2020年4月 - 2024年3月
海洋溶存酸素濃度の変動が中深層生態系高次捕食動物に与える影響の評価
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A) 基盤研究(A)
海洋中の溶存酸素濃度が低下する現象(海洋貧酸素化)が世界の外洋域で進行しているが、その生態系への影響には不明の点が多い。本研究の目的は、溶存酸素濃度記録計をアザラシに装着する新規手法を開発し、魚類・イカ類を大量に捕食する高次捕食動物の視点から、海洋貧酸素化が外洋の中深層生態系に与える影響を評価することである。本課題の初年度にあたる今年度は、アザラシに装着可能な溶存酸素濃度記録計の開発・検証を実施し、米国カリフォルニア州においてキタゾウアザラシに記録計を装着する野外調査を実施することを計画していた。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、様々な遅れや予定の変更が生じた。溶存酸素濃度記録計の開発は部品供給・調達の停滞により進行が約半年遅れた。観測船を使った実際の海洋での溶存酸素濃度記録計の検証試験は、時期や場所の変更を余儀なくされたが、千葉県館山市沖で実施できた。キタゾウアザラシの野外調査については当初予定していた日本から米国への研究者の派遣は行えなかったが、現地の米国側共同研究者に記録計の装着を依頼する形で実施できた。並行して、キタゾウアザラシの捕食行動の既存データと海洋物理モデルによる溶存酸素濃度の再解析データの解析を実施した。キタゾウアザラシが北東太平洋の400-800mの深さの溶存酸素濃度が低い中深層で小型のハダカイワシを捕食していること、一日を通して連続潜水し捕食の総数を増やすことで、一匹あたりの餌サイズの小ささを補っていることを明らかにした。また、北東太平洋の中でも中深層の溶存酸素濃度が比較的低いカリフォルニア沿岸海域ではアザラシの一日あたりの捕食回数が少ない傾向が見られ、海域ごとの溶存酸素濃度の違いが餌生物の種類や量の変化を通じてアザラシの捕食行動に影響を与えていることが示唆された。
- ID情報
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- 課題番号 : 20H00650
- 体系的課題番号 : JP20H00650