研究ブログ

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理科・実験 制限酵素の表記方法は随分前に変更されていた

表題の件について、最近になって知りました。

2003年のNucleic Acids Researchに論文が出ていたので、もう21年も前に変更があったことになります。

重要な部分の訳文(DeepL使用)を以下に抜粋します。

『3. 制限酵素またはDNAメチル基転移酵素の名称の最初の3文字の頭文字には、イタリック体を使用しない。多くのジャーナルはすでにイタリック体を避けており、イタリック体の慣習を維持することはコンピュータに容易に翻訳できず、本質的な目的を果たさない。同じ生物の同じ単離株から得られた異なる酵素名をローマ数字で表記する慣例は継続する。

4. 制限酵素名には、頭文字とローマ数字の間にスペースを入れてはならない。この慣行は、イタリック体の文字と通常のフォントの文字が隣り合わせになったときに生じる不格好さを避けるために採用されてきたが、誤りである。イタリック体が名前に使われなくなった今、この慣習を続ける理由はない。』

New England Biolabs (NEB)とニッポンジーンはこれに従っています。

ただ、タカラバイオと東洋紡は以前の表記方法のままです。

【引用文献】

Roberts, R. J. et al. A nomenclature for restriction enzymes, DNA methyltransferases, homing endonucleases and their genes. Nucleic Acids Res. 31, 1805-1812 (2003).

 

 

 

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理科・実験 タバコ Nicotiana tabacum L. cv. Xanthi ncについて

Nicotiana tabacumはタバコの学名、L. は命名者リンネ、cv. はcultivar(栽培品種、cultivated varietyが語源)の略号です。つまりXanthi nc が品種名です。Xanthi ncは長田敏行先生と建部到先生が、1970年にタバコ葉肉細胞プロトプラストの細胞壁再生と分裂、次いで1971年に寒天培地にプレーティングすることで単一細胞由来のカルス(クローン)の形成の成功を発表された実験で用いられたタバコ品種です。1971年の論文ではXanthi ncのほかにXanthiやSamsunという別の品種も一部の実験で使用されたようです。そして、タバコ葉肉細胞プロトプラストからの個体の再生を報告して植物細胞の全能性を実証した1971年の建部先生らの論文でもXanthi ncが使われました。タバコ葉肉細胞プロトプラストを、生理活性を保った状態で単離できることを最初に報告した建部先生らの1968年の論文以降、初期の頃にはBright Yellowという品種が用いられていたのですが、1970年の長田先生らの論文以降Xanthi ncの使用にシフトされたようです。
 
タバコには多くの系統・品種があります。それらの中からXanthi ncを実験材料として選んだのには何か理由があるはずです。長田先生にメールでお尋ねしたところ、『これは実験用の植物で、やや丈が低く、なによりもウイルス抵抗性があるからです。』とのお答えをいただきました。
 
私が名古屋大学理学部生物学科3年生だった1981年10月から11月にかけての学生実習で長田先生、次いで建部先生の実習を受けました。その時に配布された実習プロトコルと実験ノートを見返してみたら、全く忘れていたのですが、Xanthi ncを使っていたことがわかりました。11月11日の建部先生担当回のページを示します。Xanthi ncに関して「葉がまるく葉脈がはっきりしている」、「こっちの方がPectolyase処理時間が短くてすむ」という私のメモが残っています。
 
そもそもXanthi ncはどういう品種なのか、元になったと思われるXanthiとは何が違うのかを調べてみました。
 
タバコの栽培品種については、日本専売公社中央研究所の川島信麿・木佐木卓郎による1976年の総説がありました。日本で栽培されているタバコは黄色、バーレーの2系統であり、黄色はさらに在来種と黄色種に分けられるそうです。そのほか、世界には各地に特有の在来種があり、それらの中で研究によく用いられるのがオリエント種と葉巻種だそうです。
 
黄色種はアメリカから導入され、Bright Yellow (BY)はそのひとつで、BY系統のBY4号は日本の代表的黄色種で、1986年篠崎一雄先生らにより葉緑体ゲノム配列解読で用いられた品種でもあります。タバコ培養細胞BY-2はBY2 号由来だと思われます。
 
Xanthiというのは「黄色」を意味すると思われるので、黄色種かと思ったら違って、オリエント種でした。川島・木佐木(1976)によると、オリエント種は『主にトルコ・ギリシャで栽培され、トルコ種ともいう。一般に葉は小さく肉厚であり、葉型も大きさも同程度の葉が円筒型の樹型を形成して生育し、温室栽培に適しているので生理・生化学実験の材料としてよく用いられる。代表的なものにサムソン(Samsun)とキサンチ(Xanthi)がある。両者とも交雑はなされておらず、比較的純系に近いものと思われる。』とあります。なお、Xanthi(クサンティ)はギリシャの地名(県名と市名)、Samsun(サムスン)はトルコの地名(県名と旧・市名)でした。「葉は小さく肉厚」というのが、葉肉細胞プロトプラスト調製に適していたのかもしれません。
 
また、Xanthiについて文献検索を行ったところ、以下の事実が判明しました(渡部ら1977)。タバコ種子は一般に光発芽性(要光性)なので、暗黒条件ではほぼ発芽しませんので、タバコ種子の播種の際には覆土をしないことが大事です。ところがXanthiの種子は非要光性(暗発芽性)、つまり光の有無に関わらず発芽するそうです。
 
Xanthiについては大体わかったのですが、川島・木佐木(1976)にはXanthi ncに関する記述がありませんでした。そこで1970年の長田・建部の論文に記載のXanthi ncの引用文献(Takahashi 1956)を読むことにしました。
 
William Noboru Takahashiさん(1905年8月14日カリフォルニア州オークランド生まれの日系アメリカ人、のちにカリフォルニア大学バークレー校(UCB) 名誉教授、1987年12月20日ご逝去)が著者でした。植物ウイルス学、タバコモザイクウイルス(TMV)がご専門です。
 
上記論文の記述によると、UCBのR. E. ClausenとD. R. Cameronが、局部病斑植物であるN. glutinosaの nc(necrotic factor:局部壊死因子)を導入するために、N. tabacum var. Xanthiと交雑させて、その後にXanthiとの戻し交雑を繰り返して得た品種のようです。
 
上記原著論文での表記はXanthi-nc(ハイフンあり、小文字nc)となっています。
 
しかし、TMV抵抗性(過敏感反応による局部病斑形成を示す)の nc は優性(顕性)形質であるため、glutinosa由来の遺伝子は大文字表記(NCあるいはNc)とする一方で、tabacum由来の全身感染性劣性(潜性)遺伝子は小文字表記(nc)が好ましいと思います。実際、日本たばこ産業株式会社葉たばこ研究所の遺伝資源品種名としてはXanthi NCと表記されています。
 
余談ですが、Samsun にN. glutinosaのN遺伝子を導入したSamsun NNという品種があります。Xanthi-ncをNN genotypeと表記している論文もあるため、N遺伝子はncと同じものだと思われます。NNは顕性ホモで、Nnがヘテロ、nnが潜性ホモということになります。農林省植物ウイルス研究所、のちの農業生物資源研究所の大橋祐子さんがSamsun NNを用いて研究されていたようです。
 
【参考文献】
Nagata T, Takebe I (1970) Cell Wall Regeneration and Cell Division in Isolated Tobacco Mesophyll Protoplasts. Planta 92, 301-308.
 
Nagata T, Takebe I (1971) Plating of Isolated Tobacco Mesophyll Protoplasts on Agar medium. Planta 99, 12-20.
 
Takebe I, Labib G, Melchers G (1971) Regeneration of Whole Plants from Isolated Mesophyll Protoplasts of Tobacco.  Naturwissenschaften 58, 318-320.
 
Takebe I, Otsuki Y, Aoki S (1968) Isolation of Tobacco Mesophyll Cells in Intact and Active State. Plant Cell Physiol. 9, 115-124.
 
川島信麿、木佐木卓郎(1976)タバコの系統と品種 植物酵素・蛋白質研究法 pp. 43-48 蛋白質核酸酵素編集部編 共立出版
 
渡部信義、津田周彌、細川定治(1977)タバコ種子の光発芽性の二面交雑による遺伝解析 北海道大学農学部邦文紀要 10(2), 139-146
 
Takahashi WN (1956) Increasing the sensitivity of the local-lesion method of virus assay. Phytopathology 46, 654-656.

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ノート・レポート karyopherin(カリオフェリン)の語源

核膜孔を通じた輸送に関わるタンパク質群をkaryopherin(カリオフェリン)と呼びます。

karyopherinスーパーファミリーは、さらにimportin α(インポーティンα)ファミリーとimportin β(インポーティンβ)ファミリーに分けられます。

今回の話題はkariopherinの語源についてです。

karyo-が「核の」を示すことは分かるのですが、-pher-の部分の語源が何であるか、ずっと気になっていたので、調べてみました。当然、最後の-inはタンパク質命名で一般的に使われる接尾辞です。

Wiktionaryのサイトに以下の記述がありました。

“karyo- + ? + -in. Middle part is probably same as Christopher, i.e. "bearing something".”

Christopherの語源と同様?と思って、Christopherの語源を調べたら、Christ(キリスト)のcarrier(運搬者、担体)またはbearer(担ぎ人)とありました。

なるほどそうだったのか。

「核(輸送)担体」を示すものでした。

【追記】さらに調べたら、古代ギリシャ語の φέρειν • (phérein) が「運ぶ」という意味の動詞で、これに由来する言葉の名詞形が、chromophore(クロモホア)やionophore(イオノホア)の"-phore"でした。

 

 

 

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理科・実験 「オノズカ」の由来は「小野塚祐一郎」さん

 ヤクルト薬品工業の「セルラーゼ・オノズカR-10」や「セルラーゼ・オノズカRS」が「オノズカ」と名付けられた由来について知りたいと、昔からずっと思っていました。
 
試薬瓶のラベルの英語表記は CELLULASE “ONOZUKA” R-10(あるいはRS)となっています。
 
ヤクルト薬品工業(株)の学術研究用酵素のサイト:
https://www.yakult.co.jp/ypi/product/laboratory.html
 
色々と調べてみたところ、以下の事実がわかりました。
 
セルラーゼ・オノズカとマセロチームは共に、宮崎大学農学部教授だった外山信男先生が世に出された製品だと、建部到先生が1984年の「化学と生物」の解説記事に書いておられます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/22/9/22_9_619/_pdf/-char/ja
 
外山信男先生の1960年代の論文に、セルラーゼ・オノズカとマセロチームを多量に提供して下さった近畿ヤクルト製造K.K.の小野塚祐一郎社長に対する謝辞がありました。
 
1960年代から1970年代初め頃までは、兵庫県西宮市神祇官町8-21にあった「近畿ヤクルト製造株式会社」が製造していました。
 
当時の社長が小野塚祐一郎さん。
社長の苗字が由来だったのですね。
 
小野塚祐一郎さんを検索したところ、四国新聞社の訃報記事がヒットしました。
http://www.shikoku-np.co.jp/national/okuyami/article.aspx?id=20010330000454
 

「元ヤクルト本社専務。新潟県出身。」とあります。新潟県に縁(ゆかり)がある方だったのですね。
 
さらに、こんなサイトも見つけました。
http://www.amenity-network.net/amenity_contents/toilet_story/tenshoku015.htm

「小野塚祐一郎氏が、ヤクルトの創業に携わり、代田研究所九州ヤクルト(後に南九州ヤクルトに商号変更)を、熊本市本山町で創業したのが1927年。」

【10/12注】1927年ではなくて1952年(昭和27年)の誤りのようです。

http://sanpoubussan.com/campany/history/

「1952年8月(昭和27年) 熊本市本山町605代田研究所九州ヤクルト有限会社設立(創業)」
 
小野塚祐一郎さんは、新潟県ご出身ながら、熊本県、ついで兵庫県で事業を行なってこられた方なのですね。
 
なお,ヤクルトによる正式表記は「オノヅカ」ではなく「オノズカ」です。時々「オノヅカ」と書かれていますが。

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Fe-EDTAストック溶液にカビが生えた

自作MS培地用ストック溶液のひとつ,Fe-EDTAストック溶液に多数の菌糸の塊が沈んでいるのに昨日気が付きました。

最終濃度が100 μM(=0.1 mM)なので,1,000倍濃度(100 mM=0.1 M)のストック溶液を作って,4℃の冷蔵庫に保存していました。

2018年4月12日に作成したので,3年以上問題なかったし,濁りなどコンタミの有無は使うたび(およそ2ヶ月に一度)に確認していたのですが。

以前Fe-EDTAについて追記(2012/11/11)にも書いた通り,FeSO4・7H2OとNa2-EDTA・2H2Oから自作するよりも,Dojindo の Fe(III)-EDTAを使う方が,オートクレーブなどによる加熱が不要で,水に溶かすだけで簡便なので,オートクレーブ処理を経ずに冷蔵していました。このような組成の溶液に生じる微生物がいるとは驚きでした。

 

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還元型グルタチオン(GSH)のストック溶液

還元型グルタチオン(GSH)は,グルタミン酸,システイン,グリシンの3つのアミノ酸が結合してできる物質(分子量307.33)で,動植物・菌類の細胞内に比較的高濃度に存在する可溶性のチオール(SH基を持つ物質)です。GSHは単なるトリペプチドではありません。システインとグリシンとの間の結合はペプチド結合ですが,グルタミン酸とシステインとの間の結合にはグルタミン酸のα位炭素に結合したカルボキシ基は関与せず,グルタミン酸側鎖末端のカルボキシ基とシステインのアミノ基との間のアミド結合となっています。システイン残基の側鎖末端のSH基が酸化還元反応に関わります。主な役割は活性酸素の消去ですが,異物の無害化にも関わっています。

多くの研究者は,pGEX系プラスミドベクターを利用する大腸菌でのタンパク質発現実験で使用したことがあると思います。この発現系では,日本住血吸虫のグルタチオン-S -トランスフェラーゼ(GST)と目的タンパク質との融合タンパク質を大腸菌に作らせ,大腸菌抽出液から,GSTの基質であるグルタチオンを共有結合させた担体(グルタチオン-セファロース)によるアフィニティークロマトグラフィーによって,GST融合タンパク質を精製します。通常のプロトコルでは,グルタチオン-セファロースに結合したGST融合タンパク質を溶出させるための溶出バッファーにGSHを添加しますが,GSHは水溶液中では酸化されやすくて不安定なため,使用直前にGSH粉末を最終濃度10 mMまたは20 mMになるように加えて50 mM Tris-HCl (pH8.0) 溶液とします。

今回,pGEX系でのタンパク質発現とは異なる別の実験で,いちいちGSHの粉末を溶かすのが面倒なので,高濃度のGSHストック溶液を作れないか,検討しました。その結果を示します。

まず,ネット検索で文献調査をしたところ,GSHに関して以下の情報を得ました。

・水溶液のpHが高くなるほど酸化されやすいが,酸性になるほど安定。つまりCOOH基が非解離型である方が酸化されにくいということ。

・Cu+/Cu2+が極低濃度でも存在すると酸化が促進される。実際にキレート剤である EDTA を1 mM共存させた場合には酸化されにくくなり安定性が増す。

・GSHにはグルタミン酸のアミノ基が1つだけ残っているだけで,両末端にカルボキシ基を2つ持つため,全体としては酸であり,蒸留水に溶かした場合pH3付近になる。

・溶解度が記載された文献は見つからなかったが,「常温で水に0.1 Mは溶ける」という情報があった。

そこで実際に試してみようと思って,【0.3 M GSH, 1 mM EDTA】というストック溶液を作ってみました。手順は以下の通りです。

(1) 4℃に冷蔵保存してあったグルタチオン(還元型)粉末のびんをデシケーター中で室温に戻す。

(2) 922 mg(多少誤差があっても良い)を秤量する。

(3) 50 mLのコニカルチューブに20 μLの0.5 M EDTA (pH8.0) を加えておき,そこに上記の秤量した粉末を移す。

(4) 蒸留水をチューブの10 mLの目盛り下まで加えて,チューブの蓋をして,軽く転頭混和。その後,軽く振り混ぜる。

(5) 粉末は容易に溶けて,やや粘性のある無色透明な水溶液となった。蒸留水を足して全量を10 mLに合わせた。

(6) 0.5 mLずつ,1.5 mLマイクロチューブに分注して,-20℃のフリーザーで保存。

なお,1滴採取して,pH試験紙でpHをチェックしたところ【0.3 M GSH, 1 mM EDTA】はおよそpH3でした。

以上,ご参考まで。

 

 

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Fe-EDTAについて追記(2012/11/11)に関する再追記

Fe-EDTAについて追記(2012/11/11)に関する再追記

7年半前の上記投稿において疑問だったことが最近になって解決しました。


BMCのPlant Methodsというオープンアクセスのオンライン雑誌に,シロイヌナズナの寒天プレートでの培養プラットフォーム(GrowScreen-Agar)に関する論文が出ました。
Nagel, K.A., Lenz, H., Kastenholz, B. et al. The platform GrowScreen-Agar enables identification of phenotypic diversity in root and shoot growth traits of agar grown plants. Plant Methods 16, 89 (2020). https://doi.org/10.1186/s13007-020-00631-3

この論文で,培地のFe-EDTAに関する引用文献(下記:Jacobson, 1951)が記載されていました。おそらくこれが植物の栄養塩溶液にFe-EDTAを用いた最初の論文ではないかと思います。
 
なお,Nagelらの論文の謝辞に下記の記述がありました。
The modified plant nutrient solution was introduced by Hans-Uwe Weller (†2012).
2012年にお亡くなりになったWellerさんがシロイヌナズナの生育に最適なように,栄養塩溶液の改良を行ったようです。


Jacobson, L. (1951) Maintenance of iron supply in nutrient solutions by a single addition of ferric potassium ethylenediamine tetra-acetate. Plant Physiol. 26:411–413

Jacobson (1951) には下記の記述があります。
In the presence of the complexing agent, ferrous iron is oxidized to the ferric form by atmospheric oxygen in a short time.
つまり,EDTAの存在下でFe (II)は,大気中の酸素によって短時間の間に酸化されて,Fe (III) になるのです。


Jacobsonは論文の最後に下記のように書いています。
It is convenient to prepare the complex by dissolving 26.1 gm. ethylenediamine tetra-acetic acid in 268 ml. of 1.0 N KOH, then adding 24.9 gm. FeSO4 ∙ 7H20 and diluting to one liter.  After aerating overnight to produce the stable ferric complex, the pH should be about 5.5.  One ml. of this solution provides 5 p.p.m. to one liter of nutrient solution.
つまり,一晩通気することによって,安定なFe(III)-EDTA錯体が形成されるということのようです。疑問氷解です。

さらに,おそらくWellerさんが工夫されたFe-EDTAストック溶液の作製法が,Nagelらの論文のSupplementary Informationに詳しく記述されています。
そのまま下記に引用します。


Prot. S1: Protocol for preparing the Fe-EDTA solution modified according to Jacobson (1951).
For synthesis of the [Fe(C10H12N2O8)(H2O)]- complex two solutions are prepared first.
Solution (1): 25.02 g FeSO4 ∙ 7 H2O are dissolved in 300 ml Milli-Q-H2O and 4 ml 0.5 mol/l H2SO4 are added. For dissolving, the 1 l beaker is placed on a magnetic stirrer for 1 h at 400 rpm.
Solution (2): 26.30 g Titriplex II (EDTA) are dissolved in 300 ml Milli-Q-H2O and 280 ml 1 mol/l KOH added and placed on a magnetic stirrer for 1 h at 400 rpm.
For better dissolving, the above mixtures can also be slightly heated. Solutions (1) and (2) are pooled and filled up to about 950 ml with H2O and then transferred into a 2 l Erlenmeyer flask as solution (3). Solution (3) is vigorously aerated for 16 h by placing the Erlenmeyer flask on a magnetic stirrer and stirring at 300 rpm. Compressed air is passed through the solution (4). The Erlenmeyer flask is thereby wrapped with aluminum foil. The solution (4) is finally filled up to 1 l in a 1000 ml volumetric flask, aliquoted in brown bottles of 250 ml each and stored in a refrigerator.
The reaction schemes for producing the Fe-EDTA complex are presented hereafter. Y4- stands for the acid residue (C10H12N2O8)4- of the EDTA molecule (H4Y = C10H16N2O8).
 
Reactants:
FeSO4 ∙ 7 H2O → [Fe(H2O)6]2+ + SO42-+ H2O (1)
[Fe(H2O)6]2+ → [Fe(H2O)5OH]+ + H+ (1)
[Fe(H2O)5OH]+ → Fe(H2O)4(OH)2 + H+ (1)
H2SO4 → H+ + HSO4- (1)
HSO4- → H+ + SO42- (1)
H4Y + 4 KOH → 4 K+ + Y4- + 4 H2O (2)
Fe(H2O)4(OH)2 + 2 SO42- + 4 H+ + 4 K+ + Y4- + 5 H2O (3)
 
Redox and complexation reactions:
Fe(H2O)4(OH)2 + 0.25 O2 + 2.5 H2O → [Fe(H2O)6]3+ + 3 OH- (4)
[Fe(H2O)6]3+ + Y4- → [FeY(H2O)]- + 5 H2O (4)
 
Products:
K[Fe(C10H12N2O8)(H2O)] ∙ H2O / K2SO4 / KOH / H2SO4 / H2O

以上です。

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理科・実験 タバコBY-2細胞から迅速に健全なプロトプラストを調製するプロトコル【2022-9-15加筆修正】

タバコBY-2細胞から状態の良い(顕微鏡観察で原形質の様子が健康的に見え、酵素処理中に壊れる細胞が少ない)プロトプラストを迅速に調製する方法を述べる。

この方法の要点は、プロトプラスト調製時の細胞外液の高張条件を維持するために、mannitol や sorbitol の代わりに KCl を用いる点である。これに細胞膜の安定化作用が知られている CaCl2とMgCl2を加え、さらにアリューロン層からプロトプラストを調製する場合に収率と生理活性の上昇に対する有効性が報告されているアルギニン塩酸塩(Arg-HCl)(1) を添加している。また、酵素処理中に発生する活性酸素の害作用を緩和するために、アスコルビン酸ナトリウムも加えている。

BY-2細胞の場合、継代後3〜4日後が最も細胞増殖の盛んな対数増殖期中期で、5日後は対数増殖期の後期から定常期に移る時期であり、分裂細胞の割合が低下し始め、細胞伸長が始まる。0.4 M mannitol あるいは0.4 M sorbitol を酵素処理の際の浸透圧調整物質に用いる通常の方法では、最もプロトプラスト調製が容易なのは3〜4日後であり、通常30 ℃、60分の酵素処理でほぼ100%の細胞がプロトプラストになる。5日目以降では得られる細胞の量は多いが、完全にプロトプラストになるのに90分〜120分程度処理をしても不十分な場合も多い。

また、培養細胞を材料とする場合、一般に細胞体積(packed cell volume)に対して4〜10倍量の酵素液が必要で、細胞体積に対する酵素液の量が少ないと具合が悪い。

これに対して、KCl を浸透圧調整物質に用いる本プロトコルでは、3〜4日後の細胞では15分くらいで球形のプロトプラストが出現し始め、30分から45分で大半の細胞がバラバラの球形になって、60分以内に細胞壁消化が完了する。5日後の細胞では細胞壁消化速度が少し遅くなるようであるが、90分以内に細胞壁消化が完了する。さらに細胞体積に対する酵素液の量は2倍程度に減らすことも可能(ただし、細胞体積に対する酵素液の割合は、やはり高い方が良い)。

なお、本方法では、遠心分離によって集めた細胞にいきなり酵素液を加えるのではなく、酵素を含まない高張塩溶液で一度洗浄を行っている。培養液に含まれている糖など、酵素活性を抑える可能性のある物質を除去するためと、酵素を加えない条件で予備的に原形質分離を起こさせるためである。

酵素液を調製する際に注意する点は、加熱を行わない点と酵素を溶かす溶液のpHに注意を払う点である。これは Pectolyase Y-23 は高温耐性がセルラーゼほど高くない上に、含まれる酵素の中にpH7.1では不安定で、一時的にpH7.1にしても、なるべく早くpH5.0まで下げる必要のある酵素もあるからである。

【方法】
0.4 mL
を300 mL三角フラスコ中の48 mLの培地に植え継いで(注:フラスコ中の培養液量を、通常BY-2で行われている95 mLの約1/2にすることで通気性が向上し、定常期に近くなって培養液の粘性が上昇しても攪拌性が維持され、酸素不足になりにくいことを確認している)4日後(対数増殖期)の培養20 mLを、10 mL駒込ピペットでスクリューキャップ付50 mL丸底ガラス遠心管に採取し、100×g730 rpm)、2分で遠心して細胞を集める(スイングローター遠心機。ブレーキオフ)。*通常継代4日後の培養20 mLを用いている。

上清を駒込/パスツールピペットで除く(沈殿した細胞を吸わないように気をつける)。

Hypertonic salt solution(高張塩溶液:180 mM KCl, 20 mM CaCl2, 20 mM MgCl2, 10 mM arginine-HCl, 調整しなくとも成り行きでpH5.46位)を細胞体積の5倍量以上加えて、チューブの蓋を閉めて、穏やかに転頭混和する。

200×g1,040 rpm)、3分で遠心して細胞を集める(ブレーキオフ)。

上清を駒込/パスツールピペットで除く。高張液中のためpacked cell volumeはやや減少する。

20 mLの酵素液(1 %(w/v) Cellulase “ONOZUKA” RS, 0.1 %(w/v) Pectolyase Y-23, 180 mM KCl, 20 mM CaCl2, 20 mM MgCl2, 10 mM arginine-HCl, pH 5.5、使用前に20 mg/20 mLsodium ascorbateを加える:最終濃度5 mM)を加えて、蓋を閉めて転頭混和によって懸濁し、100 mL三角フラスコに移す。

フラスコを30℃のウォーターバスに浸して、振幅40 mm、毎分80往復で往復振盪しながら60分間保温する。(15〜20分置きに一滴を60 mm径のシャーレに取って倒立顕微鏡でプロトプラストの単離状況を確認する)。必要に応じて酵素処理を続ける(通常は60分間でOKだが、完全な細胞壁消化を期す場合には処理時間を90分間まで延長することを勧める)。

きれいなスクリューキャップ付50 mLガラス丸底遠心管に移し、100×g730 rpm)、2分の遠心(ブレーキオフ)でプロトプラストを沈殿させ、駒込/パスツールピペットで上清を除く(ごくわずかに上清を残すようにする)。遠心管を手で傾けたり、回したりすることで、圧縮されたプロトプラスト沈殿上を、残った上清液が穏やかに行ったり来たり動くようにすることで、丁寧に沈殿をほぐす(塊のない均一な懸濁液とする)

*圧縮されたプロトプラスト沈殿に懸濁用の溶液をいきなり加えて再懸濁しようとすると、プロトプラストが壊れやすい。再懸濁前の沈殿をほぐす操作には、コニカルチューブよりもガラス丸底遠心管が適している。細胞壁消化が完全でない場合には沈殿がほぐれにくいが、細胞壁消化が完全であればプロトプラスト沈殿は容易にほぐれる。

上記のようにほぐした後、プロトプラスト沈殿体積の約10倍量以上の0.4 M sorbitolを、スクリューキャップ付50 mLガラス丸底遠心管の器壁を伝わらせるようにして静かに加えて、穏やかな操作(蓋をしてゆっくり転頭混和)で懸濁する。

100×g730 rpm)、2分の遠心(ブレーキオフ)でプロトプラストを沈殿させ、駒込/パスツールピペットで上清を除く。前述した方法で、わずかに残した上清で丁寧に沈殿をほぐす。

0.4 M sorbitol による上記の洗浄操作を必要な回数(通常は全部で2回)繰り返す。

 

【酵素液の作り方】

Hypertonic salt solution(pH5.5弱)100 mL100 mLビーカーに取る。スターラーで攪拌しながら、0.1 g Pectolyase Y-23(あらかじめデシケーター中で室温に戻してから開封)を加える。ついで1 gCellulase “ONOZUKA” RSを加える。液面に浮いた塊が無くなるまで室温で攪拌して完全に溶かす(1〜2時間を要する)。pHメーターで確認しつつ、溶液を攪拌しながら1 M HClを滴下してpH5.5に合わせる(はじめpH6.2くらいで、1 M HClが8〜12滴程度必要。最初は液がやや濁った感じだったのが、pHを下げるに連れて濁りがなくなり透明になる)。20 mL ずつ分注して−20℃に凍結保存。

 

【引用文献】

(1) Hooley, R. (1982) Protoplasts isolated from aleurone layers of wild oat (Avena fatua L.) exhibit the classic response to gibberellic acid. Planta 154: 29-40.

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