池田 成志

農耕地生態系の微生物相を改善し、環境微生物の有用機能を環境サービスとして最大限に活用することが、化学物質の投入を最小限にした持続的農業生産活動の基本の1つとなると考え、施肥や光等の環境条件と共生微生物相との関係を慎重に検討することにより、農業現場での有用微生物の効果的な利用技術の開発を目指している。
従来までの農業や農学、特に植物栄養学や肥料学、植物病理学等の分野で顕著であるが、植物微生物複合体の中の作物部分しか注目しておらず、共生微生物の存在は無視されてきた。そのような植物中心の農業や農学は、農業における共生微生物の重要性を強く否定することにもつながってきた。一方で、農学は工学や理学に比べて完成された学問というには程遠いレベルにあり、現在の農業研究は「農学栄えて農業滅ぶ」とまで揶揄される状況にある。このような状況に陥った大きな原因の1つが共生微生物研究の遅れに起因していると考えている。
「大切なものは、目にみえない」という狐の言葉のとおり、微生物や光のような「目に見えないもの」（栽培環境）をもっと意識することが現代農業においても重要なように思われる。目に見えないものを対象とすることは立派な顕微鏡や分析装置が使える現代の研究者にとっても、その効果を信じて研究するには大変な勇気が必要になる。しかしながら、新たな共生科学的な視点からの研究は農業における多くの疑問点を解決し、現代農学の常識を新たに再考するための糸口になる可能性があると考えている。共生微生物の理解と活用から、従来の常識を越えた新たな農業技術や農学研究の展開へとつなげることを理想としている。