基本情報

所属
東京大学 医科学研究所 講師
学位
博士(理学)(2008年3月 東京大学)

連絡先
aniidaims.u-tokyo.ac.jp
研究者番号
00772493
ORCID ID
 https://orcid.org/0000-0002-6851-8004
J-GLOBAL ID
202001020347963264
researchmap会員ID
R000004343

これまでにがん関連オミックスデータ解析のためのバイオインフォマテクス手法を開発し、それらを用いてがんシステム異常を理解するために実験研究者、医師とともに共同研究を進めています。特に現在、腫瘍内不均一性を生み出すがんの進化原理に興味を持ち研究を進めています 。

 

キーワード:
バイオインフォマテクス、統計、がん、システム生物学、ゲノム、ネットワーク、シミュレーション、進化、スーパーコンピュータ 

 

最近の研究:

  • 九州大学と大阪大学との共同研究により144例の日本人食道扁平上皮がん患者を対象として、詳細な生活習慣の調査とスーパーコンピューターを用いた過去最大規模の遺伝子解析を行い、その遺伝子異常の全体像を明らかにしました。 その結果、日本人扁平上皮がんで特に重要と思われる15個の遺伝子を同定しました。さらに遺伝子的にアルコール代謝酵素の活性が低い人がかかる食道がんで特徴的にみられる遺伝子変異のパターンを同定しました。食道がんには大きく腺がんと扁平上皮がんがあり、欧米では腺ガンが中心ですが、日本では90%以上が扁平上皮がんです。このため日本人に多い食道がんの原因究明が急務とされてきました。 本研究成果により、日本人の食道扁平上皮がんで起きている遺伝子の異常が明らかとなったため、これを標的とした新たな治療法の開発が期待できます。また、お酒に弱い人(もともとアルコール代謝酵素が弱い人)がなりやすい食道がんのパターンも判明したことから、近い将来、これらの人に特によく効く薬をオーダーメイドで提供できる可能性があります。 (Sawada, G. et al. Gastroenterology, 2016)
 
  • 一人のがん患者の腫瘍の中には異なる遺伝子変異をもつ複数の細胞集団が存在することが知られています。この現象は腫瘍内多様性と呼ばれ、がんの難治性の一因と考えられています。九州大学との共同研究との進行大腸がん9症例各々について原発巣の複数の部分から得たDNAをシークエンスする、多領域分割シークエンスを行い、 広汎な一塩基変異の腫瘍内不均一性が存在することを見出しました。またDNAコピー数及びDNAメチル化解析も同様に行い、それらの一塩基変異に相関した腫瘍内不均一性の存在も明らかにしました。 更に、スーパーコンピュータを用いたがんの進化シミュレーションによって実験データと同様の高い一塩基変異の腫瘍内不均一性を再現することに成功し、中立進化が大腸癌の腫瘍内不均一性を生み出している一因である可能性を示しました。 本研究で明らかにされた中立進化により生み出された広汎な腫瘍内不均一性は、がん治療の困難性の一因となっていると考えられます(Uchi, R. et al. PLOS Genetics, 2016)
 
  • 上記の進行大腸がんの研究に引き続いて、九州大学と大分大学との共同研究により早期大腸がん患者10 人から得た各腫瘍の複数箇所から次世代シーケンサーを用いて包括的遺伝子変異データを取得し、両データを合わせてスーパーコンピュータを用いた数理統計解析を行いました。その結果、早期がんではがん細胞の増殖、生存に有利に働く複数のドライバー変異(がんの発生・進展において直接的に重要な役割を果たす遺伝子変異)が一腫瘍内に散在し、自然選択を受ける「ダーウィン進化」から、進行がんにおいてはがん細胞の増殖、生存には影響を与えない無数の中立変異(正や負の自然選択に関わらず自然に起こる突然変異)が蓄積する「中立進化」によって、腫瘍内多様性が創出されており、進化のパターンは変化していることが明らかになりました。また早期がんに比べて進行がんでは有意に染色体コピー数異常が多いことも明らかとなり、染色体コピー数異常がこの「進化シフト」の引き金となっている可能性を見出しました(Saito, T. et al. Nature Communication, 2018)。
 
  •  ミュレーションを用いた研究における重要なステップの一つはパラメータ感受性解析、なわちシミュレーション結果に対するパラメータ値の依存性を調べることです。本研究ではそのパラメータ感受性解析のための新しい方法論であるMASSIVE(Massively parallel Agent-based Simulations and Subsequent Interactive Visualization-based Exploration)を開発しました。MASSIVEはこれまでのパラメータ感受性解析手法とは全く異なるアプローチをとり、スーパーコンピュータを用いた大規模な並列計算と対話型のデータビジュアライゼーションを組み合わせることによって、広いパラメータ空間を直感的に探索することを可能とします(Niida, A. et al. PLOS One, 2019)。
 
  • これまでのゲノム研究によってがんの進化は大きく分けて4つの進化様式があることが分かっていましたが、それらがどのような条件下で実現されているかについてはよく分かっていませんでした。そこで多様な進化様式を実現しうる統一的進化シミュレーションモデルを構築し、東京大学医科学研究所のスーパーコンピュータSHIROKANE上でMASSIVEを用いたパラメータ感受性解析を行い、個々の進化様式が実現される条件を決定しました。さらに上記に述べた大腸がん発がん過程における自然選択から中立進化の腫瘍内不均一性形成原理の移り変わりは爆発的ドライバー変異に起因する断続的進化により引き起こされているということもシミュレーションにより明らかになりました(下図)。このことはまた、異なる進化様式は別々に起こるのではなく、発がんの過程で連続的に移り変わって起こるこということを示しています。本研究はがんの進化を理解する上での数理的な基盤を提供することで、今後のがんの治療抵抗性の理解及びそれに基づいた治療戦略の開発に資すると期待されます(Niida, A. et al. PeerJ, 2020)。

 


論文

  77

MISC

  16

共同研究・競争的資金等の研究課題

  10