共同研究・競争的資金等の研究課題

2020年4月 - 2023年3月

音楽家の脳機能の解明: MRS-TMS-EEGを用いた横断研究

文部科学省・日本学術振興会  科学研究費助成事業  基盤研究(B)

課題番号
20H04092
体系的課題番号
JP20H04092
担当区分
研究代表者
配分額
(総額)
17,680,000円
(直接経費)
13,600,000円
(間接経費)
4,080,000円
資金種別
競争的資金

近年、音楽経験を豊富に積んだ高齢者は、音楽経験の少ない高齢者に比べて、ワーキングメモリーや実行機能など、認知課題の成績が優れていると報告された。これらの先行研究を踏まえると、音楽はヒトの認知機能の改善や維持、長寿健康社会の実現に有用であると示唆されるが、その神経生理メカニズムは十分に解明されていない。そこで本研究では、核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)と、経頭蓋磁気刺激と高解像度脳波の同時計測手法(TMS-EEG)を用いて、音楽家と非音楽家の前頭前野グルタミン酸・γアミノ酪酸(GABA)神経機能を横断比較し、音楽機能・認知機能との関連性を解明する。
音楽家の脳機能の解明、特に音楽機能と認知機能の関連性や両機能を支える神経基盤の解明を目的とし、以下の通り研究を推進した。(1) 研究分担者と連携し、マルチモーダル脳機能イメージング手法(核磁気共鳴画像法 [MRI]、核磁気共鳴スペクトロスコピー法 [MRS]、経頭蓋磁気刺激[TMS]-高解像度脳波[EEG]の同時計測法 [TMS-EEG])を用いた神経科学実験を推進した。(2) 音楽家の認知機能と音楽機能に関して予備的データ解析を実施した。具体的には、音楽家において得られた認知機能評価タスク(RBANS, JART, LNS, EXIT)と音楽機能評価タスク(Harvard Beat Assessment Test: H-BAT)のスコア群について其々主成分分析を施した後、認知機能評価タスク群の第1主成分得点と音楽機能評価タスク群の第1主成分得点間の相関関係を分析した。解析の結果、音楽機能が高いほど、認知機能が高いことが明らかとなった。(3) 協和音の嗜好性と安静時脳機能ネットワークの関連性について予備的解析を行った。その結果、左側坐核ー右上頭頂回、前帯状回ー後上側頭回の安静時脳機能ネットワークが協和音の嗜好性に関連している可能性を得た。(4)演奏評価判断中の視聴覚情報処理過程について調査した。予備的解析の結果、音楽家と非音楽家とで演奏評価判断時の視聴覚情報処理過程が異なる可能性を得た。(5)その他、音楽機能と精神疾患の関連性(本多, 野田, 中島, 藤井, 2021)、歌の科学(北山, サベジ, 藤井, 2021)、コロナ時代の音楽(村井, 真鍋, 藤井, 2021)、音楽表現の発展可能性(田中と藤井, 2021)、巧みな音楽演奏にみられる時間ゆらぎとグルーヴ(藤井, 2020)について総説・解説記事をまとめて発表した。
上記研究実績欄で述べた(1)-(5)の成果を総合的に判断し、「おおむね順調に進展している」と判断した。本研究の目的は、MRSやTMS-EEGなどのマルチモーダル脳機能イメージングを用いて、音楽家の脳機能や音楽機能と認知機能の関連性を解明することであり、音楽家はリズムやピッチ、和音などの音楽的構成要素を高次に処理する脳の働き(=音楽機能)を備えており、音楽機能の高い個人は認知機能にも優れているのではないかという仮説を立てた。上記(1)(2)に記載の通り、実験を推進しながら予備的解析を行い、音楽機能が高い個人ほど認知機能が高いという仮説を支持する結果を得ることができた。また、協和音の嗜好性と安静時脳機能ネットワークの関連性や、音楽家と非音楽家の演奏評価判断時の視聴覚情報処理過程についても研究を推進することができた。加えて、音楽機能と精神疾患の関連性、歌の科学、コロナ時代の音楽、音楽表現の発展可能性、巧みな音楽演奏にみられる時間ゆらぎとグルーヴについての総説・解説記事をまとめ、ジャーナル誌上に発表することができた。また、音楽科学に関する国際研究会議(CLaME Event: Building sustainable global collaborative research networks)に参加し、日本と北米の音楽科学の現状について発表し、国際的に連携して持続的な音楽科学研究をするにはどうすべきか議論をおこなった(藤井, 2021)。これら現在までの進捗状況を俯瞰し、今後の研究につながる成果を得ることができたため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
今後の研究の推進方針として、まずはマルチモーダル脳機能イメージングを用いた神経科学実験を引き続き推進することを計画している。多様な音楽経験を持つ健常者の音楽機能と認知機能データに加え、精神疾患患者の音楽機能と認知機能についても研究を推進する予定である。またデータ収集と並行して、音楽機能・認知機能データ、マルチモーダル脳機能イメージングデータの予備的分析もさらに推進していく予定である。具体的には、音楽機能評価としては、ハーバードビート評価テスト(Harvard Beat Assessment Test: H-BAT)のスコアだけでなく、ピッチ方向識別課題、和音判別課題、バルセロナ式音楽報酬質問紙(BMRQ)等の音楽機能評価スコアの解析を進める予定である。MRS、TMS-EEGデータについては、まずMRSデータの解析に焦点をあて、グルタミン酸指標と音楽機能・認知機能の関連性について研究を進める予定である。加えて、Voxel-based Morphometry(VBM)解析、Cortical Thickness(皮質厚)解析等を行い、脳イメージング指標と音楽機能評価指標・認知機能評価指標の関連性についても研究を進める予定である。協和音の嗜好性と安静時脳機能ネットワークの関連性や、音楽家と非音楽家とで演奏評価判断時の視聴覚情報処理過程については、これまでの成果をさらに発展させてデータ解析や追加実験を行い、成果を国際音楽神経科学会議(Neurosciences & Music VII)にて発表する予定である。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関する社会情勢等を踏まえ、オンライン調査の実施、音楽家に関する既取得データの解析、関連文献レビューにも焦点を当てるなど、適宜柔軟に対応しながら音楽家の脳機能について精力的に研究を推進する方策である。

リンク情報
URL
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20H04092
KAKEN
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-20H04092
ID情報
  • 課題番号 : 20H04092
  • 体系的課題番号 : JP20H04092