鈍的心外傷は近年救命例が増えつつあるが、心外傷のなかでも心破裂は来院時にすでに心肺機能停止に近い状態であることが多く、最も重篤かつ致命的な損傷であり、迅速な患者対応と適切な緊急手術でのみ救命することが可能となる。[症例]25歳男性。都内で首都高速を運転中に単独自損事故を起こし受傷。救急隊現着時、収縮期血圧76mmHg、脈拍102回/分のショック状態、JCSII-30の意識障害で当救命救急センターに搬送された。左前胸部に打撲痕あり。初療でのFAST(focused assessment with sonography for trauma)にて心タンポナーデと診断。心窩部より心嚢ドレーンを留置した。造影CT検査にて右心耳破裂と診断。間欠的に暗赤色の血液を吸引することで血圧を維持させ、手術室の準備を待って入室。救急医療科医師の執刀にてクラムシェル開胸。心嚢切開すると大量の血液が噴出、右心耳に3ヶ所の破裂部を確認しサテンスキー鉗子で把持し止血。それぞれ縫合修復を行い救命に至った。術後経過は良好で、十二誘導心電図も問題なく不整脈も認めなかった。術後4日目にはドレーンを抜去しICUを退室。術後15日目に退院し、後遺症なく社会復帰となった。今回行ったクラムシェル開胸は胸骨縦切開よりも迅速であり、特殊な手術器械も必要としない。重症胸部外傷の出血制御には非常に有効なアプローチ法である。適切な心嚢ドレナージと術前CTにて診断し救命し得た症例を経験したため文献的考察を加え報告する。(著者抄録)