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2015/10/06

日本の高等教育機関の国際化について

Tweet ThisSend to Facebook | by 山口博史
成城大学で5月31日に行なわれたIFSSO(International Federation of Social Science Organizations)の会合で日本の大学の国際化について話した内容を簡単にまとめておく。

当日の題は「Who Chooses Japan? : Japanese Social Sciences and International Student Exchange in a Globalizing World(誰が日本を選ぶのか?グローバル化の進む世界での日本の社会科学と国際学生交流)」というもので、12年以上にわたって高等教育機関の国際交流の現場にいた経験もふまえながら、日本の高等教育機関の今の国際化について話した。

「日本の大学の国際化は理工系が中心」という、ぼんやりとしたしかし一部ではかなりの説得力を有していそうな言説があるけれども、留学生の受け入れ実態からみるとこれは事実ではないというのが話のスタート地点だった。
学問にはいろいろな分野があるが、IFSSOは社会科学の専門家が集まる場でもあるし、その場では簡単化のため、日本の大学の国際学生交流についてのデータ提示は社会科学、理学(自然科学)、工学の3つの分野に絞った。なお、ここでは人文学のデータについても示しておく。

→ここに記した以上の詳細について知りたい、私から直接話を聞きたいということであれば、連絡をもらえれば対応したいと思う。

下記図1は日本の全大学に所属する留学生の人数をグラフに表したもの
ここで示されている人数は学校基本調査(2013年)の学部留学生数と大学院留学生数を合計して求めた。実際には国立大と私学でかなり傾向は違うのだが、その点についてはまた機会があれば詳しく論じてみたい。


図1 分野ごとの留学生受け入れ人数
このように留学生受け入れ人数から見るかぎり、日本の高等教育機関の国際化について理工系が中心、ということは言えないのがわかる。

また、学問分野によって、教育スタッフの厚みに差があることにも注意しておきたい。
研究分野ごとのスタッフの厚みを統制するため、学校教員統計調査(2013年)の学問分野ごとの大学教員数で上記留学生数を除してみると結果は次の通り(下記図2)。

これは分野別の教員一人あたりのおよその留学生受け入れ人数を示している。


図2 分野ごとの教員ひとりあたり留学生受け入れ人数

こちらのデータからも、日本の大学の国際化が理工系を中心に進んでいるとは言いづらいことが分かると思う。
むしろ、社会科学の相当部分のように、日本で日本社会のこと、「日本ならでは」の主題について学ぶスタイルには国際的にも相応の魅力があるのではないだろうか。

なお、留学生受け入れという点から見たときに、理工系より社会科学で交流が盛んというのは日本だけの傾向ではないという点には留意しておきたい。
くわしくはOECDの「Education at a Glance 2014」355ページ、表C4.2を参照されたい。

当日は個々のケースやこれ以外の私の論旨を補強するデータ、またなぜこのようになっているのかという検討もいろいろ加えたのだが、この詳細は思い切ってカットし、結論の要点を次の通りまとめておく。

1:留学生のすべてではないが、かなりの人たちが留学先(この場合は日本)「ならでは」のことについての学習・研究を求めているのではないかということ。

2:日本の大学の社会科学は、世界中の若い学生に向けてそうした「ならでは」の価値を提供することについて、理工系の分野と比べると一歩先んじているのではないかということ。

3:日本についての社会科学のようなある地域や国にこだわった知識や研究の知見は、世界の中で「普遍的なユニークネス*1」(形容矛盾だが)を発信できるのではないかということ。

4:学問の「値打ち」や「役に立つ、役に立たない」を国内的な視野だけで判断するのは限界があるのではないか?ということ。海外から各分野の知見がどう評価されて、多くのコストを費やして学ぶ対象として何が選ばれているか、というのは学問の成果を多面的にみていくためにはとても重要な問題なのではないか。

これは、「日本独自」とか「他所は他所、ウチはウチ」などの閉鎖的なスタンスをとることを勧めるものではない。世界の各地にそれぞれの「普遍的なユニークネス」がある以上、いっそうの交流と相互理解が必要ではないか、ということで話をしめくくった。

*1 ある分野が有する知識についての「普遍的なユニークネス」の度合いは、それぞれの学問で異なるだろう。日本に(と同時に各国に)かんする人文的、社会科学的な知識は、日本(と同時に各国)の外から見るとそれを備えているように見えやすいのではないか。

追記
ご参考の用に供するため、大学の設置形態別の留学生受け入れの状況についてもグラフを示しておく。
下記グラフ(図3~5)はそれぞれ国立大学(図3)、公立大学(図4)、私立大学(図5)のカテゴリー別に留学生受け入れの人数をあらわしたものである。
私学が非常に多くの留学生を受け入れていることが目にとまる。
また、国立大では人文、社会系に比べて工学系の受け入れ人数が多いことが分かる。

各分野のスタッフの厚みや定員にはかなりの差がある(たとえば国立大では理、工学系の定員やスタッフは人文、社会系よりもがいして厚みがある)。
比較のためカテゴリー別に留学生受け入れ数を教員数で除して求めたのが、その次のグラフ(図6)である。
これは各カテゴリーごとの教員一人当たりの留学生受け入れ数を示している。

このグラフを見ると、留学生受け入れにかんするトレンド(社会科学分野での受け入れの多さ)をはっきり示しているのが私学への受け入れであることがわかる。
受け入れ人数の多さによるものだろう。
国立大での留学生受け入れは、全体傾向からすると各分野の差が少なくなっているが、それでも社会科学分野での受け入れが多く、工学分野での受け入れは相対的に少ない。理学分野での受け入れはさらに少なくなっている。
このように、留学生受け入れ状況からみるかぎり、大学の設置形態別にみても、日本の高等教育機関の国際化は理工系が中心とまではいいがたいのである。


図3 国立大学の留学生受け入れ人数


図4 公立大学の留学生受け入れ人数


図5 私立大学の留学生受け入れ人数


図6 教員一人あたり留学生受け入れ人数(カテゴリー別)
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