本稿では、「農企業」に総称されるわが国農業を健全に担う多様な農業経営体を中核とした主に六次産業化にかかる加工、サービス、販売等を含む現在進行形として捉えられる様々な事業に焦点を当てる。そして、まずそれら様々な六次産業化事業の理念的類型化を具体的事例に即して試みる。次いで、それら多様な六次産業化事業を担う農業経営体を含む様々な経営体や関連主体等の関係のあり様やネットワークのあり様を整理する。その上で、六次産業化事業の各理念的事業類型(以下、事業類型と略記)における各関連主体やネットワークにかかるガバナンスのあり様とそこに発生するコンフリクトのあり様とをその方向性も含めて整理する。この整理を基礎に、それらの六次産業化事業の類型における中核となる農業経営体やその他関連主体の経営戦略を考察する際、それらガバナンスのあり様やコンフリクトのあり様が、それぞれの経営戦略に対してどのような特徴を持つかを明らかにする。六次産業化にかかる様々な事業は、従来型の家族農業経営体や組織経営体の枠を超え、それが今後大きく変化する可能性のある多様な経営体によって担われてきているのが現状といえよう。その意味で、この課題設定に関しては、それら多様な経営体の経営戦略を考察する際、その戦略設定が主要な任務となる経営ガバナンスのあり様や特徴を、経営戦術として規定される経営管理領域から掬い上げ、そこに理論的な光を当てることが必要になってきたという学術的判断によるところが大きい。そして、最後に、六次産業化事業におけるガバナンスのあり様とコンフリクトのあり様をベースとした経営戦略論の研究課題を整理する。