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2013/08/25

大栗先生の超弦理論入門

Tweet ThisSend to Facebook | by あだちしゅん
大栗博司先生の『大栗先生の超弦理論入門』(講談社)を読みました。超弦理論自体はそこら辺の普通の中高生でも名前ぐらいは知っていますし、高校演劇の脚本にも登場することがあります。ただ、その詳細は知らない方が多いと思います。この本では「双対性」や「コンパクト」、「グラスマン数」など、大学教養の数学で出て来た概念も交えながら、超弦理論の本質的な部分を一般の方むけに分かりやすく解説しています。この本を中高生の時に読めていたら、大学の数学や物理の授業もまた違った面白さが味わえたのではないかと思えるほど、素敵な本です。

 

この本の最初の方では、固体・液体・気体という水の三態や水の温度などは、個々の水分子のエネルギー状態に基づく水分子の集合としての性質なので、それらの概念は幻想であると書かれています。この捉え方を適用すれば、空間自体も幻想なのではないか、と考えることも出来ることがゴール地点として、本書の内容は展開していきます。

 

素粒子物理学の標準模型については以前記述しましたが、標準模型には自然界の基礎的な4つの力のうち重力が含まれていないという欠点があります。また宇宙を構成する暗黒物質や宇宙が加速的膨張をすることの原因と考えられる暗黒エネルギーのことも説明出来ません。超弦理論には、それらを説明するより基本的な理論としての役割が期待されているのです。

 

古典的な物理学と超弦理論では、素粒子を零次元の点と考えるか、1次元の弦と考えるかの大きな違いがあります。素粒子を点と考えた場合は、電磁気力などが点電荷などからの距離がゼロの場合に点電荷自身への相互作用の力の大きさが無限大になってしまうという欠点があることは昔から分かっていました。これに相対性理論を適用すると、素粒子のエネルギーや質量が無限大になってしまうという、理論の破綻が起こってしまいます。そうならないために、ファインマン、シュウィンガー、朝永振一郎らは、観測される電子などの質量は電磁場などのエネルギーと電子などの固有の質量(負の値も可能)の和で表されるとするくりこみ理論を開発し、問題の解決を行いました。これが現在の物理学の主流の理論の訳です。この場合でも、事象の地平線よりも内部の様子は分からないので、プランクスケールという観察することが限界を迎える空間の長さの基準があります。

 

これに対し、超弦理論では素粒子は1次元の弦であって大きさがあるので、距離ゼロの問題が起きないとしています。超弦理論では、同じ空間に幾らでも粒子を詰め込めるボゾンの掛け算と、零元以外にもq x q = 0となるようなグラスマン数qの座標を考慮し、同じ空間に粒子を1個だけしか詰め込めないフェルミオンの掛け算(グラスマン数に対応)の両方を考慮しています。そのような空間は超空間と呼ばれています。超弦理論では超空間と量子力学を矛盾させないために回転対称性である超対称性(まだ実証されていない)も考慮しています。

 

超弦理論は9次元空間を考えますが、この次元数は特殊相対性理論において光子の質量がゼロであることに起因します。しかしこれは量子力学と折り合いが悪く、不確定性原理により最低エネルギーがゼロになりません。超弦理論を考えた場合、空間の次元数をDとすれば、弦の振動のモード(振動の節の数)が(1+2+3+…=-1/12:オイラーの公式より)、光子が進行方向への振動がないことから弦の揺れる方向のパターンがグラスマン数の座標も考慮すれば3(D-1)、量子力学よりあるモードに振動が起きる時の振動エネルギーはそのモードの振動エネルギーの倍になるため、2+3x(D-1)x(-1/12)=0が光子の質量がゼロになる条件なので、D=9となります。

 

超弦理論には先端の開いた弦と閉じた弦の両方を考慮するI型と、閉じた弦だけを考慮するII型があります。II型では電子のスピンが進行方向に対して時計回りのものだけに弱い力が働き、反時計回りのものに働かないというパリティ対称性の破れが再現出来ない問題がありました。このうちIIA型は9次元空間でもパリティ対称性は破れず、IIB型は9次元空間では破るがコンパクト化して3次元にすると破れない特徴があります。I型の方でも確率が0から1の間に収まらなくなったり、空間や時間の測り方を変えても法則が変わらないという一般相対性理論と矛盾が生じていました。標準模型ではたまたまクォークにおける弱い力のゲージ対称性のアノマリーとレプトンの量子効果のアノマリーが相殺されるため、矛盾が生じなくなっていました。これはクォークとレプトンが3世代という同一の世代数に落ち着く原因となります。I型ではゲージ対称性において32次元の回転対称性を考慮することにより、アノマリーの問題を解決しました。弦理論にはこの他にヘテロティック弦理論と言って、弦の進行方向に向かって時計回りの方向に9次元+グラスマン数の超空間、反時計回りの方向に25次元の弦理論(次元数は先述した超弦理論の式から3(D-1)(D-1)に変更して計算)を考慮した組合わせでアノマリーを解決する理論もあります。

 

超弦理論ではまた、カラビ―ヤウ空間を用いて9次元をコンパクトにし、6つの余剰次元が3次元空間での理論に繋がることも発見されました。これにより、考慮しているカラビ―ヤウ空間のオイラー数が6なので、クォーク/レプトンの世代数が3であることも必然的に導かれました。ここまでが超弦理論の第一次革命でした。

 

超弦理論の第二次革命では、10次元の超重力理論が登場します。この理論は超対称性で許される最大の次元にあるので、特別な意味を持つと考えられています。ここでは弦は10番目の次元により膜(ブレーン)となり、膜をコンパクトにしたものが弦です。膜の計算には弦が必要なので、弦が重要であることは依然として変わりません。アインシュタイン方程式の解にブラックホール、弦、膜、膜に対応した5次元解が出ることとも関係があります。ブラックホールには温度があり、蒸発することもあるとされていますが、その温度を担う分子は、閉じた弦が事象の地平線に貼付いて開いた弦に見えることで説明できます。さらに、I型、IIA型、IIB型、ヘテロB、ヘテロAの弦理論は超重力理論と様々な極限で結びつき、これらの理論は双対性のネットワークで結びついていました。

 

超重力理論では次元の数を変えるのは力の結合定数で、定数が小さいと次元が減るので空間の次元の数も本質的なものではなくなり幻想となるのです。また、重力を含む9次元のIIB型反ドジッター空間(AdS空間)と重力を含まない3次元の場の量子論(CFT)には対応関係があることが分かり、AdS/CFT対応と呼ばれています。3次元/2次元の対応関係で分かりやすく言うと、重力が働いている3次元空間の部屋の中の事象も部屋の側面の2次元平面に投影して説明することが出来る、ということです。2次元平面では重力が働いていません。この他にも、2次元の膜と5次元解など、その軌跡の次元の合計が3+6=9=10-1次元となれば絡みつくことが出来ることから、高次元の物体があれば低次元では実現が出来なかった絡みつきを実現出来るという話も興味深かったです。

 

空間以外にある重要な次元、「時間」については、幻想かどうかはエントロピー増大の法則など統計力学的な見地から、宇宙の始まりの秩序を研究することで見えてくるのではないかとして、この本は締めくくられています。私の説明だけではオカルトかSFの説明のようにも受けられてしまいますので、興味のある方は大栗先生というこの分野の最先端を研究しておられる方の著した本質的な、かつ分かりやすい説明を、本書を読むことで堪能頂ければ幸いです。

 

大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス 1827)
大栗 博司
講談社(2013/08/21)
値段:¥ 1,029


 

 


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