講演・口頭発表等

2017年

箱根における外国人観光客と地域の対応

日本地理学会発表要旨集
  • 有馬 貴之

開催年月日
2017年 - 2017年
記述言語
日本語
会議種別
主催者
公益社団法人 日本地理学会

1.箱根町の観光と観光客<br>一般的に「箱根」として認識される範囲である箱根町は人口11,786人、6,088世帯、その面積を92.86km2とする(2015年現在)自治体である。箱根カルデラの内部に位置し、主な観光資源に火山の噴煙口を間近に見られる火口(大涌谷)、中央火口丘の山頂(冠岳)、溶岩流に堰き止められた湖(芦ノ湖)、湿地帯(仙石原)などの自然資源が豊富である。一方、東海道の石畳の道や関所、美術館やゴルフ場、およびリゾートなどの人文資源なども充実し、温泉も湧き出ることから関東における保養地として古くから認識されてきた。2016年の観光客数は宿泊観光客が400万人、日帰り観光客が1,500万人となっている。 関東では日光と並び、欧米人の保養地として捉えられてきた箱根であるが(野瀬 2008)、近年では中国をはじめ、韓国、台湾やタイなどの日本全体のインバウンド観光の活性化状況に呼応した外国人観光客数が増加してきた。彼らは日本人の宿泊客数が伸び悩む時期であっても堅調に増加している。<br><br>2.外国人観光客の行動差<br>既存の研究によれば、箱根町でも欧米系観光客とアジア系観光客には観光行動に差異がみられることが明らかとなっている。たとえば、欧米系観光客は工芸品や街並みに興味を持った行動をとる一方で、アジア系観光客は食品に興味を持った行動をとっている(有馬ほか 2014)。このような商店街といった空間的範囲での行動特性は今日でも継続しているとみられる。また、近年では宿泊地の傾向にも異なる特性が現れている。たとえば、中国人観光客の団体は箱根町ではなく、周辺の御殿場などに宿泊することが多い。これは箱根町の宿泊施設の宿泊単価が他の地域と比べて高く、箱根町においては各地のスポットを訪れるのみの行動となっているという特性のためである。<br><br>3.宮ノ下地区・箱根町箱根地区における景観の変化<br>このようなインバウンド観光の状況が、地域にどのような形で現れているのであろうか。本発表では、箱根の宮ノ下地区と箱根町箱根地区を事例とし、それぞれの状況を報告する。特に①地域の物理的景観の変化、および②観光協会を始めとする地域組織の意識変化の2つの側面から検討したい。まず、宮ノ下地区においてその景観の変化をみると、骨董品店などの複数の商店の閉鎖があった一方、低価格帯のゲストハウスの進出がみられた。骨董品店の閉鎖は外国人観光客の動向に影響されたものではなく、日本人観光客の高級層の減少によるものであった。一方の低価格帯のゲストハウスでは外国人の利用がみられ、これまでとは異なる外国人利用者もみられるようになっている。 他方、箱根町箱根地区では、大手資本の持つ土地や整備された公園等が比較的多い地域である。そのため、目立った景観の変化はみられていない。箱根町箱根地区には芦ノ湖越しに富士山を望むことのできる地点が点在している。そのため、中国人観光客を初めとして外国人観光客の行動が上記の地点に集約されている。したがって、地域への波及や景観への大きな影響がみられないと考えられる。<br><br>4.外国人観光客に対する観光協会の対応<br>最後にこのような外国人観光客の動向に対し、それぞれの観光協会がどのような認識をしているのかについて述べておきたい。宮ノ下観光協会に対する聞き取り調査では、この地域が富士屋ホテルを中心とした外国人観光客の受け入れを持って発展した地域であることから現状に対する特段の認識はみられなかった。一方、箱根町箱根の観光協会は、そもそもの外国人観光客の増加による影響が目に見える形として現れていないないため、対応に関しては消極的な状況であった。つまり、いずれの地域も観光協会の意識に大きな変化はみられなかった。本発表では、以上の点について追加の調査結果も踏まえながら箱根における外国人観光客の対応について論じていきたい。<br><br>文献<br>有馬貴之ほか 2014.箱根湯本における外国人観光客の土産物購買行動と土産物店・宿泊施設のサービス・コミュニケーションの状況.観光科学研究7:45-52.野瀬元子 2008.日光、箱根を対象とした観光地形成過程についての考察-観光資源、交通環境と初期段階の外国人利用の差異に着目して.東洋大学大学院紀要45:31-56.<br>

リンク情報
URL
http://ci.nii.ac.jp/naid/130006182655