基本情報

所属
神戸大学 大学院人文学研究科 研究員
学位
修士(文学)(神戸大学)
博士(学術)(神戸大学)

研究者番号
00758485
J-GLOBAL ID
201501000708871946
researchmap会員ID
7000013799

私の研究領域は、カント哲学・倫理学の「自然」および「目的」概念です。
その中でも、現在、カントの人種論の意義・位置付けをめぐる研究をおこなっています。

(1)カント倫理学における目的概念
 学部から博士前期まで、カント倫理学における「実践的判断力」に注目し、道徳法則と自然法則の「類比」概念を援用した道徳的な判断力の意義を考察しました。とりわけ、道徳と自然の類比にかんして、法則のみならず、「目的」概念の類比も射程に入れ、実践的判断力の目的論的解釈の意義を修士論文で考察しました。

 博士後期から、研究射程をカント倫理学における目的概念の様々な役割に広げました。博士論文「カント倫理学における「目的」概念の諸相」(神戸大学、2014年) では、「定言命法」、「人格性」、「尊敬の感情」、「実践的判断力」、「最高善」それぞれに及ぶ「目的」諸概念の意義・役割を考察しました。

学位取得後は、非常勤講師として教歴を積みながらも、三年間ほど研究活動を中断し、NGOスタッフとして社会活動に従事しておりました。この間の社会活動の経験に触発されたこともあり、地域や地理的条件に基づく人間の存在様式に焦点が定まり、主な研究対象をカント地理学へ移しました。

(2)カント地理学の目的論的含意
カントは40年間にもわたって大学で地理学講義を続けていましたが、その教育的意義に比して、哲学的意義は必ずしも明らかにされていません。地理学的知識は、単なる自然記述の寄せ集めではなく、自然全体の体系的統一を有しています。その中でも、とりわけ「人種」に関する知識は、自然目的論によって統制されていることが読み取れます。それは、部分と全体が、互いに手段であり目的でもある、有機的存在の理論に通じる考え方と言えます。

(3)カント人種論の位置付け
18世紀ドイツで批判哲学を打ち立てたカントは、人類学者ブルーメンバッハと並んで、西洋近代における人種概念の定着に、影響を与えたことでも知られています。
カントの人種にかんする叙述には、当時の西洋中心的な人種主義的偏見が含まれている一方、その人種論がそのまま、その後の優生学ないし人種差別的政策に成る訳ではありません。
カントの人種論が展開された諸論文(1775, 1785, 1788)によれば、まず人類共通のひとつの「根幹種族」が存在し、そこから気候や食物など環境要因によって「変種」が生まれます。そこで、合目的的に人間に据えられた自然素質が、生殖の過程で自己展開し、変種としての身体的特徴が不可避的に遺伝し、それらが「人種」区分として定着します。さらに、移住に伴う異なる人種との生殖を通じ、人類全体にとって無限な多様性がもたらされます。機械論的な環境要因を認めつつも、なぜ遺伝する人種区分が形成され、無限に多様な派生へと至るのかという点に、カントは自然目的論の意義を見出します。

 このような、近代における人種概念の正確な位置付けと吟味をおこなうことは、その後の帝国主義・植民地主義の中で、人種差別的な意味がどのように敷衍されていったかを考えるためにも、必要だと考えられます。


研究キーワード

  6

共同研究・競争的資金等の研究課題

  3

論文

  10

講演・口頭発表等

  15

書籍等出版物

  2

委員歴

  1

MISC

  3

所属学協会

  5