書籍等出版物

査読有り
2017年1月

スマートグリッド

  • 松田 俊郎

担当区分
分担執筆
担当範囲
巻頭言
出版者・発行元
(株)大河出版
総ページ数
64
担当ページ
P2
記述言語
日本語
著書種別
学術書

=巻頭言=
電気自動車(以下EV)は,走行中の排気ガス発生が無く,発電時のCO2排出量は内燃機関で走る自動車の走行時CO2排出量と比べて少ないことが特長であり,自動車の地球温暖化対策として有効な手段である。
EVの登場は19世紀に遡るが,鉛蓄電池による短い航続距離や少量生産による高価格が原因で普及が進まなかった。しかし,昨今の全世界規模の地球温暖化の進展と発展途上国で見られる大気汚染の深刻化,さらにリチウムイオン電池に代表される電動技術の進歩を背景として,2010年発表の日産リーフに代表される本格的な普及を目指したEVが市場に投入され始めている。
今後も,世界的に数多くの量産EVが市場に投入される予定であり,2050年には相当量(自動車全体の数割)のEVが販売されると予測している。
EVは、走行用の蓄電池の貯蔵電力量と充放電電力が大きいことが特長であり(例:30kWh,100kW),ソーラーパネルが発電した電力をEVの蓄電池に貯えて家庭の電源として使用する技術は既に商品化されている。
太陽光,風力などの再生可能エネルギーは,天候に起因する出力変動が電力品質の課題となり,その依存率を高める為には出力変動を抑制する蓄電池が必要であるが,現在の据置型電池の価格水準での普及は難しい。
本稿では,将来のEVの普及拡大を想定して,エネルギーシステム,交通システムをITネットワークでつなげ,地域でエネルギーを有効活用するスマートコミュニティにおけるEVの活用の可能性を考えてみたい。
現在のEVの航続距離は,一充電で100〜200km程度であるが,トリップ調査によれば,大多数のユーザーの1日の走行距離は100km未満であり,(数10kmが殆ど)搭載している蓄電池の電力容量のかなりの部分を余らせて使っていることになる。
また,通勤,通学などの一般的な自家用車の使われ方では,1日の殆どが自宅,会社,出先などでの駐車時間なので,駐車中の数百台,数千台のEV群をPCSを介して系統と接続すれば,少ない社会コストで大容量の蓄電池をもつコミュニティが形成できることになる。(この場合,EVと自宅のPCSは従来通り自動車ユーザー負担と考えられるので,蓄電池の社会コストは不要となる。公共の場所や会社,店舗等のPCSは設置コストが必要だが,行政や事業者が出資者になると想定する)
このスマートコミュニティを実現する為には,EVに必要な技術として,必要走行距離と蓄電池状態から充放電可能電力/電力量を推定する技術,車両の使われ方から系統との接続可能時間帯を計画する技術があげられる。また,EVと電力システムの運用側での情報交換の為,必要な情報をPCSを介して通信する技術(基準)も必要となる。一方, 電力システムの運用側では,コミュニティ内のEV群の総充放電可能電力,電力量を予測する技術や実績データからCO2最小となる電力のベストミックスを計画する技術等が有効と考えられる。
さらに,社会実装を進める為には,自動車ユーザー,PCS設置者等のスマートコミュニティ参加者が利益を享受できるビジネスモデルの構築も重要となる。
これからのスマートコミュニティには.自動車と自動車ユーザーを対象としたあらたな発展が期待される。

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共同研究・競争的資金等の研究課題
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