【目的】本研究では、人工膝関節全置換術(TKA)後早期の歩行獲得に必要な膝関節筋力の標準値を明らかにすることを目的とした。【方法】TKA後14日以内にT字杖歩行が獲得できた変形性膝関節症患者349名を対象に、個人因子と身体機能の調査・測定を行った。術側膝伸展筋力と術側膝屈曲筋力をアウトカムとした2つのモデルを立て、個人因子と身体機能を独立変数とした階層的重回帰分析を行った。階層的重回帰分析によって抽出された変数を基に分類したうえで、術側膝関節筋力の標準値を算出した。【結果】階層的重回帰分析の結果、術側膝伸展筋力モデル・術側膝屈曲筋力モデルともに、性別が有意な変数として抽出された。したがって、TKA後早期の歩行獲得に必要な膝関節筋力の標準値は、性別によって層別化した。その結果、術側膝伸展筋力の標準値は男性が0.62Nm/kg、女性が0.45Nm/kgであり、術側膝屈曲筋力の標準値は男性が0.36Nm/kg、女性が0.29Nm/kgであった。【結論】本研究で得られた膝関節筋力の標準値は、TKA後早期の歩行獲得を検討する際に役立つ指標のひとつとなるため、理学療法士の臨床判断に活用できる貴重な情報源になると考える。(著者抄録)