MISC

2015年5月

最近の研究から ドープしたトポロジカル絶縁体における超伝導とマヨラナ粒子

日本物理学会誌
  • 山影 相
  • ,
  • 矢田 圭司
  • ,
  • 佐藤 昌利
  • ,
  • 田仲 由喜夫

70
5
開始ページ
356
終了ページ
361
記述言語
日本語
掲載種別
出版者・発行元
一般社団法人日本物理学会

超伝導はその発見以降,様々な物質が見出され,また,異方的超伝導状態への発展など拡がりを見せた.近年,トポロジカル絶縁体の発見を受けて,トポロジカル量子相の概念が超伝導体にも適用されるようになり,超伝導においてもトポロジカルな状態(トポロジカル超伝導体)があることが分かってきた.トポロジカル超伝導体は波動関数から定義されるトポロジカル不変量をもち,その結果として系の表面にギャップレスのアンドレーエフ束縛状態が現れる.興味深いことに,この表面に現れる励起はマヨラナ粒子として振る舞い,しかもフェルミ統計でもボーズ統計でもなく,非可換統計に従う.すなわち,トポロジカル超伝導体の表面における2つのマヨラナ粒子は,その位置を交換するだけで始状態と直交する状態へ変化する.この性質から,トポロジカル超伝導体は量子演算の舞台としても興味を集めている系である.しかしながら,トポロジカル超伝導を実現する物質は少なく,更なる物質探索がこの分野の発展に不可欠である.2009年以降,トポロジカル絶縁体Bi_2Se_3にCuをドープした系においてトポロジカル超伝導状態が実現しているという議論がされてきている.特に重要な実験事実は,2011年に大阪大学の安藤グループによって報告されたポイントコンタクト測定におけるゼロ電圧コンダクタンスピークである.これはCu_xBi_2Se_3が従来型の超伝導体ではないことを示唆する.直感的には,コンダクタンスがゼロ電圧でピークを示すということは,表面にギャップレス状態が存在すること,すなわちトポロジカル超伝導体であることを意味するように思えるが,この予想の当否は必ずしも自明ではない.実際,先行研究においては,金属とフルギャップのトポロジカル超伝導体の接合におけるトンネルコンダクタンスは,ゼロ電圧ではピークではなくディップしか示さないことが知られていた.実は,トンネルコンダクタンスの振る舞いを正しく理解するには,常伝導状態,すなわちトポロジカル絶縁体の電子状態の性質を取り入れる必要がある.記事では,Bi_2Se_3の電子状態を記述する模型に立脚して,その超伝導状態における表面マヨラナ粒子の振る舞いとコンダクタンスへの影響を調べた最近の研究成果を紹介する.常伝導状態はトポロジカル絶縁体であるから,既にギャップレスの表面状態をもっている.このために,超伝導状態における表面状態はフェルミエネルギーなどのパラメーター変化に伴ってエネルギー分散の形状が変化する,すなわちリフシッツ転移が生じることが分かる.さらに,その臨界的な振る舞いとして,金属との接合におけるトンネルコンダクタンスはゼロ電圧でピークをもつことを示した.これらの結果は,Cu_xBi_2Se_3ではトポロジカル超伝導状態が確かに実現していることを強く示唆する.

リンク情報
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009944695
CiNii Books
http://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00196952
URL
http://id.ndl.go.jp/bib/026362287
ID情報
  • ISSN : 0029-0181
  • CiNii Articles ID : 110009944695
  • CiNii Books ID : AN00196952

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