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研究ブログ

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二次イオン質量分析法における二次イオン励起方法とバックグラウンド水素の影響について

 二次イオン質量分析(SIMS)法で試料中の水素(1H)を測定する時、SIMS試料室真空中に浮遊する水分子や炭化水素分子に由来するバックグラウンド水素(BG水素)が試料中の水素の正確な測定を妨げる。このBG水素の存在は簡単なSIMS測定実験で確認することができる。Fig.1に水素注入シリコンをSIMS測定して取得した1H-強度と時間の関係を示している。Fig.1aは一次イオンビームの連続照射によって取得したプロファイルである。注入水素層に由来するピークが観測されている。Fig.1bは注入水素層の測定中に一次イオンビームの照射を一時停止し、再開することで得られたプロファイルを示している。一時停止後、1H-の強度が急激に増加しているが、これはもちろん注入水素層の水素量が増えたわけではなく、ビーム照射停止中に照射部にSIMS試料室真空中の水分子や炭化水素分子が付着したことによる。この図からSIMSによる水素測定では、一次イオンビームを間欠的に照射する分析方法に比べて、一次イオンビームを連続照射しながら二次イオンを測定する分析方法はBG水素の影響が圧倒的に少ないことが分かる。

 また、試料に電子ビームを照射することによって試料中の水素を励起する分析方法の場合は、むしろ電子ビームが照射部に水分子や炭化水素分子を引き寄せてしまう恐れがあるので重々注意する必要がある。この現象は電子顕微鏡観察における「電子線コンタミネーション [1] 」としてよく知られている。

 上記のいずれの二次イオン励起方法の場合も、BG水素の影響は多かれ少なかれ必ず現れる。正確な水素の測定のためには、BG水素の徹底的な低減に加えて、測定試料の水素強度と、水素を含まない参照試料を測定して得られた水素強度の比較が不可欠であると考える。

[1] J-STAGE上の記事:矢田慶治著「コンタミネーション」

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各記事にてPDFスライドをダウンロードできます。


(1) [POWERPOINT SLIDE] Highly Sensitive Detection of Hydrogen in Metallic Materials with Secondary Ion Mass Spectrometry –Interstitial Hydrogen and Hydrogen Trapped by Trap Sites – (Invited talk at SISS-19)

The slides for my invited presentation at an international conference "SISS-19" held in Kyoto, Japan on May11 and 12 in 2017. I demonstrated my unique methodology for local area analysis of hydrogen in metals with secondary ion mass spectrometry (SIMS) and the research achievement that I succeeded for the first time in detecting and three-dimensionally visualizing the REAL hydrogen trapped by trap site in metals in my talk.
 2017年5月11、12日に京都で開催された国際会議「SISS-19」の招待講演で用いたスライド。講演では、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた金属中の水素の局所分析のための私独自の方法、並びに金属中のトラップサイトにトラップされた「真」の水素の検出と3次元観察に初めて成功した研究成果を示しました。

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(2) [PDFスライド] 局所領域の水素と微小介在物・析出物の高感度分析法(日本鉄鋼協会・特別講演)

2015年9月17日に九州大学伊都キャンパスで開催された第15回日本鉄鋼協会 評価・分析・解析部会 部会集会・特別講演会 (大会プログラム掲載WEBページ: https://www.isij.or.jp/muo0bcp78 )で用いたスライド。「SIMSによる金属材料中の水素の高感度分析法」と「ごく普通のEDS-SEMを用いた斜出射EPMA法による金属材料中のサブミクロン介在物・析出物の分析」について講演しました。

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(3) [PDFスライド] 二次イオン質量分析法による金属材料中の水素の高感度分析法に関する研究と鋼中水素分析の将来展望と期待

2015年7月3日に東京、鉄鋼会館で開催された日本鉄鋼協会 評価・分析・解析部会 鋼中水素分析フォーラム第1回講演会( https://www.isij.or.jp/mu01ysfet )で用いたスライド。
金属材料に侵入した水素は数ppm以下とごく微量であっても材料の脆化を引き起こします。そのため、材料中の微量の水素の局所濃度分布を分析する技術は安心・安全な水素エネルギー社会を支えるキーテクノロジーとなります。このスライドでは先ず、水素に曝された金属部材から採取した金属断面試料中の微量の水素(数ppm以下)の局所分析を正確に行うことができる唯一の分析方法「SIMSによる金属材料中の水素の高感度分析法」の方法論について述べます。方法論に次いで、この方法の正確性の検証、水素の最小検出濃度を追求した結果について述べます。
更に、介在物にトラップされた水素の分析結果の正確性の判定法について述べます。
提案したSIMSによる水素分析法の発展型として荷重を負荷した金属材料に発生したき裂先端部や粒界に集積した水素の分析方法の構想について述べます。

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(4) [PDFスライド] 質問への図解入り回答書_ 講演「二次イオン質量分析法による金属材料中の水素の高感度分析法に関する研究と鋼中水素分析の将来展望と期待」_鋼中水素分析フォーラム第1回講演会(2015年7月3日)

日本鉄鋼協会 評価・分析・解析部会 鋼中水素分析フォーラム第1回講演会で行った講演「二次イオン質量分析法による金属材料中の水素の高感度分析法に関する研究と鋼中水素分析の将来展望と期待」の後の議論においてなされた質問とそれに対する図解入り回答書。

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(5) [PDFスライド] ごく普通のEDS-SEMを用いた斜出射EPMA法による金属材料中のサブミクロン介在物・析出物の分析

金属材料腐食面上に観察される直径1マイクロメートル以下の介在物・析出物の正確な成分分析を、ごく普通のEDS-SEMを用いて、少ない費用で行うことができます。

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(6) X線吸収体法を導入した斜出射微小部蛍光X線分析法による植物の葉に付着した有害金属の分析

平坦性に乏しい未処理の植物の葉など生体試料や高分子試料の表面分析を可能にする画期的なX線分析法です。

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(7) 冷濃硫酸を用いた検鏡金属試料面の有機系付着物除去

金属試料の微細な様相を損傷することなくエポキシ樹脂など、難溶解性の有機物を除去する技術です。濃硫酸は室温ではほとんど電離しておらず、酸としての性質が極めて弱いため、金属とは反応しません。その一方で、強力な脱水作用を有しており有機物を炭化・分解することができます。本方法はこの濃硫酸特有の性質を利用しています。

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GUIDELINE FOR ANALYSIS OF HYDROGEN IN METALLIC MATERIALS WITH SECONDARY ION MASS SPECTROMETRY (SIMS)

From my reserach achievements, I have proposed the guideline.

1. Background-originated hydrogen (HBG) should be reduced with ultra high vacuum (less than 10-8 Pa), cold-trap, and absolutely SILIICON SPUTTERING METHOD.

2. Higher sputtering rate of primary ion beam should be applied.

3. A reference sample should be prepared from the same material lot as the target sample where no hydrogen is charged or hydrogen is removed with heat treatment. And then hydrogen ion intensities of the reference sample should be measured before-and-after measurements of the target sample to evaluate intensity of HBG during the measurements of the target sample.

4. Data of hydrogen acquired from a region deeper than 10 micrometers from the sample surface should be analyzed. Date acquired from a region of depth less than 10 microters must be abandoned.

5. Hydrogen ion intensities at same phases must be compared.


 [Main reference]
[1] "Highly Sensitive Detection of Net Hydrogen Charged into Austenitic Stainless Steel with Secondary Ion Mass Spectrometry”
Tohru Awane, Yoshihiro Fukushima, Takashi Matsuo, Saburo Matsuoka, Yukitaka Murakami, and Shiro Miwa
Analytical Chemistry, Vol.83 (2011), 2667-2676.
http://dx.doi.org/10.1021/ac103100b

 [2] "Hydrogen trapped at intermetallic particles in aluminum alloy 6061-T6 exposed to high-pressure hydrogen gas and the reason for high resistance against hydrogen embrittlement"
Junichiro Yamabe, Tohru Awane, Yukitaka Murakami,
International Journal of Hydrogen Energy,
Vol. 42 (2017), 24560-24568.
http://dx.doi.org/10.1016/j.ijhydene.2017.08.035

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二次イオン質量分析(SIMS)法による金属中の水素の分析指針

 近年、燃料電池自動車が市中を走り、家庭用燃料電池システムが普及し始めている。社会全体で水素をエネルギー源として積極的に活用する「水素社会」は萌芽期から成長期に向かっている。それに伴って燃料電池システムに用いられる金属材料の安全性を評価する技術の必要性が益々高まっている。

 燃料電池システムの使用に際して、高圧水素ガスに曝露された金属部品に生じる水素脆化の度合いは、金属部品に侵入した水素(質量数1)の濃度分布と関わりがある。そのため、金属部品から切り出した測定試料中の位置と水素濃度の関係性を"正確に"調査する必要がある。二次イオン質量分析(SIMS)法は、水素を直接的に局所分析できる数少ない方法の一つであるが、金属材料の水素脆化を惹起する程度の数〜数十ppmオーダーの微量の水素の正確なSIMS分析は非常に困難であることがよく知られている。

 SIMSで試料中の水素を測定する時、水素を全く含まない試料であっても、高い強度の水素が検出されてしまう。この水素はSIMS試料室の真空中や、試料表面に存在する水分子、炭化水素分子等の分子中に水素原子を含む物質に由来するバックグラウンド水素である。SIMSで金属試料に含まれる微量の水素の正確な測定を目指す場合、先ずバックグラウンド水素の低減と定量的評価が不可欠となる。更に、金属材料特有の性質を考慮し、次のことに注意を払わなければならない。

 

・実用金属材料は製造の段階で混入した微量の水素を含む場合がある。

 

・母相と介在物・析出物など第二相間では、スパッタ速度(SIMSの一次イオンビームが試料を掘る速度)が異なるため、異なる相間で水素イオンの発生効率、バックグラウンド水素の付着量が異なる。

 

・結晶方位の差異に対応して、結晶粒毎にスパッタ速度の僅かな差が生じる。

 

・金属の種類によっては表面部に金属水酸化物層が生成している。

 

・金属断面試料研磨時に介在物・析出物が抜け落ちて出来た穴や、介在物・析出物と母相の界面に出来た空隙に水分、有機物、金属水酸化物から成るゴミが入り込み、バックグラウンド水素の発生源となる。

 

これらを踏まえて下記(1)〜(5)の水素分析の指針を提唱する。

 

(1)バックグラウンド水素の発生を低減する。

バックグラウンド水素の検出量が測定試料中の水素の検出量を下回らないと分析は不可能である。それゆえ、バックグラウンド水素の低減がSIMSによる水素分析の第一歩である。バックグラウンド水素を低減する方法として次の3つの方法を挙げる。

①SIMS試料室真空度を10のマイナス8乗パスカル以下に保つ。

②コールドトラップでバッググラウンド原因分子を捕捉する。

③測定試料とともに試料室にセットしたシリコンウェハに一次イオンビームを照射し、シリコンスパッタ膜でバックグラウンド水素の発生源を覆い隠すシリコンスパッタリング法)

=> 金属中の微量の水素を検出するためには試料室を高真空度に保つ、コールドトラップを用いるだけでは不十分であり、必ずシリコンスパッタリング法を用いなければならないことを知っておかなければならない。

=> シリコンスパッタリング法によってバックグラウンド水素がどの程度まで低減できたか定量的に評価するには、水素をイオン注入し、ウェハのある一定の深さ位置に水素の層を形成した水素注入シリコンを用いると良い。SIMS試料室内の温度が室温以下の場合、シリコン中の水素の拡散速度は極めて小さいので、水素注入シリコンの水素層の水素濃度は時間が経過しても不変であると考えて良い。水素注入シリコンの水素の二次イオン強度を測定しながら、水素層由来の水素ピーク強度(IPEAK)に対するバックグラウンド水素強度(IHBG) の比(=IHBG / IPEAK)が0.005以下*になるまでシリコンスパッタリングを行う。

*Cz法で作製したp型シリコンウェハに、加速電圧30keVで、1cm2当たり2×1015個の水素原子をイオン注入して得られた水素注入シリコンを用いる場合

 

 (2) 一次イオンビームによるスパッタ速度(一次イオンビームで試料を掘る速度)を可能な限り速くする。

=> 一次イオンビームの強度を大きくする、スパッタ領域サイズを小さくすることでスパッタ速度を速くすることができる。スパッタ速度が早くなると、試料室真空中から一次イオンビーム走査領域に降り注ぐ水分子や炭化水素分子の単位時間当たりの付着量が少なくなるので、バックグラウンド水素の影響が減少する。(このことをイメージするには、雨の日に車のワイパーの移動速度を変えると雨粒がフロントガスに付着する様子がどのように変わるか想像すると良い。)

 

(3) 測定試料の他、水素を注入していない同質材、あるいは熱処理で水素を除去した同質材を参照試料として準備する。そして、測定試料の測定の前後に参照試料の水素の二次イオン強度(バックグラウンド水素強度)を測定し、測定試料の水素測定中のバックグラウンド水素強度の時間変化を見積もる。

=> バックグラウンド水素はスパッタリング時間の増加とともに指数関数的に減少する。スパッタリング時間に対するバックグラウンド水素強度の減少挙動は累乗近似曲線と非常に良く一致する。

 

(4) 一次イオンビームの連続照射によって、試料表面から深さ10ミクロン以上まで掘り進め、この領域のデータを調べる。表面近傍で取得したデータは捨てる。

=>「連続照射」が非常に重要である。一次イオンビームを間欠的に照射すると、ビーム照射が停止している間にビーム照射領域に試料室真空中に浮遊する水分子、炭化水素分子が付着する。(この現象は簡単な実験で確認できる)

=>金属の表面近傍(表面から深さ10ミクロン未満)の水素の正確な分析は不可能であると考えて差し支えない。この領域は表面に付着した水分子、炭化水素分子などの水素バックグラウンドの原因物質、そして金属水酸化物層、試料研磨時に介在物・析出物が抜け落ちて出来た穴や、介在物・析出物と母相の界面に出来た空隙に入り込んだゴミの影響が強過ぎる。

 

(5) 測定試料に加えて、参照試料の水素を測定し、同じ相の間の水素強度を比較する。

=>結晶構造や組成が大きく異なる相間ではスパッタ速度(sputtering rare, SR) が異なるので、一次イオンビームの照射に伴って発生する水素イオンの発生効率、並びにバックグラウンド水素の付着量が異なる。特に、介在物・析出物などの第二相にトラップされた水素について議論する時はこの点に重々注意を払う必要がある。

 

★第二相と同位置で検出された水素が「真のトラップ水素」か、あるいは母相と第二相の間のバックグラウンド水素付着量の差が見せる「偽の水素強度差」か判定するには下図の方法に沿って行うと良い。

 

 【参考文献】

 [1] "Highly Sensitive Detection of Net Hydrogen Charged into Austenitic Stainless Steel with Secondary Ion Mass Spectrometry”
Tohru Awane, Yoshihiro Fukushima, Takashi Matsuo, Saburo Matsuoka, Yukitaka Murakami, and Shiro Miwa
Analytical Chemistry, Vol.83 (2011), 2667-2676.
http://dx.doi.org/10.1021/ac103100b

[2] "Hydrogen trapped at intermetallic particles in aluminum alloy 6061-T6 exposed to high-pressure hydrogen gas and the reason for high resistance against hydrogen embrittlement"
Junichiro Yamabe, Tohru Awane, Yukitaka Murakami,
International Journal of Hydrogen Energy,
Vol. 42 (2017), 24560-24568.
http://dx.doi.org/10.1016/j.ijhydene.2017.08.035

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二次イオン質量分析法(SIMS)測定におけるトラップ水素の虚像について

 水素 を分析する SIMS の試料室内は10のマイナス8乗パスカルオーダーの超高真空状態に保たれているが、それでもバックグラウンド水素の発生源となる水分子や炭化水素が試料室内に漂っている。試料の測定中、これらの水分子や炭化水素が試料に絶えず降り注いでいる。

 
 金属材料 に含まれる ナノメートル 〜 マイクロメートル オーダーの微粒子である介在物や析出物をSIMS で測定する際、同じ時間が過ぎる間に金属材料の母相と介在物・析出物の間にSIMSの一次イオンビーム走査で削り取られる量の差が生じる(専門用語で言うとスパッタリング速度の差が生じる)。


 金属材料の母相と介在物・析出物の上には、同じように水分子や炭化水素分子が降り注いでいるが、一次イオンビームで削り取られる量が異なるので、母相と介在物・析出物の間でこれらの分子の付着量の差が生じる。削り取られる量が多い領域ではこれらの分子の付着量は少なくなる。金属母相と介在物・析出物の間で水分子や炭化水素分子の付着量の差が生じると当然これらの間で 水素 の検出量の差が生じる。


 SIMS の一次イオンビームで削り取られる介在物・析出物の量が、母相に比べて少ない場合、介在物・析出物に付着する水分子や炭化水素分子の量が母相における付着量に比べて多くなる。その結果、介在物・析出物に水素が濃化しているように見えてしまう。

 
 介在物・析出物にトラップされた 真の水素の検出をSIMS で目指す場合は、金属母相と介在物・析出物の間の一次イオンビームで削り取られる量の差とバックグラウンド水素が見せる「トラップ水素の虚像」を念頭に置かなければならない。


 このようなトラップ水素の虚像は水素脆化や材料科学の研究者の願望通りの姿を見せるので重々気をつけなければならない。材料中の介在物・析出物にトラップされた水素を観察・分析したと主張する論文を読む時は、バックグラウンド水素が生み出す虚像の可能性を徹底的に排除しているか気をつける必要がある。
 
SIMSを用いて水素 が入り込んだ金属材料中の介在物・析出物にトラップされた水素を観察・分析を目指す場合は必ずその金属材料の同質材の未使用品か、同質材を加熱して水素を除去したものを一緒にSIMS試料室にセットして測定し、水素のデータを比較しなければならない。

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金属試料に含まれる重水素の分布や挙動をSIMSで調べる時の注意点

 質量数1の水素のSIMS測定が、SIMS試料室内に存在する水分子や炭化水素分子などのバックグラウンド水素の影響により困難なため、質量数1の水素に比べて存在比が圧倒的に低い水素同位体である重水素(質量数2)を金属試料に打ち込み、SIMS で試料内での重水素の分布状況や挙動を調べる研究が広く行われている。

 しかし、SIMSの質量分解能が十分(m/Δm>3000)でないとバックグラウンド水素を含む質量数1の水素イオンが2つ同時に検出器に飛び込んだ時に質量数2のイオンとして、つまり重水素として検出するので測定者はこの点に重々注意しなければならない。重水素を注入した試料をSIMS測定する時は、必ず重水素を注入していない同質材試料を準備し、重水素を注入した試料とともにSIMS試料室にセットして、質量数2のイオンが検出されないことを確認しなければならない。

 どれ位質量分解能が高ければ重水素イオン(2H)と水素イオン2個のペア(1H-1Hペア)を分離できるかについては次の計算から推測できる。

水素イオン2個のペアの質量=1.0078u×2=2.0156u


重水素イオンの質量=陽子の質量+中性子の質量=1.0078u+1.0087u=2.0165u


Δm= 2.0165u-2.0156u = 0.0009u


m/Δm = 2.0165u / 0.0009u = 2241


ここで、uは統一原子質量単位

この計算からm/Δm >3000であれば重水素イオンと水素イオン2個のペアの質量を分離できることが推測できる。(なお、私は重水素を用いたSIMS測定実験を行ったことがない。この推測は実証が必要であることに御注意願う。)

 

 SIMSの質量分解能が十分に高くない時に、質量数1の水素イオンのペア(1H-1Hペア)が重水素(2H)として検出されることは、下の図Fig.R1を見ればよく分かる。Fig.R1にはダイナミックSIMSで取得したシリコンウェハの表面に塗布した赤マジックインクの2H-のマップを示している。この測定時の質量分解能は600である。あたかもインクの部分に重水素が濃化しているように見えるが、これは言うまでもなく、インクの成分である有機物に由来する1H-1Hペアの信号である。この実験事実はSIMSの質量分解能が十分に高くない場合、SIMS試料室内や試料表面に存在する水分子、炭化水素分子、有機物分子などが重水素のバックグラウンドになることを示している。  

 SIMSやその他の質量分析法で金属試料内の重水素の挙動を調べる時は、質量分解能についての検討を十分に行った上で、重水素注入試料のみならず、重水素を注入していない参照試料を測定して、質量数2のイオンが検出されないことを確認する必要がある。

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Precaution when investigating diffusive behavior of deuterium in metallic materials with SIMS analysis

In SIMS measurements for deuterium, mass resolution must be high enough to distiguish the mass of deterium ion from that of a pair of 1H ions.

Deuterium (2H) is often used to investigate its diffusional behavior in metallic materials instead of hydrogen (1H) because deuterium is widely believed that background of deuterium in SIMS measurements is much lower than that of hydrogen .This idea is quite reasonable because the abundance ratio of deuterium is much lower than that of hydrogen. However, the mass of deuterium ion can’t be distinguished from that of a pair of 1H ions that is derived from H2O or CXHY molecules in a SIMS chamber if mass resolution is not high enough(more than 3000). In this case,  the pair of 1H ions is detected as deuterium in error. Measurers who measure deuterium with SIMS must note mass resolution.

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Lecture at an international conference "SteelyHydrogen2018"

I gave a lecture regarding analyses of hydrogen trapped at intermetallic particles in a metallic material at an international conference on hydrogen embrittlement of metals "3RD INTERNATIONAL CONFERENCE ON METALS & HYDROGEN (SteelyHydrogen2018)" held in Ghent, Belgium from May29 to 31 in 2018.
Lecture No.I02, 9:00-9:20, May31, 2018
 
2018年5月29~21日にベルギー、ヘントで開催された金属の水素脆化に関する国際会議「3RD INTERNATIONAL CONFERENCE ON METALS & HYDROGEN (SteelyHydrogen2018)」 に於いて、金属材料中の金属間化合物粒子にトラップされた水素の分析に関する講演を行った。
講演番号:I02, 講演日時: 2018年5月31日、9:00-9:20











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入門 鉄鋼分析技術III (Introduction to Analytical Techniques for Iron and Steel Part III)

 日本鉄鋼協会、評価・分析・解析部会編「入門 鉄鋼分析技術 III」。同書のP11〜21に私の解説記事「二次イオン質量分析法による金属材料の局所領域中の水素の分析」が掲載されている。
[章立て]
1. はじめに
2. ダイナミックSIMS法とは?
3. SIMS法による金属材料中の 水素の正確な分析を妨げる因子
4. SIMSによる金属材料中の水素の 高感度分析法
5. 試料への重水素チャージでバックグラウンド水素(HBG)の問題を回避できるか?
6. おわりに
 “Introduction to Analytical Techniques for Iron and Steel Part III” edited by The Technical Division of Process Evaluation & Material Characterization, The Iron and Steel Institute of Japan. My interpretive article about SIMS analysis of hydrogen in metals is provided in this book.

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Invited talk at SISS-19 (SISS-19における招待講演)

I attended an international conference "SISS-19" held in Kyoto, Japan on May11 and 12 in 2017 and had an invited talk. I demonstrated my unique methodology for local area analysis of hydrogen in metals with secondary ion mass spectrometry (SIMS) and the research achievement that I succeeded for the first time in detecting and three-dimensionally visualizing the REAL hydrogen trapped by trap site in metals in my talk.
2017年5月11、12日に京都で開催された国際会議「SISS-19」に出席し、招待講演を行った。講演では、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた金属中の水素の局所分析のための私独自の方法、並びに金属中のトラップサイトにトラップされた「真」の水素の検出と3次元観察に初めて成功した研究成果を示した。
The website of SISS-19
http://siss-sims.com/siss/?page_id=1478

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