2020年4月 - 2023年3月
クライオ電子顕微鏡による膜輸送体の動的機構解明
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
本研究では、生理学的に重要な膜輸送体に関して、クライオ電子顕微鏡による構造解析を行うことで、輸送サイクルにおける複雑な動的構造変化を明らかにすることを目的としている。2021年度は、P型輸送体の一つでポリアミン輸送体として同定されたP5-ATPase(ATP13A2)の構造解析を行った。ATP13A2は、老化に伴う神経変性疾患の原因遺伝子として特定されたが、その機能は長い間不明であった。近年になって、この輸送体がリソソームにおけるポリアミン排出輸送体であることが明らかになり、老化に伴いポリアミン合成の低下を補うように、細胞外からの取り込み経路に関わることがあきらかとなった。ATP13A2は主に線形のポリアミンを輸送することが知られており、他のP型輸送体の基質である金属カチオンとはサイズ、形状が大きく異なることから、独自の仕組みを持つことが予想された。クライオ電子顕微鏡によって、基質が結合していない状態(E1)、および基質が結合した状態(E2)の二状態の構造が明らかになり、それらの比較から、ATPを用いた自己リン酸化に伴って、細胞内側に長細い正荷電性のトンネルが形成し、そこにポリアミンが結合することが明らかになった。さらに変異体解析を行いったところ、このトンネル内の負電荷性アミノ酸、芳香族アミノ酸がポリアミン輸送に重要であることが分かった。また、トンネル内に入ることのできるポリアミンであれば、ある程度非選択的に輸送することができると考えられた。このような広範囲にわたる相互作用は、ATP13A2の示す緩い基質認識機構に合致していることから、P5ATPaseにおけるその独自の基質認識機構の一端を明らかにするに至った。
- ID情報
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- 課題番号 : 20H03216
- 体系的番号 : JP20H03216