論文

2020年

東京の都心から西郊における冬季夜間の境界層温度構造

日本地理学会発表要旨集
  • 高橋 日出男
  • ,
  • 菅原 広史
  • ,
  • 瀬戸 芳一
  • ,
  • 中島 虹
  • ,
  • 伊東 佳紀
  • ,
  • 常松 展充

2020
開始ページ
65
終了ページ
65
記述言語
日本語
掲載種別
DOI
10.14866/ajg.2020a.0_65
出版者・発行元
公益社団法人 日本地理学会

<p>はじめに</p><p>都市境界層は大きな地表面粗度や下層からの加熱に起因して鉛直方向によく混合され,そのため田園郊外域では夜間に接地逆転層が発達する一方で,都市域では中立に近い混合層となっているとされる。これにより都市ヒートアイランドの形成と境界層との関係の概略は理解されるが,そもそもの逆転層や混合層の高度,都市の境界層に与える田園郊外域の大気成層状態の影響などともに,陸風や山風と都市ヒートアイランド循環との相互作用など,具体的な都市を考えると観測的に把握が十分でない多くの課題が存在する。本研究プロジェクトは,温度プロファイラ等を用いた境界層の鉛直気温分布の連続観測と稠密地上観測(広域METROS)から,日中と夜間,夏季と冬季の東京を中心とする都市大気構造の観測的理解を目的とする。本発表では冬季の夜間(前日18時から09時)を対象に東京都心から西郊にかけての境界層の温度構造について報告する。</p><p></p><p>観測と解析の概要</p><p>東京都心(飯田橋)と都区部西部(杉並)では,地表(標高約8mと約45m)からそれぞれ約98mと約20mの建築物屋上に温度プロファイラ(Attex社製MTP-5H)を設置し,設置高度から上空1000m(都心)と600m(都区部西部)まで50m間隔の気温を10分間隔で計測している。東京西郊(田無)では地表(標高約64m)から10m,20m,40m,60m,90m,125mの6高度の気温を自然通風式シェルタに格納した温度ロガ(日置電機社製LR5011,温度センサLR9601)により5分間隔で計測している。これらの観測値に50分移動平均を施したうえで,3地点における最下層100m間の鉛直温位傾度(乾燥断熱減率により気塊を海面高度に降ろした場合の温度を温位(℃)とみなす)や,都区部西部と都心については観測最下層から逆転が認められる場合に,逆転層上端高度や逆転層内の鉛直気温傾度の最大値とその高度などを求めた。対象の冬季として,最下層の鉛直温位傾度が大きくなった2019年11月から2020年2月までとした。解析にあたり,都区部西側の地上気温分布にみられる気温急変域(高橋ほか 2014)を挟む気温差などを求めるために東京都常監局の1時間値を使用した。</p><p></p><p>冬季夜間における鉛直気温分布の特徴</p><p>夜間における都区部西部の逆転層上端高度は,逆転層内の鉛直気温傾度(逆転強度)が小さい場合は地上100m以下が多いが,気温傾度が少し大きくなると,地上250-300mに明瞭な頻度の極大が現れる。ただし,気温傾度が最大となるのは最下層が最も多い。都心については最下層からの逆転事例は減少するが,気温傾度が大きい場合には,逆転層上端高度の高い事例(地上400m付近)の割合が大きい。また,最下層温位傾度最大値の起時を地点間で比較すると,気温傾度がある程度大きい場合には同時性が確認できる。さらに,最下層温位傾度最大値の地点間相関を求めると0.8以上の高い正相関が得られた。ここで,最下層温位傾度最大値の起時に同時性が認められた34事例を対象に,都区部西部および都心について最下層温位傾度最大値の起時における各高度の温位傾度と,東京西郊の最下層温位傾度最大値との相関を求めると,都区部西部は300m付近まで,都心では400m付近まで危険率1%で有意となり,都心の方が上空まで正相関が大きい。以上から,都心域においても東京西郊の逆転強度を反映した逆転層(安定層)が存在しており,鉛直混合により逆転強度は小さくなるが逆転層上端高度が高くなっていると考えられる。なお気温急変域を挟む気温差についても同様の相関係数の高度分布が得られた。</p><p></p><p>都心と都区部西部との気温鉛直分布の比較</p><p>上記の同時性が認められた事例のうち,都区部西部で最下層温位傾度が大きい17事例を抽出し,都心と都区部西部の気温鉛直分布を比較した。気温急変域を挟む地上気温は都心側で平均2.2℃高いが,高度250-300m付近を中心に最大1.5℃ほど都心より都区部西部の気温が高い顕著なクロスオーバーが400m程度の厚さで認められた。これはBornstein(1968)などと比べて大きく,都区部西部の顕著な逆転層には逆転層上端付近の過大な高温の関与が想定される。各事例の気温高度時間断面(付図)によると,都区部西部では残存する日中の高温層の地上側から気温低下が始まり,逆転層は上方へ発達するが,夜半以降は高度300m付近に高温層がとどまる。この高温層の気温は昇降を繰り返し,昇(降)温があった場合に最下層の逆転が強(弱)まっている。温位の高度時間断面を描くと,高度300m付近の昇温は上空の高温位空気の高度低下に対応している。すなわち,下降流に伴う逆転層上端付近の気温上昇によって接地層の逆転強度が増大していることが考えられ,ヒートアイランド循環の関与も示唆される。</p>

リンク情報
DOI
https://doi.org/10.14866/ajg.2020a.0_65
CiNii Articles
http://ci.nii.ac.jp/naid/130007949323
ID情報
  • DOI : 10.14866/ajg.2020a.0_65
  • CiNii Articles ID : 130007949323

エクスポート
BibTeX RIS