研究ブログ

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学振DC1採用内定獲得に至るまで(雑感)

【追記 2021年3月16日】

・この記事公開後にいくつか相談等のメールをいただきました。私も忙しいときにすぐ返信することはできないと思うのですが,なんとなく聞きたいことなどあればぜひ連絡をください。私が先輩方に助けていただいた恩返しのつもりなので,ぜひ気軽に。(ただすぐに&必ず返信が来るわけではないと思うので,それでも聞きたいことがあればぜひ)

・ちなみに学振DC1を辞退するのはわりと面倒&周囲の協力が必要な事案なので,辞退検討されているかたは早めに辞退しましょう。

■はじめに

・2021年採用の日本学術振興会特別研究員(DC1)に社会学分野で採用内定を頂きました。決して私個人の実力だけで採用内定を頂いたわけではなく,いろいろなサイトや書籍を参考にしたり,様々な方にアドバイスを頂いたりしたおかげで得られた成果だと思っています。

・執筆の動機は,さまざまな先生方・先輩方から享受した知識を世界に還元しておきたいなというエゴイズムです。学振とはなにか,申請書の書き方とは……という話は結構いろんなところに転がっているので,個人の雑感として執筆上やってよかったこと,あとから後悔したことなどを記憶が新しいうちに残しておこうと思います。

 ・なお,結局,学振の内定は辞退して,博士課程に籍を置きつつ労働することにしたのですが,その負い目を少しでも拭っておこうという気持ちもあります。

 

■前提(所属と業績など)
・東大の教育学研究科に在籍しています。専攻は教育社会学ですが,学振申請時の細目は社会学分野にしました。

・業績は紀要論文や報告書(すべて査読なし)が4報,国内の学会発表が2報,あと細々とした学術貢献活動的なもの(留学生のチューターとかイベントの手伝いとか,省庁でのインターンとか)をしていました。

・後述するように,学振の準備は国家公務員総合職試験の勉強と並行して進めていたため,スケジュールは全体的に平均に比べて前倒しで進行していました。(但し締切直前は当たり前ですが地獄でした笑)

 

■申請書の書き方についての私見
・申請書の書き方については 大上雅史,2016,『学振申請書の書き方とコツ DC/PD獲得を目指す若者へ』,講談社。 を読んだうえで,特に以下のお三方の記事を参考にしました。

学振DC(社会科学)の申請書を公開します | Ryota Mugiyama

DC1学振申請書の書き方・コツ・対策(社会科学の補欠繰上合格)|服部恵典|note

学振DC2(社会学)の採用内定をいただいて 申請書の書き方など | Teruki SANADA

個人的には,学振DC1を取れるかどうかと研究遂行能力があるかどうかはわりと独立した話だと思っていて,学振に関しては分野外の人(正確に言えば,学問的なお作法は知っているけど,専門分野が完全にかぶっているわけではない人。)でも研究内容が理解でき,3年間で1000万を投資してもよいと判断できる材料を申請書に盛り込むことができればよいのだと思っています。(この理由は大上(2016)に詳しいです。)

・そのため,自分の実力のなさに絶望する前にさっさと書き始めたほうが,最終的な打率は上がると思います。出さなきゃ採用の可否すら判断されないので。

  

■申請書を書く中でやってよかったと思うこと
(1)先輩方にお願いして過去の申請書をいただき,読みこむこと

私には大した論文執筆経験があるわけではないので大きな顔はできないのですが,申請書は論文ではなく,あくまで「お金を取るための書類」であり,超えるべきハードルは研究上のクリエイティビティというよりは審査担当者への親切さや公的な書類としての正確さにあると考えています。そのため,(多少分野が違っていても)学振に通った申請書を読み込むことは,書類作成のお作法や,審査担当者に寄り添った表現方法を身に着けるという意味で非常に重要です。(しばしば語られる「学振を通すうえで東大(あるいは旧帝大以上)の研究室が有利」というフレーズは,「学振に通った申請書をたくさん参考にできる」という意味でもしかしたら正しいのかなと思います)

 

(2)とにかく早く手をつけたこと

例年のスケジュールでは学振の締切と国総の筆記一次試験がほぼ同時期にやってくるということを考慮し,執筆にはわりと早めに手をつけました。申請書の執筆を通じて修論のコンセプトも固められたので,後々の作業が楽になりました。

周囲には「DC1なんて出しても通らないから!」というスタンスの人も見かけるのですが,申請書を書くという行為自体は,研究を続けるうえで絶対どこかでぶつかる経験だと思うので,失敗を恐れずに挑戦すべきだと思いました。(あと会社員としての経験からしても,様式に沿った文章を書き上げるスキルはどこの組織でも求められると思います。)

 

(3)教員・先輩はもちろん同期・学部生に読んでもらったこと

別の研究をしている同期や大学院進学を考えている学部生に読んでもらうと,教員や先輩にとっては当たり前すぎるような一般的な事項に関して,より丁寧に説明する習慣がつくのでおすすめです。

人に読んでもらう時期としては,論旨がふわふわしている最初期には研究分野が近い教員・先輩に,内容が固まってきたころに,分野が少し遠いけど学振申請経験や査読経験がある教員・先輩に,最終的な版が完成する頃に院に進むような学部生や同期に読んでもらうとよいのではないかと思います。

 

(4)申請書を寝かせる時間を取ったこと

申請書と向き合っているあいだは,どうしても目の前のことで頭がいっぱいいっぱいになってしまいます。一時期申請書から離れてから再び取り組むようになってからは,ストーリーラインを成り立たせるために必要な材料が足りない箇所や,説明が不親切な箇所がいくつか見つかったりもしました。人は2週間もあれば大抵のことを忘れてしまうので(私の短期記憶が弱いだけかもしれません),冷静な頭で自分の申請書をイチから読みなおすと,ストーリーラインがより明確になるように修正できるのではないでしょうか。

 

■申請書を書く中でつらかったこと,後悔したこと
(1)いろんな人に読んでいただいた結果,オーナーシップを失いがちだったこと

申請書を書く際に,いろいろな方に読んでいただきコメントを頂きました。これ自体はめちゃくちゃ幸せなこと(教員や実力のある先輩方が近くにいて,しかもその人たちの時間と頭脳を頂戴できるという最高の環境)なのですが,私のアドバイスのもらい方がよくなかったことから,一時期「これは何の研究なんだっけ……(論旨不明確)」という状態になりました。「船頭多くして船山に上る」という言葉がありますが,4月頭くらいからはまさにその通りの状態になりました。

最終的には,結果に対して自分がケツを持つだけなので,自分がいいと思ったものを出せばよいわけですが,やはりこれまで評価されるような業績がある人や,学振を通したことがある人からのコメントを過剰に受け止めすぎる傾向にありました。

具体例を以下に記述します。私の問題山積の申請書のなかでも,複数人から同一箇所に対して真っ向から対立する視点からのコメントが寄せられたことがありました。特に研究の根幹にかかわる「研究分野AとBのどちらに私の申請書が位置づくのか」というところで対立する厳しいコメントを複数頂いてしまい,あちらを立てればこちらも……状態だったので途方に暮れました。意志が弱い私はどちらも立てられず,他の教員にアドバイスを貰いに行ったら「この研究はAでもBでもなくCなのでは?(私としてはまったく検討していなかった分野)」などと言われてしまい,どうしようもなくなってひとりで家の周りをグルグル散歩した夜もありました。

(ちなみにこのとき指導教員に「AとBどっちにすればいいですか!?!?」と今思えばアホな質問をしたのですが笑,返ってきたのは「好きな方にすればいいけどAかBのどちらかには寄せなさい(大意)」でした。穏便。)

対応策としては,よかったことの欄にも書いたように「時期をみつつ,アドバイスをもらう人をある程度限定してコメントを貰う」がよいのかなと思います。東大ならではの悩みかもしれませんが,本当に困ったので,後世の人にはぜひ気を付けてほしいです。

 

(2)業績が少ないと思っていた

上で偉そうに「とりあえず出すべき」と言ったわりに,私も書いている最中は「出しても意味ないかなぁ……」と思うタイミングがありました。なぜなら「業績が少ない」からです。周囲のDC1採用者は申請時点で何かしらの賞をもらっていたり,すでに大きめのジャーナルに査読付き論文を載せていたり……と,どうみても私と比べて実力・経験値の差が大きいように思えました。人間はAs isとTo beのギャップが大きいと思い悩む生き物なので,この思考にハマったときは作業が続きませんでした。

ただ,先にDC1/2に採用された先輩方の申請書を10名分くらいまとめて読むと,なんとなく採用される申請書の傾向が見えるように思いました。DC1の場合は,

(A)こいつに投資すれば絶対にリターンがあるという業績を持つ人

(B)このテーマに投資すればもしかしたら面白い研究結果が出せるのでは……という新しさを感じさせるテーマで申請している人

が採用されているように見えたのです(あくまで主観的な感想であり,筆者はこの内容によって他者に生じうる不利益を何ら補償することはありません,あくまで念のため)。

特に私が申請した社会学分野であれば例年複数名採用されるので,(A)に該当する素晴らしい業績の持ち主が同じコホートに複数人いることはそうそうないはずだし,(B)であればワンチャンあるのでは……?という希望が持てたのです。

私のテーマが(B)に当てはまることに関しては自信があったので(2020年の某国際誌に類似テーマのレビューが初めて載ったくらいなので,日本ではもちろん目新しいと思います),そこに関しては勝負しようがあるなと思っていました。もちろん目新しさといっても学術的な貢献になり得ることは前提なのですが,多少のミーハーさが活かせるという点ではDC1は魅力的なチャレンジだなと思います。

 

■その他雑感
・無味乾燥な公務員試験対策と並行して申請書作成を進めるのは正直めちゃくちゃ楽しかったです(お前あの時そんな楽しそうじゃなかっただろという周囲からのコメントは受け付けますが)。締め切りが決まっていて,制限のあるなかで明確な敵(ライバルという意味ではなく,自分がやるべきタスクを指しています)を倒す作業が好きなんだなと思いました。

・あと,「将来できるかもしれない私(ならでは)の研究」を考えてどう実行するか計画するのは本当に楽しかったです。(決して出来がいいわけではないですが)申請書を見返すと,私は自信をもってこの研究をやりたい!という気持ちが沸き起こり,やっぱり専業D進するか……という気持ちになります。就職しますが。笑

・貴重な時間を割いてくださった先生方・先輩方に本当に感謝です。特に上にも書いたように,指導教員や複数の先輩方の貢献があまりにも大きく,私の申請書だと思えないほどにブラッシュアップできました。

 

■(参考)私の執筆スケジュール
・前提として国家公務員総合職試験の勉強と並行して進めており,学振に全振りできる方はもう少し遅くからはじめても間に合うかなと思います。なお試験勉強は2020年1月頭から先行してスタートしています。

 

・2020年2月中旬~末

学振から申請書のひな型が公開されたので,とりあえず一度内容は全部埋めてみました。ただ修論のテーマを決められていなかったので(もうひと案あった),そのバージョンでも書いてみることに。

 

・2020年3月初旬~中旬

修論をもうひと案の方で書くことにしたため,内容を変更した初稿を完成させました(体裁等はまだ適当)。書きあがったものを指導教員と,研究計画上どうしても読んでもらいたい教員1名,あと信頼できる先輩方2~3人に送付しました。頂いたコメントをすべてExcelに書き出して適宜修正をし始めました。

 

・2020年3月中旬~下旬 

教員+先輩から返ってきたコメントは50項目以上(重複アリ)あったので,これに対応できるようガンガン修正を開始しました。私はアカデミックな語彙をいまいち身体化できていなかったので,コメントの内容だけではなく,コメントを頂いた際の教員&先輩方の言い回しも参考にさせていただきました。ほかにも分野が近かったり同じゼミに所属していたりする先輩2人と教員2人にお願いしてコメントを頂戴しました。しかし,ここでコメントがバッティングし出したため,先述したように意志の弱い私は死にそうになりはじめます。

 

・2020年4月上旬~中旬

内容は(コメントがバッティングしている部分以外)ほぼ完成したため,体裁(特に研究計画の欄)の修正をはじめました。しかし,コメントのバッティングへの対応に困って,さらに他の教員や先輩に読んでもらったがために,さらにバッティングが生じて根本から研究計画が覆りそうになりました(この点も後述)。

この時期すべてのMTGがオンラインになったため,余計にコミュニケーションがうまくいかなくなることもあり,同期の前(LINE通話)で喚き始めました。国家公務員試験の1次試験が4月末から5月下旬に延期になったため,内心(この苦しみが5月まで続くのか……)と思いました。

 

・2020年4月中旬~5月GW明け

最終的に自分なりのやり方でいこう!と踏ん切りがついたので,一応の完成版を作成して申請書を放置し,公務員試験の教養科目対策に専念しました。

 

・2020年GW明け~2020年5月12日

GW明けにもう一回内容を読み直して,自分の思う論旨に沿う形に修正していった。体裁もギリギリまで修正し続けました(この体裁を整える作業が,この時期一番の癒しになった)。

提出締切が延びるのでは?という噂もありましたが,研究科内の締め切りは変わらず12日だったので締切当日に提出しました。ちなみに不安のあまり前日(11日)午後に指導教員に駆け込みで「読む時間がなくても読んだことにして返信ください!」とお願いする超最悪な迷惑プレーを実施。本当にやってはいけないので絶対にマネしないでください。(ちなみに指導教員は,結局夜中までちゃんと読んでコメントを送ってくださいました……頭が上がらない……マジリスペクト……推し……尊い……)

締切数日後,学振・研究科から締め切りを延長した旨連絡が来たので多少体裁を修正しました。

 

・2020年9月25日

修論をやる気にならず真っ青な顔をして院生部屋でダラダラしていたところ,学振からメールが来る。内容は「二次採用候補」(例年であれば面接によって合否が決まる枠です。但し今年は新型コロナウイルス対策の一環で面接がなく,社会科学という大きな区分での書面合議になりました)だったのでスッキリした気持ちにはなりませんでした。

 

・2020年12月25日

世間のクリスマスモードについていけず,眉間にしわを寄せながら昼ご飯を食べていたら学振からメールが来たので,確認したら採用になっていました。二次採用になった時点で採用者が63人,二次採用候補が23人で,二次採用発表時点の採用者が71人(つまり二次採用での内定者は8人)でした。

 

・2021年1月~2月

修論提出後,DC1を辞退するかどうかでさんざん悩む。さまざまな先輩方の業績や就職先を調べつつ,少なくとも現在~3年後の私には博士課程を3年で出て就職できる(=ちゃんとしたジャーナルに数本載せられる)実力はないなと考え,労働兼博士課程進学を決心。DC1を辞退する。

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