2012年 - 2016年
古記録によるアイヌ語の歴史的研究
文部科学省 科学研究費補助金(基盤研究(C)) 基盤研究(C)
- 課題番号
- 24520448
- 体系的課題番号
- JP24520448
- 担当区分
- 研究代表者
- 配分額
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- (総額)
- 3,900,000円
- (直接経費)
- 3,000,000円
- (間接経費)
- 900,000円
- 資金種別
- 競争的資金
曹洞宗の僧侶空念の記したアイヌ語彙集を所蔵先の福井県の寺院で撮影、調査した。この「松前蝦夷地納経記」という書物は奥書に宝永元年(1704)とあり、成立年代が明記されたものとしてはこれまでのところ最古のアイヌ語文献であり、アイヌ語の歴史を明らかにする上で貴重な手がかりとなることが期待される。実物を子細に検討した結果、写真では判読不能とされた部分の中にも判読可能な箇所があることがわかり、さらにテキストの精度を高めることができる可能性のあることがわかった。また、用字を詳細に検討したところ、現在知られているアイヌ語の音声、音韻に関する知識では解釈困難な特色が見られることが明らかとなり、この点はおそらく現在のアイヌ語とは異なる音声的特色を表したものである可能性が高いことがわかった。その最も顕著な点は、現在のアイヌ語では/hu/という音素連続に相当する場合の表記である。相当する語の表記の中に、これらを「く」で表記している例が散見される。現在のアイヌ語では、この音素連続の語頭子音は両唇摩擦音であり、日本語の「ふ」と同様な発音であることが知られているが、このような音声的特徴と「く」の表記とは両立しがたい。この表記の意味するところは、おそらくはこの時代のアイヌ語の発音が現代とは異なっていたことを示すものではないかと思われる。この音節の語頭子音は、両唇音ではなく、声門摩擦音あるいは軟口蓋摩擦音であった可能性があると思われる。このことは、現在でも/ha, he, ho/の子音が声門摩擦音であることを考えれば体系的にも支持されるものである。語彙や文法の面でも現在と異なると思われる特徴がみられ、貴重な資料であることが明らかとなった。他にも古い資料を平行して収集、分析しつつあり、体系的に古いアイヌ語の特色を明らかにしつつある。
- リンク情報
- ID情報
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- 課題番号 : 24520448
- 体系的課題番号 : JP24520448
この研究課題の成果一覧
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論文
2-
北方言語研究 (10) 219-230 2020年3月 査読有り
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北海道大学文学研究科紀要 (154) 73-99 2018年3月