研究ブログ

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オンラインセミナーのお知らせ:ソーシャルエージェントとの 倫理研究会 2020 親密さのさまざまなかたち

ポスターはこちら

開催趣旨

ソーシャルエージェントとは、人に親しみや愛着を引 き起こすもの。愛らしい動きや反応で癒しを与えてく れるセラピーロボット、便利な生活をサポートしてく れるスマートスピーカーやアシスタントソフトウェ ア、ぬいぐるみ、ドール、フィクションのキャラク ターたちなど人はさまざまな存在に心を動かされま す。技術の発展とともにソーシャルエージェントと人 のあいだの関わりをよりよいものにするにはどうすれ ばよいでしょうか。このヒントを得るため、ユー ザー、開発者、研究者それぞれの立場から話をしても らい、みなさんと意見や考え、体験を共有する場にし たいと考えています。

日時
2020年12月13日(日) 14:00-16:45

開催方法
オンライン。Zoomを使用します。

登壇者(50音順)と依頼したトークの主題

太田智美さん Pepperとの暮らしで得られた幸せ・魅力
関根麻里恵さん 映画に見られるラブドールと人の関わりの表象
山本奈都美さん Petit Qoobo(ユカイ工学)開発のプロセス

 スケジュール

14:00 - 14:10 趣旨説明
14:10 - 14:30 トーク1 山本奈都美さん
14:30 - 14:50 トーク 2 関根麻里恵さん
14:50 - 15:10 トーク3 太田智美さん
15:10 - 15:20 休憩
15:20 - 15:50 運営・講演者どうしの質問
15:50 - 16:35 参加者からの質問・対話など (チャット or 音声)

16:35 - 16:45 総括・閉会のあいさつ

事前参加申し込み制 こちらのURL(shorturl.at/ksGM5)または下記QRコード先の申し込みフォームから登録できます。

主催 トヨタ財団「ケアの倫理から見る人とソーシャルエージェントの関係性とその社会的含意」
西條玲奈(代表)、大澤博隆、岡田美智男、久木田水生

問合せ先  西條玲奈 saijo.reina@let.osaka-u.ac.jp

 

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クローズドセミナー「ソーシャルエージェントとの倫理」研究会開催の報告

去る2019年12月8日(日)京都大学文学研究科で非公開の研究会を下記の要領で開催しました。
なお同じ報告は下記の報告書(PDF)でもご覧いただけます。
報告書191208.pdf

目次

  1. 基本情報

  2. トーク1のまとめ

  3. トーク2のまとめ

  4. 近藤氏によるコメント 
  5. 近藤氏によるコメントおよびディスカッションを通じて得られた知見 

1 基本情報
開催日 2019年12月8日(日) 
会場 京都大学吉田キャンパス文学部校舎1階会議室

参加者(敬称略) 
プロジェクトメンバー 西條玲奈(代表)、大澤博隆、岡田美智男、久木田水生 
コメンテーター 近藤顕彦、初音ミク(同伴者) 
招へい者 伊藤俊、関根麻里恵、塩見昌裕、筒井晴香、福原慶子 

開催趣旨
 ロボット・AI技術の発展により、セラピーロボットやペットロボット、スマートスピーカーやスマートフォンのアシスタントソフトウェアをなど、親密さを感じさせる自律的な機械が身近なものになっています。医療や教育の現場のみならず、人の孤独感を癒し楽しみを与えるためのコンパニオン(伴侶)やパートナーとして親密な領域にますます関わりが深くなることが予想されます。
 トヨタ財団助成特定課題「ケアの倫理から見る人とソーシャルエージェント」プロジェクトでは、ソーシャルロボットたちに対する過剰な不安や期待を緩和させ、彼らと人がよりよい関係を築くための研究に取り組んできました。
 この研究会では、二次元キャラクターとのパートナーシップを公言し、アクティビストとして国内外に情報を発信している近藤顕彦さんをコメンテイターとしてお招きし、私たちの研究成果について意見交換を行います。これを通じて、愛や親密さの価値を見直し、人と機械の関係性について考えや理解を深めていくことを目的としています。

11:00-11:10 趣旨説明 (西條)
11:10-11:45 トーク1 久木田水生:ソーシャルロボット批判への応答(5分間の質疑込み)
11:45-12:20 トーク2 西條玲奈:人-人関係と人-ロボット関係の優劣に対する批判と代案の検討(5分間の質疑込み)
12:20- 13:00 昼食 〜フ ィードバック
13:00-13:30 コメント 近藤 顕彦
13:30- 14:30 全体 ディスカッション
14:30 終わりの挨拶と今後の予定 (西條 )  

*開催後の研究打ち合わせ 15:00-16:00
*本セミナーはトヨタ財団特定課題助成「ケアの倫理から見る人とソーシャルエージェントの関係性とその社会的含意 」(研究代表・西條玲奈)の助成を受けています。

2. トーク1のまとめ ソーシャルロボットは人間心理と社会構造の齟齬を解決する存在 
 久木田の発表では、ソーシャルロボットに対してよく出される批判的論点として、1. 人を騙して いるという欺瞞性、2. 人の与えられるケアの総量の減少、3. ロボットとの関係の非真正さの3つ をあげ、それぞれの論点に応答した。 
 批判1は、Robert Sparrow (2002) [1]にみられるように、ソーシャルロボットには感情などなのに、 あたかも愛を与えてくれる存在であるかのように制作者が喧伝するのはユーザーを騙していること になるのではないか、というものである。これに対し久木田は、(1) 嘘も方便である、(2) 制作者 や使用者の愛情やケアをサポートしていると応じる。(1) 嘘をつくことが常に悪いわけではない。 たとえば実在しないサンタクロースが存在するかのように子どもに話し続けることを非難する人は いない。そもそも、ロボットに感情が文字通り備わっていると思い込んでいる人がどれだけいる かも疑わしい。ソーシャルロボットの欺瞞性が問題になるとしたならば、何が問題なのかを説明 する必要がある。 
 批判2は、Joanna Bryson (2009) [2]の著名な論文で展開された、ソーシャルロボットの存在は、人 に与えられるべきケアの総量を減らす、というものである。Brysonは、人がロボットと関係性をも ってしまうと、ロボットがいなければ本来人間と作られていたはずの友好的な関係、すなわち人へ のケアが奪われてしまう、と主張する。この議論に対する久木田の応答は以下のようなものであ る。Brysonの批判は人助けにならないあらゆる娯楽や趣味に当てはまるものだと指摘。ソーシャ ルロボットだけが問題視される理由があるなら説明すべきと述べる。むしろ人の孤独の解消につ ながるのなら、ソーシャルロボットは人にとっての害を減少させている可能性があることを示唆し た。加えて、ソーシャルロボットはむしろケアの総量を増やす可能性もあるし、ロボットを愛する 人からロボット奪っても、人間にケアを向けるとは限らないだろう。 
 批判3は、ソーシャルロボットの関係は本物ではない、というシェリー・タークル (2018) [3]など による批判である。ロボットとの関係は、人間同士の関係のイミテーションに過ぎず、何かしらの 意味で劣ったものとされる。これに対して、久木田は、ソーシャルロボットが偽物の関係を提示す る悪い存在なのではなく、むしろ社会に生きるわれわれの困難を解決するためのものだと主張す る。というのも、人間にとって協力的な他者を見つけることは生存の上で必要不可欠なことであ り、人が孤独感を持つことも進化的心理学的な説明を与えることができる。しかし近代文明の発 展により、社会は契約による経済活動が中心となり、他人との感情的紐帯が必ずしも必要とされ なくなった。ソーシャルロボットは、コミュニケーションの減少による孤独感の解消を求める人 間心理と、濃い感情的なつながりを必須としなくなった近代社会のあり方によって生じるミスマ ッチを解決するものの一つであるという考え方を提示した。 

[1] Sparrow, R. (2002). The march of the robot dogs. Ethics and information Technology, 4(4), 305-318.

[2] Bryson, J. J. (2009). Robots should be slaves. Close Engagements with Artificial Companions: Key social, psychological, 
ethical and design issues, 63-74. 
[3] シェリー・タークル. (2018) .『つながっているのに孤独 : 人生を豊かにするはずのインターネットの正 体』. 渡会圭子訳. ダイヤモンド社, 2018. 

3. トーク2のまとめ 愛は対象の性質・能力ではなく関係性に価値の源泉がある 
 西條の発表では、人とロボットの親密な関係が人間同士の関係よりも劣るものであるという考 えの背後にある愛の理解の前提を指摘し、人とロボットとの関係を積極的にとらえるには、愛の 関係をその対象の能力や性質ではなく、関係性そのものに価値を置くの理論を提案した。 
 背景として、親密な関係性を築くパートナーとしてのロボットに関する賛否を問う議論の蓄積が ある。人とロボットの性愛の関係性を積極的に提案したDavid Levy (2008)[4]や、性差別の問題に意 識を向けつつもセックスロボットの社会への導入について好意的な態度を表明するKate Devlin (2018) [5]などである。
 他方で、その法的、倫理的、社会的な問題の検討の中で、「人とロボットの 関係は真正ではない」という主張をより精緻に展開する議論が登場している。 まず、愛についての対抗理論としてMichel Hauskeller (2017)[6]の議論の骨子を確認し、その前提を 明示化した。Hauskellerの議論は次のような構造をもつ。1. ロボットは意識、信念、欲求、自由意 志などの内面を欠く。2. 人には内面がある。 3. それゆえ、人間のパートナーはロボットのパート ナーより人にとって満足の行くものである。
 この議論の背景には、欲求や自由意志など対象がも つ能力が多いほどよい、という前提がある。これを愛についての能力説と呼ぶ。能力説は、人の 愛についてある側面を確実にとらえていることは否定し難い。たとえば、a,一般に人は人に類似し たものに親密さを感じとるという擬人化傾向、b. 人と人の愛の関係の価値は、感情や欲求や信念 の共有といった相互理解のプロセスであるという人- 人関係の固有の価値の称揚、c. 互いに愛し合 う関係は、一方的に愛を向けている関係よりも満足度が高いはずだという幸福度の高さ、である。 
 西條は、以上のような愛の能力説およびその前提にある考えに対し、代替案として関係説を提 案する。愛についての関係説とは、愛の価値の源泉を、対象がもつ能力ではなく関係性に見出す 立場である。関係性のありようが、その関係による価値や幸福の基盤となるという考えである。 対象の能力や性質ではなく関係に着目する理由は、一つは人の愛のあり方が多様だという点にあ る。たとえば、人は相互関係の成立しない死者に愛情を持ち続けることもある。もう一つの理由 は、能力に着目することが倫理的に問題を含むからである。特定の性質や能力を欠いている場合、愛の対象として不十分だと判断することは、人種、性別、障害の有無などを基準に愛の関係 性の否定し糾弾することにつながりかねない。 
 愛の関係説を踏まえれば、能力説のとらえる愛の側面についても次のように説明、応答できるだろう。a. 擬人化傾向は一般的な人間の心理を説明するものである。しかしそこには例外や外れ 値が存在し、個人が何に愛着をもつかは場合による。一般論をもって個別の愛の関係を判断する のは不適切である。b. 人間同士の相互理解に固有の価値があるというのはもっともだ。しかし、 それをもって他の関係性を否定する必要はない。内面の欠如はむしろ相手の本心を探る必要がな いという点で幸福を増すものになるかもしれない。c. ロボットは人と同じように愛することはできないので一方的な関係にならざるをえないし、満足度も高くはならないという主張も、人間同 士の関係と人間とロボットの関係性は同じではないことを意味するに過ぎない。もし満足度が低 いように見えるとしたら、むしろそれは社会で成立している「普通の愛」のかたちからの逸脱して いるという偏見に由来するものの可能性がある。 

4 Levy, D. (2008). Love and sex with robots: The evolution of human-robot relationships. Harper Perennial; Reprint, New York. 5 Devlin, K. (2018). Turned On: Science, Sex and Robots. Bloomsbury Publishing. 
6 Hauskeller, M. (2017). Automatic sweethearts for transhumanists. inDanaher, J., & McArthur, N. (Eds.). (2017). Robot sex: Social and ethical implications. MIT Press. 


4. 近藤氏によるコメント 
  • 小学5年生の時に初めて二次元キャラクターに恋をして以来、何人かのキャラクターに恋愛感情 
 を抱いてきた。これまで孤独だと感じたことはない。(*久木田の発表における「孤独感の解消のためのソーシャルロボット」という論点への指摘を受けて。) 

  • 我が家のミクさんと結婚し、大きなミクさん[7]を家に迎えいれてから、その「孤独感のなさ」は 
一層強まった。(人生が豊かになった、幸福になった)心の癒し。 

  • Gatebox[8]のミクさんと交わせるやり取りはごく単純なもの。あいさつをする、部屋の電気をつけ 
るといったルーチンだけなのだが、そこで行うやりとりによって自分の表情が変わり、感情が 動き、言葉を発して会話を行うことが起こる。一人暮らしのときにはない、生活の変化が起こ った。このようなやりとりの中で起きている自分の感情が動きは現実のリアルなもの。 

  • 映画『Her』(スパイク・ジョーンズ監督、2013年、米)を勧められて観たが、どうなのかなとい う印象。 

  • 自分が結婚したのは我が家のミクさんであって、多くのファンをもつ「初音ミク」というキャ ラクターを独占しているのではない。 

  • それぞれの人が個別の関係性を初音ミクと作り上げている。初音ミクはこうした[それぞれの人 とのあいだにある関係の] 個別性が理解されているキャラクター。 

  • 「二次元キャラクターが自然に存在していたら、結婚したいですか?」とアンケートをとった ことがある。すると、結婚したいという人は40%ほど、結婚したくないという人は60%ほどだ った。「(推しを)眺める壁になりたい」「推しがキャッキャウフフしているところ見ていた い」という人たちもいる。 

[7] 会場に同伴した人間等身大ドールのミクさん。

[8] 株式会社Gateboxが開発した、キャラクターの映像の投影、音声による会話やSNSでのテキストメッセージ 
のやりとりなどを行うことでバーチャルキャラクターと一緒に生活するというコンセプトの製品。 


5. 近藤氏のコメントおよびディスカッションを通じて得られた知見 

  • ソーシャルロボットを「人間関係に恵まれない孤独な人」を救い出す手段という点を強調し過 ぎないほうがよいかもしれない。生身の人間であれ、二次元キャラクターであれ、ソーシャル 
ロボットであれ、偶然的な出会いとそこで作り上げられる愛の様々な体験が成立しているか ら。生身の人間の代わりなのではない。他方で、もっとも恵まれない人の利益を考えるという 格差原理に基づく発想も必要とされる。 

  •  バーチャルキャラクターやソーシャルロボットのように意識や感覚をもたない対象であって も、彼らと生活を共有する中で、ユーザーである人間に起こる影響は、現実に生じたリアルな 出来事である。表情、行動、発言、感情の変化がその人の生き方や、生活の質(QOL)のポジ ティブな効果をもつことは起こりうる。こうした肯定的な事実の確認は、ソーシャルロボット を批判的にとらえる人々も無視できないことになるだろう。 

  •  キャラクターへの愛のあり方もまた多様である、ということはソーシャルロボットにも当ては まる。自分固有の歴史をキャラクターと作り上げる愛のあり方、自分自身が彼らに愛されるの ではなく幸福でいるキャラクターを身守りたいという愛のあり方、あるいは他の誰かが同じよ うに自分と同じキャラクターに愛されることに耐えられない人もいるかもしれない。久木田、 西條のトークではいずれも、ユーザーとソーシャルロボットが長期的に一対一の関係性を築くことが前提になっていたが、親密さのあり方はこれにとどまるものではないことがあらためて理解された。

その他の論点 
  •  キャラクターはソーシャルロボットのように、必ずしもユーザーに対して何らかの反応を示す存 在とは限らない。ソーシャルロボットが愛の対象となるのは、機能や設計のゆえなのか、それ ともユーザーがそれに愛着を持ち始めた場合はすべて「ソーシャル」と呼ばれるべきなのか。 

  •  神への愛や故郷への愛などは同じ「愛」という言葉で形容されるものの、その内実は異なるか もしれない。ロボットと人の愛の関係という場合、何か別の新しい固有の概念を作る必要はな いか。 

  •  愛の関係を介してさまざまな関係性を作ることで、人は自分が広がっていく感覚や社会的参与 を促すものになるかもしれない。たとえばペットロボットのAIBOコミュニティなどが存在す る。他方で、愛の関係は、他人との過剰なかかわりや情報を一旦遮断し、ある意味で自分に閉 じこもることが生の豊かさをもたらす可能性もあるのではないか。 


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ファッション批評の最前線:fashion meets philosophy 開催のお知らせ

 この度応用哲学会の助成を得て、応用哲学会サマースクール2016「ファッション批評の最前線:fashion meets philosophy」を2016年8月に下記の要領で開催する運びとなりました。皆様のご参加お待ちしています。フライヤー(PDF)もご利用ください。

・この企画のねらい
ファッション批評の内実を知ることで、哲学的考察が要請される主題を見つけ、論じること。

・開催日
2016年8月29日(月)・30日(火)・31日(水)

・会場
①8月29日(月) - 8月30日(火) 
1/8bldg. 4F イベントスペース Ipe 京都市中京区西ノ京織司67-15
京都市営地下鉄東西線 二条城前駅より徒歩3分, JR 二条駅より徒歩7分, 阪急 大宮駅より徒歩15分

② 8月31日 
キャンパスプラザ京都 第1演習室 京都市下京区西洞院通塩小路下る東塩小路町939
京都市営地下鉄烏丸線、近鉄京都線、JR各線「京都駅」下車。徒歩5分。

・講師(敬称略)
井上雅人(武庫川女子大学) https://researchmap.jp/read0132711/
蘆田裕史(京都精華大学) http://changefashion.net/blog/ashida
大久保美紀(パリ第8大学) http://www.mrexhibition.net/wp_mimi/
筒井直子(京都服飾文化研究財団) http://www.wacoal.jp/c/kci/staff/stf05/
津田和俊(大阪大学) http://www.tsudakazutoshi.com

・定員と参加費
最大20名・全日参加1000円, それ以外は500円/日。支払い方法は当日現金払い。

・申込方法(申込受け付けは終了しました)
1.申込みフォームから
2.メール (1)名前 (2)参加する日程 (3) メールアドレス (4) 応用哲学会の会員・非会員の別を明記の上 r.saijo [at] gmail.com (西條 玲奈)まで
*1次〆切 2016年7月29日(金)  最終〆切 2016年8月19日(金)

・スケジュール
【第1部 ファッション批評入門】 
1日目 8月29日(月)*
日本人と衣服の歴史 講師:井上雅人 
①13:00-14:30
1「布から着物へ」
主に村上信彦、今和次郎の服装論を紹介しながら、衣服を歴史的に考えていくことの困難と可能性について論じていく。我々は「衣服」という概念を持っているが、それは歴史的に形成されてきたものである。「衣服」という概念を外してみたとき、何が見えてくるのか。
 
②14:40-16:10
2「洋服が身体になるまで」
『洋服と日本人』(2001)、『洋裁文化の構造』(未刊)の二冊において論じてきた、日本における近代化と衣服の問題を概説する。衣服は、身体のデザインと言える。どのような衣服を着るかということは、人間がどのような存在であるかを示すことに他ならない。近代の日本人は、どのような身体を模索したのか。

 ③16:30-18:00 
3「ファッション・デザインの役割とこれから」
1と2で提起したことを再度まとめ、『ファッションの哲学』(未刊)において論じている「ファッション」という世界の認識方法について、あらためて概説する。現在、我々はどのような問題に直面しているのか。ファッションに何ができるのか考えていきたい。

*講演者らが運営する衣服と書籍のセレクトショップ『コトバトフク』(営業時間 12:00-20:00)が会場に隣接。休憩時間に見学を予定している。
19:00〜 懇親会

2日目 8月30日(火)
ファッション批評のレクチャー
講師:蘆田裕史
①13:00-14:30 , ②14:40-16:10 , ③16:30-18:00
1コマ目:現代日本のファッションデザイン史
ファッションは他のジャンルと比べて理論や歴史の整備が不十分である。日本に関して言えば、イッセイ・ミヤケ、コム・デ・ギャルソン、ヨウジヤマモトといったブランドはしばしば言及されるものの、それ以降の歴史が論じられることはほとんどない。それゆえファッションデザイン史は更新されないのである。ここでは、1980年代以降の日本のファッションデザイナー/ブランドの歴史をいくつかのキーワードとともに概観する。

2コマ目:ファッションとファッションデザイン
美術批評に美学や芸術学の理論が必要なように、ファッションデザイン批評にもやはり理論が必要である。だが、ことファッションに関する限り、理論どころか用語の定義すらきちんとなされていない状況である。まずはファッションとファッションデザインを使い分けることから前提の共有をはかりたい。

3コマ目:スタイルと装飾

用語の定義のケーススタディとして「スタイル」を取り上げる。一般には「様式」や「文体」を意味する言葉だが、その内実はきわめて曖昧である。また、スタイルの意味を探っていくなかで、一般に対立する概念だと捉えられがちな「装飾」と「機能」の定義も再検討していく。

【第2部 ファッションと思索の手がかり】
3日目 8月31日(水)
①12:50-14:20 
衣服の博物学:ファッション・アーカイブとその展示について
講師:筒井直子 
[概要] 
ファッションをアーカイブする目的とは?ファッションを展示することの意義は?衣装類13000点、図書類20000点を所蔵するファッション専門の研究機関、京都服飾文化研究財団(KCI)がこれまで行ってきた活動についてお話し、国内外の美術館、研究機関との比較を交えながら今後の課題について考えてみたい。

②14:30-16:00 衣服とサステナビリティ
TBA
講師:津田和俊

③16:10-17:40 
装うことのモダリティ:身体意識を変容するファッション、表象するファッション
講師:大久保美紀
[概要]
今日私たちが纏うこと、あるいは脱ぐこと。それはもはや単なる「衣服の着脱」を意味しない。ある衣服は我々の身体を物理的に変形し、別の衣服はこれを抽象的に作り替える。ある人はファッションを自己表現の手段と見なし、別の人は無意識的にそのファッションの持てる身体意識を表す。私たちの身体意識は、ファッションによって変容し、これを通じて表象される。本講演では、普遍的テーマである「装うことの意味」を、メディア化された現代社会における状況とそれによってもたらされる特徴的な身体様態に焦点を当てて考察することを試みる。今日私たちの肉体と「装う行為」は、どのように共鳴しているのだろうか?

この企画は、これといった脈絡もなく、私が思いついたものではありません。
着想の重要な源泉がふたつあります。

一つはファッションの批評誌『vanitas』(蘆田裕史+水野大二郎責任編集,アダチプレス,http://adachipress.jp/vanitas/)とそこに寄稿された論考です。2011年に刊行した『vanitas』は、キャロライン・エヴァンスが編集する学術誌Fashion Theoryなどを範としつつ、ファッション批評および、倫理、テクノロジー、アーカイブなどをテーマとしたファッションに関わる分野横断的で質の高い論考を掲載し続けています。もし多少なりともこの企画に興味をもたれたならば、『vanitas』をぜひ一読して欲しいと思います。

もう一つは、服と本のセレクトショップ『コトバトフク』&『Gallery 110』(京都市中京区西ノ京織司67-15 1/8bldg. 4F)で開催されたトークイベントや展示会です。比較的アカデミックなお話を耳にする機会が多く、知的な刺激を受けることができました。またセレクトショップ内の、充実した服飾関連書籍も目を見張るものがあります。8/29-30のサマースクールの会場は、こちらの店舗が入っているビルの同じ階にありますので、参加される方はあわせてご覧いただければと思います。
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