Papers

Peer-reviewed
Apr, 2006

ジュール・ヴェルヌの『驚異の旅』が成立するまで――その文化的背景を中心に

ヨーロッパ研究
  • 石橋正孝

Volume
Number
5
First page
129
Last page
146
Language
Japanese
Publishing type
Research paper (bulletin of university, research institution)
Publisher
東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター

編集者ピエール=ジュール・エッツェルの刊行したジュール・ヴェルヌの小説はすべて、連作《驚異の旅》を構成するとされるが、この連作の構想自体は、二人の関係の当初からあったわけではなく、その成立に当たって決定的だったのは、最初の四作が一続きの作品として生み出されたことだった。本論文では、その過程を、歴史的・文化的背景に注目して跡付ける。北極を目指すヴェルヌのハテラス船長は、実在のイギリス人北極探検家ジョン・フランクリン卿失踪の謎が解け、大英帝国が北極探検から一時的に撤退した後の空白を埋めるべく登場した。とはいえ、他国に北極征服の栄光を先取りされるのではないかという英国人ハテラスの病的な懸念は、「絶対の知」である地核の火に通じる北極点の火山という真の目的を隠蔽していたと考えられる。執筆中は自覚されていなかったこの事実にヴェルヌの目を開かせたのがジョルジュ・サンド『ローラ』にほかならず、それを受けたヴェルヌが地核の火を『地球の中心への旅』で世俗化させた結果、《驚異の旅》の基礎が築かれた。

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URL
http://www.desk.c.u-tokyo.ac.jp/download/es_5_Ishibashi.pdf

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