錯視日誌 - はじめに -

 
 錯視日誌では、研究、教育、アート,その他のことについて、いろいろなことを書いています。数理視覚科学の研究から生まれた学術的な新しい錯視図形や錯視アートの新作も発表しています。もともとは文字列傾斜錯視日誌という名前で、文字列傾斜錯視自動生成アルゴリズム(新井・新井、特許取得、JST)による作品の発表を中心にしていましたが、文字列傾斜錯視以外の話題が多くなってきたので、名称を「錯視日誌」に変えました。

Copyright Hitoshi Arai. 本日誌の文及びオリジナル画像の無断複製・転載を禁止します
錯視についてならば錯視の科学館へどうぞ.入り口はこちら:

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錯視 日誌

錯視日誌

連載最新作は「みかん、オクラ、ニンニク - スーパーで見られる「色の錯視」を知ってる?」

ITmedia NEWS に連載「コンピュータで"錯視"の謎に迫る」の最新作が公開されました。

第15回です。今回は

『みかん、オクラ、ニンニク──スーパーで見られる「色の錯視」を知ってる? 』

です。

どうぞご覧ください。

水彩錯視を使って作ったねずみどしの錯視の検証動画もあります。

あわせてご覧ください。

 

 

 

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私の名著発掘 - 書評集

 主に書店あるいは古書店を歩き回り、そこに陳列されている膨大な本の中から今までに発掘した掘り出し物をスローペースで紹介していきます。
テーマは数学、アート、錯視、文学関係です。

 


これまでに発掘した名著一覧(順不同。タイトルをクリックすると紹介文をご覧頂けます。)

★ 今はなき確率論のコンパクトな名著 - 鶴見茂著「確率論」
 発掘本:鶴見茂著『確率論、近代確率論への入門』(至文堂)
     「近代数学新書」シリーズ(至文堂)

★「少女終末旅行」の意志と表象としての世界
 発掘本:つくみず著『少女終末旅行』(新潮社)&アニメーション
     ショーペンハウアー著『意志と表象としての世界』(中央公論社)
     ショーペンハウアー著『哲学入門』(旺文社文庫)

★私の微分積分法がすばらしい
 発掘本:吉田耕作著『私の微分積分法 -解析入門』(ちくま学芸文庫)

★グレン・グールドから思うこと
 発掘本: ジョン・P. L. ロバーツ編『グレン・グールド発言集』(みすず書房)
      ティム・ペイジ編『グレン・グールド 著作集2』(みすず書房)

★太宰治と発散級数論
 発掘本:太宰治著『乞食学生』

★出版社とともに消えた名著 測度と積分、関数解析
 発掘本:鶴見茂著『測度と積分』(理工学社)
     宮寺功著『関数解析』(理工学社)

われ童子の時は・・・の句を聞いて。文語体と口語体
 発掘本:文語訳新約聖書(岩波書店)
     Ghost in the Shell / 攻殻機動隊(アニメーション)

★アイヴズの答えのない質問
 発掘本:L. バーンスタイン『答えのない質問』(1973年ハーバード大学での講座
     と実演)(ニホンモニター)DVD(*通販で入手)

★『ロジ・コミックス』 ラッセルとめぐる論理哲学入門が面白い!
 発掘本:ドクシアディス他『ロジ・コミックス ラッセルとめぐる論理哲学入門』
                (筑摩書房)

★マルチンキーヴィッチの悲劇
 発掘本:ジグムント著『作用素の補間に関するマルチンキーヴィッチのある定理について』(純粋・応用数学雑誌 1956年)

★ディーバーな関数論.笠原乾吉著『複素解析』(ちくま学芸文庫)
 発掘本:笠原乾吉著『複素解析 1変数解析関数』(実教出版,ちくま学芸文庫)

★数理科学を学べる本がほしい
 発掘本:アメリカ数理科学研究委員会編『数理科学の世界 数学の新しい可能性』
      (ブルーバックス)

★微分積分学の誕生とニコラウス・クザーヌス
 発掘本:高瀬正仁『微分積分学の誕生』(SBクリエイティブ, 2015)


★あなたにとってのバイブルは?無人島に持ってくとしたら?(1)
 発掘本:スミルノフ『高等数学教程』(共立出版)
                  E. M. スタイン『特異積分と関数の微分可能性』(Princeton Univ. Press,英文)
     L. ヘルマンダー『線形偏微分作用素の解析』(第1巻,Springer,英文)

★数学書売り場が寒い時代に復刊:コルモゴロフ・フォミーンの函数解析の基礎(オンデマンド)
 発掘本:コルモゴロフ、フォミーン著『函数解析の基礎』(岩波書店)

★印象深い確率論の本と伊藤清著「確率論」幻の1953年版
 発掘本:伊藤清著『確率論』(岩波書店、1953)
                  伊藤清著『確率論』(岩波講座「基礎数学」)
     コルモゴロフ著『確率論の基礎概念』(東京図書版、ちくま学芸文庫版)

★お薦めの錯視の本
 発掘本:ニニオ著『錯覚の世界 古典からCG画像まで』(新曜社)他4冊

★文庫で復刊 現代数学への招待 多様体とは何か(志賀浩二著)
 発掘本:表題のもの(岩波書店、ちくま学芸文庫)

★翼よ、あれがパリの灯だ
 発掘本:リンドバーグ著『翼よ、あれがパリの灯だ』(旺文社文庫、恒文社)

★オリジネータの本は違う!メイエの『ウェーブレットと作用素』
 発掘本:Y. Meyer著 "Wavelets and Operators" (Cambridge UP)

★ウェーブレットの数学書、この一冊
 発掘本:P. Wojtaszczyk著 "A Mathematical Introduction to
                   Wavelets" (Cambridge UP).

★バナッハの線形作用素論とサクスの積分論雑感
 発掘本:S. Banach, Theory of Linear Oprations(Dover)
                  S. Saks, Theory of the Integral (Dover)

★宮寺功著「関数解析」の解説
 発掘本:宮寺功著『関数解析』(ちくま学芸文庫)の解説

 

★お薦めの関数解析とウェーブレットの本

 発掘本:W. Rudin, Functional Analysis (McGraw Hill) 他


--------- 自著を語る ----------
☆応用重視の線形代数はどのような内容を講義すればよいか
 自著を語る:新井仁之,線形代数,基礎と応用(日本評論社)

 

☆「これからの微分積分」(新井仁之,日本評論社)のご案内





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『展覧会の絵 ー「見る」ことを研究し始めた数学者が見た美術の世界』(← Researchmap がにリニューアルされ、アドレスが全部変更になったため、現在修復しております。しばらくお待ちください)

 

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これからの微分積分(新井仁之,日本評論社)のご案内

「これからの微分積分」は数理科学の時代に即した微積分の本を目指して書いたものです。機械学習への応用なども収録しています。

表紙

今回のブログでは,この本の解説をしながら目次紹介をしたいと思います.なお著者によるサポートページ

http://www.araiweb.matrix.jp/biseki.html

もあり、訂正、補足情報がありますのでご覧ください。

以下は、本の解説です。

 

 

 

第I部微分と積分(1 変数)

ここではまず微分積分の基礎として,関数の極限から学びます.通常の微積分の本では数列の極限から始めることが多いのですが,本書では関数の極限から始めます.その理由はすぐにでも微分に入っていき,関数の解析をできるようにしたいからです.


第1章 関数の極限
1.1 写像と関数(微積分への序節)
1.2 関数の極限と連続性の定義
1.3 ε-δ 論法再論
1.4 閉区間,半開区間上の連続関数について
1.5 極限の基本的な性質

極限の解説をしている章ですが,特に1.3節の『ε-δ 論法再論』では,解析学に慣れてくると自由に使っているε-δ 論法の簡単なバリエーションを丁寧に解説します.このバリエーションについては,慣れてくると自明ですが,意外と初学者の方から,「なぜこんな風に使っていいんですか?」と聞かれることが少なくありません.


第2章 微分
2.1 微分の定義
2.2 微分の公式
2.3 高階の微分


第3章 微分の幾何的意味,物理的意味
3.1 微分と接線
3.2 変化率としての微分.
3.3 瞬間移動しない物体の位置について(直観的に明らかなのに証明が難しい定理)
3.4 ロルの定理とその物理現象的な意味
3.5 平均値定理とその幾何的な意味
3.6 ベクトルの方向余弦と曲線の接ベクトル
3.6.1 平面ベクトル
3.6.2 平面曲線の接ベクトル

第3章は本書の特色が出ているところの一つではないかと思っています.微分,中間値の定理,ロルの定理の物理的な解釈や幾何的な意味について述べてます.また,方向余弦の考え方にもスポットを当てました.


第4章 平均値の定理の応用例をいくつか
4.1 導関数が一致する関数について
4.2 関数の増加・減少の判定
4.3 関数の極限値の計算への応用(ロピタルの定理)

本章では平均値の定理の応用を扱ってますが,ロピタルの定理などは後々,頻繁に使うことになる定理です.

 

第5章 逆関数の微分

第6章 テイラーの定理
6.1 テイラーの定理
6.2 テイラー多項式による関数の近似
6.3 テイラーの定理と関数の接触

テイラーの定理を解説する際に,「近似」という観点と「接触」という観点があることを明確にしてみせています.

 

第7章 極大・極小
7.1 極大・極小の定義
7.2 微分を使って極大・極小を求める


極大・極小を微分を用いて解析することは高校以来,微分の非常に重要な応用の一つとして学んできました.ここでは基本的なことから,テーラーの定理を使って高階微分と極値との関係などを説明しました.応用上重要な多変数関数の極値問題へのウォーミングアップでもあります.


第8章 INTERMISSION 数列の不思議な性質と連続関数
8.1 数列の極限
8.2 上限と下限
8.3 単調増加数列と単調減少数列
8.4 ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理
8.5 数列と連続関数
論理と論理記号について
8.6 中間値の定理,最大値・最小値の存在定理
8.7 一様連続関数
8.8 実数の完備性とその応用
8.8.1 縮小写像の原理
8.8.2 ケプラーの方程式への応用
8.9 ニュートン法
8.10 指数関数再論


第8章では数列,実数の完備性,中間値の定理などの証明を与えつつ,イメージを大切にした解説をしました.この章も本書の特徴的なところの一つではないかと思います。
特に,ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理の重要性をアピールしました.また実数の完備性の応用として,縮小写像の原理(不動点定理の一種),ケプラー方程式などについて解説しました.ケプラーの方程式との関連は,実数の完備性が惑星の軌道を近似的に求めるのに使えるということで,インパクトを持って学んでいただけるのではないかと思います(筆者自身,ケプラーの方程式への応用を知ったときは感動した経験がありました).


第9章 積分:微分の逆演算としての積分とリーマン積分
9.1 問題は何か?
9.2 関数X(t) を探し出す
9.3 積分登場
9.4 連続関数の積分可能性
9.5 区分的に連続な関数の積分
9.6 積分と微分の関係
9.7 不定積分の計算
9.8 定積分の計算法(置換積分と部分積分)
9.9 積分法のテイラーの定理への応用
9.10 マクローリン展開を用いた近似計算


次に積分の基礎に入ります.逆接線の問題の物理的バージョンから積分の定義がどのように自然に現れるかを述べました(ここの部分の説明は拙著「微分積分の世界」を元にしました).積分を使ったテイラーの定理の証明も取り上げ,ベルヌーイ剰余ととりわけその変形(この変形はフーリエ解析や超関数論でよく使われる)を解説しました.またマクローリン展開を使った近似計算も述べています.

 

第II部微分法(多変数)
第10章 d 次元ユークリッド空間(多変数関数の解析の準備)
10.1 d 次元ユークリッド空間とその距離.
10.2 開集合と閉集合
10.3 内部,閉包,境界


第11章 多変数関数の連続性と偏微分
11.1 多変数の連続関数
11.2 偏微分の定義(2 変数)
11.3 偏微分の定義(d 変数)
11.4 偏微分の順序交換
11.5 合成関数の偏微分
11.6 平均値の定理
11.7 テイラーの定理


この章で特徴的なことは,ホイットニーによる多重指数をふんだんに使ったことでしょう.多重指数は偏微分方程式などではよく使われる記法です.また2階のテイラーの定理を勾配ベクトルとヘッセ行列で記述し,次章への布石としてあります.


第12章 多変数関数の偏微分の応用
12.1 多変数関数の極大と極小.
12.2 極値とヘッセ行列の固有値
12.2.1 線形代数からの準備
12.2.2 d 変数関数の極値の判定
12.3 ラグランジュの未定乗数法と陰関数定理
12.3.1 陰関数定理
12.3.2 陰関数の微分の幾何的意味
12.3.3 ラグランジュの未定乗数法
12.4 機械学習と偏微分
12.4.1 順伝播型ネットワーク
12.4.2 誤差関数
12.4.3 勾配降下法
12.4.4 誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)
12.4.5 平均2 乗誤差の場合
12.4.6 交差エントロピー誤差の場合


本章では前章の結果を用いて,多変数関数の極値問題,ラグランジュの未定乗数法を練習問題とともに詳しく解説しました.また,機械学習への応用について解説しました.これは数理系・教育系の大学1年生に,偏微分が機械学習に使われていることを知ってもらい,AIの勉強へとつながってくれることを期待して取り入れたトピックスです.


第III 部 積分法詳論

第13章 1 変数関数の不定積分

第14章 1 階常微分方程式
14.1 原始関数
14.2 変数分離形
14.2.1 マルサスの法則とロジスティック方程式
14.2.2 解曲線と曲線族のみたす微分方程式
14.2.3 直交曲線族と等角切線
14.2.4 ポテンシャル関数と直交曲線族
14.2.5 直交切線の求め方
14.2.6 等角切線の求め方
14.3 同次形
14.4 1 階線形微分方程式
14.4.1 電気回路
14.4.2 力学に現れる1 階線形微分方程式
14.4.3 一般の1 階線形微分方程式
14.5 クレローの微分方程式

積分を学んだあと,実際に積分を使うことを学ぶという目的で,1階常微分方程式のうち,イメージがつかみやすいものを取り上げて基礎的なことを解説しました.


第15章 広義積分
15.1 有界区間上の広義積分
15.2 コーシーの主値積分
15.3 無限区間の広義積分
15.4 広義積分が存在するための条件

広義積分は積分のなかでも重要なテーマです.さまざまな場面で実際に広義積分を使う場合が多く,またコーシーの主値積分など特異積分論としても応用上重要です.本章は少し腰を落ち着けて広義積分の解説が読めるようにしたつもりです.


第16章 多重積分
16.1 長方形上の積分の定義
16.2 累次積分(逐次積分)
16.3 長方形以外の集合上の積分
16.4 変数変換
16.5 多変数関数の広義積分
数学が出てくる映画
16.6 ガンマ関数とベータ関数
16.7 d 重積分


第17章 関数列の収束と積分・微分
17.1 各点収束と一様収束
17.2 極限と積分の順序交換
17.3 関数項級数とM 判定法
リーマン関数とワイエルシュトラス関数

本章も解析では極めて重要な部分です.あまり深みにはまらない程度に,とにかく使える定理のみを丁寧に解説しました.微分と極限の交換(項別微分)の定理,積分と極限の交換(項別積分)、微分と積分の交換定理は使う頻度が高い定理なので,よく理解しておくことが必要です.(後者の二つはルベーグ積分論でさらに使いやすい形になります。)


第IV部発展的話題

第18章 写像の微分
18.1 写像の微分
18.2 陰関数定理
18.3 複数の拘束条件のもとでの極値問題
18.4 逆関数定理


陰関数定理を不動点定理ベースの証明をつけて解説しました.この証明にはバナッハ空間上の陰関数定理の証明方法を使いました.非線形関数解析への布石にもなっています.逆関数定理の証明は陰関数定理を使ったものです.


第19章 d 重積分と変数変換
19.1 d 次元空間における極座標
19.2 d 変数関数の積分の変数変換の公式

付録A さらに発展的な学習へのガイダンス
付録B 問題の解答
参考文献

 

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線形代数については

応用重視の線形代数はどのような内容を講義すればよいか

に拙著『線形代数 基礎と応用』(日本評論社)の解説を載せてあります.

線形代数と微分積分

 

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今はなき確率論のコンパクトな名著 - 鶴見茂著「確率論」

 今回の「私の名著発掘」で取り上げたい本は1964年に至文堂という書店から刊行された鶴見茂著『確率論 近代確率論への入門』(以下、『確率論』)です。
 鶴見先生といえば、以前このコーナーの「出版社とともに消えた名著、測度と積分、関数解析」で紹介した『測度と積分』(理工学社)の著者でもあります。今日の発掘品の場合、ホームページを見ると至文堂さんは健在のようですが、全く残念なことに本は書店から消えた状態です。
 『確率論』は「近代数学新書」というシリーズの中の1冊で、このシリーズは私が学生時代には大きな書店に行くと陳列されておりました。今では書店で見ることはできませんが、理工系学部のある大学の図書館や、神保町の古書店「明倫館」さんには並んでいるようです。
 サイズはおよそ19.2✖13.5cm で、B6よりはやや大きめのハードカバー、その中でも『確率論』はページ数が161頁という薄めの本です。

 

 余談ですが、「近代数学新書」には面白い本がいくつも含まれていて、たとえば、数学者が書いた物理の本として近しく感じた矢野健太郎『相対性理論』、ネットの収束などが勉強できる野口広『位相空間』、皆川多喜造『射影幾何』などが、学生時代なかなか魅力的に感じました。

 さて本題に戻ることにしましょう。『確率論』の特徴ですが、一口に言えば、測度論的な確率論を測度と積分の基礎から無理なく学べる極めて分かり易い入門書です。ここで特に強調したいことは「測度と積分の基礎から」という点です。実際、本書は抽象的な測度論の基礎事項の解説から入っています。といっても確率論的な視点をベースにしていて、たとえば集合は「要素事象の集まり」、σ-集合体は「事象の集まり」、測度は「確率」という舞台設定の下で議論を進めています。そのため「抽象的過ぎてわかりにくい」ということはありません。むしろ、確率論の観点から、σ-集合体や測度の公理が自然なものであることを説いていて、ルベーグ積分の入門書よりわかりやすく測度と積分の勉強ができるかもしれません。
 また確率論の観点から本書を見れば、基礎として必要な不等式や収束定理が手際よく証明され、定義と定理が綺麗に陳列されているので、「あれはどうだったかな」というときにすぐに参照できます。
 解析学から測度論的確率論に入っていくには、絶好の入門書です。
 鶴見先生の「測度と積分」もそうですが、「確率論」が絶版になっているのは、実解析の教育を考えるとき、大きな痛手といえるでしょう。
 

 以下、章を追って「確率論」の良い点を挙げていこうと思います。
 第1章「確率空間」は解析学でいえば「測度空間」の章です。ただ、本書が通常の測度論の本と異なる特徴的な点は、第1章3節「試行、事象、確率」で、確率論として測度空間の公理が必然的なものであることを解説し、その中で二つの数学的な問題を提起していることでしょう。そのうち第1の問題は要するに、確率論的には事象からなる素朴に考えた集合族(有限加法族)$ {\cal F} $ は、必要ならこれに部分集合を加えて

$A_1,A_2,\cdots\in {\cal F} \to \cup_{j=1}^{\infty}A_j,\cap_{j=1}^{\infty}A_j\in {\cal F}$

をみたすべきということです。これは第4節の「有限加法族から生成されるσ-集合体」を考えることにより解決されます。
 第2の問題は、素朴に考えたときの事象の族と確率(有限加法的測度)は完全加法的なものに拡張すべきというものです。これは第6節のコルモゴロフの拡張定理で解決されます。この定理の証明はやや長いものですが、われわれにとってこの定理が何ゆえ必要なのか、そのモチベーションが第3節で説明されているので、無理なく読み通せます。ただこの辺りでは、さすがに確率論のイメージは背後に消え、解析学の測度論の風景の中を進んでいくことになります。
 測度論としてはコルモゴロフの拡張定理を証明したところで一段落するわけですが、確率論なのでさらにもう1節必要になります。それは測度論の本と確率論の本の違いが端的に現れるところで、確率論独特の「条件附確率」と「事象系の独立」です。ここでBayesの定理、ベルヌーイ列などが出てくると、「そうだ、これは確率論の本だった」と思い出させてくれます。
 第2章は「確率変数と平均値」です。つまり裏を返せば「可測関数と積分」となります。確率論的な説明も少しありますが、大半は積分論です。ルベーグの収束定理、ヘルダーの不等式、ミンコフスキーの不等式、直積測度の存在、フビニの定理が証明されます。
 ここは本質的にはスタンダードな積分入門なのですが、思わず「ちょっと待ってよ」と本を読むのを中断して、ページを勘定したくなります。というのはこれだけの内容が何とわずか24ページで、すっきりとした証明により書き上げられているのです。確率測度に限定されているとはいえ、さすが鶴見先生、と言いたくなってしまいます。
 第3章(p.63)以降はいよいよ確率論プロパーの話になります。第3章は「分布と特性関数」です。測度論的な厳密性を失わず、分布関数、結合分布関数、特性関数、レビの反転公式が扱われ、確率論で頻出の分布の例がだいたい挙がっています。今ではベイズ統計でよく出てくるベータ分布こそありませんが、それは時代を考えれば仕方ないかもしれません。
 第4章は「分布と確率変数の収束」です。確率論でよく使われる収束定理が証明されています。
 第5章「独立確率変数」では、独立確率変数列の各種収束定理と、独立性を特性関数で特徴づける有用なKacの定理が取り上げられています。
 第6章「独立確率変数に関する極限定理」はいわゆる大数の法則、中心極限定理という確率論の重要な定理の証明です。
 そして最後の第7章は「確率過程」ですが、離散パラメータの場合が扱われています。定常系列のエルゴード定理、条件付平均値、マルチンゲール、マルコフ連鎖が登場します。設定は、たとえば有界マルチンゲールの場合の収束定理など限定されているものもありますが、最初は少し緩やかな方が学びやすいことは確かです。
 ここまで本書を読めば、確率論のより詳しい本に進んでいくことは容易になるでしょう。

 「測度って何?」、「ルベーグ積分なんて知らない」という人が、測度論的確率論を学ぶには、この本がお勧めできます。「まずはルベーグ積分を学ばねば」ということはなく、本書でルベーグ積分の基礎も確率論と同時に学ぶことができます。



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前回までの『私の名著発掘』はこちらへどうぞ



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これからの微分積分 サポートページ

『これからの微分積分』(日本評論社)ISBN978-4-535-78904-3
のサポートページを開設しました.
http://www.araiweb.matrix.jp/biseki.html
をご覧ください.

Q&Aコーナーをはじめ,正誤表等があります.
このほか,現在,発展的なトピックス紹介コーナー,web版演習問題コーナーなども準備中です.

これからの微積分
新井 仁之
日本評論社(2019/11/22)

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第13回生物教育研究連携講演会@群馬高専

明日です。
第13回生物教育研究連携講演会
視覚と錯視の数理とその応用
新井仁之
2019/12/18(水) 14:30 ~ 16:15
群馬工業高等専門学校 電子情報工学科棟2階大講義
プログラム
14:30~ 群馬高専の生物分野紹介 (ポスター)
15:00~ 講演 (新井仁之)
詳細は
http://www.gunma-ct.ac.jp/renkei/pdf/seibutulec_13.pdf
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これからの微分積分について.

「これからの微分積分」は数理科学の時代に即した微積分の本を目指して書いたものです。機械学習への応用なども収録しています。

なお著者によるサポートページ 

http://www.araiweb.matrix.jp/biseki.html 

には本の訂正、補足がありますので、ご覧ください。


これからの微分積分
新井 仁之
日本評論社(2019/11/22)


今回のブログでは,この本の解説をしながら目次紹介をしたいと思います.

第I部微分と積分(1 変数)

ここではまず微分積分の基礎として,関数の極限から学びます.通常の微積分の本では数列の極限から始めることが多いのですが,本書では関数の極限から始めます.その理由はすぐにでも微分に入っていき,関数の解析をできるようにしたいからです.


第1章 関数の極限
1.1 写像と関数(微積分への序節)
1.2 関数の極限と連続性の定義
1.3 ε-δ 論法再論
1.4 閉区間,半開区間上の連続関数について
1.5 極限の基本的な性質

極限の解説をしている章ですが,特に1.3節の『ε-δ 論法再論』では,解析学に慣れてくると自由に使っているε-δ 論法の簡単なバリエーションを丁寧に解説します.このバリエーションについては,慣れてくると自明ですが,意外と初学者の方から,「なぜこんな風に使っていいんですか?」と聞かれることが少なくありません.


第2章 微分
2.1 微分の定義
2.2 微分の公式
2.3 高階の微分

第3章 微分の幾何的意味,物理的意味
3.1 微分と接線
3.2 変化率としての微分.
3.3 瞬間移動しない物体の位置について(直観的に明らかなのに証明が難しい定理)
3.4 ロルの定理とその物理現象的な意味
3.5 平均値定理とその幾何的な意味
3.6 ベクトルの方向余弦と曲線の接ベクトル
3.6.1 平面ベクトル
3.6.2 平面曲線の接ベクトル


第3章は本書の特色が出ているところの一つではないかと思っています.微分,中間値の定理,ロルの定理の物理的な解釈や幾何的な意味について述べてます.また,方向余弦の考え方にもスポットを当てました.


第4章 平均値の定理の応用例をいくつか
4.1 導関数が一致する関数について
4.2 関数の増加・減少の判定
4.3 関数の極限値の計算への応用(ロピタルの定理)

本章では平均値の定理の応用を扱ってますが,ロピタルの定理などは後々,頻繁に使うことになる定理です.


第5章 逆関数の微分

第6章 テイラーの定理
6.1 テイラーの定理
6.2 テイラー多項式による関数の近似
6.3 テイラーの定理と関数の接触

テイラーの定理を解説する際に,「近似」という観点と「接触」という観点があることを明確にしてみせています.

第7章 極大・極小

7.1 極大・極小の定義
7.2 微分を使って極大・極小を求める


極大・極小を微分を用いて解析することは高校以来,微分の非常に重要な応用の一つとして学んできました.ここでは基本的なことから,テーラーの定理を使って高階微分と極値との関係などを説明しました.応用上重要な多変数関数の極値問題へのウォーミングアップでもあります.


第8章 INTERMISSION 数列の不思議な性質と連続関数
8.1 数列の極限
8.2 上限と下限
8.3 単調増加数列と単調減少数列
8.4 ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理
8.5 数列と連続関数
論理と論理記号について
8.6 中間値の定理,最大値・最小値の存在定理
8.7 一様連続関数
8.8 実数の完備性とその応用
8.8.1 縮小写像の原理
8.8.2 ケプラーの方程式への応用
8.9 ニュートン法
8.10 指数関数再論


第8章では数列,実数の完備性,中間値の定理などの証明を与えつつ,イメージを大切にした解説をしました.この章も本書の特徴的なところの一つではないかと思います。
特に,ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理の重要性をアピールしました.また実数の完備性の応用として,縮小写像の原理(不動点定理の一種),ケプラー方程式などについて解説しました.ケプラーの方程式との関連は,実数の完備性が惑星の軌道を近似的に求めるのに使えるということで,インパクトを持って学んでいただけるのではないかと思います(筆者自身,ケプラーの方程式への応用を知ったときは感動した経験がありました).


第9章 積分:微分の逆演算としての積分とリーマン積分
9.1 問題は何か?
9.2 関数X(t) を探し出す
9.3 積分登場
9.4 連続関数の積分可能性
9.5 区分的に連続な関数の積分
9.6 積分と微分の関係
9.7 不定積分の計算
9.8 定積分の計算法(置換積分と部分積分)
9.9 積分法のテイラーの定理への応用
9.10 マクローリン展開を用いた近似計算


次に積分の基礎に入ります.逆接線の問題の物理的バージョンから積分の定義がどのように自然に現れるかを述べました(ここの部分の説明は拙著「微分積分の世界」を元にしました).積分を使ったテイラーの定理の証明も取り上げ,ベルヌーイ剰余ととりわけその変形(この変形はフーリエ解析や超関数論でよく使われる)を解説しました.またマクローリン展開を使った近似計算も述べています.

 

第II部微分法(多変数)
第10章 d 次元ユークリッド空間(多変数関数の解析の準備)
10.1 d 次元ユークリッド空間とその距離.
10.2 開集合と閉集合
10.3 内部,閉包,境界

第11章 多変数関数の連続性と偏微分
11.1 多変数の連続関数
11.2 偏微分の定義(2 変数)
11.3 偏微分の定義(d 変数)
11.4 偏微分の順序交換
11.5 合成関数の偏微分
11.6 平均値の定理
11.7 テイラーの定理


この章で特徴的なことは,ホイットニーによる多重指数をふんだんに使ったことでしょう.多重指数は偏微分方程式などではよく使われる記法です.また2階のテイラーの定理を勾配ベクトルとヘッセ行列で記述し,次章への布石としてあります.


第12章 多変数関数の偏微分の応用
12.1 多変数関数の極大と極小.
12.2 極値とヘッセ行列の固有値
12.2.1 線形代数からの準備
12.2.2 d 変数関数の極値の判定
12.3 ラグランジュの未定乗数法と陰関数定理
12.3.1 陰関数定理
12.3.2 陰関数の微分の幾何的意味
12.3.3 ラグランジュの未定乗数法
12.4 機械学習と偏微分
12.4.1 順伝播型ネットワーク
12.4.2 誤差関数
12.4.3 勾配降下法
12.4.4 誤差逆伝播法(バックプロパゲーション)
12.4.5 平均2 乗誤差の場合
12.4.6 交差エントロピー誤差の場合


本章では前章の結果を用いて,多変数関数の極値問題,ラグランジュの未定乗数法を練習問題とともに詳しく解説しました.また,機械学習への応用について解説しました.これは数理系・教育系の大学1年生に,偏微分が機械学習に使われていることを知ってもらい,AIの勉強へとつながってくれることを期待して取り入れたトピックスです.


第III 部 積分法詳論

第13章 1 変数関数の不定積分

第14章 1 階常微分方程式
14.1 原始関数
14.2 変数分離形
14.2.1 マルサスの法則とロジスティック方程式
14.2.2 解曲線と曲線族のみたす微分方程式
14.2.3 直交曲線族と等角切線
14.2.4 ポテンシャル関数と直交曲線族
14.2.5 直交切線の求め方
14.2.6 等角切線の求め方
14.3 同次形
14.4 1 階線形微分方程式
14.4.1 電気回路
14.4.2 力学に現れる1 階線形微分方程式
14.4.3 一般の1 階線形微分方程式
14.5 クレローの微分方程式

積分を学んだあと,実際に積分を使うことを学ぶという目的で,1階常微分方程式のうち,イメージがつかみやすいものを取り上げて基礎的なことを解説しました.


第15章 広義積分
15.1 有界区間上の広義積分
15.2 コーシーの主値積分
15.3 無限区間の広義積分
15.4 広義積分が存在するための条件

広義積分は積分のなかでも重要なテーマです.さまざまな場面で実際に広義積分を使う場合が多く,またコーシーの主値積分など特異積分論としても応用上重要です.本章は少し腰を落ち着けて広義積分の解説が読めるようにしたつもりです.


第16章 多重積分
16.1 長方形上の積分の定義
16.2 累次積分(逐次積分)
16.3 長方形以外の集合上の積分
16.4 変数変換
16.5 多変数関数の広義積分
数学が出てくる映画
16.6 ガンマ関数とベータ関数
16.7 d 重積分

第17章 関数列の収束と積分・微分
17.1 各点収束と一様収束
17.2 極限と積分の順序交換
17.3 関数項級数とM 判定法
リーマン関数とワイエルシュトラス関数

本章も解析では極めて重要な部分です.あまり深みにはまらない程度に,とにかく使える定理のみを丁寧に解説しました.微分と極限の交換(項別微分)の定理,
積分と極限の交換(項別積分)、微分と積分の交換定理は使う頻度が高い定理なので,よく理解しておくことが必要です.(後者の二つはルベーグ積分論でさらに使いやすい形になります。)


第IV部発展的話題

第18章 写像の微分
18.1 写像の微分
18.2 陰関数定理
18.3 複数の拘束条件のもとでの極値問題
18.4 逆関数定理


陰関数定理を不動点定理ベースの証明をつけて解説しました.この証明にはバナッハ空間上の陰関数定理の証明方法を使いました.非線形関数解析への布石にもなっています.逆関数定理の証明は陰関数定理を使ったものです.


第19章 d 重積分と変数変換
19.1 d 次元空間における極座標
19.2 d 変数関数の積分の変数変換の公式

付録A さらに発展的な学習へのガイダンス
付録B 問題の解答
参考文献

なお本書の補足情報と訂正情報が
http://www.araiweb.matrix.jp/biseki.html
にあります.適宜更新しますので,ご覧ください.



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線形代数については

『応用重視の線形代数はどのような内容を講義すればよいか』

に拙著『線形代数 基礎と応用』(日本評論社)の解説を載せてあります.


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「これからの微分積分」についてコメント

「これからの微分積分」(日本評論社)は,大学1年生向け微積分の教育に
関する一つの新しいプログラムです。
基礎から応用までの生き生きとした素材や、微積の授業の中に機械学習への
応用を組み入れる具体的な案の提示でもあります。

これからの微積分
新井 仁之
日本評論社(2019/11/22)


なお本書の補足情報と訂正情報が
http://www.araiweb.matrix.jp/biseki.html
にあります.適宜更新しますので,ご覧ください.

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「これからの微分積分」が出版されました

『これからの微分積分』(日本評論社)が発売されました。
微分積分とそれに関するいろいろなことを書きました。
機械学習への応用を扱った節もあります。
https://www.amazon.co.jp/dp/4535789045




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お知らせ:第13回生物教育研究連携講演会

第13回生物教育研究連携講演会
視覚と錯視の数理とその応用
新井仁之
日 時: 2019年 12月18日(水)
14:30 ~ 16:15 (14:00 開場・受付)
14:30~ 群馬高専の生物分野紹介 (ポスター)
15:00~ 講演 (新井仁之)
会場:群馬工業高等専門学校 電子情報工学科棟2階大講義
詳細はこちらをご覧ください
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わせだイリュージョンミュージアム開催中

早稲田祭2019で『わせだイリュージョンミュージアム』を開催中です.
テーマは「数学から見る錯視の世界」です.
場所は早稲田大学・戸山キャンパス 33号館 131室.
戸山キャンパスは地下鉄東西線「早稲田駅」下車,または
学バス(高田馬場駅前発)の馬場下町下車徒歩3分ほどの
ところにあります.
ただ早稲田祭開催期間中は,道路(歩道)の混雑のため少し時間が
かかるかもしれません.

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「少女終末旅行」と「意志と表象としての世界」

ショーペンハウアーの哲学書『意志と表象としての世界』([1]) は
「世界は私の表象である」
という有名な言葉で始まります。
これはとても寂しく悲しい言葉だったのです。
この本は昔から時折読んでいたのですが、このことに今の今まで気づきませんでした。
もしも世界が私の表象であるならば、世界はとても狭く、私が消えれば世界も消えてしまいます。
『いや、そんなことはない。君が死んでも世界はずっと続くに決まっているじゃないか。』
そう反論されるのは目に見えています。多分私がいなくなっても世界は続くのかもしれません。しかし、それはほんの少しばかり私よりも長生きするであろうあなたの表象する世界であって、私の世界ではないのです。
そして、もしあなたが死んだとしても、確証はありませんが、さらに別の人の表象する世界は存在するのでしょう。まるで永遠に解析接続されていく関数のように、小さな表象の世界が延々と繋がっていくのかもしれません。
確かなことは私が消えれば、私の表象としての世界は無くなるということです。そしてもし世界の生物がすべて死に絶え、私が最後の一人だとすると、私がいなくなったらもはや表象としての世界も永遠に消え去ってしまうのです。
そうだとすると、「世界は私の表象である」という主張はとても寂しいものではないでしょうか。

こんなことを感じたのは、つくみず著『少女終末旅行』という漫画を読んだからです。
じつは先日、『少女終末旅行』という連続アニメをつられて見はじめ、とても面白いので最後の回まで見続けてしまいました。ところがこのアニメは物語の途中で最終回を迎えてしまいます。結末が分からないのです。そのため、どうにも気になり、アニメ化されていない最後の部分をコミックで読みました。
詳しいストーリーは明かさない方が良いと思うので言いませんが、主人公は二人の女の子、ちーちゃんとゆーちゃんです。二人は誰もいない世界(ただ旅の途中で別の二人の人には会いますが)にいます。そして、何があるのかわからない世界の上層を目指して旅をしています。ちーちゃんは本好きで、旅の途中『意志と表象としての世界』を拾います。本はもうほとんど世界に存在せず、貴重なものなのです。しかし、やがて拾った本やもともと持っていた本も、それに大切につけていた日記帳も燃料代わりに燃やさざるをえなくなります。
最後の方の場面で、ちーちゃんはゆーちゃんに言います。

『・・・私不安だったんだ。こんなに世界は広いのに・・・何もしらずに自分が消えてしまうのが・・・だけどあの暗い階段を登りながらユーの手を握ってたら自分と世界が一つになったような気がして・・・それで思った・・・見て触って感じられることが世界のすべてなんだって・・・よくわかんないよね・・・こんなこと言っても』
『わかるよ 私もずっとそれを言いたかった気がする。』
『・・・ユーのくせに』
『あ 日が』
(『少女終末旅行』第6巻より)

何かとても悲しく寂しい会話です。

正直なことを言うと、私は中学のときに哲学に興味をもち、最初に手にした本はショーペンハウアー『哲学入門』(旺文社文庫)でした。この本は「意志と表象としての世界」の抄訳でした。(このとき購入した旺文社文庫はいつの間にか紛失してしまったので、手元にあるのは中央公論社版です。)それ以来、何度となく抜き読みしていたのですが、この本の最初の部分はある意味認識論のようなことが書き連ねてあって、私自身は人の認識のメカニズムに関する学説ばかりに目が向いていました。
「世界は私の表象である」
『少女終末旅行』はこの思想に別の側面が潜んでいることを気付かせてくれた漫画です。
他にもちーちゃんとゆーちゃんの会話には趣きがあり印象に残る言葉がいっぱい含まれています。
アニメの音楽(末廣健一郎氏)もすごく雰囲気を出していて良いものです。
「少女終末旅行」は何か普通の漫画を超えたすばらしい作品だと思います。

文献:[1] ショーペンハウアー『意志と表象としての世界』(西尾乾二訳、中央公論社)

前回までの『私の名著発掘』はこちらへどうぞ

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わせだイリュージョンミュージアム

第1報

早稲田祭2019
わせだイリュージョンミュージアム
テーマ:数学から見る錯視の世界
場所:33号館 131教室(戸山キャンパス*)
期間:11月2日(土)、3日(日)(10時から17時)
 *) 戸山Cは東西線「早稲田駅」徒歩3分程度、文学部、  
       早稲田アリーナがあるところです.


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数理科学 現代数学の捉え方[解析編](最新号)

『数理科学』(サイエンス社)最新号 
特集 現代数学の捉え方 [解析編] - いかにして問題を設定していくか
発売されました。

「巻頭言 数学の内部と外部からの問題設定」
を執筆しています。

http://www.saiensu.co.jp/?page=magazine&magazine_id=1  (立ち読みコーナーもあります。)

数理科学 2019年 10 月号 [雑誌]
サイエンス社(2019/09/20)


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秋は秋茄子と文字列傾斜錯視


秋は秋茄子ですね.
ということで今日は秋茄子を題材に文字列傾斜錯視を考えてみました.
文字列傾斜錯視は文字列が水平に並んでいるにもかかわらず,傾いて見える錯視のことです.これは日本のインターネットに現れた日本発の錯視です.
どのような文字列でも傾いてみえるわけではありません.実際,本やネットを読んでいても文字列が傾いて見えることはほとんどありません.しかし,文字列によっては傾いて見えるものもあります.たとえば


アキナースアキナースアキナース
アキナースアキナースアキナース

ーナキアスーナキアスーナキアス
ーナキアスーナキアスーナキアス

アキナースアキナースアキナース
アキナースアキナースアキナース

ーナキアスーナキアスーナキアス
ーナキアスーナキアスーナキアス


並行なのに傾いて見えませんか
(パソコンの環境によっては傾いて見えない場合があります.)
文字列傾斜錯視の数学を用いた私の研究については
ITmedia NEWS
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1710/12/news030.html
をご覧ください.
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眠れぬ夜のための錯視

今年がカール・ヒルティの没後110年ということもあり、ヒルティの著書『眠られぬ夜のために』にちなんで、眠れない夜に錯視にいろいろと思いを巡らせていこうというサイトです。
眠れぬ夜のための錯視
今回は第一話としてザンダー錯視をメタモルフォーズする話を書きました。
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掛谷問題のはじまり -武士は厠で槍を回転させたか -

独自の調査に基づき、掛谷宗一氏が掛谷の問題をどのように思いついたのか、当時の様子を再現しながらわかるように書いたものです。
『掛谷問題のはじまり』(新井仁之)
実際は武士が厠で槍を1回転させるエピソードとは異なるようです。
数学セミナー(2002年8月号)に掲載された拙稿に基づくものです。


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あなたにとってのバイブルは?無人島に持ってくとしたら?(1)

 気の置けない仲間と会ったときに,「自分にとってのバイブルは?」,「無人島に行くとしたらどの本をもって行く?」といったことを談義したことがありました.無人島に持っていく本のときは,それぞれの嗜好が如実に現れたものです.たとえば,正確な書名は忘れましたが中国の詩選集のようなものを挙げた人などは,昔から完全な漢詩オタクでした.だいぶ前のことになりますが,この人が中島敦がスゴイぞと言って,押し売りしてきたときなど,いくつか小説を読まなければならない羽目になったこともあります.さすがに白楽天,王維などは受け流すだけでお付き合いはできませんでしたが.
 別の友人で,大変な読書家の御仁は意外にもポー全集をあげてきました.しかし無人島でいつ帰れるのかわからず,ひょっとしたらこんなところで朽ち果てることになるかもしれない,そのようなときにポー三昧はさすがに避けたいような気がします.ほかに「俺の書いた戯曲」なんて人もいました.
 そんな中で,私が答えたのはスミルノフの『高等数学教程』全12巻でした.そのときはなぜかこれがすぐに頭に浮かび,迷うことなく挙げました.どんな本かと聞かれ,とっさに思い付きで次のようなことを言ったような記憶があります.
 「この本は,日本人の書いたスッキリした本とは大違いで,最初の関数の定義あたりから,何やら応用,実用の例が盛りだくさんで,そのうえまた解説がくどく,先が見えない長編小説のようなものですね.蕎麦屋でもりそばをツルリというのが日本人の本だとすると,日本のロシア料理店で食べるフルコースのような違いかもしれない.(残念ながら本場のロシア料理は食べたことがありません.)」
 高等数学教程は無人島に行く羽目になったら,第1巻からじっくり読んでみたいとそのときは思っていました.ただ数学に興味のない人にとっては,私にとっての漢詩よりも更に悪いものだったと思います.
 しかしながら,無人島に行ってこの数学の入門書しかなかったら,案外はまる人も多いかもしれません.

 「バイブルは?」これにはさすがに数学の本は挙げませんでしたが,もしも数学書が許されたなら,多分,次の2冊を今でも挙げるでしょう.
 一つは,E. M. スタインの『特異積分と関数の微分可能性』(E. M. Stein, Singular Integrals and Differentiability Properties of Functions),もう一つは L. ヘルマンダーの『線形偏微分作用素の解析』(L. Hörmander, The Analysis of Partial Differential Operators)の第1巻です.
 スタインの本なら,今だったら大著『調和解析 - 実解析的方法,直交性,そして振動積分』もありますが,やはり私にとっては『特異積分と関数の微分可能性』(以下,『特異積分』と略記)です.本の内容というよりは,こちらの本の方がいろいろな思い出があるという個人的な理由によります.

 『特異積分』は大学院生の頃からつまみ食いはしていましたが,最初に印象付けられたのは,学位を取得して間もなくの頃です.プリンストン大学のスタイン先生のところに visiting fellow として行っていたときに,X先生の大学院の講義を聴いていたら,「これについては the book に書いてある」と言っていました.特に断りもありませんでしたが,これは言うまでもなく『特異積分』のことです.「the book」と強調していたので印象に残りました.このX先生,気さくなところもある方でした.私に「お前は日本人か?」と聞いてきたので,「そうです」と答えたところ,「TsujiのPotential Theory を読んだか?」とさらに言ってきました.辻正次『複素函数論』(槇書店)には学部の頃から大分お世話にはなっていましたが,Potential Theoryは読んでいなかったので,「いえ」というと「Tsuji のPotential Theory を読んでなければ数学者じゃない.ぜひ全部読め」と笑っていました.冗談めかして言っていたようにも感じましたが,じつは本気で言っていたのかもしれません.早速,図書室に行ったことはいうまでもありません.
 
 『特異積分』に本格的にお世話になったのは,その少し後でした.スタイン先生にLusinの面積積分作用素の境界値問題への応用に関する問題を出され,『特異積分』を片手に必死に考えたときです.1か月くらいしてスタイン先生の研究室に行くと,「最近,見かけなったけどどうしていたのか」と聞かれたので「この前出された問題を考えていて,解きました」と答えると,早速話をさせられました.
 ついでに言いますと,『特異積分』の中で個人的にとても面白いと思ったのは,滑らかな関数の拡張に関する章です.この部分は東京大学に移ってから大学院で講義をしました.まだフェファーマンの一連の仕事はなかったので,講義したのは古典的な話でした.

(続く)

前回までの『私の名著発掘』はこちらへどうぞ
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西早稲田にあるのは西早稲田キャンパスではなく,早稲田キャンパス

昔,早稲田大学理工学部のあるキャンパスは「大久保キャンパス」と言っていました.おそらく比較的最近,「大久保キャンパス」を改め「西早稲田キャンパス」としました.
さて,私の居る「早稲田キャンパス」(時計台や大隈銅像のある方)は西早稲田にあります.住所が西早稲田です.つまり「西早稲田キャンパス」は西早稲田にはなく大久保にあり,西早稲田にあるのは「早稲田キャンパス」です.
ちなみに都バスのバス停「西早稲田」は「早稲田キャンパス」に近接して,西早稲田にありますが,副都心線の「西早稲田」は「西早稲田キャンパス」の前にあり,西早稲田にはありません.
人から聞いた話ですが,西早稲田に行きたくタクシーで「西早稲田」と行ったら,西早稲田から離れた「西早稲田キャンパス」に連れていかれたとか.試しにタクシーに乗って,「西早稲田」と言ったら,そのときは迷うことなく「西早稲田キャンパス」のない本当の西早稲田(住所が西早稲田という意味)に行ってくれました.
初めて(あるいは久々に)早稲田大学に行かれる方はお気をつけください.
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ウォーホルの作品にインスパイアされた錯視アート作品

アンディ・ウォーホルの『キャンベルのスープ缶』にインスパイアされて作成した錯視作品『 キャンベルのスープ缶の浮遊錯視 』(新井仁之・新井しのぶ作)です.こちらをご覧ください.⇩
https://twitter.com/arai20092/status/1138986401611956224

数学的方法による浮遊錯視生成技術(新井仁之・新井しのぶ)を用いて作成したものです.
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TeXで仕事して感じたこと

TeXで数十頁前を少し修正する.dviにするとその近傍では行が変わったり文書の様子が変わる.しかし数十頁後のレイアウトには何も影響がない.もしタイムマシンがあって,それを使って過去に戻って,多少過去を変えても現在の自分には何も影響がない場合があるかもしれない.TeXで仕事しながらそんなことが脳裏をかすめました.
Wordで文書を作成していても,そんなことは感じたことはありません.TeXの場合,コンパイルする間の微妙な時間がそう感じさせるのでしょう.
雑談です.
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数学書売り場が寒い時代に復刊:コルモゴロフ・フォミーンの函数解析の基礎(オンデマンド)

 最近、職場が変わったため、神保町に行く機会がめっきり減ってしまい、悪いことには近所にまとまった数学書を置いてある書店がなく、仕事の帰りに数学書を漁るという楽しみは失われてしまいました。しかしその要因は私個人の環境の変化によるものだけではないようです。かつては数学書をたくさん揃えていた書店の多くが、軒並み数学書売り場を大幅に縮小し、その代わりにプログラミングや人工知能関係、コミックの売り場を拡大しているという時代の趨勢もあります。深層学習や Pyhtonの本を渡り歩くのも楽しいのですが、何かそれだけでは物足りなさも感じられます。
 さらには、そうでなくとも脇に追いやられてしまった数学書売り場が、また別のことでかわいそうな状況に陥っています。まるでビジネスのハウツーもののような数学書が大いに幅を利かせているのです。大勢の人たちの役に立つハウツーものが大きな顔をして、重要ではあるが少数のニーズしかない書籍は駆逐されつつあります。それが市場の原理というものなのかもしれません。書店さんの大きな役割の一つは、多くの人が興味をもつ本をできるだけ多くの人に提供するということでしょからやむを得ないことではあります。

 そんな中、岩波書店のオンデマンドで、コルモゴロフとフォミーンによる『函数解析の基礎』上、下(山崎三郎・柴岡泰光訳)が復刊されることを知りました(岩波書店HPによると6/11発売)。オンデマンドのため、特別な書店以外に陳列されることはないと思いますので、今日はこの本について紹介してみようと思います。

本の写真
学生時代に購入した1979年刊行の第1刷の写真。昔は箱入りだった(筆者撮影)


1. 集合・位相、実解析、関数解析の融合的教育
 関数解析は20世紀に生まれた解析学で、解析系のかなりの分野がその影響を受けています。関数解析は複素関数論、ルベーグ積分論と共に解析学の根幹をなす基礎的な分野といえるでしょう。そのため、教科書も内外で数多く出版され、Dunford-Schwartzの Linear Operators I, II, IIIのような大著から、K. Yosida, Functional Analysisのような定番ロングセラーまで様々な切り口の優れた本が乱立しています。
 そのような中で本書、コルモゴロフ・フォミーンの『函数解析の基礎』は面白い立ち位置にあります。訳者まえがきによれば、この本の原題の訳は『函数の理論および函数解析の基礎』とのことです。つまり、関数解析プロパーの本というよりは、集合、位相、ルベーグ積分、関数解析も含めた実解析系解析学(要するに複素関数論は含まない解析)の融合的な入門書をねらったものとなっています。融合的と申しますのは次のようなことです。多くの数学科では、「集合・位相」、「測度と積分(いわゆるルベーグ積分論)」、「関数解析」は独立した科目になっています。まず「集合・位相」を勉強して、それとは別に「ルベーグ積分」があって、「関数解析」があるというものです。担当教員も通常異なります。ところが、この本では、これらの話題が独立したものとしてではなく、混然一体となって話が展開されていきます。
 まず集合から始まり、次に距離空間と位相空間に入りますが、出てくる具体例は解析関係の関数空間や積分方程式などばかりです。その後、ノルム空間と位相線形空間が現れ、弱位相、超関数まで一挙に進みます。それから線形作用素の一般論です。そしてここで突然、測度と積分に入ります。これで訳書の場合は上巻が終わります。本文のページ数にして326ページです。
 次に下巻に入ります。下巻のページ数は索引・文献・目次を除けば222ページなので、厚さは上巻のおよそ3分の2、物理的にやや薄めになっています。しかし内容は厚く、ルベーグ積分の続論と、関数解析の応用が扱われています。じつはその部分が非常に面白いところなのですが、詳しくは改めて次節で紹介いたします。
 他国の状況はよく知りませんが、先に述べたように日本では「集合・位相」、「ルベーグ積分」、「関数解析」は独立して教えられているので、コルモゴロフ・フォミーンのような融合型の授業はしづらいかもしれません。また、たとえばもしもこの本で集合・位相を教えようとすると、特に「位相」では出てくる例が(解析の本だから当たり前ですが)解析分野に偏っているので、代数系、幾何系の教員の方々の不評を買うことになるでしょう。ただ、集合・位相を学ぶにしても、それが積分方程式や微分方程式の話に直結しているので、「何のためにこんな抽象的なことを延々とするの!?」という疑問は起こらないように思えます。
 こういった大学数学教育の状況は別として、上巻はじっくり読めば距離、位相、関数解析、実解析の基礎が身に付くはずです。

2. もの凄い下巻  - 線形から非線形へ -
 さて、コルモゴロフ・フォミーンの本のうち、上巻もさることながら下巻が凄いものになっています。特に下巻の第7章から第10章です。
 第7章はL1空間、L2空間のことが書かれていますが、それは表向きで、大半は三角関数系、若干の直交多項式の話で、何とRademacher-Walshの直交関数系の完備性にまで言及されています。それから第8章のFourier級数、Fourier変換の章がまた凄い。Fourier級数の収束などは、他の多くの本では読むのがしんどいものですが、本書ではすんなりと自然体で流れるように読むことができます。熱方程式への応用や確率論への応用、超関数のフーリエ変換にまで触れていて、この短いページ数によくこれだけ要領よく書けたものだと感心せざるをえません。しかも詰め込み感は全くありません。どことなくスカスカに記述されているのに、内容が濃いというものです。
 じつは、よく考えてみるとフーリエ解析が出色なのも当たり前のことで、コルモゴロフと言えば、若い頃はフーリエ解析で鳴らした古典調和解析のつわものです。ところで当時の応用数学の巨人といえば、ウィーナーとコルモゴロフが思い浮かびますが、どちらも古典調和解析の研究を初期の若い頃に行っていました。このことには偶然以上のものがあると思います。ちなみに確率解析で有名なマリアヴァンも古典調和解析から出発しています。なぜ古典調和解析なのか、このへんのことはまた別の機会に述べたいと思います。
 続いて積分方程式のFredholm理論が解説され、そして最終章(第10章)「線形空間における微分法の基礎」になります。ここは本書の中でも非常に特徴的な部分で、おそらくこの章は著者たちが最も書きたかったところではないかと思えます(あくまでも私見です)。当時、関数解析の入門書といえば線形理論が主流でしたが、第10章は教科書としては異色の非線形理論でした。私自身は関数解析、実解析は別の本で学びましたが、それにもかかわらず本書を手に取った大きな理由は、第10章にひかれたからです。
 10章はまずフレッシェ微分、ガトー微分から入り、Banach空間上の陰関数定理が証明されます。次にBanach空間の接多様体に関する Lusternikの定理が、特別な場合に限定されていますが証明され(その方が初学者には断然わかりやすい)、極値問題、特にBanach空間におけるLagrangeの乗数法が扱われます。Banach空間の写像に対するニュートン法にも触れられています。極値問題では、変分法、最適制御、凸計画法などへの応用が仄めかされていますが、詳細はさすがに論じられていません。(この辺のことをさらに学ぶには、 Luenberger『関数解析による最適理論』(コロナ社)が良いと思うのですが、残念ながら今は販売されていないようです。)

3. 今またコルモゴロフ・フォミーンが新しい!
 関数解析の非線形理論は応用系・情報系・工科系からも興味をもたれています。コルモゴロフ・フォミーンの本は、集合・位相、実解析、関数解析の自然な融合体であることを考えると、数学科だけでなく、情報、工学系の人にとっても良いテキストたり得るもので、今の時代に大いにフィットした入門書と言えるでしょう。
 本書の原書第4版は今から40年以上昔の1976年に出版されています。その前身の第2版に至っては1962年、50年以上前に書かれたものです。40年も前の本が今の時代の視点から見ても斬新であるというのは、第一級の数学者である著者が、将来この分野を学ぶものにとって何が重要であるかをしっかりと見据えていたからだといえるでしょう。そして、それはまた数学は古いけれども、常に新しい学問で、時代の潮流とは関係なく基本的に重要なのものであるからだとも言えます。

4. これからの数学教育について少し雑談
  ところで数学の教育内容として何が重要かという議論は往々にして、現在は「・・・」がブレークしているからとか、海外ではどうだとかこうだとか、そんなものになりがちです。しかし時代や海外動向に敏感な議論は、現在の情勢に束縛されるあまり、ときとしてそこから導き出される結論が、時代や世界を先んずるものではなく、後発的なもの、場当たり的なもの、先進的な国の劣化した二番煎じになる危険性がないともいえません。単なる模倣が良いところを取り入れていることにはなっていない場合もあります. 
 数学は人類が得た宇宙共通の真理であり、必然的に自然を解明し、技術を支えるものになっています。したがって数学の教育内容として何が将来的に重要かは、数学の特性、そして数学が現在までに科学・技術に応用されてきた(されている)メカニズムをよく研究したうえで考えることにより、本質的なものが見えてくるはずです。そうすれば、100歩も、200歩も時代の先を行くための数学の素養を持つ人材が育つような教育も可能になるでしょう。

 話が本題から大分脱線し始めてきたので、そろそろ今回の本の紹介も終えることにしたいと思います。

5. おわりに
 何にしても、書店に足を運ぶと、軽く読めばすぐにわかる程度の内容が書かれた面白数学本ばかりではなく、前時代的な古臭い考えではありますが、将来50年後の人たちが「50年前にこんなすごい数学書があったんだ」と言うような数学の本も数多く手に取ることができるとよいように思えます。そしてひと時代前の、そういう本がいろいろな書店で見かけることのできた、何事も悠長だった頃が懐かしい気がします。


前回までの『私の名著発掘』はこちらへどうぞ


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応用重視の線形代数はどのような内容を講義すればよいか

 現在,ご存知のように線形代数は高校数学から省かれています.なぜ今の時代にあえて線形代数を外す必要があったのか,その理由は私には理解できません.線形代数は,むしろ全く新しい形態で大いに取り入れた方がよいと考えます.高校の数学教育については別の機会に述べることにして,今日のブログでは,大学の線形代数について少し書いてみようと思います.

 15-16年ほど前のことになりますが,次の時代の線形代数はデータ解析の観点から講義内容を組み直す必要があると考え,そのためには大学で線形代数の何をどのように講義すべきか,どのような応用例が必要か,そんなことを真剣に一人で検討していたことがありました.特に依頼があったわけでもなく,なぜそんなことに時間をかけていたのか思い出せませんが,諸事忙しい合間をぬって,線形代数についていろいろと思いを馳せながらノートをまとめていました.かなりの分量になってしまったものの,幸い2006年に日本評論社から530ページ強の拙著『線形代数 基礎と応用』として出版されました.
「無限個のデータを扱うのが解析学であり,有限個のデータを扱うのが線形代数である」(『線形代数 基礎と応用』の序文より)
という思想が基軸になっている線形代数の教科書です.

 内容は,いろいろと練っていくうちに,線形代数の基礎のきっちりとした説明は外さないようにしつつ,
 特異値分解,一般化逆行列,巡回たたみ込み,離散フーリエ解析,
 ウェーブレット,回帰分析・主成分分析など多変量解析の基礎,テンソル積
などになるべく重点を置き,
 画像処理,音声のスペクトログラム,信号の特異性の検出などの応用例
も入れました.
 当時はこのプログラムがスタンダードな教養の線形代数のコースになるはずもありませんでしたし,これまでのスタンダードが悪いとも思っていなかったので,標準の授業とは別に,下記内容の「第3部応用編」を全学自由研究ゼミナールで有志の1年生・2年生に何年か講義していました(東京大学駒場にいた頃の話です).

 しかし,今だったら十分に以上の内容(より詳しくは下記の項目)を組み込んた方が良いように思います.



図:特異値分解を用いて行列の階数を減らすことによる画像データ圧縮例 (新井仁之著「線形代数 基礎と応用」第16章 特異値分解とその応用より)

 その当時練った内容が次のものです:

『線形代数 基礎と応用』の目次          
             
  第1部 基礎編 - 行列と行列式 -      
             
   第1章 数ベクトル空間、線形写像、基底
       1.1 数ベクトル
      1.2 数ベクトルの算術(線形演算)
       1.3 線形写像
  第2章 行列と行列の演算
       2.1 行列
       2.2 行列の演算
       2.3 基本的な行列の例
       2.4 逆行列
  第3章 線形写像と行列
       3.1 線形写像の行列による表現
       3.2 行列と線形写像の演算
       3.3 写像と逆写像
  第4章 ガウスの消去法
       4.1 具体例
       4.2 より一般場合のガウスの消去法
       4.3 基本行列の積による行列の変形
       4.4 逆行列の計算 -掃き出し法
  第5章 行列式
       5.1 置換
       5.2 置換の符号と偶置換,奇置換
       5.3 行列式
       5.4 行列式の基本的な性質
  第6章 行列式の余因子展開とその応用
       6.1 余因子展開
       6.2 余因子展開を用いた行列式の計算
       6.3 行列式と余因子を用いた逆行列の計算
       6.4 行列式と連立1次方程式の解法
  第7章 いろいろな行列の行列式
       7.1 ファンデルモンド行列式と補間多項式への応用
       7.2 置換行列
       7.3 巡回行列の行列式
       7.5 固有多項式
       7.5 小行列と小行列式
  第8章 ブロック行列
      8.1 ブロック行列の演算
       8.2 ブロック行列の逆行列
       8.3 ブロック行列の行列式  
         
  第2部 理論編 - 線形構造と基底 -  
         
   第9章 基底と部分空間
       9.1 線形独立、線形従属
       9.2 線形包
       9.3 線形部分空間とその基底
  第10章 内積と正規直交基底
       10.1 内積と直交性
       10.2 正規直交基底
       10.3 シュミットの直交化法
       10.4 直交射影と直交補空間
       10.5 最良近似への応用
       10.6 線形写像の値域と核
  第11章 行列の階数
       11.1 一般論
       11.2 階数の計算とピボット
      11.3 行列の標準化
  第12章 連立1次方程式の一般解
       12.1 解の存在と一般解
       12.2 連立1次方程式の一般解の求め方
  第13章 基底変換と行列の対角化
       13.1 基底変換
       13.2 対角化と固有値
       13.3 正規直交基底による対角化
       13.4 エルミート形式とクーラン・フィッシャーの定理
       13.5 幾何的な問題と主成分分析への応用
  第14章 行列の分解定理
      14.1 LU分解
       14.2 LDM*分解
       14.3 コレスキー分解
       14.4 QR分解  
         
  第3部 応用編   
         
   第15章 一般逆行列とその応用
       15.1 一般逆行列
       15.2 ムーア・ペンローズ一般逆行列
       15.3 連立方程式の最小2乗解への応用
       15.4 データの直線、曲線によるあてはめへの応用
       15.5 種々の一般逆行列
  第16章 特異値分解とその応用
       16.1 行列の特異値分解
       16.2 特異値標準形と一般逆行列
       16.3 特異値分解の最小2乗解
      16.4 低階数の行列による近似とディジタル画像
  第17章 多変量解析と線形代数
       17.1 いくつかの基本概念
       17.2 回帰分析
       17.3 主成分分析
  第18章 離散フーリエ解析への応用
       18.1 フーリエ解析とは何か
      18.2 フーリエ基底
       18.3 フィルタリングとその応用(ノイズ除去)
      18.4 循環相関積
       18.5 フーリエ行列と巡回行列
       18.6 スペクトログラム
 第19章 離散ウェーブレットへの応用
       19.1 準備
       19.2 サブバンド・フィルタ・バンク
      19.3 2チャネル最大間引きフィルタ・バンク
      19.4 多重解像度近似
       19.5 ウェーブレットの例 (ハールウェーブレット,
                  ドブシーウェーブレット)
      19.6 ウェーブレットの応用例(特異性の検出)
  第20章 整数値行列とその応用 
      20.1 スミス標準形
       20.2 整数値行列による格子の生成
         
  第4部 線形代数の抽象化   
         
   第21章 線形空間
       21.1 線形空間の定義と例
       21.2 線形写像と行列
       21.3 座標変換について
      21.4 内積
  第22章 テンソル積と外積
      22.1 線形空間のテンソル積
       22.2 線形写像のテンソル積
       22.3 画像処理と線形写像のテンソル積
       22.4 反変テンソル、共変テンソル
      22.5 交代テンソル
      22.6 テンソル代数と外積代数
  第23章 k-ベクトルとk-形式
       23.1 k-ベクトルと線形空間の向き
      23.2 k-形式
       23.3 k-ベクトルに対する内積
       23.4 k-形式に対する内積   
         
         
   A 置換を互換の積に分解する方法
  B 行列式の幾何学的意味
  C 行列に対するノルム
 D ジョルダン標準形
  E 問題の解答
  参考文献  
 
この本を書いてから13年たってしまいましたが,その後,ますます上記のようなことの有用性は増しているようです.


線形代数 基礎と応用(新井仁之,日本評論社,2006)
正誤表など本書詳細情報はこちら

本ブログの履歴:
2019/4/19アップ.2019/5/26 画像・詳細目次等追加


『私の名著発掘』もご覧ください.

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目の錯覚、誰がどうやって見つける? 

連載『コンピュータで錯視の謎に迫る』の第12回は
目の錯覚、誰がどうやって見つける? 偶然発見される錯視、理論的に作られる錯視」(2019/5/2)
 お時間のあるときにでも,どうぞご覧ください.


コーヒーの錯視(詳しくは記事をご覧ください)

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1905/02/news006.html#utm_term=share_sp
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数学を創る-数学者達の挑戦@東京大学 配信中

UTokyo OCWによると、

【配信中】「数学で探る錯視の世界」(新井仁之先生)講義映像が公開中です。2009年度 #学術俯瞰講義 「数学を創る-数学者達の挑戦」第7回です。https://bit.ly/2HNfViA  #UTokyoOCW

だそうです。10年前の東京大学での講義です。コーディネータは岡本和夫教授でした。聴講者は数百人(?)くらいおられたように思います。
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純粋数学から応用数学へ

以下の記事は,藤原洋数理科学賞受賞者のことばとして,日本数学会『数学通信』2019年2月号に掲載されたものです.数学通信編集部からの依頼で執筆しました.著作者はHPに転載可ということですので,『数学通信』(2019年2月号) から転載させていただいております.


藤原洋数理科学賞受賞者のことば
大 賞 新井 仁之
(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)
受賞業績
『数理視覚科学と非線形画像処理の新展開』

 このたび第7回藤原洋数理科学賞大賞を授与いただき,大変光栄に思います.
私はもともと調和解析など純粋数学の研究をしていました.しかし21 世紀の
日付変更線を跨いだ頃にある転機が訪れ,視覚と錯視の数学的な研究を始め
ました.最初は既存のウェーブレットを使って研究していたのですが限界を
感じ,2009 年頃に新しいフレームレットの一つを構成しました.これに加えて
他のアイデアも多く得られ,視覚,錯視をはじめアート,非線形画像処理,
超視覚システムへの新たな展開が一挙に開けました.その成果が今回の
授賞理由になったものです.
 当初は先が見えない中で,視覚科学,脳科学,心理学,神経科学,画像処理,
アートなどを独学で学び始め,さらに手探りで異分野融合研究,技術発明,
実用化を進めてきました.このようなことができましたのも,若い頃にひたすら
純粋数学の研究をし,純粋数学のセンスを培ったお陰だと思います.
 大賞の授与の知らせを頂いたのは,昨年4 月に東京大学から早稲田大学に
移ってすぐのことでした.移動を機にこれまでとは異なる方向の研究を始めた
ところでしたので,受賞は新たな研究領域を進む大きな励みとなっております.
最後になりますが,お世話になりました方々に深く感謝いたします.
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今年の日本数学会賞出版賞

3月に東京工業大学で日本数学会が開催されました.学会ではさまざまな賞が発表されましたが,そのうちの一つである日本数学会賞出版賞が,斎藤毅先生,河東泰之先生,小林俊行先生の『数学の現在』(i巻,π巻,e巻,東京大学出版)に授与されました(授賞理由はこちら).
まことにおめでとうございます.

他には本間龍雄先生が出版賞を授賞されました.本間龍雄先生のご著書では,トポロジーの啓蒙書『新しいトポロジー―基礎からカタストロフィー理論まで 』(ブルーバックス)と本間先生の監訳された『数理科学の世界』(ブルーバックス)を学生時代に読んだことがあります.当時はカタストロフィーとその応用が非常に注目されていたように思います.『数理科学の世界』については,以前このブログでも取り上げさせていただいたことがありますが(数理科学を学べる本がほしい),ブログでほしいと言ったようなタイプの数理科学の新しい入門書がその後出版されたのかどうかは,まだ確認しておりません.

ところで『数学の現在』は多くの著者によるオムニバス形式の解説集ですが,じつは私も執筆させていただいております.e巻の第9講です.タイトルは『ウーブレットから視覚情報処理へ』で,主な内容は次のようになっております.
1.窓付きフーリエ変換vs.連続ウェーブレット変換
2.連続ウェーブレットから離散ウェーブレット
3.滑らかなウェーブレットとデータ圧縮
4.ウェーブレットを超えて脳内の視覚情報処理へ
5 .錯視,画像処理への応用,そして数学イノベーション

もし『数学の現在』e巻をご覧になることがありましたら,第9講にもお目を通していただければ幸いです.

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コンピュータで"錯視"の謎に迫る 最新作公開

ITmedia NEWS に記事『同じ色でも濃淡が違って見える不思議な絵 “エッジ”が生み出す錯視、あなたはどう見える?』が掲載されました.
連載「コンピュータで"錯視"の謎に迫る」の第11回です.
お時間のあるときにでもぜひご覧ください.
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1902/15/news008.html
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数学者とアーティストの共同研究の一形態について ― 『めがねと旅する美術展』を機に思うこと

このところ諸事雑事あまたあり、極めて多忙すぎてなかなか行くことのできなかった『めがねと旅する美術展 視覺文化の探求』を昨日、ようやく駆け込みで観てきました。場所は静岡県立美術館です。




静岡駅からバスで25分ほどのところにある大きな美術館です。
この美術展は、青森県立美術館(2018/7/20-9/2)を皮切りに、島根県立石見美術館(9/15-11/12)、そして静岡県立美術館(11/23-2019/1/27)で開催されました。大学を移動したばかりということもあってか、時間が全くとれずに、最終日ぎりぎりに無理してようやく間に合いました。

『めがねと旅する美術展』は、ある特定のアーティストや**派の展覧会というのではなく、一つのテーマに沿って、さまざまな時代の多様なアート作品を集めたものです。たとえば17世紀の日本の屏風絵、江戸時代の浮世絵から現代の作家までさまざまなジャンルの作品が展示されていました。このほか新作アニメーション『押絵と旅する男』の上映もありました。作品の企画は今回の美術展と同じ「トリメガ研究所」さんです。このアニメは江戸川乱歩の作品を原作としたものだそうです。私自身は原作をまだ読んだことはないのですが、パンフレットによると「江戸川乱歩作品のなかでも名篇の誉れ高い」ものということです。今度、ぜひ原作も読んでみたいと思っています。

 ちなみに現代の作品ということでは、私の錯視作品
「めがねと旅する美術の浮遊錯視」(2018、新作)
「花の浮遊錯視」(2013)
「スーパーハイブリッド画像<とまれ>」(2012)
(いずれも新井しのぶと共作)も3点展示されています。これらは数学理論を用いて作成した作品です。「とまれ」が場所をとるせいか、展覧会の中央部分に3点が展示されていました。
 
 さて、この美術展のコンセプトですが、正確なところを記すためには、図録の「ごあいさつ」の一部を引用した方がよいでしょう。そこには次のように書かれています。

『本展では「めがね」を、世界を知るための、あるいは見えないものを見るためののぞき窓としてとらえます。アーティストたちが広い世界を、あるいは見えない世界を表すために制作した美術作品もまた、私たちにさまざまなイリュージョンを見せてくれるのぞき窓です。展覧会では、遠く離れた景色を望遠鏡のように間近にに見せる風景画、普通では見えないものをあらわにする透視図、レンズや錯視の効果を利用した「だまし絵」、そしてレンズや鏡面の特質を生かした作品などを紹介します』
(『めがねと旅する美術』(青幻舎)より引用)

めがねと旅する美術
「めがねと旅する美術」展実行委員会
青幻舎(2018/08/02)


 既に書きましたようにこの美術展は、従来のオーソドックスな作品展とは異なり、とにかくさまざまな作品が楽しめます。しかしその背後にはキーワードとなるものがあり、その一つは図録の帯にも記されている「アートとテクノロジー」です。古い絵画の場合でも、当時のテクノロジーが光るものがセレクトされています。また、JAXAによる衛生画像の展示がありましたが、これなどもアートとして位置づけられています。ある作家の創作というわけではありませんが、やはり自然は人にとって原初的なアートですから、特に現代の技術をもって初めてそれを見ることができるようにしたということでは、人工衛星から写真を撮るという行為も創作活動であり、その目的が何であれ、最新の機械を使って作成されたものもアートの新作と解釈できるのかもしれません。

 ところで、私の研究についていえば、例えば「浮遊錯視生成技術」は数学を使って自由に浮遊錯視を作れるという新技術を提供しています。数学は今やテクノロジーの一つであり、その意味では浮遊錯視生成技術やスーパーハイブリッド画像技術もアートを生み出すテクノロジーと言えるでしょう。これらの技術によりコンピュータを使ってある種の新しい錯視を作れるようになりました。しかしながら、そうだからといって、この数学テクノロジーを使って誰もが良い作品を作成できるということではありません。特に錯視の良い作品を数学を使って作っていくにはアーティストの方の協力が必要になります。今回の展示作品ではありませんが、すでにいくつかの作品ではアーティストの方とコラボさせていただき、数学理論を駆使して制作したものもあります。この方向の研究では、今後この形態をより推進していかねばならないでしょう。数学者とアーティストとのコラボで、さまざまなオプアート作品が創出される可能性は高いと思います。




なお私の出展作品は、上掲の「めがねと旅する美術」に掲載されています。



展覧会の絵 - 「見る」ことを研究し始めた数学者が見た美術の世界

https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/81393/012fb1628022c0c5f2d6a18c9e087745?frame_id=406408

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10分でわかる(?)10分講義 数理視覚科学入門アップ

数理視覚科学入門というビデオ講義がアップされています。
 Waseda Course Channel
 http://course-channel.waseda.jp/contents/C0000007279/

10分足らずの講義です。
早稲田大学365日オープンキャンパスに、
教育学部数学科の講義として参加してます。
対象は中高生・一般の方です。
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2019年いのしし年の錯視年賀状




この年賀状の画像、どこに錯視があるでしょう。
じつは縁を除いて全部同じ色・輝度なのです。
縁を隠した画像が次のものです。



同じ色・輝度であることがわかると思います。

この錯視について詳しいことは
エッジに起因する明暗と色の錯視と画像処理(錯視の科学館)
をご覧ください。

それではみなさま、どうぞ良い1年となりますように!
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赤い表紙の正則関数と緑の表紙の有理型関数

『正則関数』が12月12日に発売され、『有理型関数』が同月27日に発売予定です。有理型関数の見本が昨日届きました.
「数学のかんどころ」(共立出版)というシリーズの第36巻と第37巻です。



詳しい目次等は次のサイトをご覧ください。
正則関数
有理型関数

著者のホームページ内の本書情報サイトはこちら
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放送大学山形学習センター出張講演会

昨日、日曜日に放送大学山形学習センター出張講演会をしてきました。前日雪が降り始め、天候が心配でしたが、幸い雪はやみ晴れてくれました。講演のタイトルは『数学で探る錯視の謎』でした。1時間30分の講演でしたが、多くの方々にご来場いただき、熱心に聴いていただけました。どうもありがとうございました。
会場は駅前にある放送大学山形学習センターではなく、山形大学小白川キャンパスのふすまホールというところでした。山形大学(山形市)に行ったのは、二十数年前に理学部で実解析の集中講義をしたとき以来です。
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早稲田大学数学教育学会@新3号館で講演

 昨日,早稲田大学数学教育学会第37回大会の講演会で「数学的方法による視知覚の研究と画像処理,アートへの応用」というタイトルの講演をしました.
 場所は早稲田大学3号館でした.政治経済学部の校舎で,古い建物が内包された最新の大きなビルです.おそらく学生の教室移動によるエレベータの渋滞を避けるため,校舎のほぼ中央にある吹き抜けに,6階までのエスカレータが設置されています(私の居る建物の教室移動用のエスカレータは5階まで!).エスカレータを上がっていくと,周囲には近未来的なビルがレトロな旧校舎を飲み込んでしまったような不思議な光景が上から下に移り変わっていきます.これは圧巻です.
 昔は早稲田大学(早稲田キャンパス)は古めかしい建物ばかりでしたが,今は a.e. で新しいものになり,早稲田のイメージに反して,オシャレなキャンパスに変貌を遂げています.

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ムンク展に行って

夕方,ムンク展に足を運びました.上野の東京都美術館です.ここは通常夕方5時30分までの開館ですが,金曜日に限っては夜8時まで開いています.
ムンクといえば「叫び」が余りにも有名で,今回の展覧会の目玉の一つでありますが,そのほかにも多くの作品が年代順に展示されています.私は正直なところ「叫び」以外の作品を知りませんでしたが,今回,彼のさまざまな絵画,版画を見ることができました.知らないということもあって,行く前はあまり期待はしていなかったのですが,最初に展示されているいくつかの自画像を見て,描かれたムンクの強烈な自己に圧倒されました.これはすごい!思わず襟を正しました.
今回の展覧会で印象に残った作品は,「地獄の自画像」,「フリードリッヒ・ニーチェ」,どこか郷愁を誘う「並木道の新雪」,そして「叫び」でした.特に,叫びの背景の歪んだ空間,それはあたかも強い力によってねじ曲げられたようで,その歪みを表す色が見る者の心に土足で踏み込んでくるため,否応なく見入ってしまいます.
「叫び」は人気のある絵なので,人の集中を避けるために,「不安」,「絶望」という作品と共に陳列され,そこを観衆は整列して移動しながら見学する方式がとられていました.この3作品を見て,言葉からの連想ですが,展覧会から帰ったらキルケゴール「死にいたる病」を読んでみたいという欲求に駆られました.何度目かの挑戦になります.なかなか素人には手強い本です.

ところで,展覧会場のパンフレットで知ったのですが,12月25日に「ムンク展,こどものための鑑賞会」が12月25日に開催されるそうです.ーこどものための? 今はこどものための様々な催しや,公開講義があってうらやましい限りです.私が子どもの頃は,そのようなものはなかったような気がします.
余計なことですが,かく言う私も12月26日に小・中・高校生の方々に『なぜ見える? 数学でせまる錯視のなぞ』というテーマの講演をします.平成30年度 中谷財団 科学教育振興助成 成果発表会 の特別講演です.
こういった催しへの参加をきっかけに,子どもたちが芸術や科学に興味をもち,少し贅沢を言えば,将来科学,芸術に大きな貢献をする人が出てくると,それは遠い将来のことでしょうから催している側の者は今は知ることができませんが,そうなることを想像してみると無性にうれしくなります.熱心な子どもは本当に輝い見えます.それを見られるのが,子ども向け講演をする者の特権かもしれません.

https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/81393/012fb1628022c0c5f2d6a18c9e087745?frame_id=406408

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朝日新聞『産業界が活用する「錯視」』で研究成果が紹介されました

朝日新聞(2018/11/24,朝刊,be report)の『産業界が活用する「錯視」』という記事で,新井・新井が先端的数学を開発して行った錯視研究と超視覚数理モデルによる画像処理の研究成果が紹介されました.
画像と画像の解説は
https://www.asahi.com/articles/photo/AS20181122001409.html
でご覧になれます.
(記事を見るには無料会員登録または会員登録が必要なようです.)
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宮寺功著『関数解析』の巻末解説がweb公開されました

今月、「ちくま学芸文庫」から宮寺功先生(早稲田大学教育学部名誉教授、1925-2017)の名著『関数解析』が刊行されました。
この本の巻末に掲載された解説が「Webちくま」
http://www.webchikuma.jp/articles/-/1550
に公開されています。
先生の思い出も交えて書きました。





『私の名著発掘』(本の紹介集)はこちら。
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中谷財団科学教育振興助成成果発表会での特別講演

Promotion of Scientific Education 2018
平成30年度中谷財団科学教育振興助成 
成果発表会 西日本大会

特別講演
『なぜ見える?数学でせまる錯視のなぞ』
講演者:新井仁之(早稲田大学教育・総合科学学術院)
を行います.
2018年12月26日(水)
詳しくはこちらをご覧ください.
https://www.nakatani-foundation.jp/wp-content/themes/nakatani-foundation/module/pdf/presentation/2018/poster_02.pdf
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出張講演会のお知らせ

放送大学山形学習センターの出張講演会をします.
日時は2018年12月9日(日)13:30-15:00,
場所は山形大学先端科学実験棟S401(ふすまホール)です.
タイトルは『数学で探る錯視の謎』,
講師は新井仁之です.
講演概要,場所等,詳しくは
https://www.sc.ouj.ac.jp/center/yamagata/news/2018/10/18142830.html
をご覧ください.
山形大学(山形市の方)は,二十数年前に集中講義に行って以来です.
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第7回藤原洋数理科学賞授賞式/ピアノコンサート(藤原洋記念ホール10周年記念イベント)

昨日,9月30日日曜日,第7回藤原洋数理科学賞授賞式 / ピアノコンサートが開催されました.台風はまだ来ておらず,天候は穏やかでした.場所は慶應義塾大学の藤原洋記念ホールです.今回は,藤原洋記念ホール10周年記念イベントでもあるため,これまでになく大盛況であったということです.
授賞式では,ピアノコンサート,基調講演,受賞者講演などがありました.
ピアノコンサートはピアニストの山岸ルツ子さんによる演奏です.山岸さんのピアノ演奏を聴くのは今回が2回目です.(1回目については,数学と音楽の夕べ 印象記に様子を書きました.)基調講演は日本のインターネットの父と言われている村井純先生の講演でした.

私は今回,第7回藤原洋数理科学賞大賞を受賞しましたので,記念すべき「藤原洋記念ホール10周年記念イベント」で大賞受賞講演をいたしました.授賞理由は

「数理視覚科学と非線形画像処理の新展開」

です.大きなコンサートホールでの講演でしたので,大学の教室で行われる講演会とは雰囲気が異なり,なかなか面白いでした.


授賞式当日に配布されたパンフレット表紙

藤原洋数理科学賞については,上掲のパンフレットの藤原先生による「ごあいさつ」に「第7回藤原洋数理科学賞を記念して当賞の意義と創設の想いについて『数学力で国力が決まる』(2018年9月 日本評論社刊)を著させて頂きました」とあります.その本は



です.第2章『藤原洋数理科学賞を創設した理由 数学への個人的な想い』に詳細が記されております.
この本についてはまたいずれ別の機会にご紹介したいと思っています.
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コンピュータで錯視の謎に迫る 最新作

少し間が空いてしまいましたが、
ITmedia NEWS  連載『コンピュータで"錯視"の謎に迫る』
の最新作です。
今回は
「丸いのに歪んで見える不思議な円 あなたの脳もだまされる?」

円がゆがんでみえる不思議な錯視とその数学的な解析をお楽しみください。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1808/29/news017.html
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脳の視覚情報処理の数学的研究と科学・技術・産業・アート

『数学通信』(日本数学会)の最新号(第23巻第2号、2018年)に脳の視覚情報処理に関する数学的な研究とその科学・技術・産業・芸術への応用に関する記事が掲載されました。
数理視覚科学への入門的解説です。

新井仁之(早稲田大学 教育・総合科学学術院)
人の視知覚に切り込む数学とその応用
―調和解析,錯視,画像処理,アート―

ご関心のある方はどうぞご覧ください。
数学通信の誌面は白黒ですが、Web版はカラーでした!
http://mathsoc.jp/publication/tushin/2302/2302arai.pdf
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