論文

査読有り
2019年9月

前立腺癌高リスク症例に対する陽子線ラスタースキャニング法と強度変調回転放射線治療法との線量分布比較

津山中央病院医学雑誌
  • 冨永 裕樹
  • ,
  • 笈田 将皇
  • ,
  • 脇 隆博
  • ,
  • 井原 弘貴
  • ,
  • 金 東村
  • ,
  • 丹羽 康江
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  • 松田 哲典
  • ,
  • 黒田 昌宏
  • ,
  • 藤島 護

33
1
開始ページ
31
終了ページ
44
記述言語
日本語
掲載種別
研究論文(学術雑誌)
出版者・発行元
(一財)津山慈風会津山中央病院

【目的】近年、高エネルギーX線による前立腺癌の高精度放射線外部照射ではガントリを回転させながら強度や照射野形状を変えて最適な線量分布を形成する強度変調回転放射線治療法(以下、VMAT法)が可能となっている。一方、当院ではエネルギー強度の異なる数十種類の陽子線ビームを段階的に照射するラスタースキャニング法(以下、RS法)による強度変調陽子線治療(IMPT)を2018年5月より開始した。本研究では、前立腺癌患者のうち前立腺および精嚢への照射を含む高リスク症例に対するRS法とVMAT法の違いによる線量分布比較を行ったので報告する。【方法】対象は局所進行前立腺癌高リスク症例10例とし、治療計画装置RayStation(RaySearch社製)によって治療計画を立案した。その際、臨床標的体積(以下、CTV)は、前立腺および被膜外浸潤部位、精嚢を含む領域とした。次に両照射法の線量分布評価のためにCTVに対して全周5mmを拡大したPTV5を作成した。リスク臓器(以下、OAR)には直腸、膀胱、両側大腿骨頭部を定義し、直腸、膀胱に対しては内側3mmの直腸壁と膀胱壁を輪郭作成した。処方線量はCTVに対してRS法では70GyE、VMAT法では70Gyをそれぞれ体積の50%が照射される線量(RS法ではD50GyE、VMAT法ではD50Gy)とした。RS法はガントリ角度90度と270度の左右対向2門照射、VMAT法はガントリ角度181度から179度の範囲での回転照射の治療計画を立案した。線量基準はCTVに対し、最小線量(以下、Dmin)がRS法では66.5GyE、VMAT法では66.5Gyを超えることとし、OARの線量は極力低減した。その後、線量体積ヒストグラム(以下、DVH)でCTVはDminおよび体積の98%、2%がそれぞれ照射される線量(以下、D98、D2)、線量均一性を示すHomogeneity index(以下、HI)を算出した。さらに、PTV5はV95、D98、最大線量(以下、Dmax)および体積の95%照射線量(以下、D95)を算出し、直腸壁、膀胱壁はDmaxおよび10〜70GyE(Gy)が照射される体積(以下、V10〜V70)を5GyE(Gy)間隔で比較した。また、すべての輪郭において平均線量を求めた。二群間の有意差検定はウィルコクソン符号付順位検定を用いた。【結果】RS法はVMAT法に比べてCTVのD98およびD2に有意な差が見られ、HIが向上した(p<0.01)。PTV5に関しては、D98とDmaxでは有意な差が見られたが(D98:p<0.05、Dmax:p<0.01)、V95およびD95では差が見られなかった(V95:p=0.333、D95:p=0.114)。OARに関しては、直腸壁のV10〜V35およびV60〜V70でRS法は線量が軽減された(p<0.05)。また、Dmaxにおいても線量が軽減された(p<0.05)。膀胱壁の線量はV10〜V25(低線量域)ではRS法が低くなり、V45〜V70(中・高線量域)ではVMAT法が低くなった(p<0.05)。Dmaxにおいては差が見られなかった(p=0.386)。平均線量に関しては、CTVおよびPTV5では有意な差は見られず、直腸および膀胱ではRS法が低くなった。しかし、左右大腿骨頭部の平均線量はRS法が高くなった(p<0.05)。【結論】RS法はVMAT法と比べてPTV5への線量は同等と考えられた。しかし、CTVに対してより均一に照射することが可能であった。また、RS法はCTVに近接する直腸壁に関する線量軽減が可能であるが、膀胱壁に関する中・高線量域の線量や大腿骨頭部の平均線量は高くなる場合があることが示唆され、治療計画作成時には注意が必要であった。(著者抄録)

ID情報
  • ISSN : 0913-9176
  • 医中誌Web ID : 2019397779

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