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2018/09/26

『新潮45』の休刊が憂うべき出来事なのは何故か

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

昨日、新潮社が雑誌『新潮45』の休刊を決定しました[1]。


『新潮45』は2018年8月号に掲載した杉田水脈氏の論考「「LGBT」支援の度が過ぎる」[2]の内容が差別的であるとして批判を受けていました[3]。


さらに『新潮45』は2018年10月号でも「そんなにおかしいか「杉田水脈」論文」と題して杉田氏の見解を擁護する特集[4]を企画して議論を呼んだことを受け[5]、新潮社側は「十分な編集体制を整備しないまま「新潮45」の刊行を続けてきたことに対して、深い反省の思いを込めて」[1]休刊を決断したと説明しています。


差別的な記事が掲載されたことで雑誌が休刊や廃刊を決定した事例として思い出されるのが、文藝春秋の雑誌『マルコポーロ』の1995年2月号に掲載された西岡昌紀氏の論考「戦後世界史最大のタブー。ナチ『ガス室』はなかった。」[6]を巡る一連の出来事です。


周知の通り、西岡氏の論考が掲載後に国内外の批判を浴びたことで、文藝春秋は社として記事が誤りであったことを表明して謝罪をするとともに、『マルコポーロ』の廃刊と編輯長であった花田紀凱氏の解任を行いました[7]。さらに社長であった田中健五氏も問題の責任とって辞任しています[8]。


今回の杉田氏の論考についても発表直後から各種の批判が起き、現在のところ『新潮45』の休刊と社としての謝罪、佐藤隆信社長と編集担当役員の2名の減給処分が行われており[9]、「『マルコポーロ』問題」と類似の経過を辿っています。


一方、雑誌の廃刊や休刊、社としての謝罪、経営陣の処分などの形式的な類似性とともに見逃せないのが、『マルコポーロ』は「ホロコースト」という言葉の狭義の定義から出発して使用されたとされる毒ガスの性質や「ガス室」の特徴を述べた後、ヒトラーのユダヤ人撲滅政策を意味する「最終的解決」は存在しなかったと結論する西岡氏の論考[6]がユダヤ人団体などの抗議を受ける極端な議論であり、「極論」を掲載した以上、「進んで反論を求め、それを早急に掲載すべきであった」という指摘[10]があったものの、反論を掲載する前に廃刊となったことです。


『新潮45』の場合も杉田氏の意見に対する反論や異見が寄せられた際にこれらの見解を掲載するのではなく、かえって杉田氏を擁護する7報の論考を掲載したことで、『新潮45』が多様な意見に対して門戸を開くのではなく特定の立場にのみ与する雑誌であると自ら表明したのでした。


もちろん、一党一派を支持する雑誌があり、不偏不党の雑誌があることは、表現や言論活動の多様性に鑑みれば当然のことですし、あらゆる議論が両論併記を旨とすることが適切であるか検討の余地があります。


しかし、『マルコポーロ』の場合と同様に『新潮45』も社会的な反発を受けたことで雑誌の廃刊や休刊が決まるのであれば、雑誌や書籍の出版はより多くの者の賛同を得られる意見のみに従い、社会の多数派の意に沿わない議論を行う余地は縮小せざるを得ません。


もし、新潮社が採算の合わない雑誌を休刊させるための口実として「杉田問題」を用いたのであれば目先の利益を優先して進んで言論活動を抑制したことになりますし、「深い反省の思いを込めて」休刊したのであっても、やはり適切さを欠く対応をしたことに変わりはありません。


その意味において、今回の『新潮45』の休刊は一見すると世論の反発に対する責任を取った措置のように思われながら、実際には社会的な反発を受ける意見を掲載すると廃刊や休刊となるこも当然だという、一種の言論の抑圧の実例を作ったのです。


[1]「新潮45」休刊のお知らせ. 新潮社, 2018年9月25日, https://www.shinchosha.co.jp/news/20180925.html (2018年9月26日閲覧).
[2]杉田水脈, 「LGBT」支援の度が過ぎる. 新潮45, 37(8): 57-60, 2018.
[3]自民・杉田氏「LGBT、生産性ない」、寄稿に与野党から批判. 日本経済新聞, 2018年8月1日朝刊4面.
[4]特別企画 そんなにおかしいか「杉田水脈」論文. 新潮45, 37(10): 77-114, 2018.
[5]新潮社雑誌で「常識を逸脱」、社長が談話. 日本経済新聞, 2018年9月22日朝刊38面.
[6]西岡昌紀, 戦後世界史最大のタブー。ナチ『ガス室』はなかった。. マルコポーロ, 1995年2月号: 170-179, 1995.
[7]文芸春秋、マルコポーロ廃刊. 日本経済新聞, 1995年1月30日夕刊14面.
[8]文芸春秋・田中健五社長が辞任. 日本経済新聞, 1995年2月15日朝刊35面.
[9]新潮社「新潮45」を休刊. 日本経済新聞, 2018年9月26日朝刊34面.
[10]佐藤紘彰, アメリカから見た「マルコポーロ廃刊」. 東洋経済新報, 5270: 90-93, 1995.


<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Suspension of "The Shincho 45"? (Yusuke Suzumura)


Shinchosha Publishing announces that a monthly mogazine The Shincho 45 will be suspended by the reason of its "LGBT issue" on 25th September 2018. It might be very serious problem, since it is an evidence that it is able to suspend a printed material when it brings a serious social problem.


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