基本情報

所属
非公開(本ウェブサイトに掲載されている全ての情報は現職のものを一切含みません)
学位
博士(工学)(大阪市立大学)
学士(工学)(大阪工業大学)

研究者番号
40816386
J-GLOBAL ID
201501019085275487
researchmap会員ID
B000249259

外部リンク

 研究分野は分析化学、材料科学、物理化学、電子顕微鏡学である。実用的な分析・解析方法を開発し、その方法を用いて科学上の新発見に到達することを目指している。機器分析、電子顕微鏡、材料強度試験、材料科学に関する知識と技術を駆使して多種多様な材料、主として金属材料を対象とした分析技術開発研究を主導した他、様々な材料研究プロジェクトに参加して来た。

  私の研究活動の中から、下記(1)~(4)に私が主導し、特筆すべき成果を挙げた研究の概要を示す。

(詳細は下記の参考文献や、研究ブログ*資料公開*を御覧下さい。)

 

*が記されている記述をクリックすると関連するページに飛びます。


(1) 二次イオン質量分析 (SIMS) 法による金属材料中の水素の高感度分析法に関する研究 

-金属材料中の微量の水素(質量数:1)の局所分析をダイナミックSIMS法で正確に行うための分析指針を提唱-

-金属材料中の析出物微粒子や結晶粒界にトラップされた水素の検出と3次元観察に初めて成功-

【SIMSによる金属中の水素の分析指針】*

 燃料電池システムの水素ガス貯蔵用圧力容器やパイプなどの水素機器が高圧水素ガスに曝されると、原子状水素が金属部材に侵入し、水素脆化を引き起こす。水素脆化の度合いを正確に評価する上で、金属部材から断面試料を切り出し、試料中の水素の濃度分布を分析することは極めて重要である。試料の断面表面部には、大気中の水分が付着する上に、金属成分と水分の反応によって生じた金属水酸化物層が生じる。断面表面部にイオンビームなどの励起ビームを照射することで金属部材に侵入した水素を励起、検出することを目指す時、水分や金属水酸化物層から発生したバックグラウンド水素が、金属部材に侵入した測定目的の水素の正確な分析を妨げる。ダイナミックSIMSで金属試料中の水素を測定する場合、この水分や金属水酸化物層由来のバックグラウンド水素が水素の検出信号に及ぼす影響は、断面表面部から深さ数ミクロンの領域まで現れる。そのため、金属断面試料中の水素を正確に分析するためには、10-8Pa以下の超高真空中で、試料断面に励起ビームを連続照射することによって、水分の付着、および金属成分と水分の反応を抑制しながら少なくとも深さ10ミクロンまで掘り進め、それより深い領域の水素を分析しなければならない。この条件を満たす水素分析装置はダイナミックSIMS以外に存在せず、ダイナミックSIMSのみが正確な水素局所分析を可能にする唯一の分析方法であることは明らかである。

 私はこれまでの研究からダイナミックSIMSを用いて金属中の水素を正確に分析に行うための指針を提唱している。その摘要を下記1~5に示す。

 

1. SIMS試料室の高真空度化、コールドトラップ法、そして必ずシリコンスパッタリング法を駆使してバックグラウンド水素の発生を低減する。

 

2. 一次イオンビームによるスパッタ速度(一次イオンビームで試料を掘る速度)を可能な限り早くする。

 

3. 測定試料の他、水素を注入していない同質材、あるいは熱処理で水素を除去した同質材を参照試料として準備する。そして、測定試料の測定の前後に参照試料の水素の二次イオン強度(バックグラウンド水素強度)を測定し、測定試料の水素測定中のバックグラウンド水素強度の時間変化を見積もる。

 

4. 一次イオンビームの連続照射によって試料表面から深さ10ミクロン以上掘り進め、この領域のデータを調べる。表面近傍で取得したデータは捨てる。

 
5. 測定試料に加えて、参照試料の水素を測定し、同じ相の間の水素強度を比較する。(水素機器のうち、水素に曝露されていない部位から切り出した金属部材を参照試料とする。または、水素機器の調査に備えて、その製作に用いた材料と同一ロットの材料を確保しておく。)


 [主要な参考文献] 
[1] "Highly Sensitive Detection of Net Hydrogen Charged into Austenitic Stainless Steel with Secondary Ion Mass Spectrometry”
Tohru Awane, Yoshihiro Fukushima, Takashi Matsuo, Saburo Matsuoka, Yukitaka Murakami, and Shiro Miwa
Analytical Chemistry, Vol.83 (2011), 2667-2676.
http://dx.doi.org/10.1021/ac103100b

[2] "Hydrogen trapped at intermetallic particles in aluminum alloy 6061-T6 exposed to high-pressure hydrogen gas and the reason for high resistance against hydrogen embrittlement"
Junichiro Yamabe, Tohru Awane, Yukitaka Murakami,
International Journal of Hydrogen Energy,
Vol. 42 (2017), 24560-24568.
http://dx.doi.org/10.1016/j.ijhydene.2017.08.035

(2) 斜出射電子線マイクロプローブアナリシス法による金属表面のサブミクロンサイズの介在物・析出物の分析に関する研究

-金属材料表面部の単一のサブミクロン介在物・析出物の成分分析を一般的なEDS-SEMでごく簡単に行うことができる分析方法-

試料に細く絞った電子線を照射し、特性X線を調べる電子線マイクロプローブアナリシス法(Electron Probe Micro Analysis: EPMA法)によって金属材料表面部の介在物・析出物の形態を観察しながら組成を分析することができる。しかし、介材物・析出物が直径1um以下になると介在物・析出物を透過した電子線が、母相の構成元素の特性X線を励起する。母相から発生した特性X線が介在物・析出物の正確な組成の分析を妨げることはよく知られている。そこで、粟根は特性X線を0度近傍の非常に小さな取り出し角度で測定するEPMA法である「斜出射EPMA法」が金属材料表面に観察される直径1um以下の介在物・析出物の分析に有効か否か検討した。粟根は通常のEDS-SEMに斜出射EPMA法を導入するための簡便な方法を考案し、実用金属材料腐食面上に観察される直径1um以下の介在物・析出物の分析に斜出射EPMA法を初めて応用した。その結果、介在物・析出物の下部の母相から発生する特性X線を検出することなく、介在物・析出物から発生した特性X線のみを良好なピーク/バックグラウンド(P/B)比で観測することに成功した。

[主要な参考文献]
[1] "Grazing Exit Electron Probe Microanalysis of Submicrometer Inclusions in Metallic Materials”
Tohru Awane, Takashi Kimura, Kenji Nishida, Nobuhiro Ishikawa, Shigeo Tanuma, and Morihiko Nakamura
Analytical Chemistry, Vol.75 (2003), 3831-3836.

http://dx.doi.org/10.1021/ac020740l


(3) 斜出射微小部蛍光X線分析法による水分を含む葉の表面に付着した微量有害金属の分析に関する研究

-平坦性に乏しい未処理の植物の葉など生体試料や高分子試料の表面分析を可能にする画期的なX線分析法-

植物の葉に付着した微量の有害金属の分析は環境分析の観点から非常に重要である。そこで、X線集光素子で細く絞ったX線を試料に照射し、試料から発生した特性X線を0度近傍の非常に小さな取出し角度で測定する表面分析法である「斜出射微小部蛍光X線分析法」を用いて水分を含む葉の表面部を限定的に分析するための方法を研究した。斜出射微小部蛍光X線分析法でPb粒子が付着したカンツバキの葉を分析するに際して、葉とX線検出器の間に、葉の内部から発生したX線の吸収体としてシリコンチップを設置する独自の新方法「X線吸収体法」を開発・導入し、測定を行った。その結果、葉の表面近傍領域から発生したX線を限定的に検出し、高いP/B比でPbの特性X線を検出することに初めて成功した。

[主要な参考文献]
[1] “Grazing Exit Micro X-ray Fluorescence Analysis of a Hazardous Metal Attached to a Plant Leaf Surface Using an X-ray Absorber Method”
Tohru Awane, Shintaro Fukuoka, Kazuo Nakamachi, and Kouichi Tsuji
Analytical Chemistry, Vol.81 (2009), 3356-3364.
http://dx.doi.org/10.1021/ac802599x

(4) 金属試料表面上に付着したエポキシ樹脂等の難溶解性有機物の除去技術

ある程度の耐食性を有する金属試料表面上のエポキシ樹脂などの難溶解性有機物を、破面の微細構造を損傷することなく除去する独自の化学的方法を開発した。[1]本方法は室温以下に保った100%に近い濃度の濃硫酸を有機物の分解に用いる点がユニークである。100%に近い濃度の濃硫酸が有する以下の性質を利用している。

・水素(H)、酸素(O)を含む分子から水分子(H2O)の形で水素と酸素を奪い取る「脱水作用」を有する。濃硫酸が樹脂に脱水作用を及ぼす過程で有機物が分解、除去される。

・100%に近い濃度の濃硫酸は室温下ではほとんど電離していないため、金属に対する腐食作用が極めて微弱である。そのため、金属破面を濃硫酸に浸漬しても破面の微細様相は損傷を受けない。

最近の研究(以下の文献[2]を参照のこと)において、本方法により金属破面上のエポキシ樹脂を完全に除去できることをX線分析法(SEM-EDX法)により明らかにしている。

[主要な参考文献]
[1] “冷濃硫酸を用いた検鏡金属試料面の有機系付着物除去”
粟根 徹
日本金属学会誌, Vol.63, No.4 (1999), 551-552.

[2] "The method of removing hardly soluble organic material from metallic specimen used in fracture surface analysis by scanning electron microscope"
Tohru Awane
Microsopy, Vol.62, No.6(2013), pp.615-621.
http://dx.doi.org/10.1093/jmicro/dft025


主要な論文

  26

書籍等出版物

  1

主要な講演・口頭発表等

  26

所属学協会

  2

共同研究・競争的資金等の研究課題

  2

産業財産権

  1