論文

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2017年

尾崎翠「第七官界彷徨」論 : 「蘚の恋」をめぐって

人間・環境学
  • 山根 直子

26
開始ページ
217
終了ページ
228
記述言語
日本語
掲載種別
出版者・発行元
京都大学大学院人間・環境学研究科

尾崎翠「第七官界彷徨」(『文学党員』一九三一年二月−三月号, 『新興芸術研究』一九三一年六月) には, 「人間の恋」と「蘚の恋」が描かれる. 作中の「蘚」は雌雄同株(両性具有) のマルダイゴケである可能性が高く, 「蘚の恋」は「両性具有の恋」であると考えられる. 「両性具有の恋」は, 他者を必要としない自己完結した恋である. それは, 本作で描かれた「人間の恋」(片思いによる失恋) とも共通する特徴である. 翠がこのような自己完結型の恋愛を描いた背景には, フロイトの昇華理論に基づく子を産み育てることへの抵抗があったと考えられる. 「失恋」及び人間における「両性具有の恋」は, 出産育児に結びつかず, 昇華エネルギーを損なう恐れのない恋である. 作中で「人間の恋」が全て失恋に終わり, 「蘚の恋」が次々と成就することは, 「失恋」と「両性具有の恋」こそ, 女詩人を目指す町子にとって理想の恋であることを象徴している.

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http://ci.nii.ac.jp/naid/120006537163
ID情報
  • ISSN : 0918-2829
  • CiNii Articles ID : 120006537163
  • identifiers.cinii_nr_id : 9000398838278

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