MISC

2020年2月

【精神科臨床におけるエビデンスの有用性と問題点】精神疾患の原因追及とエビデンスについて 斉一性と標準化

精神科治療学
  • 糸川 昌成
  • 堀内 泰江
  • 宮下 光弘
  • 鳥海 和也
  • 鈴木 一浩
  • 井上 智子
  • 小堀 晶子
  • 江越 正敏
  • 吉川 茜
  • 水谷 隆太
  • 新井 誠
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35
2
開始ページ
177
終了ページ
185
記述言語
日本語
掲載種別
出版者・発行元
(株)星和書店

EBM(根拠に基づく医療)は、医療経済的な要請から発生した政策的な側面と、医学界内部から要請された医療の科学化という側面を合わせ持った標準化システムである。特に第二の側面の根底には、「ある疾病では一つの病因が特定される」という、19世紀細菌学で発展した特定病因論(コッホ・ヘンレ条件)が存在する。しかし、20世紀に直面する高血圧や糖尿病のような多くの生活習慣病は「一つの病因」では成立し得ず、多数の複雑な病態形成因が推定される。そこで、疾病の実体的原因の究明をいったん棚上げし疫学的に膨大なデータを集積して、「こうした属性患者のこうした症状にこうした治療を行うと、ある予後が○○%の確率で生じる」というフォーミュラを蓄積する臨床疫学が開発され、これがEBMのベースとなったのである。EBMで活用されるコクラン共同計画では、RCTを最も信頼度の高いエビデンスと位置づけ、RCTのメタ解析を集積している。メタ解析の前提として、個々のRCTが同じ対象(均一)であること(斉一性)が求められる。しかし、DSMは「病名をつけるうえで原因を問わない」ことを原則としているため、DSMの基準でリクルートされた精神疾患患者は、様々な原因を持った斉一性が担保されない不均一な集団である。斉一性が担保されない被験者のメタ解析から得られたEBMの根拠は、脆弱性が高いと考えられる。EBMを精神疾患の原因追及へ適用することの困難を概観し、斉一性の担保というエビデンスの前提条件を守れない症候学を棚上げすることによって、かろうじてエビデンスの適用を模倣できた自験例を紹介し考察を加える。(著者抄録)

ID情報
  • ISSN : 0912-1862
  • 医中誌Web ID : 2020154673

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