研究ブログ

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科学研究費補助金による研究成果


<背景1> ダイオキシン類の有害影響について、生体内のタンパク質AhRが重要な役割を果たします。図示すると次のようになります。
ダイオキシン類 → AhR活性化 → → → 有害影響
この図は、ダイオキシン類の有害影響をAhRが仲介すること、AhRが活性化しないとダイオキシン類の有害影響が生じないことを表しています。

AhRの活性化は以下の2つの経路の活性化を引き起こします。
 (1) 細胞の核内での、種々の遺伝子の転写活性化
 (2) 細胞質内での、Ca2+の流入、cPLA2a活性化、Src等のキナーゼの活性化
これら2つの経路の使い分けや関係はよくわかっていません。

<背景2> AhRタンパク質には、核移行シグナル(NLS)と呼ばれるアミノ酸配列が含まれます。NLSは、理論上の(1)の経路に必要であるとされ、実際に確認されています。この確認には、NLS配列に変異を持つAhR-NLSが利用されました。
一方、(2)の経路について、AhRとAhR-NLSは同じように引き起こすと考えられてきました。

<研究成果> AhRの替わりにAhR-NLSを持つ細胞とマウスを用いて、AhRを活性化させる物質TCDDの影響を調べました。結果として、AhR-NLSは(2)の経路中のcPLA2aの活性化を引き起こさないことが分かりました。AhRタンパク質に含まれる核移行シグナルNLSは、これまでの一般的な理解に反して、(2)の経路に重要な役割を果たすらしいことが分かりました。
AhRが細胞質内で活性化した後に、(1)と(2)の経路に共通してNLSが必要であり、その後これらの2つの経路が分岐する可能性があります。これらの経路の"振り分け"の機序を解明することは今後の課題になります。
AhR-NLSは(1)の経路が遮断されていて(2)の経路は生じるAhR変異体として理解されてきました。この理解に基づいて、AhR-NLSを利用した実験研究は(2)の経路が生じる条件での結果を観察しているとされ、(2)の経路の下流で重大な影響が引き起こされないと判断されてきました。本研究は、AhR-NLSは(2)の経路も遮断されていることを示唆したものであり、既報の結果に対する判断に再考を促すものとなりました。
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Benchling覚書

Benchlingは配列情報等を扱えるウェブ上のサービスである。
https://benchling.com
DNA配列解析をするのに便利でありがたいBenchlingについて覚書を記しておく。

配列情報ファイルの削除方法がよくわからない。
アーカイブして非表示にするしかない?

加えた変更を元に戻すのはどうする?
→変更履歴(時計マークボタンを押してアクセス)をさかのぼる。


ファイルを削除できない件について、下記お知らせがありました。
Hi       ,
We are restoring the ability to delete files on Benchling.
We recently released archiving to help scientists maintain research continuity and prevent accidental data deletion. However, as many of you noted, being able to permanently delete this data from Benchling is still important.
Starting today, you will be able to:
  • Delete your data permanently on Benchling
  • Archive your data to ensure research transparency and restore that data
  • Mark archived data as trash to better organize your workspace
Check out this article for a complete list of all changes (note that you'll need to refresh your page to see the changes in Benchling).
Please us know your thoughts on the new functionality. We deeply value any feedback, comments, and suggestions.
Best,

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覚書

アスパラギン酸のコドン使用頻度(/1000)を調べてみた。
http://www.kazusa.or.jp/codon/

ヒトでは GAU 21.8; GAC 25.1
マウスでは GAU 21.0; GAC 26.0
酵母では GAU 37.6; GAC 20.2
大腸菌では GAU 32.2; GAC 19.1
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科学研究費補助金による研究成果

https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00204-017-2081-z

<背景>
生体内には芳香族炭化水素受容体(AHR)と呼ばれるタンパク質があります。AHRは紫煙中の発がん物質やその他の環境由来の化学物質に対する"センサー"として働き、生体内で種々の反応を引き起こします。この反応は免疫系や代謝系の調節をはじめとして腎機能の攪乱や発がんまで広い範囲に及びます。
生体内に2万数千を超えるタンパク質がある中で、AHRが単独でこれほど広範な影響を及ぼす理由はこれまでよくわかっていませんでした。

<研究成果>
AHRが外来異物と結合するとフォスフォリパーゼという酵素の一種であるcPLA2aの量が増えることがこれまでの研究で分かっていました。cPLA2aは細胞膜成分を基にして多種の生理活性物質を生じさせる重要な酵素です。こうしたことから、AHRが外来異物によって活性かすると、cPLA2aの誘導を介して下流で種々の応答反応を生じさせるのはないかと考えました。この仮説を検証するために、cPLA2aの遺伝子を持つマウスと持たないマウスを比較しました。

AHRを活性化させる代表的な物質として2,3,7,8-TCDDを用いてcPLA2a遺伝子欠損マウスと野生型マウスの反応を比べたところ、胸腺萎縮・肝肥大・口蓋裂・水尿管症は同様に起こりました。この結果から、これらの現象にcPLA2aはほとんど関わらないと考えられました。
一方で、体重減少・脂肪肝・水腎症については、cPLA2a遺伝子欠損マウスで反応が軽減しました。このことからこれらの現象はcPLA2aを介して生じると考えられました。

特に腎臓に対する影響としては、次のことが分かりました。
外来異物によるAHR活性化は、胎児期と授乳期の哺乳類に腎障害を引き起こすことが分かっていました。これらの2つの時期の腎障害について、胎児期と授乳期とでは、尿管閉塞とPGE2合成酵素mPGES-1の誘導の有無が異なることから、異なる病態であることが分かりました。このことに対応して、胎児期の腎障害にはcPLA2aがほぼ関与せず授乳期のの腎障害にはcPLA2aが重要であることが確かめられました。
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科学研究費補助金による研究成果

<概略>
ダイオキシン類は難分解性・脂溶性の有害物質であり、健康影響が懸念されています。
ダイオキシン曝露が引き起こす毒性現象の特徴は、(1)多様な異常が現れること(2)これらの異常が発達時期特異的に現れることです。
(2)について、長年の謎を明らかにし、科学論文を公表しました。
http://ajprenal.physiology.org/content/311/4/F752

<背景>
ダイオキシンが実験動物に 水腎症 を引き起こすと、1970年代に報告1)されました。
水腎症とは、腎臓の組織(実質)が失われていく異常であり、様々な原因によってヒトでも生じます。
水腎症の症状が進行して腎実質が失われると、腎臓が機能しなくなります。

ダイオキシン曝露された母マウスが育てる仔マウスは水腎症になります。母乳にダイオキシンが含まれることが原因です。
水腎症が仔マウスで発症するのは仔マウスの生後数日までに母マウスがダイオキシン曝露された場合であり、それ以降の曝露では水腎症が起こりません2)
このように発達段階のごく短い期間でだけでダイオキシンによって水腎症が発症する原因は長年不明でした。

<成果>
ダイオキシンが仔マウスに引き起こす水腎症は、生理活性物質であるプロスタグランジンE2の異常な増加が原因であることを、これまでの研究3-5)で明らかにしてきました。

この度、ダイオキシンによる水腎症発症は尿濃縮障害と多尿を伴うことを発見しました。
薬剤で多尿を抑制すると、ダイオキシン曝露しても水腎症が発症しないことから、多尿が水腎症発症の原因だと考えられました。
多尿の原因としては、プロスタグランジンE2の異常な増加が尿濃縮を妨げることだと考えられました。

さらに、成熟マウスではダイオキシン曝露してもプロスタグランジンE2合成系の異常と多尿が起こらず、このことが水腎症にならない理由だと考えられました。

<最後に>
化学物質の有害性がある発達時期で表れて別の発達時期では表れないことは、その化学物質の危険性評価することを難しくします。あらゆる発達時期(例えば、生後1日, 2日, 3日, 4日, 5日, 6日, 7日, 2週間, 3週間, 4週間, 2ヶ月, 3ヶ月, 4ヶ月, 5ヶ月, 6ヶ月, 7ヶ月, 8ヶ月, 9ヶ月, 10ヶ月, 11ヶ月, 12ヶ月....)について危険性を検証するのは現実的でないからです。
なぜ発達時期特異性があるのか解明することによってこの困難を打開したいと考えています。

1) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/4752916
2) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2000632
3) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24509627
4) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22430074
5) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18606429
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2-BtOH濃縮

濃度の薄い核酸溶液を濃縮する方法。

 (1) 溶液に同量の2-BtOHを加えて10回程度振って混ぜる

 (2) 卓上遠心機で数秒遠心して上清を捨てる
 (3) 程良く濃縮するまで(1), (2)を繰り返したあと、PhOHを水溶液の1/2程度加える
 (4) 卓上遠心機で数秒遠心して上層を捨てる
 (5) 通常のPhOH抽出をする    

  注意: (3)でPhOHを入れすぎると水層が上に来てしまう
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