2004年 - 2006年
直線偏光ガンマ線による重水素の光核分解
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)
本研究は、ビッグバン初期宇宙における始原的重水素合成に関するものであり、特に、これまで正確な実験情報がない、n+p系での捕獲断面積のM1成分とE1成分の絶対値を、逆反応である重陽子の光分解反応を利用して、分離測定することに特徴がある。そのため、産業技術総合研究所で生成されるレーザー逆コンプトンガンマ線の直線偏光性を利用して、放出される中性子の等方(M1成分)、非等方(E1成分)性を測定する。このガンマ線は、レーザーと電子の逆コンプトン散乱によってレーザーの直線偏光性が保たれるため、ほぼ完全偏光しており、ガンマ線の偏光度に付随する実験的不定性は生じない。一方、中性子の等方・非等方性測定の不定性は、検出器の立体角に依存する。ビッグバン重水素合成が有効におこるエネルギー領域は、光核反応では重陽子のしきい値エネルギー(2.225MeV)から500keV以内であり、光核反応断面積は1mb程度以下である。このように小さな反応断面積に対する、放出中性子の等方・非等方性の精度良い測定には、大きな困難が伴う直線偏光したレーザー光と電子ビームの逆コンプトン散乱による直線偏光したガンマ線源を用い、このγ線を用い重水素の閾値近傍での光核分解反応へのE1反応と、M1反応の寄与を精密に測定する。逆コンプトンγ線の発生には、産業技術総合研究所電子蓄積リング「テラス」の電子ビームとNd: YV04レーザーを用いる。電子ビームのエネルギーは可変で、電子ビームのエネルギーにより得られるγ線のエネルギーを調整する。ターゲットには重水素を組成とする液体シンチレータを用い、生じた中性子はポリエチレン減速材と3He比例計数管からなる検出器で測定する。E1とM1の反応断面積の比はγ線の偏光方向に平行な方向に散乱される中性子と垂直な方向に散乱される中性子の比から求める。入射レーザー光が100%偏光していると、逆コンプトン散乱で生じたγ線はその最大エネルギーでは100%偏光しているという著しい特徴をもち、偏光したγ線が必要とされる実験に最適な光源といえる。3年度の計画で、中性子測定装置を設計し、製作し、標準中性子線源を用いて測定効率を決定した。偏光したγ線を用いた重水素光核分解の実験を行い、E1とM1の反応断面積の比をEγ=2.5MeVと3.0MeVで測定した。得られた結果は現在のところ統計精度が十分ではないが理論の予想する値と矛盾のない結果を得た。1mb程度の小さな反応断面積の測定においてもE1、M1反応の比を精度よく測定できることを示した。
- ID情報
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- 課題番号 : 16340080
- 体系的課題番号 : JP16340080