2015年6月20日
持続感染した霊長類肝炎ウイルスの適応変異:ウイルスゲノム変異が及ぼす病態への影響
霊長類研究
- 巻
- 31
- 号
- Supplement
- 開始ページ
- 81
- 終了ページ
- 82
- 記述言語
- 日本語
- 掲載種別
- DOI
- 10.14907/primate.31.0_81_2
- 出版者・発行元
- 日本霊長類学会
C型肝炎ウイルス(HCV)はヒトおよびチンパンジーに感染し,慢性肝炎および持続感染を引き起こすウイルスである.その病態発現の機序を探る目的で,HCVに近縁な霊長類ヘパシウイルスに属するGBV-Bをその感受性動物であるタマリンおよびマーモセットに対して感染実験を行った.その結果,感染後平均3ヶ月でクリアランスされる群(39/43: 91%)と1年以上の持続感染に移行する群(4/43: 9%)が認められた.さらに持続感染群のうち2頭は感染後2年ほどでクリアランスされたが,他の2頭の感染は2年以上続き,血中ウイルス量の増加や肝炎発症など進行性の病態を示した.そこで,ウイルスの宿主への適応について,より精密な追跡をするために次世代シークエンサーによる解析を行い,この多様な病態発現とウイルスの個体内進化の寄与について検討した.その結果,以下の知見を得た.1,感染早期から生じ,そのまま維持されるアミノ酸変異:いずれの群でも認められ,ウイルスの個体内適合変異と考えられた.2,持続感染群で生じ,時間経過とともに多段階で生じるアミノ酸変異(連続変異,復帰変異):宿主のウイルス抗原特異的な免疫応答からのエスケープ変異であり,GBV-Bの長期持続感染に寄与するものと考えられた.3,病態進行期に生じ,維持されるアミノ酸変異:宿主免疫応答からのエスケープ変異が,結果として病態発現に寄与するウイルス蛋白質の機能・構造の変化に繋がった,もしくは肝臓の持続炎症応答にともなう環境変化に適合したウイルス蛋白質の機能・構造の適合変異の可能性を示唆する.今回の結果から,GBV-B感染における多様な病態発現は,個体内環境の変化に適合するためのウイルスゲノムの個体内における遺伝的な適応が関係していることが示唆された.これらの意義の理解は,未だ明らかでないC型肝炎ウイルス慢性化の病態機序の解明に貢献する.
- リンク情報
- ID情報
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- DOI : 10.14907/primate.31.0_81_2
- ISSN : 0912-4047
- J-Global ID : 201502205512393463
- CiNii Articles ID : 130005485778