられている確率解析の入門書です。ブラウン運動の四つ組に関する解説、連続マルチンゲールの表現定理などの基礎的事項についても書かれていて便利です。


31. 福島正俊、竹田雅好『マルコフ過程』、培風館

 確率論と解析学の接点にある重要な確率過程の一つであるマルコフ過程。本書はマルコフ過程とそれに関連するディリクレ形式の希有な入門書です。

 
 

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