共同研究・競争的資金等の研究課題

2019年4月 - 2024年3月

Coxeter群の増大度とCoxeter元のスペクトル半径の間のMcKay対応


配分額
(総額)
4,420,000円
(直接経費)
0円
(間接経費)
0円
資金種別
競争的資金

有限集合Sを生成系とし、Sの任意の元a, bに対し、abの有限個の積を基本関係式とする有限表示群(W, S)をCoxeter系という。 (W, S)の生成系Sによる、群Wの母関数の収束半径の逆数は増大度と呼ばれる。また(W, S)から|S|-次元実アファイン空間に幾何学的実現と呼ばれる鏡映群としての作用が定まり、Coxeter元と呼ばれるWの元のスペクトル半径は、(W, S)の幾何学的実現から一意に決まる。今回の研究では、これらCoxeter系の2つの幾何的量である増大度とCoxeter元のスペクトル半径、および両者の関係を考察する。コクセター系(W,S)の生成系Sによる、群Wの母関数(増大度関数)の収束半径の逆数は増大度と呼ばれ、Sの元が鏡映として空間に離散的に作用する際、Wの基本領域である多面体が空間をタイル張りする拡がり方を表す量である。一方(W,S)から |S|-次元実アファイン空間に W-不変な2次形式Bが定義され、(W,S)の幾何学的実現と呼ばれるWから直交群O(V, B)への単射準同型が定まる。この時コクセター元と呼ばれるWの元のスペクトル半径が、(W,S)の幾何学的実現から一意に決まる。今回の研究ではZehrt及び梅本が調べたコンパクト4次元双曲コクセター系の増大度が、常に2サレム数になることを示した。証明のアイデアは以下の通りである。Zehrtのコクセター系の増大度関数の分母多項式は次数が16で。梅本のコクセター系の増大度関数の分母多項式は次数が18である。さらに根の分布から分母多項式は2サレム多項式か、サレム多項式の積に分解するかのどちらかになることが分かる。もしサレム多項式の積に分解するならば、既約因子はそれぞれ14次以下、12次以下のサレム多項式になるはずである。しかしMossinghoffによって分類された小さい次数のサレム多項式のリストにこれらの多項式は現れていないことから、Zehrtと梅本のコクセター系の増大度関数の分母多項式は2サレム多項式、つまり増大度は2サレム数になることが分かった。このようにMossinghoffによって分類された小さい次数のサレム多項式のリストを用いて、2サレム数を増大度に持つコクセター系の無限族が構成できたことは興味ある結果と思う。以上の結果はエジンバラ大学のC.Smythとの共同研究である。双曲コクセター群の増大度およびコクセター元のスペクトル半径を考察する上で、今年度はそれらの有限アナログを考察することを優先した。有限グラフを頂点から頂点へ情報を伝達するネットワークと考えると、伝達効率の良いグラフとしてラマヌジャングラフが考えられる。次数が固定され、内周が発散するようなRamanujanグラフ族のスペクトル分布は有限Sato-Tate測度に弱収束する。そこでTerrasにより考案された有限上半平面グラフのスペクトル分布に注目した。有限上半平面グラフは次数が固定されず、内周が発散しないようなラマヌジャングラフ族であるが、そのスペクトル分布は有限Sato-Tate測度に弱収束することがTerrasによって予想された。本研究では標数が奇素数の有限上半平面グラフのスペクトル分布を閉路の数え上げによって考察した先行研究を、標数が2の場合についても拡張し結果を得ることができた。同様に次数が固定されず、内周が発散しないようなラマヌジャングラフであるLiのグラフのスペクトル分布について考察し、標数が奇素数の場合と標数が2の場合の両方で結果を得ることができた。以上は大学院生の安井拓朗さんとの共同研究である。この有限アナログでの結果を本来の研究テーマに生かしたい。Coxeter群の増大度とCoxeter元のスペクトル半径の間のMcKay対応の研究が進んでいないので、この方面の研究では先駆的な仕事をしている南フロリダ大学の広中えり子教授の、2次元コンパクト双曲Coxeter群の増大度とプレッツェル結び目のアレキサンダー多項式のマーラー測度が一致するという結果の高次元の双曲Coxeter群で考察することを研究目標とする。今年度11月に大阪市立大学数学研究所で開催を予定している国際研究集会Hyperbolic geometry and geometric group theory(http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/OCAMI/joint/joint-usage_e.html)において参加者と議論する機会を設けたい