基本情報

所属
岐阜大学 連合獣医学研究科 獣医学専攻 応用獣医学講座 教授
教育推進・学生支援機構 教授
連合獣医学研究科 教授
学位
博士(獣医学)(岐阜大学)

J-GLOBAL ID
201601016550383184
researchmap会員ID
7000014330

抗菌性物質は、人や動物の細菌感染症の治療薬として、特に畜産分野では安全な畜産物の安定供給のため使用されてきました。抗菌性物質を医療や獣医療で使用することで薬剤耐性菌が出現・増加してきたことは、歴史的にも明らかな事実です。薬剤耐性菌は、抗菌薬による治療効果を減弱させて感染症コントロールを難しくするため、抗菌薬が利用される分野(医療、獣医療)で深刻な問題となります。

2015年に世界保健機構(WHO)によりOne healthの理念に基づくGlobal action plan on antimicrobial resistanceが示され、2016年にわが国のNational Action Planである「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2016-2020」が公表されました。2023年に新たな「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン2023-2027」へと引き継がれました。新たなアクションプランでは、家畜由来大腸菌の耐性率が、畜種別に設定され、さらに、動物用抗菌剤の使用量についても削減目標が設定されています。

 (1)薬剤耐性菌の分布に与える抗菌剤の影響

動物で使用される抗菌性物質は、動物の細菌感染症の治療を目的とする動物用医薬品(動物用抗菌剤)と家畜の飼料中の栄養成分の有効利用(海外では成長促進)を目的とした抗菌性飼料添加物に区分されます。獣医療で使用される抗菌剤は、医療現場で使用される系統と概ね共通しているため、抗菌剤で治療された動物から排泄される薬剤耐性菌は公衆衛生上問題となります。動物に分布する薬剤耐性菌は、畜産動物では食品を介して、愛玩動物では飼い主との接触により伝播する危険性があります。抗菌剤を投与された動物の糞便中にどのような薬剤耐性菌がどれくらいの期間分布しているか、抗菌性物質の使用状況と薬剤耐性菌の分布について研究しています。

 

(2)自然界における薬剤耐性菌の伝播・拡散様式に関する研究

One Healthに基づいてヒト―動物―環境分野における薬剤耐性を統合的に調査する体制が構築され、2017年より「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書」として、国内における薬剤耐性菌の分布実態が明らかにされてきています。

国内の野生動物における薬剤耐性菌の分布について、1970年代には、スズメ、カラス、ムクドリなど人の生活に身近な野鳥から薬剤耐性菌が報告されました。しかし、1980年代の調査で、山奥に生息するニホンカモシカでは薬剤耐性菌がほとんど認められないことが報告されました。このように、抗菌性物質が使用されない野生動物にも薬剤耐性菌が分布しますが、野生動物の薬剤耐性菌は、人間の社会活動由来することが指摘されてきました。薬剤耐性菌の伝播ルートは、いろいろ考えられますが、よくわかっていません。そこで、薬剤耐性菌が分離された野生動物の生息環境に関する情報を多面的に解析して、薬剤耐性の伝播ルートについて研究しています。2013~2117年に国内の野生哺乳類から分離した大腸菌の薬剤感受性を調べ、シカやイノシシ、小型哺乳類に薬剤耐性菌が分布することを明らかにしました。特に、シカやネズミでは人間と密接な動物ほど薬剤耐性菌を保有することがわかりました。しかし、身の回りの昆虫からは薬剤耐性菌がほとんど見つからないことから、必ずしも密接さだけでは説明できません。

 薬剤耐性菌が環境中で生存する状況にも興味があります。大学の横を流れる河川水から医療や獣医療で重要な医薬品として使用される第三世代セファロスポリンに対する耐性菌が分離されました。第三世代セファロスポリンは農薬では使用されない成分です。人や家畜に分布するCTX-M型βーラクタマーゼ産生大腸菌が分離されることから、人類の生活から環境へ放出されたことが強く疑われます。その他、国内では報告のない珍しい細菌(VEB-3 ESBL産生Aeromonas)であることがわかりました。人類の社会生活からの放出経路、環境中での薬剤耐性菌の出現、さらに、その河川周辺に生息する野生動物への伝播などに注目しています。


 


研究キーワード

  5

論文

  157

MISC

  121

共同研究・競争的資金等の研究課題

  12

社会貢献活動

  24

その他

  1