悪性腫瘍に対する治療として、手術(外科治療)、化学療法、放射線治療の3本柱が標準とされている。近年、放射線治療の領域では、コンピュータ技術、治療機器の進歩による技術革新が著しく、これらに放射線物理学や放射線生物学の知見も加えられ、高精度X線治療や粒子線治療など、さまざまな高精度放射線治療が確立してきた。強度変調放射線治療(IMRT)は、高エネルギーX線を用いた高精度放射線治療である。コンピュータ制御による複雑な線量計算を逆方向計画で行うことで、標的に十分な線量を投与しながらリスク臓器を耐容線量内におさえることが可能になった。強度変調回転照射(VMAT)は、IMRTの応用型である。本邦で行われていた回転原体照射に強度変調の機能を加えた照射法であり、治療時間の短縮を図ることが出来る。画像誘導放射線治療(IGRT)は、治療計画時の基準位置からの患者位置変位量を三次元的に計測し位置補正することで、治療計画で決定した照射位置を可能な限り再現する照射技術である。粒子線治療とは、サイクロトロンやシンクロトロンなどの大型加速器から得られる陽子や、重粒子(炭素イオン線)などを用いた放射線治療である。粒子線は、一定の深さ以上には進まず、ある深さで最も強く作用するブラッグピークを形成するため、病巣に線量を集中させることができる。IMRTなどの高精度X線治療の開発に伴い、X線の線量集中性は向上しているが、リスク臓器への低線量領域の広がりは回避できない。粒子線治療ではリスク臓器への線量付与が少なく、その点では有害事象のリスクが低くなる。炭素線治療では、生物学的効果が高く、いわゆるX線感受性が低いとされる骨肉腫、軟部肉腫など肉腫系の腫瘍に対しても臨床的に明らかな治療効果を示している。本邦では高齢化社会を迎え、今後も患者数の増加が見込まれる。高精度放射線治療を用いることで、さらなる治療成績の向上と副作用の軽減が期待される。(著者抄録)