研究ブログ

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ヘンリー・マンシーニの生誕100年を祝す

昨日はヘンリー・マンシーニが1924年4月16日に生まれてから100年目の記念日でした。


映画だけでなくテレビドラマからアニメ番組まで多数の音楽を手掛けたマンシーニは文字通り付随音楽の巨匠と呼ぶにふさわしい存在でした。


その中には映画『ティファニーで朝食を』(原題:Breakfast at Tiffany's、1961年)や『ピンクの豹』(原題:The Pink Panther)の連作(1963年から1993年)などの映画史に残る傑作やテレビドラマ『刑事コロンボ』(原題:Columbo、1968年から2003年)の主題曲のように今も人々に親しまれる作品などを世に送り出しました。


また、担当作品の多さは『スペースバンパイア』(原題:Lifeforce、1985年)のような、興行的には振るわなかった作品でも主題曲をはじめ主要な音楽をものするといったことからも窺われます。


その中で私が特に気に入っているのは、マイケル・ケインが「シャーロック・ホームズを演じたレジナルド・キンケイド」を演じ、アベン・キングズレーが「世界最初の犯罪学博士」であるジョン・ワトソンを務めた『迷探偵シャーロック・ホームズ/最後の冒険』(原題:Without a Clue、1988年)です。


「マンボ」と「マンバ」を取り違え、「マンボとマンバ、何か違いがあるのか」とワトソンに尋ねると「全然別物だ。マンボはカリブ海の愉快な踊り、マンバは恐ろしい毒蛇だ」と呆れられたり、ワトソンの描いた台本通りに事件の詳細を新聞記者たちに解説した際に著名な記者に「見る」(see)と「観察する」(watch)の違いを得意そうに説明し、「諸君は見るだけて、私は観察している」と豪語してワトソンにたしなめられる様子は作品の喜劇的な側面を象徴的に描き出します。


一方、名探偵ホームズがワトソンによって作り出された虚像であり、真に倒すべきはワトソンであることを知っているモリアーティー教授との対決では、「華麗な剣の使い手」として昼間の舞台でも夜の公演でも数多くの敵役を倒したホームズが"once more unto the breach"とシェークスピアの『ヘンリー五世』の台詞とともに劇場の奈落に飛び込む様子などはどこか滑稽に思われながら、事件が解決した後に状況の説明を求める記者団に概況を伝えた後に「私の友人なしには事件を解決することは出来なかった」と初めてワトソンへの謝意を伝えるところに二人のきずなの強さが示されるなど、"Without a Clue"は「ホームズもの」として様々な見せ場を持つ優れた作品です。


この様な作品を音楽面で支えたのがマンシーニで、特に主題曲のクラリネットの軽やかな吹奏と弦楽器の滑らかな旋律とはその音楽の魅力を凝縮したものでした。


惜しくもマンシーニは1994年に逝去し、今は新たな旋律を耳にすることは出来ません。


それでも、これまでの数多くの音楽はこれからも様々な作品を一層彩り豊かなものすることでしょう。


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Dr Henry Mancini's 100th Anniversary (Yusuke Suzumura)


The 16th April, 2024 was Dr Henry Mancini's 100th Anniversary. On this occasion, I remember miscellaneous impressions of Dr Mancini.

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衆院3補選の告示に際しわれわれは候補者にを望むか

本日、4月28日(日)に投開票される衆議院の3選挙区における補欠選挙が告示されました。


今回は、以下の通り東京都第15区に9人、島根県第1区に2人、長崎県第3区に2人が立候補しています(以下、敬称略、届け出順)。


【東京都第15区】
福永活也(諸派、新)
乙武洋匡(無所属、新)
吉川里奈(参、新)
秋元司(無所属、元)
金沢結衣(維、新)
根本良輔(諸派、新)
酒井菜摘(立、新)
飯山陽(諸派、新)
須藤元気(無所属、新)


【島根県第1区】
錦織功政(自、新)
亀井亜紀子(立、元)


【長崎県第3区】
山田勝彦(立、元)
井上翔一朗(維、新)


東京都第15区は柿沢未途氏が江東区長選を巡る公職選挙法違反の罪に問われ、長崎県第3区は谷川弥一氏が政治資金パーティー収入を巡る政治資金規正法違反で立件されてそれぞれ辞職したことに伴う補選のため、両氏が所属していた自民党は独自の候補の擁立を見送りました。


そのため、特に東京15区では有力な候補者が不在となり、各党各派がそれぞれ独自の候補を擁立しつつも有利に選挙戦を進めうるだけの支持基盤を持つ者が見当たらないのが実情です。


もちろん、1946年の第22回衆議院議員総選挙における東京都第2区のように定数12人に対して133人が立候補したため票が分散し、12人目の当選者が法定得票数に達せず再選挙になったような事態が再び生じる可能性は高くないかも知れません。


しかし、乱立ともいうべき多数の候補者が立候補する場合、他の公職選挙と同様に多くの票を獲得できることが見込めない候補者の中には、しばしば自らの知名度を向上させるための宣伝の場として選挙を捉えていることが少なくないものです。


そして、そのような候補者の掲げる公約や主張は多くの場合有権者の注意を惹くことを目的とするために過激で実現が難しいものとなりがちです。


それだけに、良識ある東京15区の有権者はそのよき判断力を善用することが期待されますし、今回の3つの補選で唯一与野党が対立する候補者を擁した島根1区も、野党第1党と第2党の争いとなる長崎3区も、充実した論戦によって有権者がよりよい選択を行えるよう、候補者が誠意ある選挙戦を行うことが不可欠となります。


<Executive Summary>
What Is the Required Element for the Candidates of Three By-Elections? (Yusuke Suzumura)


Three By-Elections of the House of Representatives of Tokyo (the 15th District), Shimane (the 1st District), and Nagasaki (the 3rd District) were notified on 16th April 2024. On this occasion, we examine the required element for all candidates of each district.

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大谷翔平選手の「日本選手最多タイの通算175本塁打」の持つ意味は何か

現地時間の4月12日(金)、大リーグのロサンゼルス・ドジャースに在籍する大谷翔平選手が今季4号本塁打を放ち、大リーグでの通算本塁打数を175本として、松井秀喜さんが持つ日本選手の最多記録に並びました。


大谷翔平選手は、2021年7月4日に松井秀喜さんが2004年に記録した日本選手の年間最多本塁打31本に並びました。


その際に本欄が指摘したように、2005年から2020年までの16シーズンにわたり、松井選手自身を含め、野手として大リーグに所属した日本選手が年間最多本塁打記録を更新できなかったことは、一面において打撃術には優れていても長打力に劣るという大リーグにおける日本野手に対する通説的な考えが妥当であることを示唆します。


また、他面においては、2004年の松井選手が、日本屈指の長距離打者として大リーグに挑戦し、実力を遺憾なく発揮できたことを推察させるものでした[1]。


今回の通算本塁打記録も同様で、これまでにもその時々の日本のプロ野球界を代表する長距離打者が大リーグに挑戦したものの、長期にわたって活躍することが難しかったという点を含めて日本での実績を反映させることができないまま今日に至っていました。


そのような中で大谷選手がこれまで並ぶことも難しかった松井秀喜さんの記録に到達したことは、もちろん豊かな才能と、その資質をさらに向上させる不断の努力の成果です。


それとともに、いわゆるフライボール革命や様々な機器や手法の発達により、実力を備えた選手がより効率的に本塁打を放ちうる環境が整っているという日米の球界の現状の見逃せません。


従って、今後大谷選手が日本選手最多の通算本塁打記録を達成し、場合によっては今季中に秋信守選手が持つアジア選手の通算本塁打記録218本を更新したとしても、松井選手の功績も秋選手の偉業も色あせることはありません。


その意味で、新たな記録を樹立して歴史を塗り替えることは、それまでの歴史を過去のものとするのではなく、むしろ呼び起こす営みでもあり、新たな視座を通して先人の軌跡が改めてわれわれに示されるのです。


[1]鈴村裕輔, 2021年の大谷翔平選手は年間50本塁打を達成するか. 2021年7月6日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/a0cc62f26c53f2a0e59257f6dca28c66?frame_id=435622 (2024年4月15日閲覧).


<Executive Summary>
Mr Shohei Ohtani's 175th Career Home Run in Major League Baseball Shines a Light on the Past (Yusuke Suzumura)


Mr Shohei Ohtani of the Los Angeles Dodgers hit 175th career home run in Major League Baseball on 12th April 2024. On this occasion, we examine the meaning of Mr Ohtani's achievement to history of the MLB.

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目黒区長選挙の告示

今日、4月21日(日)に投開票される目黒区長選挙が告示され、現職と新人の合わせて5人が立候補しました。


立候補したのは、届け出順に以下の5人です。


伊藤悠
青木英二
河野陽子
瀧下隆行
西崎翔
(以上、敬称略)


今回の選挙は、6選を目指す青木英二候補を目黒区議から東京都議に転身した伊藤悠候補と西崎翔候補、そして目黒区議の任期が3期目となった河野陽子候補が追い、区政かんっ系では初めて名前の登場する瀧下隆行候補が続く構図となります。


2020年の前回の区長選から本格的に争点の一つとなった多選批判を受け、青木候補は区長の職は今回をもって最後とし、自らの集大成の選挙と位置付けています。


こうした形で立候補することは決して珍しいことではないものの、求心力の低下は避けられません。しかも、前回の区長選挙では2016年の選挙までは優位に選挙戦を進めていたものの3人が争った2020年の選挙では落選した2人の候補者の得票を合計よりも得票数が少ないという1回目の選挙以来の苦戦を強いられたこともあり、有力な候補者が相次いで立候補することとなりました。


結果として、特別区の区長公選制が復活した1975年以降で最多となる5人が立候補した今回の選挙はかつてない熾烈な選挙戦になることが予想されます。


それとともに、青木英二候補の集票力が落ち、区議を経験した新顔のいずれもが区内において知名度が高い今回の選挙では、票が分散し、有効投票数の4分の1を獲得する候補者が現れず、法定得票数を下回ることで再選挙になる可能性もありえます。


そうなれば区政の遅滞は免れることができません。


それだけに、選挙戦において各候補者が真摯な論戦を行うことでわれらがまち目黒区の将来をよりよいものにするとともに、1987年を最後に投票率が40%を下回り続け、2004年以降の平均が約29.06%に留まる状況からも、有権者が積極的に投票所に向かうことが期待されます。


<Executive Summary>
The Notice of the Ward Mayor Election of Meguro (Yusuke Suzumura)


The Notice of the Ward Mayor Election of Meguro was conducted on 14th April 2024 and five candidates enter the campaign. On this occasion, we examnine the meaning of this election.

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團伊玖磨の芸術の奥行と幅の広さを示した『クラシックの迷宮』の特集「團伊玖磨の軌跡」

今夜のNHK FMの『クラシックの迷宮』は、今年4月7日に團伊玖磨が生誕100年を迎えたことを記念し、特集「團伊玖磨の軌跡~生誕100年に寄せて~」が放送されました。


童謡『ぞうさん』や合唱曲『筑後川』、あるいは歌劇『夕鶴』で広く知られるとともに、随筆『パイプのけむり』でも知名な團伊玖磨ではあるものの、その他の作品が演奏会で取り上げられる機会はまれで、録音の数にも限りがあり、放送で紹介されることも決して多くありません。


しかし、世界の音楽界の最新の動向をよく把握し、その時々の楽壇の潮流を反映した作品を作り出したことは、例えばストラヴィンスキーやショスタコーヴィチの音楽の影響を濃厚に受けた交響曲第1番を耳にするだけでも明らかです。


さらに、1960年にニューヨークに長期滞在した際に米国の楽壇の音楽作りに触発され、「灰色の音楽を目指した」交響曲第3番などは、自信家であった團伊玖磨が「成功しなかった」と評価したものの、作品そのものの水準の高さは自らの芸術の確立に向けて不断に挑戦する創造力に富む姿を明瞭に描き出します。


これに加えて、團伊玖磨が世相にも敏感であったことは、番組の中で紹介された映画音楽『世界大戦争』(1961年)からも明らかです。


すなわち、私も著書『政治家 石橋湛山』(中央公論新社、2023年)で本作を取り上げ、「『第三次世界大戦はいつ起きても不思議ではない』という社会全体が抱いてい漠然とした不安」が『世界大戦争』の中に羽五されていることを指摘したように[1]、当時の世界は1962年のキューバ危機によって文字通り第三次世界大戦の開戦直前まで迫っていたものでした。


こうした時代の雰囲気が『世界大戦争』から取り上げられた「第三次世界大戦」「世界最後の日」「エンディング」の中に活き活きと映し出されており、特に『お正月』の巧みな引用は、物語の悲劇的な結末を一層際立たせるものです。


それだけに、今回の放送は著名ながら作品が紹介される割合の少ない團伊玖磨の芸術の奥行と幅の広さを示すとともに、その識見の高さをも聴取者に強く印象付けたと言えるでしょう。


[1]鈴村裕輔, 政治家 石橋湛山. 中央公論新社, 2023年, 254頁.


<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Emphasises the Important Meaning of Dan Ikuma and His Art (Yusuke Suzumura)


The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured Dan Ikuma to celebrate his 100th anniversary on 13th April 2024. On this occasion, this programme demostrates that the art of Dan Ikuma's importance and meaningfulness.

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公式晩餐会での岸田文雄首相の演説の持つ大きな意味

現地時間の4月11日(木)、米国を国賓待遇で訪問中の岸田文雄首相は連邦上下両院合同会議で演説し、「米国は独りではありません。日本は米国と共にあります。」と日米の連携と結束の強さを示しました[1]。


1981年5月の日米首脳会談の際に当時の鈴木善幸首相が日米同盟に軍事的意味合いは含まないと発言し、反発した伊東正義外相が辞任するとともに日米関係が悪化したことを思えば、隔世の感を禁じ得ないものです。


一方、上下両院合同会議における演説と同様に隔世の感を禁じ得ないのが、現地時間の4月10日(水)に行われたジョー・バイデン大統領が主催した公式晩餐会での岸田首相の演説でした。


すなわち、岸田首相は演説の締めくくりとして、"Boldly go where no one has gone before."と発言しました。


これは、テレビドラマ"STAR TREK"(TOS)の冒頭でのカーク艦長が物語のあらましを紹介する"Boldly go where no man has gone before."という表現を踏まえつつ、テレビ版第2作"STAR TREK: The Next Generation"(TNG)の第1シーズン第6話の題名"Where No One Has Gone Before"(1987年)を参照した一文です。


それでは、従来"no man"とされていた表現がなぜ"no one"となったのでしょうか。


TNGの"Where No One Has Gone Before"の中では具体的な説明話されていないものの、4年後に製作されたTNGの映画版第6作"Star Trek VI: The Undiscovered Country"(ST6)に、表現の変更の手掛かりが示唆されています。


すなわち、衛星プラクシスが不慮の事故によって爆発したことで窮地に追い込まれたクリンゴン帝国が長年対立してきた地球連邦と和平交渉を行おうとした際、和平派の宰相ゴルコンが帝国の首脳とともにカーク艦長の指揮する宇宙艦エンタープライズ号に到着します。


一行を歓待するべく行われた祝宴は、双方の感情的な隔たりからよそよそしいものとなり、ゴルコンの息女アゼトバーが「地球連邦は地球人中心の集まり」と批判すると、エンタープライズ号の船医であるマッコイ博士が「違う」と言下に否定するなど、険悪さを増してゆきます。


その後、ゴルコンの暗殺とカーク艦長とマッコイ博士の逮捕、そしてエンタープライズ号の乗員による真相の究明などを経て両勢力は念願の和平協定の調印に成功します。


そして、物語の最後に右から2番目の星を目標に定めて新たな航行を行うエンタープライズ号を背景としつつ、カーク艦長が発言したのが"Boldly go where no man... no one has gone before."という一文でした。


ここから、当初は従来通り"no man"としようとしたものの、アゼトバーの「地球人中心の地球連邦」という批判を思い出し、より広い概念として"no one"を用いることで人類に限らず誰もが到達したことのない地を目指すという普遍性を強調したのでした。


岸田首相の公式晩餐会における演説も、性的少数者などへの差別を解消することを目指すバイデン政権を念頭に置き、TOSの"no man"ではなく、ST6で描かれた「地球人中心」を避けるための"no one"の使用に参照し、「男性中心」と受け取られない表現に改めたことが推察されます。


"STAR TREK"の連作は"STAR WARS"と並び米国内で幅広い世代から高い支持を得ています。


従って、岸田首相の表現を耳にすれば米国人の多くは出典を理解することでしょう。


それとともに、より熱心な"STAR TREK"の愛好家であれば"man"が"one"となっている含意にも容易に気づくことが出来ます。


その意味で、今回の岸田首相の公式晩餐会での演説は米国の社会的、文化的な背景をも知悉するよい原稿の書き手がいることを示すとともに、「外交の岸田」という自負が決して偽りではないことをも明らかにするものなのです。


[1]米国連邦議会上下両院合同会議における岸田内閣総理大臣演説. 首相官邸, 2024年4月11日, https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2024/0411enzetsu.html (2024年4月12日閲覧).


<Executive Summary>
"No One" or "No Man", What Is the Difference? (Yusuke Suzumura)


Japanese Prime Minister Fumio Kishida visits the USA and made a speech at the Official Dinner hosted by US President Joe Biden on 10th April 2024. At that time Prime Minister Kishida said the phrase "Boldly go where no one has gone before." to emphasise the ties and relationships between Japan and the USA. On this occasion, we examine the meaning of his speech.

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東京都立青山高等学校第79回入学式における祝辞

去る4月9日(火)、東京都立青山高等学校の第79回入学式が行われました。


式の概要については本欄でご紹介した通りであり[1]、私も青山高校の同窓会である一般財団法人外苑会を代表して祝辞を述べる機会を頂戴しました。


そこで、今回は祝辞の内容を以下にご案内いたします。


なお、当日は若干字句を補ったことをご了承ください。


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東京都立青山高等学校第79回入学式祝辞


ただいまご紹介にあずかりました、東京都立青山高等学校の同窓会である一般財団法人外苑会理事の鈴村裕輔でございます。


新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。このよき日に晴れて入学式を迎えられた新入生の皆様はもとより、ご家族、ご親族の皆様、そして青山高校の教職員の皆様におかれましても、心からお祝い申し上げます。


青山高校の同窓会は最初の卒業生を輩出した1945年に結成され、2019年10月1日にはより一層継続的で透明性の高い活動を行うためそれまでの任意団体から一般財団法人に移行しました。そして、2020年4月22日に名称を東京都立青山高等学校同窓会から外苑会に変更し、現在に至っています。


青山高校の公式ウェブサイトに「政治、経済、文化、芸術、スポーツ、芸能の各分野の第一線で活躍する3万余の有為の卒業生を輩出してきました。」とあるように、青山高校の卒業生は社会を牽引する存在として活躍しています。


外苑会は、そのような卒業生の交流を促進するとともに、在校生の皆さんがよりよい学びを実現できるよう給付型奨学金を2017年度に創設したほか、新入生の皆さんに英語教材を寄贈するといった取り組みを行っています。


さて、今皆さん体育館の壇上に目を向けると、向かって右側に校章を染め抜いた校旗が掲げられていることがご覧いただけると思います。


皆さんも制服につけている青山高校の校章は笹の葉、雪の結晶、そしてペンを組み合わせたものです。雪の結晶は雪の明かりを求めて勉学を続けた「蛍雪の功」の故事に由来し、雪の積もる学び舎を意味し、ペンは勤勉さを象徴し、笹の葉は雪の重さにも折れることなくしなやかに雪を跳ね返す強靭さと常に青々として生命力に満ちている様子を示します。


このような青山高校の校章は、勤勉さ、強靭さ、しなやかさを表現しており、青山高校が求める生徒像を象徴的に意味しています。


1940年に青山高校の前身である東京府立第十五中学校が設置された際、校章は「笹の葉に雪の結晶」でした。一方、1942年に設置され、1946年に十五中に統合された東京都立多摩中学校は、「三種の神器」をあしらった校章を用いていました。


そして、多摩中学校を吸収した十五中は東京都立青山中学校となり、十五中の笹の葉を基調としつつ、多摩中学校が用いていた三種の神器のうち鏡と勾玉を採用した、新たな校章が作られました。


さらに、1948年4月1日に学校制度の改革によって東京都立新制青山高等学校になるとともに、校章も現在の笹の葉、雪の結晶、ペンを図案化したものになります。この校章は学校名が東京都立青山高等学校となった1950年以降も変わることはなく用いられ、今日まで続いています。


校章は今皆さんが手にしている入学式の式次第だけでなく体育館の緞帳の上部に設置されている水引幕にも縫い取られるなど、これから皆さんも折に触れて目にする場面の多いものではあるものの、その由来や意味について考える機会は決して多くはないかもしれません。


しかし、校章に込められた思いは今に至るまで変わるものではありません。


これからの高校生活の中で、皆さんは様々な事柄に取り組み、挫折を経験したり失敗したりすることもあるでしょう。


もちろん、何を行ってもすべて成功するなら、これほど素晴らしいことはないかもしれません。


それでも、挫折や失敗は決して恐れるべきものでも、避けるべきものでもありません。むしろ、難しい事柄に挑むからこそ起きるのが挫折や失敗であるだけでなく、皆さんの成長の源でもあります。


もし何かに躓いたり立ちすくんだりすることがあったら、ぜひ青山高校の校章を思い出してください。そこにはあらゆる困難さに負けず、しなやかさをもって物事に取り組むことを応援する、笹の葉、雪の結晶、ペンがあります。そして、皆さんの日々の生活を支える友人や教職員の皆さん、そしてご家族がいます。


皆さんが青山高校でご自身の未来を大きく切り開き、実り多き日々を過ごされることを祈念し、私からのご挨拶といたします。


本日はまことにおめでとうございます。


令和6年4月9日
一般財団法人外苑会
理事 鈴村裕輔
*********************


[1]鈴村裕輔, 東京都立青山高等学校第79回入学式, 2024年4月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/95575a5304bcce1ff0d0bdc38b8e1370?frame_id=435622 (2024年4月9日閲覧).


<Executive Summary>
Congratulatory Speech for the 79th Entrance Ceremony of the Tokyo Metropolitan Aoyama High School (Yusuke Suzumura)


The 79th Entrance Ceremony of the Tokyo Aoyama High School was held on 9th April 2024 and I addressed the congratulatroy speech on behalf of the Gaienkai, the alumuni association of the high school. On this occasion I show my message to the readers of this weblog.

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名城大学2024年度前期の開始

去る4月8日(月)に私の所属する名城大学の2024年度前期の講義が始まり、私の担当する科目も今日から第1週目を迎えました。


今学期はオムニバス講義での1回のお話を含め7科目を担当します。


新学期最初の講義は何年経っても最も緊張を要するものだけに、毎回受講される皆さんの朗らかな様子は大変にありがたいものです。


4か月という限られた期間ながら、各科目を受講される皆さんがよりよい学びを通して各分野の知見を深められるよう、精進いたします。


<Executive Summary>
The Starting of the Spring Semester 2024 of Meijo University (Yusuke Suzumura)


The Spring Semester 2024 of Meijo University started on 8th April and the first class of my courses were held today. In this semester I have seven courses.

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東京都立青山高等学校第79回入学式

本日、10時から11時5分まで東京都立青山高等学校体育館において第79回入学式が行われました。


今回は282名の皆さんが入学を許可され、青山高校での新たな一歩を踏み出されました。


校長式辞では、青山高校の魅力が紹介されるとともに、青山高校で日々の学習、行事、部活動などに励むことで、新入生の皆さんが持てる能力を一層発展させることへの期待とともに、優れた教職員の皆さんが高校生活を力強く支える旨が表明されました。


また、新入生代表者による「誓いの言葉」では、青山高校の一員として学習、行事、部活動のいずれにも全力で取り組み、友人たちと切磋琢磨することでよりよい高校生活を送る決意が表明されました。


なお、今回は青山高校の同窓会である一般財団法人外苑会の祝辞を私が担当する機会に恵まれ、新入生の皆さんにお祝いの言葉を述べました。


新入生の皆さんが、青山高校でよ充実した日々を過ごされることを、心より願っております。


<Executive Summary>
Tokyo Metropolitan Aoyama High School the 79th Entrance Ceremony (Yusuke Suzumura)


Tokyo Metropolitan Aoyama High School conducted the 79th Entrance Ceremony on 9th April 2024. In this time 282 students were permitted to enter the school.

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賭博をするのはダメでも対象になるのはOKの大リーグ

去る3月26日(火)、日刊ゲンダイの2024年3月27日号23面に連載「メジャーリーグ通信」の第159回「賭博をするのはダメでも対象になるのはOKの大リーグ」が掲載されました[1]。


今回は、大リーグにおける賭博との関わりを主に制度面から検討しています。


本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


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賭博をするのはダメでも対象になるのはOKの大リーグ
鈴村裕輔


大リーグの球場には、世界に冠たる大企業から地域に根差した会社まで、様々な業種業態の事業者が広告を出している。


最近特に観客の注目を集めるのがスポーツ賭博の運営企業の広告である。


世界屈指のカジノ外として知られるラスベガスを擁する米国では、賭け事は日本に比べて日常生活の中で身近な存在となっている。


だが、スポーツを対象とした賭博は長らく違法とされてきた。


理由は明白で、賭博の対象となることで八百長が横行したり競技の純粋性が損なわれたりする疑惑が起きるからだ。


実際、1992年に連邦法であるプロ・アマスポーツ保護法(PASPA)が制定され、その時点で州法によってスポーツ賭博を容認していたネバダ、モンタナ、デラウエア、オレゴンの4州以外の全ての州でスポーツ賭博が違法とされた。


ワールド・シリーズを舞台とした八百長事件として世界のスポーツ界の事件史に残る1919年のブラックソックス事件によって存亡の危機に直面したのが大リーグである。それだけに、ブラックソックス事件以降の球界は賭博問題に厳格に対処してきた。


1979年にはウィリー・メイズ、1983年にはミッキー・マントルという球史に残る大選手がカジノ関連企業に職を得ていることが問題視され、一時的ながら球界から追放されている。さらに、1989年には歴代最多安打記録を持つピート・ローズは、野球賭博を行ったことを理由に永久追放処分を受けている。


球界にとっても、独自の規定ではなく連邦法によってスポーツ賭博全般が違法とされたことは心強いものだった。


しかし、財政難に直面した各州は新たな財源を模索する中でスポーツ賭博に着目し、2012年にニュージャージー州がスポーツ賭博の合法化に踏み切る。


ニュージャージー州の動きに対して、大リーグを含む米国四大プロスポーツリーグと全米大学体育協会はPASPAに違反するとして訴訟を起こす。そして、連邦最高裁は2018年にPASPAによるスポーツ賭博の禁止は違憲という判決を下し、状況は一変する。


これ以降、各リーグは選手が自ら行う競技を対象とする賭博に関わることを禁じつつも、スポーツ賭博の運営企業を新たな広告主として迎えるようになったのである。


大リーグ機構も2022年にスポーツ賭博大手のMGMとオフィシャル・パートナー契約を結ぶなど、従来の規制を緩和している。


米国のスポーツ界における「選手が賭博を行うことは制限するが、賭博の対象となることは規制しない」という大きな流れは、今後も止まることはないのである。
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[1]鈴村裕輔, 賭博をするのはダメでも対象になるのはOKの大リーグ. 日刊ゲンダイ, 2024年3月27日号23面.


<Executive Summary>
Changes of the Relationships between the MLB and Gambling (Yusuke Suzumura)


My article titled "Changes of the Relationships between the MLB and Gambling" was run at The Nikkan Gendai on 26th March 2024. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

 

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【新刊案内】"Meijo University Journal of the Faculty of Foreign Studies"第7号

去る3月15日(金)、私も編集委員の一人として編集作業を担当した、名城大学外国語学部紀要"Meijo University Journal of the Faculty of Foreign Studies"第7号が刊行されました。


今回は5報の論文が掲載されています。


私も"JoJo’s Bizarre Adventure and the Myth of the‘ Gentleman’: Cues from the Series’‘Phantom Blood’ and‘ Battle Tendency’"と題する論文を投稿し、荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』の第1部「ファントムブラッド」と第2部「戦闘潮流」を対象として「紳士」の概念がどのように取り扱われているかを検討しました。


本誌は各大学図書館でご覧いただけるほか、今後名城大学附属図書館が提供する名城大学学術機関リポジトリでも一般公開される予定です。


<Executive Summary>
Journal Notice: "Meijo University Journal of the Faculty of Foreign Studies" Vol. 7 (Yusuke Suzumura)


Meijo University Faculty of Foreign Studies published "Meijo University Journal of the Faculty of Foreign Studies" Vol. 7 on 15th March 2024.

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新しい放送時間でも聴取者に大きな印象を与えた『クラシックの迷宮』の特集「“追いつ追われつ”音楽入門~新入生&新社会人に捧ぐ~」

本日放送のNHK FMの『クラシックの迷宮』は「“追いつ追われつ”音楽入門~新入生&新社会人に捧ぐ~」と題し、過酷な現代社会を生き抜く新入生と新社会人に向けてフーガを中心とする特集が組まれました。


「追いつ追われつ」という表題からも、折に触れて「フーガとは遁走曲と申しまして」と強調する司会の片山杜秀先生の選曲に関心の集まるところです。


今回紹介されたのは、バッハの小フーガやトッカータとフーガ、ベートーヴェンの大フーガから友竹正則の『一年生になったら』(作詞:まどみちお、作曲:山本直純)、フランキー堺の『君も出世ができる』(作詞:谷川俊太郎、作曲:黛敏郎)まで、器楽曲から童謡に至る幅広い作品が紹介されました。


フランキー堺とバッハが並ぶのは「クラシック音楽」を一つひとつの作品の内奥に入り込むことでそれらの特徴を明らかにする『クラシックの迷宮』ならではの試みです。


それとともに、主題の原形と応答とが交互に現れるフーガの特徴に「優勝劣敗のきしみあう競争社会」の縮図を見出すとともに、追い続け、いったんは追い抜くものの抜き去ることが出来なという構造からライヒの『ピアノ・フェーズ』もフーガの範疇に入るとすることは、片山先生の見識の深さを示すものです。


このように、「クラシック音楽」の重要な要素であるフーガが備える多面的な性格を様々な作品から明らかにしつつ、出世することを最大の目標としたサラリーマンたちの努力がどのようになったかを『俺は出世ができない』と『男いっぴき』で示し、最後は口頭で物語の幸福な結末を伝えるなど、聴取者の関心にこたえるための伏線を配して回収する様子も、いつもながらに手慣れたものでした。


2024年度から放送時間が従来の100分から95分に短縮され、今回が新しい時間枠での最初の放送となりました。


それでもこれまでと変わらない委曲を尽くした構成と充実した内容となった『クラシックの迷宮』は、これからも聴取者に新たな知見を与え続けることでしょう。


<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Still Has a Remarkable Impact to the Listeners under the New Time Schedule (Yusuke Suzumura)


The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured fuga on 6th April 2024. On this occasion, this programme demostrates that it still has a remarkable impact to the listeners under the new time schedule.

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【追悼文】鈴木健二さんについて思い出すいくつかのこと

去る3月29日(金)、元NHKアナウンサーの鈴木健二さんが逝去しました。享年95歳でした。


1952年にNHKに入局したのち、ニュース番組や情報番組の司会を経て『歴史への招待』(1978-1984年)、『クイズ面白ゼミナール』(1981-1988年)、『お元気ですか』(1984-1988年)などの教養番組や娯楽番組の司会者として名声を博したのは広く知られるところです。


私も『クイズ面白ゼミナール』でのよどみのない話しぶりと主題に応じて衣装を変えるといった趣向の凝らされた構成、さらにはその大らかな進行を通して、鈴木さんの存在を身近に感じたものでした。


特に1987年12月13日(日)に放送された忠臣蔵を取り上げた回では、大石内蔵助に扮した鈴木さんが山鹿流陣太鼓を叩きながら登場するものの、「このように大きな音を立てていたのではすぐに吉良方に気づかれてしまいますので、実際はございませんでした」と陣太鼓を脇に置いた様子が思い出深いものです。


さらに、吉良邸での大石方と吉良方の攻防についても、演劇では太刀と小太刀を振るい橋の上で大石方を相手に奮闘する姿が強調される清水一学について、当時の記録ではわずかの間戦っただけで討ち取られたと解説し、史実と戯曲の違いを明快が示され、「知るは楽しみ」という番組の特徴がよく示されたものでした。


なお、このときは歴史上の清水一学があっけなく討ち取られたという説明の際に、清水役の役者が宙返りをして池に落ちるという演出がなされており、これも興味深い場面となっています。


NHKを1988年に退職すると、初任地が熊本放送局であったこともあって当時の細川護熙知事に請われて 熊本県立劇場館長に就任し、同館の任期を満了した1998年には東北大学出身という関係から青森県の文化アドバイザーと青森県立図書館館長を2004年まで務めるなど、その後も鈴木さんは幅広い活躍を示しました。


一度渡された台本は放送開始までにすべて暗記し、番組中は手元を一切見ないなど、博覧強記のアナウンサーとして親しまれた鈴木さんは、NHK内でも屈指の読書家で、膨大な量の読書が確かな知識を支えるという信念を持った人でもありました。


個性豊かなアナウンサーが各時代を彩るNHKにあっても一際視聴者に深い印象を与えた鈴木健二さんのご冥福をお祈り申し上げます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Mr Kenji Suzuki (Yusuke Suzumura)


Mr Kenji Suzuki, a former announcer of the NHK, had passed away at the age of 95 on 29th March 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memoris of Mr Suzuki.

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名城大学2024年度入学式によせて

本日、名城大学の2024年度入学式が行われ、学部生及び大学院生の皆さん3911人が入学しました。


新入生の皆さんには、よりよい学びの機会を通して知性を涵養し、それぞれの分野で求められる研究能力を向上させるとともに、人格の陶冶に励むことが期待されます。


私も、教員の一人として新入生の皆さんによりよい学びと気付きの機会を提供したいと、意を新たにする次第です。


<Executive Summary>
Meijo University Entrance Ceremony 2024 (Yusuke Suzumura)


Meijo University, my affiliation, held the Entrance Ceremony on 4th April 2024.

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川勝平太静岡県知事の辞意表明の持つ意味は何か

昨日、静岡県の川勝平太知事が会見し、4月1日(月)に行われた静岡県庁の入庁式での訓示に職業差別と捉えられかねない不適切な内容があったとして批判されていることを受け、今年6月の定例県議会をもって辞任する意向を示しました[1]。


県庁をシンクタンクとして捉え、県庁の職員は何かを作り出すことはないかもしれないものの知性をもって県の発展に貢献するという趣旨の発言そののものは、県政の実務に携わる新入職員の意欲を高めるためにも重要です。


その一方で、他の職業を参照して県庁職員のあり方を定義することは不要なことであり、川勝知事は無用の例示をすることで訓示の内容が正しく伝わることを自ら妨げたと言えるでしょう。


従って、発言の内容を報道機関の切り取りとし、不適切な内容ではなかったとすることは、自らの立論の不手際を覆い隠そうとするものに他なりません。


これに対して、川勝知事は自らの過去の発言との整合性を取るために今回の辞職を決意したのであれば、その判断は合理的なものです。


すなわち、2023年7月24日(月)の記者会見で、自らの不適切発言に関連して県議会で不信任決議案が審議され、最終的に否決された際、「また不適切発言をすれば辞職する覚悟で職務にあたる」と述べてます[2]。


今回の辞意の表明は昨年の発言を踏まえたものということになります。


しかし、辞職後の知事選に出馬せず、後継の指名も行わないと発言しながら[3]、立憲民主党の渡辺周衆議院議員に出馬を打診すると受け取れる連絡を行うなど[4]、川勝知事の言動には不透明な点があります。


これは、自らの発言が政局化することで県政の混乱をもたらしたという点を強調して辞意を表明した川勝知事自身が、後継者問題を政局化していることを示唆します。


しかも、川勝知事は2021年に不適切発言の責任として自ら報酬を返上する意向を示したものの、その後返していないことが発覚して県議会との軋轢を起こしています[2]。


それだけに、今年6月の定例県議会の終了後に川勝知事が本当に辞任するのか否か、辞任したとして知事選に出馬しないのか否か、出馬しない場合に後継者を示するのか否かという点を含め、今後の動向が注目されます。


[1]静岡・川勝知事が辞意. 日本経済新聞, 2024年4月3日朝刊1面.
[2]不適切発言「次は辞職」. 日本経済新聞, 地方経済面 静岡, 2023年7月25日朝刊6面,
[3]静岡・川勝知事、「心から謝罪」も撤回せず 出馬は否定. 日本経済新聞電子版, 2024年4月3日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC039KW0T00C24A4000000/ (2024年4月3日閲覧).
[4]川勝・静岡知事、立民の渡辺周元防衛副大臣に後継打診. 日本経済新聞電子版, 2024年4月3日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA031JB0T00C24A4000000/ (2024年4月3日閲覧).


<Executive Summary>
What Is the Meaning of Shizuoka Governor Heita Kawakatsu's Announcement of Intention to Resing the Position? (Yusuke Suzumura)


Shizuoka Governor Heita Kawakatsu announces his intention to resing the position by his incorrect address on 2nd April 2024. On this occasion, we examine the meaning of Governor Kawakatsu's announcement.

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小林製薬の「紅麹問題」を考える際に重要な視点は何か

去る3月29日(金)、小林製薬が製造した紅麹を原料とする機能性表示食品による健康被害問題について小林章浩社長が記者会見し、今回問題となっている腎疾患についてプベルル酸の可能性であることを示唆しました[1]。


小林製薬側による説明では、健康被害のあった製品のロットに予定しない物質を検出し、分析の結果プベルル酸の数値が高いことが分かったとのことです[1]。


すでに、小林製薬が本社を置く大阪市が製品の回収命令を出し[2]、岸田文雄首相が参議院予算委員会に置いて政府として再発防止に向けた対策を検討する意向を示すなど[3]、社会問題となっているだけに、人々の関心が高まるのは当然のことです。


また、プベルル酸について、4月2日(火)の22時時点で医科系の論文などを収載したデータベースである医中誌Webで「プベルル酸」を検索語として調べると、該当する文献は7報であり、米国国立医学図書館の提供するPubMedでpuberulic acidを検索しても6報が該当するのみです。


同様に、4月2日(火)の22時5分の時点で「アミノ酸」を検索すると医中誌Webで154,537報、PubMedでamino acidを調べると1,630,794報が該当することを考えれば、プベルル酸に関する研究が進んでいないことが分かります。


今回の問題で関心を集めている、腎疾患の原因となる「未知の成分」として、プベルル酸が推定されるとしても不思議ではないでしょう。


しかし、プベルル酸に関するこれまでの研究は抗マラリヤ薬としての検討が中心であり、腎疾患は対象となっていません。


従って、現時点ではプベルル酸は研究が進んでいない物質であると言えても、腎疾患の原因となる「未知の成分」であるか否かは不明であることは明らかです。


こうした状況を考えれば、プベルル酸と腎疾患の因果関係を実証することは現時点で不可能であり、明確な関連のない二つのものを挙げてあたかも直接の関係があるかのように議論することは、むしろ問題の所在を隠し、解決を遅らせるだけになります。


それだけに、報道機関は今回の小林製薬の紅麹問題について、より慎重で、証拠に基づいた報道を行うことが求められます。


[1]青カビ由来物質 原因か. 日本経済新聞, 2024年3月30日朝刊1面.
[2]小林製薬に回収命令. 日本経済新聞, 2024年3月27日夕刊1面.
[3]再発防止政府で検討. 日本経済新聞, 2024年3月28日夕刊1面.


<Executive Summary>
What Is the Important Viewpoint to Understand the "Benikoji Supplement Issues"? (Yusuke Suzumura)


The Kobayashi Pharmaceutical held the press conference to explaine the detailed information of the "Benikoji Supplement Issues" on 29th March 2024. On this occasion, we have to have a viewpoint based on evidences.

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2024年度のはじまりに際してのご挨拶

今日から2024年度が始まりました。


国内外の情勢の先行きの見通しが悪いことはこれまでと変わりはないものの、今後も研究・教育活動を通してこれからの世界を担う皆さんの成長と社会への貢献に努める所存です。


教育活動について、昨年度から学部で担当するようになった「国際フィールドワークI(英語圏)」が2年目となり、前回の知見を活かした、より実践的な内容になる予定です。


また、交換留学生向けの「国際日本学科目」も従来通りの内容で開講するとともに、新たに「国際日本学8」として"
History and Culture of Chubu Area "を担当します。中部圏の歴史と文化を通して地域をよりよく知るという趣旨の科目であり、私にとっても新たな分野を開拓することになります。


こうした講義を通して、これからも学生の皆さんによりよい学びの機会を提供できるよう努めます。


執筆活動については、『体育科教育』の「スポーツの今を知るために」及び『日刊ゲンダイ』の「メジャーリーグ通信」の2件の連載を中心として、読者の皆さんにとって意義のある記事を提供することを心がけるとともに、他の媒体への執筆活動も、新たな機会があれば積極的に取り組みます。


さらに、新聞、テレビ、ラジオなどへの寄稿・出演なども声をかけていただけるよう、これまで以上に自己研鑽に励んでゆきます。


最後に、日々の生活については、2020年10月に誕生した息子が4歳を迎え、昨年1月に生まれた次男も保育園に通うようになり、これまで以上に「家庭本位」で毎日を送りたいと思います。


2024年度もこれまで同様、家庭生活、研究、教育、校務などに励み、これまで以上によりよい成果を残せるよう、諸事に精進いたします。


<Executive Summary>
A Greeting for the New Academic Year 2024 (Yusuke Suzumura)


The 1st April is the first day of Japanese fiscal year of 2024. On this occasion, I make a fresh resolve to contribute my affiliation, Meijo University, and academias.

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2023年度の研究・教育活動等の概観と2024年度への展望

本日で2023年度が終わります。そこで、今回はこの1年度間の研究、教育及びその他の活動を概観します。


まず、研究活動については、刊行された単著書が1冊、単著論文が3報、口頭発表が3件でした。


今年度は2023年9月7日(木)に『政治家 石橋湛山』を中央公論社から刊行できたことが、研究活動の最大の成果の一つでした。


2023年は没後50年、2024年は生誕140年ということで、石橋湛山への注目が高まっています。そうした中で、石橋湛山に関心を持ち始めてから20年目という節目の年に私のこれまでの石橋湛山研究の一つの形を示す機会を頂戴できたことは、大変にありがたいことでした。


また、おかげさまで好評をいただき、新聞や雑誌などの書評でも数多く取り上げられており、これも著者として感慨無量です。


次に、学会活動については、日本国際文化学会第22回全国大会を2023年7月8日(土)、9日(日)に名城大学ナゴヤドーム前キャンパスにおいて、野球文化學會の第7回研究大会を2024年1月28日(日)に法政大学市ヶ谷キャンパス大内山校舎において開催しました。


前者については学会初となる中部地区での全国大会を実行委員長として、後者は阪神甲子園球場の開場から100年目となる年に会長として「甲子園100年と高校野球」と題しする研究大会を挙行できたことは、実行委員会や学会役員、さらに参加された皆さんのご支援のたまものと、改めて感謝する次第です。


さらに、教育活動に関しては、2020年度から名城大学において始まった、交換留学生に向けて英語で行う「国際日本学科目」が交換留学生向けの日本語教育とともに「交換留学生受入れ国際日本学・日本語プログラム」として名城大学の令和5年度教育功労賞を受賞しました。


私が名城大学に着任したのは2019年4月のことで、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による留学生全般の派遣や受け入れが中止され、国際交流が停滞するという局面もありました。


そのような中で交換留学生の受け入れ数が着実に増加したのは、日本語教育の充実を期すために2020年4月に着任された池田先生の活躍と、国際化推進センターの職員の皆さんの尽力のたまもの以外の何物でもありません。


それだけに、表彰式において小原裕章学長が祝辞の中でコロナ禍で停滞せざるを得なかった学生の国際交流を活性化し、名城大学が定める「国際化推進計画2026」の目標達成に寄与したことを最初に言及されたのは、われわれにとって大変にありがたいことでした。


最後に、その他の活動としては、2009年4月から担当する大修館書店の『体育科教育』の連載「スポーツの今を知るために」が通算で181回となり、2017年4月から隔週で担当している日刊ゲンダイの連載「メジャーリーグ通信」も通算160回を数えました。


日米の野球関連の話題について、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞、時事通信社に私の談話に基づく記事が掲載され、石橋湛山に関して『政治家 石橋湛山』の内容や最新の研究動向が産経新聞および読売新聞で取り上げられるなど、情報の発信に取り組みました。


これに関連し、テレビ番組への出演やウェブニュースへの談話の提供などの機会に与りました。


このように、2023年度も多くの方のご支援とご助言によって、日々の研究・教育活動を行うことが出来ました。


明日からの2024年度についても、研究、教育、その他の活動について一層の精進に励む所存です。


引き続き皆様のご支援とご声援をお願い申し上げます。


<Executive Summary>
Review of the Fiscal Year 2023 and Foresight to the Fiscal Year 2024 (Yusuke Suzumura)


The 31st March, 2024 is the last day of the fiscal year 2023. On this occasion I review my research, education and other activities in the fiscal year 2023.

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『クラシックの迷宮』の特集「芥川也寸志の「やぶにらみの音楽論」が伝える芥川也寸志の多岐にわたる活躍

今夜のNHK FMの『クラシックの迷宮』では、「芥川也寸志の「やぶにらみの音楽論」~NHKのアーカイブス」と題し、芥川也寸志が1956年から1960年までラジオ第二で放送された『音楽クラブ』の不定期企画「やぶにらみの音楽論」を中心とした特集が組まれました。


作曲家としてだけではなく、文筆家、司会者、放送作家など多くの分野で活躍し、戦後の日本の政治、社会、文化などに大きな影響を与えた存在として芥川也寸志を捉えるのが、『クラシックの迷宮』の司会者である片山杜秀先生の視点です。


そして、そのような芥川の名前を広く知らしめることになったのが毎週日曜日の午前10時から放送されていた30分番組『音楽クラブ』と「やぶにらみの音楽論」であり、そのような番組がどのような内容であったかを当時の録音を紹介することで再確認しようというこのが、今回の特集の趣旨でした。


「やぶにらみの音楽論」のうち、「リズムの秘密」「旋律の話(音楽と民族性)」「放送音楽の話」の3つのを回を通して示されるのは、これらの話題が当時は毎回の放送のための題材であったかもしれないものの、やがて芥川自身の中で熟成され、1971年の『音楽の基礎』(岩波書店)へと結実したであろうということです。


例えば、「放送音楽の話」でラジオ放送における音楽の持つ重要性や作曲家にとってのラジオ放送の意味が語られたことは、『音楽の基礎』においてかつて総合芸術は歌劇であり、現在は映画やテレビ番組であるという『音楽の基礎』の考え方の原型と言えるものです。


あるいは、東京音楽学校の学生であった時の軍事教練の話に始まり、進軍ラッパと日蓮宗の念仏の対比を行い、あるいは人類の歴史の原初において労働の際にリズムが必要であったと指摘する「リズムの秘密」も、『音楽の基礎』で取り上げられる事例を連想させます。


こうした点は、今も読み継がれる名著の淵源と完成までの由来を知るという点からも意義深いものでした。


それとともに、八面六臂の活躍と片山先生が称される芥川の多岐にわたる活躍は、ある意味で片山先生自身の多面的で精力的な活動そのものの先駆の一つでもあります。


今回の放送は2025年が芥川也寸志の生誕100年にあたるだけでなく、芥川にとって重要な活動の場の一つであったラジオが放送を開始してから100年を迎えることを予祝するという意味でも、いつにも増して重要な内容になったと言えるでしょう。


<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Tells an Important Role of Akutagawa Yasushi to the History of Japanese Radio (Yusuke Suzumura)


The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured Akutagawa Yaushi's radio programme named "A Crossed-Eye Person's Theory of Music" on 30th March 2024. On this occasion, we could understand Akutagawa's remarkable contributions to the development of Japanese media

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長男の保育園の「卒園」について思ういくつかのこと

本日、長男が現在通っている保育園を卒園しました。


この保育園は0歳児クラスから2歳児クラスまでが設けられているため、長男は4月1日(月)からは区立の保育園の年少組に入園します。


昨年4月に自宅を名古屋市から目黒区に戻した際、自宅の近くには2歳児クラスの定員に空きのある園がありませんでした。


そのため、自転車で15分ほどの場所にあるこの保育園に入園できたことは、長男が待機児童になることを避けられたという点でも、わが家にとって大変にありがたいものでした。


また、小規模で比較的伸びやかな保育を行っていたこの園は、どちらかといえばおっとりした性格の長男によく合っており、毎日楽しく登園し、園から自宅に戻った際もお友だちや先生方のことや遊びに行った公園の様子やなどをよく教えてくれました。


最後の当園日となった今日は卒園生を送る会が開かれ、先生方のお手製の卒園アルバムと長男が在籍した昨年5月1日から今日までの制作物の綴りをいただきました。


この1年間の先生方の保育に改めて感謝する次第です。


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions for Our First Son's Graduation from a Nursery School with Classes Up To 2-Year-Olds (Yusuke Suzumura)


My first son graduated from a nursery school that has classes up to 2-year-olds today. On this occasion, we express our miscellaneous impressions of the nursery school.

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「博士人材活躍プラン」を考える際に重要な論点は何か

3月26日(火)、文部科学省は「博士人材活躍プラン」をまとめ、人口100万人当たりの博士号取得者を2040年に現在の3倍にする目標を公表しました[1]。


計画では、大学院教育の改革や大学院生の支援を強化することで博士課程への進学者を増やすとともに、産業界と連携して博士号取得者の就業の機会を拡大するとのことです。


分野による違いがあるとはいえ、博士号の取得者が課程を修了した後にただちに大学で任期なしの専任の職を得ることが容易ではない現状を考えれば、民間企業が博士号の取得者や満期退学者などに広く門戸を開くことは、新たな活躍の場の提供という意味でも意義のある取り組みとなることでしょう。


ただし、「博士問題」が取り沙汰される場合、往々にしていわゆる理科系の博士号取得者が議論の中心になりがちであることも事実です。


しかし、実際には産業の活性化につながるような実務的な内容を研究するだけでなく、歴史や思想、文化、あるいは制度など、社会の基盤を確かなものにし、人々の生活の質の向上に寄与するものの、金融商品の開発や人工知能の発達とは関係しない分野も多数存在します。


そして、「博士問題」や「博士人材の活用」という際には、意図的であるか否かを問わず様々な研究分野に多彩な研究者がいることが見過ごされる形で検討が進むために、政策の実効性が乏しいか、限られた範囲にのみ有効な対策が施されるだけになりがちです。


しかも、一国の研究力を高めるためには、一面において高度な専門能力を備えた研究者を育成するとともに、他面では研究者が自らの研究能力を遺憾なく発揮できる環境の整備が不可欠です。


このとき、「博士人材の活用」という名目のために研究者がこれまで修めてきた学問領域とは関係のない分野の研究に携わることは、既存の知見を活用するための格好の機会となるかもしれないものの、研究の連続性が途絶すると考えるなら、必ずしも好ましいことではありません。


もとより、自立した研究者である博士号取得者や満期退学者は分野を問わずこれまでの研究成果の収集や文献の分析などの基礎的な研究能力を備えています。


従って、「博士人材の活用」に重要なのは「社会が求める博士」の育成だけでなく、「博士の能力を理解できる社会」の形成でもあります。


それだけに、今後、様々な分野の博士号取得者を念頭に置いた検討が進められることが願われます。


[1]「社会が求める博士」育成. 日本経済新聞, 2024年3月27日朝刊46面.


<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint to Examine the Way of Use of Researchers Obtained a Doctrate? (Yusuke Suzumura)


The Ministry of Education、Culture、Sports、Science and Technology announces that they introduce the new policy to increase the total number of researchers obtained a doctrate three times by 2040 on 26th March 2024. On this occasion, we examine an important viewpoint to discuss such kind of policy regarding the problem.

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文化の比較の観点から考える大谷翔平選手の声明の持つ意味

現地時間の3月25日(月)に大リーグのロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手が行った「野球賭博疑惑」に関する記者会見について、本欄の理解は昨日ご紹介した通りです[1]。


ところで、大谷選手の記者会見についてありがたくも報道各社から見解を求められた際、私は「完全に米国向けの声明であり、記者会見である」とお話しました。


もとより米国内で起きた出来事だけに、米国の報道機関が様々な報道を行うのは当然です。そして、そのような報道に対して自らの立場を明らかにしたのが今回の記者会見でした。


従って、声明を受け取る側が米国の報道機関であることは明白です。


こうした外形的な要因だけでなく、大谷選手の声明の内容そのもに即しても、誰を対象としているかは容易に分かります。


すなわち、会見の中で謝罪に類する表現が一切なかったことが、米国向けの声明であったことを示します。


日本であれば何はなくとも冒頭に「すみませんでした」「ご迷惑をおかけしました」という陳謝とともに頭を下げた後に自らの考えを表明するのが、このような記者会見の通例といっても過言ではありません。


しかし、大谷選手が事件に対する自らの理解と野球を含む一切のスポーツ賭博と関係していないことを表明して会見を終えました。


これは、日本的な感性からすれば違和感があるかもしれないものの、どのような場合であっても一言でも謝罪に繋がる表現があれば「やはり関係していたのだ」と新たな疑惑を生むのが米国的な心性を考えれば当然の対応となります。


それだけに、会見一つをとっても日米の違いが表れることが今回の一件で改めて示されたのは、文化の比較という観点からは意義深いものであったと言えるでしょう。


[1]鈴村裕輔, 「野球賭博疑惑」に関する大谷翔平選手の声明を理解するために重要な観点は何か. 2024年3月26日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/5c81f29d83e45e2dd85d6e6d2bdfc583?frame_id=435622 (2024年3月27日閲覧).


<Executive Summary>
The Meaning of Mr Shohei Ohtani's Statement Seen from the Viewpoint of Comparative Culture (Yusuke Suzumura)


Mr Shohei Ohtani of the Los Angeles Dodgers held a press conference and express his statment for the "Massive Theft Issues" on 25th March 2024. On this occasion, we examine a characteristic of Mr Ohtani's statement based on the viewpoint of comparative culture.

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「野球賭博疑惑」に関する大谷翔平選手の声明を理解するために重要な観点は何か

現地時間の3月25日(月)、大リーグのロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手が記者会見を行い、専属通訳であった水原一平氏による違法賭博疑惑に関する声明を読み上げました。


捜査が行われている状況のため、話せる内容に制限があるという趣旨の前置きをしたうえで、「送金を頼んだことも許可したこともない」と自身の関与を全面的に否定し、水原氏に騙されたと強調しました。


事件の発覚後に大谷選手が自ら声明を発表するのは今回が初めてで、米国の報道機関などの一部からあがっていた、大谷選手の説明責任を求める意見に応じた形です。


今回は大谷選手が自らの立場を表明したもので、これによって大リーグ機構による調査や当局の操作が影響を受けるものではないという点には注意が必要です。


むしろ、これによって本件はようやく本格的な動きを見せ始めたと言うべきです。


また、もし大谷選手の声明の内容が全て正確であると立証されれば、機構として処分を行う可能性はなくなると考えられます。


一方、仮に声明の内容に真実とは異なる内容が含まれていることが明らかになれば、たとえ処分に相当する事実がなかったとしても、大谷選手の名声に影響を与えることが推察されます。


その意味で、すでに本欄が指摘するように、今回の一件はRule 21のように大リーグ機構が定める規程と推定無罪の原則のいずれにも注意を払う必要があり、他の案件と同様に事柄そのものに即して考える努力を怠ってはならないのです。


<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint to Understand Mr Shohei Ohtani's Statement? (Yusuke Suzumura)


Mr Shohei Ohtani of the Los Angeles Dodgers held a press conference and express his statment for the "Massive Theft Issues" on 25th March 2024. On this occasion, we examine what is an important viewpoint to understand Mr Ohtani's statement.

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『松尾潔のメロウな夜』の放送終了に際して思ういくつかのこと

本日、NHK FMの番組『松尾潔のメロウな夜』の放送が終了しました。


2009年8月13日(木)の特別番組としての放送を経て2010年3月31日(水)から始まったこの番組は、2013年4月1日(月)から月曜日に移りました。


これ以降、月曜日の夜更けの時間に欠かせない番組として今日に至っています。


「メロウ」を主題に松尾潔さんが通暁するR&Bを中心とする作品を紹介する『松尾潔のメロウな夜』は、「大人が楽しめる」という言葉通り、様々な作品を取り上げる、実り多い番組です。


ただ、NHKが経費削減などを主たる理由として、2026年度からラジオ第一とラジオ第二と2波あるAMラジオを1波削減する方針に伴い、ラジオ第二で放送している語学番組を月曜日から金曜日の23時台のFMに移行させることを決めました。


この時間帯は長らく日本のポップスや洋楽を取り扱う番組の枠として聴取者に親しまれてきたものの、AMラジオの1波削減という経営方針に比べればより軽いものです。


そのため、月曜日から金曜日の23時台に放送されている5つの番組は、『THE ALFEE 終わらない夢』が2024年4月から13時に移るのを除いてすべて放送を終了することになります。


ところで、私がそれまで不定期で耳を傾けていた『松尾潔のメロウな夜』を毎週聴取するようになったのは2023年1月と、ごく最近のことでした。


次男が2023年1月14日(土)に誕生し、夜の寝かし付けやミルクを挙げる際に聞き始めたところ、松尾潔さんの選曲と、一つひとつの作品に対する示唆に富む解説が興味深く、これ以降毎回選局するようになったのでした。


これは、一面において私が2018年5月に妻と新たな生活を始めて以来家庭の中心にラジオが欠かせなくなり、それまで欠かさず聞いていたNHK FMやラジオ第二の管弦楽に関連する番組以外にも、様々な番組を耳にするようになり、興味と関心の範囲が広がった結果であったと言えます。


それとともに、他面では松尾潔さんの抑制された進行と選曲が「憂鬱な月曜日の夜をメロウに」という番組の趣旨をよく反映し、良質で上質な構成となっていたことも見逃せません。


それだけに、こうした良心的な番組が終了することは、聴取者の一人として大変残念に思われるものです。


また、2019年3月303日(土)に愛聴していた『きこえタマゴ』が終了した際にも実感されたように、日頃から耳を傾ける番組が終わる際にはひとき惜別の念が抱かれるところです。


番組の終わりに毎回松尾潔さんが「楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。」という一言は、吉田秀和先生がNHK FMで担当されていた『名曲のたのしみ』を毎回「それじゃ、また」と締めくくられていたのに並ぶ、私にとっては印象深い場面です。


最終回となった今回の放送では、番組として初めてとなる生放送が敢行され、松尾潔さんが自らの信条を投影した作品を選ぶことで、ひときわ印象深い回となりました。


聴取者からの投稿では番組の終了を惜しむとともに、NHK FMが松尾潔さんを司会者とする新たな番組を開始することを願う声が多数紹介されていました。


こうした聴取者の声が遠からず現実のものとなることを期待しつつ、松尾潔さんの14年にわたる番組の進行に謝意を表する次第です。


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions for "Kiyoshi Matsuo's Mellow Night" (Yusuke Suzumura)


A radio programme of the NHK FM "Kiyoshi Matsuo's Mellow Night" finished today. On this occasio, I express my miscellaneous impressions of the programme.

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【追悼文】マウリツィオ・ポリーニさんについて思い出すいくつかのこと

3月23日(土)、ピアノ奏者のマウリツィオ・ポリーニさんが逝去しました。享年82歳でした。


18歳でショパン国際ピアノコンクールに優勝し、審査委員長であったアルトゥール・ルービンシュタインから「技術的には審査員の誰よりも優れている」と称されたことや、一時期演奏活動から離れたものの常に世界最高のピアノ奏者の一人として活躍したことは周知のとおりです。


また、バッハからブーレーズまで幅広い作曲家の作品を積極的に演奏したのは、ポリーニさんの柔軟な姿勢とルービンシュタインから称賛された演奏技術の高さがあったからこそ実現したものでした。


実際、ストラヴィンスキーの『ペトルーシュカからの3楽章』のような難曲を正確に弾き切るところに、その技巧性の優秀さが示されていたと言えるでしょう。


一方、ルービンシュタインが審査員の誰よりも優れているとしたのが技術であったことは、青年奏者としてのポリーニさんには芸術面での発展の余地があることを伝えるものです。


そのような中で、演奏活動を制限していた時期にミラノ大学で物理学を修めたことなどは、音楽性や芸術性の向上のためには音楽だけに留まらない幅広い学びが必要であると考えたためと推察されます。


そして、そのような取り組みは、国際的な演奏活動を本格化させた1968年以降の演奏の中に結実します。


1970年代からは多くの録音を通してその豊かな感性と正確無比な技術に支えられた優れた演奏が世界中で広く支持され、当代最高峰のピアノ奏者の地位を確立したのでした。


私にとってもポリーニさんは録音によって親しんだピアノ奏者でした。


例えば、1979年にカール・ベームの指揮するウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と共演したブラームスのピアノ協奏曲第1番などは、演奏の充実ぶりもさることながら、ピアノに片手を措くポリーニさんとベームがともに微笑みを浮かべながら収まっている写真を用いたジャケットも印象深いものです。


それとともに、1992年8月に東京都立青山高等学校の部活動である青山フィルハーモニー管弦楽団の夏季合宿で長野県のホテルジャパン志賀を初めて利用した際、1階のアンサンブルホールにヘルベルト・フォン・カラヤン、レナード・バーンスタイン、ジュゼッペ・シノーポリマルタ・アルゲリッチらとともに、ポリーニさんの写真が飾られていました。


これ以降、最後の利用となる2015年まで毎年青フィルの合宿の季節になると必ず目にするのがポリーニさんの写真であり、私にとってポリーニさんは夏の記憶と深く結びついている音楽家の一人でした。


演奏家として傑出していただけでなく、浮世絵や漆器など、日本の文物に対する造詣も深いポリーニさんのご冥福をお祈り申し上げます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Mr Maurizio Pollini (Yusuke Suzumura)


Mr Maurizio Pollini, a pianist and the winner of 1960 VI International Chopin Piano Competition, had passed away at the age of 82 on 23rd March 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memories of Mr Pollini.

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『クラシックの迷宮』の放送開始10周年記念特集「リスナー大感謝祭~片山杜秀がリクエストに応える!~」の持つ大きな意義

今夜放送されたNHK FMの『クラシックの迷宮』は2013年1月の放送開始から10周年を迎えたことにちなみ、2023年1月21日(土)の放送に続いて聴取者からの投稿に基づいて紹介する作品を選ぶ「リスナー大感謝祭~片山杜秀がリクエストに応える!~」が放送されました。


今回取り上げられたのは、以下の11曲でした。

 

  1. ジョン・ウィリアムズ/映画音楽『未知との遭遇』から「宇宙人との対話」(指揮:ジョン・ウィリアムズ、管弦楽:ストン・ポップス・オーケストラ)
  2. ウェーバー/歌劇『魔弾の射手』から第8曲「どうして眠れるでしょう~静かに静かに」(指揮:ルネ・ヤーコプス、ソプラノ:ポリーナ・パスツィルチャク、管弦楽:フライブルク・バロックオーケストラ)
  3. ベルク(編曲:テオ・ファーベイ):ピアノ・ソナタ(管弦楽版)(指揮:リッカルド・シャイー、管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)
  4. フランソワ・クープラン(編曲:ルイ・フルーリー)/恋のうぐいす(オーボエ:池田昭子、チェンバロ:大塚直哉)
  5. 真鍋理一郎/映画音楽からの組曲『日本の夜と霧』(指揮:外山雄三、管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団)
  6. 芥川也寸志/テレビドラマ『武蔵坊弁慶』よりテーマ音楽(指揮:芥川也寸志、管弦楽:新交響楽団)
  7. 服部良一/意想曲 1936年(指揮:服部良一、管弦楽:日本クリスタル交響楽団)
  8. リスト(編曲:ホロヴィッツ)/ハンガリー狂詩曲第15番『ラコッツィ行進曲』(ピアノ:ウラディーミル・ホロヴィッツ)
  9. プロコフィエフ/バイオリン・ソナタ第1番第4楽章(ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ、ピアノ:ウラディーミル・ヤンポリスキー)
  10. 伊福部昭/ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲第3楽章(指揮:大友直人、ピアノ独奏:舘野泉、管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団)
  11. チャイコフスキー/弦楽セレナード第4楽章(指揮:小澤征爾、演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ)


交響曲から歌謡曲まで、「クラシック」という枠組みの持つ可能性と広がりを模索し、その探求には終わりがないという意味での「迷宮」としての「クラシック」の姿を描き出すのが『クラシックの迷宮』です。


そのような番組の特徴を反映し、今回も映画やテレビの附随音楽から歌劇まで様々な作品が取り上げられました。


また、前回と同様に聴取者からの投稿文も紹介されたことで、聴取者がどのような態度で番組を聴取し、推薦曲を投稿するのかが示されました。


一連の投稿は選曲以上に興味深く、例えば服部良一の『意想曲 1936年』が取り上げられたのは「片山先生のおすすめの服部良一のクラシック作品を」という聴取者からの一文を受けたものでした。


しかも、投稿は服部と朝比奈隆がともにエマヌエル・メッテルに師事した点を踏まえ、大衆音楽家として知られる服部良一も系譜の上ではクラシックの作曲家に連なるという理由を挙げるのですから、番組のみならず聴取者も高い巣潤で音楽に接していることが示されました。


あるいは、1974年に没したオイストラフの音源を希望する投稿に付された「オイストラフはこの番組に似つかわしくないかも知れないけれど」という一文を受けて「そんなことはありません、いずれ没後50周年企画を予定しておりまして」と今後の放送の予定を紹介するなど、投稿を通した聴取者と司会者の交流の様子が披露されることは、意義深いものでした。


それだけに、多くの投稿があったものの、希望のあった作品を全て取り上げられなかったとして、今後も同様の聴取者の投稿に基づく特集を計画する旨が示唆されたことは、印象的でした。


このように、今回の「リクエスト特集」は、改めて『クラシックの迷宮』の持つ多様な魅力を聴取者に強く印象付けたものであったと言えるでしょう。


<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Shows Its Diverse Characteristics and Importance Again (Yusuke Suzumura)


The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" reaches its 10th Anniversary and broadcasted the featured programme again on 23rd March 2024. On this occasion, we celebrate this memorial opportunity and examine the meaning of the programme.

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名城大学令和5年度教育功労賞受賞のご報告

このたび、名城大学の令和5年度教育功労賞を受賞し、3月15日(金)に授賞式が行われました。


平成25度から始まった教育功労賞は今回で11回目を迎え、今年度は2名と2グループが選出されました。


私は外国語学部の池田菜採子先生とともに「交換留学生受け入れ 国際日本学・日本語プログラム」グループとして授賞しました。


名城大学では国際化推進センターが交換留学生向けに英語で講義を行うMEP-Eと日本語教育を中心とするMEP-Jを開講しています。


池田先生はMEP-Jを主管され、私はMEP-Eを統括しており、いずれも名城大学の交換留学生教育の根幹となっています。


特に日本国外の大学は日本への学生の派遣の際に英語による講義科目の内容だけでなく日本語教育の体制の充実度も注目しているため、MEP-Jの果たす役割は大きなものです。


私が名城大学に着任した2019年4月以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による留学生全般の派遣や受け入れが中止され、国際交流が停滞するという局面もありました。


そのような中で交換留学生の受け入れ数が着実に増加したのは、日本語教育の充実を期すために2020年4月に着任された池田先生の活躍と、国際化推進センターの職員の皆さんの尽力のたまものです。


それだけに、表彰式において小原裕章学長が祝辞の中でコロナ禍で停滞せざるを得なかった学生の国際交流を活性化し、名城大学が定める「国際化推進計画2026」の目標達成に寄与したことを最初に言及されたのは、われわれにとって大変にありがたいことでした。


今回の受賞を機に改めて関係各位の支援に感謝いたします。


それとともに、私にとっては前任校の法政大学で2013年4月に交換留学生向けプログラムESOPを担当するようになってから10年を経て今回の受賞に至った歩みを振り返り、これからも交換留学生の皆さんによりよい教育を行おうと意を新たにする次第です。


<Executive Summary>
Winning of Meijo University Distinguished Contribution Award for Education 2024 (Yusuke Suzumura)


I and Dr Natsuko Ikeda won the Meijo University Distinguished Contribution Award for Education 2024 and the award ceremony was held on 15th March 2024. On this occasion, our programme International Japanese Studies Program and Student Exchange Program in Japanese was evaluated to accelerate Meijo University's internationalisation plan.

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米球界で起きた「大規模窃盗疑惑」についてわれわれが忘れてはならない点は何か

現地時間の3月20日(水)、大リーグのロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手の弁護士が、同球団に所属し大谷選手の専任通訳を務めていた水原一平氏を違法な賭博に関与し、大谷選手の資金について「大規模な窃盗」(massive theft)を行ったとして告発したことを明らかにするとともに、球団も水谷氏を解雇したことを公表しました[1]。


本件は、球界を代表する「スーパースター」[1]である大谷選手に関するものだけに米国だけでなく日本でも高い関心を集めています。


もちろん、水原氏を告発したり解雇したことは本件が尋常ならざる出来事であることを明確に示します。


それだけに、当事者ではないわれわれにとって重要なのは、今後告発を受けた司法当局がどのように対応するかということです。


すなわち、「大規模な窃盗」の事実があるのか否か、もしある場合はいかなる動機により、どのような方法で「犯行」がなされたのか、もしない場合はなぜ事実と異なる声明が公表されたのか、そしてその理由はどこにあるのかといった点は、揣摩臆測ではなく事実に基づいて検討されなければなりません。


それとともに、今回の一件はRule 21のように大リーグ機構が定める規程と推定無罪の原則のいずれにも注意を払う必要があります。


何故なら、前者はこれまで大リーグが経験した「野球と賭博」の歴史を踏まえなければその意味を十分に理解することは難しいものですし、後者は特に今後の報道において興味本位の取材を排するためにも不可欠だからです。


換言すれば、われわれは今回の件について、どれほど著名な人に関わる出来事であるとしても、他の案件と同様に事柄そのものに即して考える努力を怠ってはならないのです。


そして、人々の耳目を集める一件だからこそ、依拠すべき原理や原則が何であるかを改めて思い起こさなければならないことを、改めて強調する次第です。


[1]Shohei Ohtani’s attorneys accuse interpreter of ‘massive theft’ tied to alleged gambling. The Los Angeles Times, 20th March 2024, https://www.latimes.com/california/story/2024-03-20/gambling-story (accessed on 21st March 2024).


<Executive Summary>
Some Important Viewpoints to Examine the "Massive Theft Scandal" (Yusuke Suzumura)


Representatives for Mr Shohei Ohtani of the Los Angeles Dodgers announced that Mr Ippei Mizutani, the interpretator for Mr Ohtani, accused by the reason of ‘massive theft’ and the team fired him on 20th March 2024. On this occasion, we examine some important viewpoints to understand this scandal.

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九州交響楽団東京公演

本日、15時よりサントリーホールにおいて九州交響楽団の東京公演が開催されました。


演奏曲目は前半がベートーヴェンの交響曲第2番、後半がリヒャルト・シュトラウスの交響詩『英雄の生涯』でした。指揮は小泉和裕でした。


今回の東京公演は1953年に創設された楽団の70周年記念演奏会の掉尾を飾るもので、東京公演は2004年2月22日の創立50周年記念以来20年ぶりとなりました。


私が九州交響楽団を初めて会場で聞いたのは2004年の東京公演で、この時は大山平一郎の指揮と園田高弘のピアノ独奏により、ウェーバーの序曲『精霊の王』、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番、そしてブラームスの交響曲第1番が演奏されました。


この公演の印象は在京の楽団の中に位置づけるなら中堅というもので、今後の一層の飛躍が期待されたものでした。


一方、今回の公演は、ベートーヴェンが作り上げようとした、優美さと力強い構成の融合という挑戦的な交響曲が持つ特徴を的確に踏まえ、軽やかな微笑みを絶やすことなく、しかも各楽器がそれぞれの勘所を的確に押さえた仕上がりとなりました。


例えば、第1楽章冒頭の木管楽器の明晰な演奏などは、この作品に対する指揮者と演奏者の理解に迷いのないことをよく示すものでした。


また、後半のリヒャルト・シュトラウスは第1部「英雄」の低弦とホルンの演奏で聞き手の注意を惹き付けることに成功した演奏でした。


リヒャルト・シュトラウスらしい輝度の高い旋律の数々を丁寧に解きほぐして一つの演奏に仕立て上げるのは、一人ひとりの奏者の粒が立っているからこそ可能なことです。


その結果、オルガンの音色に比すべき澄み渡る重厚さを基調としつつ時に軽快に、時に陰鬱とした表情の豊かな『英雄の生涯』の演奏が作り出されました。


今月をもって九州交響楽団の音楽監督を退任する小泉和裕にとっても集大成と呼ぶにふさわしい公演となったのが今回の東京公演です。


特に、『英雄の生涯』の演奏後にステージマネージャーが小泉に贈呈する花束をコンサートマスターの扇谷泰朋に滑り込むように手渡したり、終演後に客席の拍手に応えて小泉が再び舞台に登場したりしたのは、それだけ指揮者と楽団の結び付きが強いものであることを現していました。


このように、九州響にとって20年ぶりとなった東京公演は、楽団の力量の充実ぶりとともに、大いなる発展の軌跡を描き出すものでもありました。


それだけに、財政上の問題もあろうものの、定期的に東京公演が開催され、その高い実力がより広く多くの聞き手に披露されることが期待されるところです。


<Executive Summary>
The Kyushu Symphony Orchestra Concert in Tokyo (Yusuke Suzumura)


The Kyushu Symphony Orchestra held the Concert in Tokyo at the Suntory Hall on 20th March 2024. In this time, they performed Beethoven's 2nd Symphony and Richart Strauss' A Hero's Life. Conductor was Kazuhiro Koizumi.

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「大リーグの韓国開幕戦」で考える大リーグの海外公式戦が持つ意味

明日から2日間、韓国の首都ソウルで大リーグのサンディエゴ・パドレス対ロサンゼルス・ドジャースが公式戦を行います。


韓国で大リーグの公式戦が行われるのは今回が初めてであり、アジアでは日本に次いで2番目の公式戦開催国となります。


今回の2試合は、パドレスにダルビッシュ有選手と松井裕樹選手が、ドジャースに大谷翔平選手と山本由伸選手が在籍しており、日本でも注目を集めています。


現在、大リーグ機構は大リーグの国際戦略の一環として公式戦の海外での開催を積極的に進めており、2019年に始まったいわゆる「ロンドン・シリーズ」などは大リーグのさらなる国際化の象徴となっています。


また、伝統的に野球が盛んで、オリンピックやワールド・ベースボール・クラシックの強豪国である韓国も2017年に機構が事務所を開設して以来、一層の野球人口の拡大のための施策が導入されており、今回の2試合は一連の取り組みの最初の仕上げとなります。


一方、ロブ・マンフレッド・コミッショナーが外国での公式戦の開催の意義を強調するとともに、選手の移動などの不可を考慮するといった名目から、将来的な公式戦の数の削減に言及する点は、重要な意味を持ちます。


すなわち、現在の年俸は年間162試合という制度の下での選手と球団が合意しているものです。


そのため、例えば公式戦の数が162試合から削減されれば、球団経営者側は年俸額の決定の前提となる試合数が異なるということを理由に、少なくとも試合数の削減率に相当する年俸額の削減を主張する可能性があります。


選手の年俸が成績の内容に伴って変動することは選手会として何らの異存もないものの、試合数の削減といった選手自身の責めに帰すことのない要因によって年俸額が影響されることは受け入れがたいものです。


実際、2020年に新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した際、試合数を短縮してシーズンを開催することになると、最初は試合数を巡り、次に試合数の変更に伴う年俸額の調整について労使間での交渉がなされました。


このとき選手会側が当初は強硬に試合数と年俸額の連動を拒んだことは、マンフレッド・コミッショナーの発言が今後どのような展開をもたらすかを考える際の一助となります。


もとより、野球の国際や大リーグの国際戦略としての公式戦の開催は誰もが拒みがたいものです。


そして、そのような一種の大義名分と試合数の削減を連動させるところに労使問題担当副会長として名を成したマンフレッド・コミッショナーの周到さが表れている言えます。


それだけに、これからの海外での公式戦の開催がいかなる推移を示すか、注目されるところです。


<Executive Summary>
A Viewpoint to Understand the Meaning of MLB's International Games (Yusuke Suzumura)


The San Diego Padres and the Los Angeles Dodgers will have a two-game series at Seoul on 20th and 21st March 2024. On this occasion, we examine the meaning of MLB's international games based on the confliction between the MLB Players Association and the owners of MLB teams.

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名城大学令和5年度卒業証書授与式

 

本日、愛知県体育館において、名城大学令和5年度卒業証書授与式が開催され、学部・大学院修士課程及び博士課程をあわせて合計3332名の皆さんが所定の課程を修了されました。


卒業生のうち、とくに学部学生の皆さんの大半は2020年4月の入学時が新型コロナウイルス感染症の感染拡大の時期と重なり、高等学校では3月2日から学校が一斉に臨時休校となって卒業式も行われず、入学後も当初はオンライン形式による講義が主体であり、後者に行くことすらままならない状況が続きました。


その様な中でも学びを中断させることなく日々の学修を積み重ねて来た皆さんの努力が卒業証書の授与という形で結実したことは大変喜ばしいものです。


皆さんのこれからの一層のご活躍を祈念いたします。


<Executive Summary>
Meijo University Commencement Ceremony 2024 (Yusuke Suzumura)


Meijo University held the Commencement Ceremony 2024 on 18th March 2024. On this occasion 3332 students graduated from the university.

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【開催報告】一般財団法人外苑会第21回外苑会交流会

本日、東京都立青山高等学校5階ホールにおいて、青山高校の同窓会である一般財団法人外苑会の第21回外苑会交流会が開催されました。


今回は尾﨑哲さん(1976年卒業、駐リトアニア共和国大使)を講演者としてお招きし、「リトアニア、杉原千畝、そしてウクライナ戦争~次世代に語り継ぐ価値観~」と題して行われました。


まず、青山高校での生活や東京大学を卒業後に就職した野村證券を中心とする野村グループでの40年にわたる活動についてお話がありました。


次の第1部「リトアニアとウクライナ戦争」では、1900年からの124年間で約65年間がロシア帝国もしくはソ連領であった歴史に基づき、祖国防衛と国際的な団結という観点からロシアとの対峙を国策とするリトアニアのウクライナ戦争への関わりが概括されました。


第2部の「歴史を語り継ぐ国、リトアニア」では、最初に1253年のミンダウガス王の戴冠を記念する「リトアニア国家建国の日」から1991年1月13日の「1月13日事件」まで、各種の記念日を祝賀・追悼するリトアニアの様子が紹介されました。


また、リトアニアのカウナス領事館に着任し、「命のビザ」を2140枚発行した杉原千畝の事績を通して、日本とリトアニア両国の関係が取り上げられました。


最後に、リトアニアの「第二の宗教」とも称されるバスケットボールについて、1992年のバルセロナ五輪で独立直後のリトアニア代表が3位決定戦でロシアを破って銅メダルを獲得した逸話と、その様子を収めたドキュメンタリー映画"The Other Dream Team"を通して、リトアニアの多様な姿が披露されました。


大使としてリトアニアに駐在する中で「歴史を語り継ぐ」ための前提となる「歴史に対する理解の基盤」の重要性に気付いたことや、「民主主義」や「自由」という価値の持つ意味について省察するなど、企業人としての経験と外交の現場での体験とを織り交ぜたお話は大変興味深いものであり、青山高校の卒業生の幅広い活動の一端がよく示された外苑会交流会となりました。


<Executive Summary>
The 21st Gaienkai Social Event (Yusuke Suzumura)


The Gaienkai held the 21st Gaienkai Social Event at the Tokyo Metropolitan Aoyama High School on 17th March 2024. On this occasion, speaker of the event was Mr Tetsu Ozaki, the Ambassador Extraoridinary and Plenipotentiary of Japan to Lithuania.

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東横線渋谷駅の地下化11年目に際して考える長期の再開発計画が持つ計画と現実の乖離の問題

本日、2013年3月16日(土)に東急東横線渋谷駅が地下に移設され、東京地下鉄副都心線との相互直通運転を開始してから満11年が経ちました。


いわゆる渋谷再開発について、利用者が様々な不便を忍ぶことで成り立っている点については昨年の本欄で指摘した通りです[1]。


ところで、現在の渋谷駅が抱える問題の一つが、利用者の増加による移動の困難さです。


これは、通勤や通学で日常的に渋谷駅を使用する利用客だけでなく、とりわけ日本国外からの観光客の増加を受けた結果です。


すなわち、渋谷駅の再開発が始まる直前の2012年は年間で8,358,105人であった訪日客は2019年に過去最多の31,882,049人を記録しました[2]。


2020年から2022年にかけては新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う渡航制限などもあって海外からの観光客の訪日は減少したものの、コロナ禍が明けた2023年は25,066,100人を記録しています[3]。


こうした状況は、政府や自治体の訪日客誘致の政策が結実した結果であり、「観光立国」を目指す日本にとって好ましいものです。


一方、渋谷駅の再開発を計画した当初はこうした状況が念頭に置かれていなかったことは、例えば東急線渋谷駅から井の頭線渋谷駅へと移動する通路が時間帯を問わず混雑している様子からも容易に推察されます。


もとより、長年の悲願とされてきた訪日客が初めて1000万人を上回ったのは2013年のことであり、当時政府は2020年までに年間2000万人を目標としていました。


従って、渋谷駅の構造もこうした数値を基に設計されていると考えられます。


しかし、コロナ禍による一時的な停滞はあったにせよ、訪日客の数は当初の予想を上回る速度で増加しており、当初の構想がすでに実際の利用者数に対応しきれていないのが現状です。


しかも、今になって建築計画を大幅に変更して利用者の往来を容易にするために通路の拡幅を行うことは出来ませんし、工事がすべて終了した後に拡張工事を行うことも非現実的です。


ここに、長期間にわたる再開発に絶えず付きまとう事前の想定が将来の状況を正しく把握できないという問題の一端があります。


その意味で、渋谷駅の再開発はこうした問題を考える上で重要な事例になっていると言えるのです。


[1]鈴村裕輔, 東横線渋谷駅の地下化10年目に際して改めて事業者に「利用者の忍苦によって成り立つ再開発」への自覚を求める. 2023年3月16日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/2de5a1fbb16cc98942b19217e887331a?frame_id=435622 (2024年3月16日閲覧).
[2]年別 訪日外客数、出国日本人数の推移(1964年‐2022年)(PDF). 日本政府観光局, 公開日未詳, https://www.jnto.go.jp/statistics/data/visitors-statistics/ (2024年3月16日).
[3]訪日外客数(2023年12月および年間推計値). 日本政府観光局, 2024年1月17日, https://www.jnto.go.jp/news/press/20240117_monthly.html (2024年3月16日).


<Executive Summary>
"Shibuya Station Area Redevelopment Plan" Is the Remarkable Example of the Problem of Discrepancy between Reality and Plan (Yusuke Suzumura)


The 16th March 2024 is the 11th anniversary of the opening of new Shibuya Station of the Tokyu Toyoko Line. In the occasion we examine the problem of discrepancy between reality and plan.

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東京都立青山高等学校第76回卒業証書授与式によせて

本日、東京都立青山高等学校体育館において青山高校の第76回卒業証書授与式が行われ、76期生266名が所定の課程を修了しました。


新型コロナウイルス感染症の感染拡大が進み、国内外の社会不安が増大する中で青山高校に入学した76期生の皆さんは、その後事態が収束するに向けて通常の教育活動へと復帰し、今年度は外苑祭が一般公開されるなど、ほとんど通常通りの学校生活を送ることが出来ました。


それだけに、青山高校での体験と経験を活かして、これから始まる新しい生活でも76期生の皆さんが一層活躍されることを祈念いたします。


<Executive Summary>
The 76th Commencement Ceremony of Tokyo Metropolitan Aoyama High School (Yusuke Suzumura)


The 76th Commencement Ceremony of Tokyo Metropolitan Aoyama High School was held on 15th March 2024. In this time 266 students completed a course.

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「4地区での解禁」で注目されるライドシェアの今後

昨日、国土交通省は一般の運転手が有償で乗客を送迎するライドシェアについて、東京23区や京都市など4区域を対象に4月から解禁する方針を明らかにしました[1]。


ライドシェアについては、配車アプリの情報に基づいて算出した車両不足の地域や時間帯に限り、タクシー会社の管理の下で解禁されます。


首都圏や日本屈指の観光地である京都市内のタクシーの利用は、時間帯によっては乗車できる車両を見つけることが難しく、天候によっては配車アプリを使用しても近傍に空車がないことは珍しくありません。


そのため、特に需要の多い地域に限定してライドシェアを解禁することは、利用者の便益を考えれば望ましいことです。


また、タクシー会社がライドシェアを管理するという点については、サービスの利用時の品質の保証や問題が発生した際の対応などを考えれば合理的な措置と言えるでしょう。


一方、ライドシェアの導入が目指すところは利用者が負荷なく自動車を利用できる環境を整えることです。


この点からすれば、少なくとも現時点ではタクシー会社が自社の利益を保護することを優先するなら、たとえライドシェアが解禁されても利用者の利便性の向上はおぼつかないところです。


もとより、タクシー会社には一人ひとりの従業員がおり、その雇用を維持することは企業にとって重要な務めです。


それとともに、公共交通機関として公共の福祉の維持や発展に資することも期待されるのがタクシー会社です。


それだけに、今回の4区域でのライドシェアの解禁がどのような形でわれわれ利用者の利益の増進に結びつくのか、これからの状況の推移が注視されます。


[1]東京23区・京都市 毎日運行. 日本経済新聞, 2024年3月14日朝刊5面.


<Executive Summary>
What Is the Meaning of the Lifting the Ban of Ridsharing in the Four Limited Areas? (Yusuke Suzumura)


The Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism announces that the ban of ridsharing will be lifted in the four limited areas including Tokyo 23 Wards and the City of Kyoto on 13th March 2024. On this occasion, we examine the meaning of this policy for the benefits of the users of taxie service.

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「『君たちはどう生きるか』と『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞受賞」はいかなる意味を持つか

現地時間の3月10日(日)、第96回アカデミー賞の授賞式が行われ、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞を『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督ら4人が視覚効果賞しました。


日本映画としては2003年の『千と千尋の神隠し』以来、21年ぶり2度目の長編アニメーション賞受賞であり、視覚効果賞はアジア圏の作品として初めての受賞となります。


『君たちはどう生きるか』については、日本国内では肯定的なものから否定的なものまで様々な評価があり、その声価は定まっていないというのが実情です。


私の身近な話ながら、昨年12月の米国での公開を受けて鑑賞した同地の友人や学生からは「哲学的な作品」「素晴らしい」「こういうのを待っていた」という声が聞こえていました。


いわば日米の観客の間で『君たちはどう生きるか』に対する評価の傾向が異なっており、米国において前向きな評価が多かったことは、今回の受賞を考える上で興味深いところです。


『ゴジラ-1.0』については、「ゴジラ映画が好きで、全部観ている」という、日本の映画を研究している米国人の友人は、昨年12月の米国公開時に鑑賞した感想を、「ゴジラを初めて怖いと思った」と寄せてくれました。


わずか1人の意見ではあるものの、こうした受け止められ方は、同作の視覚効果の水準の高さを物語ります。


その一方で、近年のアカデミー賞が、受賞作や受賞者の選考に際して多様性の尊重を重視する姿勢を示していることも、今回の結果に繋がったと言えるかもしれません。


あるいは、アカデミー賞は作品の質の高さをそのまま示すものではなく、米国の映画芸術科学アカデミーという閉じられた世界での話であるという意見もあることでしょう。


しかし、たとえどのような状況にあるとしても、作品そのものが優れていなければ候補作とならず、作品の存在を広く訴えるための手段としてアカデミー賞の持つ価値が大きいことも事実です。


その意味でも、改めて2作品の今回の受賞をお祝い申し上げます。


<Executive Summary>
What Is the Meaning of Two Japanese Pictures' Winning at the 96th Academy Awards? (Yusuke Suzumura)


Mr Hayao Miyazaki's picture "How Do You Live?" and Mr Takashi Yamazaki's "Godzilla Minus One" won the 96th Academy Awards on 10th March 2024. On this occasion, we examine the meaning of these two Japanese pictures' achievements.

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【追悼文】TARAKOさんについて思い出すいくつかのこと

去る3月4日(月)、声優で歌手のTARAKOさんが逝去しました。享年63歳でした。


1990年に放送が始まったテレビアニメ『ちびまる子ちゃん』で主役のまる子ことさくらももこの声を担当するなど、幅広い層からその声の演技が親しまれたことは周知の通りです。


また、歌手や脚本家として『ちびまる子ちゃん』に参加するなど、TARAKOさんの活躍は多岐にわたりました。


私がTARAKOさんの声を初めて本格的に接したのは、1982年から1983年にかけて放送された『戦闘メカザブングル』で、TARAKOさんは主要な登場人物の一人であるチルを担当していました


幼稚園の年長だった私は、毎週終わりの歌が流れる「声の出演」の欄で声優の皆さんがそれぞれの担当する役とともに紹介される中でチルの声を出しているのが"TARAKO"という人であることを知った時でした。


残念ながら当時はアルファベットを読めなかった私は「たらこ」と読めなかったものの、特徴的な人物の造形と言動は、印象深く思われたものでした。


その後、再びTARAKOさんの声に接したのはやはりアニメ版『ちびまる子ちゃん』の放送開始の際でした。


この時は『りぼん』の連載を読んでいる際に思い描いていた声の雰囲気とは異なっているように思われたというのが率直な感想でした。


しかし、回を追うごとに独特の間合いと、日頃は呑気で怠惰なように見えながら誰よりも純真でひたむきなまるちゃんの姿を生き生きと表現していることが実感されたのは、TARAKOさんの不断の努力のたまものであろうと考えたものです。


これら以外にもテレビアニメ『まじかる☆タルるートくん』の主役タルるートや様々なテレビ番組のナレーションなどで耳にする機会の多かったのがTARAKOさんです。


任意のどの箇所を聞いてもすぐに声の主が誰であるか分かるというのは声優にとって大きな魅力であり特徴のひとつです。そして、TARAKOさんはこうした魅力を備えた声優の一人でした。


放送開始以来一貫してまるちゃんの声を担当し、広く視聴者の支持を得るなど、テレビ史に残る足跡を残したTARAKOさんのご冥福をお祈り申し上げます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Ms TARAKO (Yusuke Suzumura)


Ms TARAKO, a voice actor and singer, had passed away at the age of 63 on 4th March 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memoris of Ms TARAKO.

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東日本大震災の発生から13年目に考える災害への日頃からの備えの重要さ

本日、2011年3月11日(金)の14時46分に東日本大震災が発生してから13年が経ちました。


被災地域の再建は進むものの、今年2月1日(木)の時点で避難生活を送っている被災者の数が29328人であり[1]、災害からの物理的な復旧は進んでも依然として生活面では再興の途上にあることが分かります。


また、今年1月1日(月、祝)に能登半島地震が起きたことは、大規模地震がいつ、どこで起きるか予知することが不可能であることを改めてわれわれに教えています。


それとともに、能登半島地震が改めて示したように、東日本大震災においても、地震発生直後に避難誘導や救援活動に従事した役場や消防・救急関係の皆さんは、自らも被災者であり、家族なども多大な被害を受けていました。


そのような中で、自らの利害を顧みず公務に従事した人たちがいたからこそ、不測の大規模地震とその後の大津波の被害をより小さくすることが可能であったと言えます。


こうした意味でも、日頃からの災害に対する備えは不可欠であり、東日本大震災の発生から13年目の今日はその大事な一点を思い起こす重要な手掛かりとなることでしょう。


[1]被災地、生産人口1%減. 日本経済新聞, 2024年3月11日朝刊1面.


<Executive Summary>
The 13th Anniversary of the Great East Japan Earthquake of 2011 (Yusuke Suzumura)


The 11th March, 2024 is the 13th Anniversary of the Great East Japan Earthquake of 2011. In this occasion we remember the disaster and take the new step to maintain our each memory again.

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【開催報告】2023年度青山フィルハーモニー管弦楽団1995年卒業生同期会

昨日、青山フィルハーモニー管弦楽団1995年卒業生の同期会が開催されました。


青フィルの同期会を行うのは2019年9月7日(土)以来4年半ぶりであり、2003年度に第2期の同期会が始まってから通算で18回目となりました。


当初は2020年9月5日(土)に予定されていた同期会が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大とその後の社会情勢の変化の影響もあり、長らく開催されなかったものの、今回こうして挙行に至ったのは、ひとえに参加される同期生の皆さんがいるからです。


毎回、次回の開催を約して散会となる同期会は、この日も2024年度中の開催を期して終わりました。


今から次回の同期会の開催が楽しみです。


<Executive Summary>
Alumni Reunion of the Aoyama Philharmonic Orchestra Graduated in 1995 of 2023 (Yusuke Suzumura)


Alumni reunion of the Aoyama Philharmonic Orchestra graduated in 1995 of 2023 was held on 9th March 2024. In this time four of 35 alumni participated and enjoyed gathering.

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【開催報告】立正大学石橋湛山研究センター研究プロジェクト「石橋湛山に連なる思想と人脈」第6回研究会

本日、立正大学石橋湛山研究センターの研究プロジェクト「石橋湛山に連なる思想と人脈」の第6回研究会が立正大学の会場とオンラインを併用して行われました。


今回は4件の報告があり、私も「斎藤隆夫と石橋湛山」と題して発表しました。


私を含む発表された先生方と論題は、発表順に以下の通りでした。

 

  1. 川田稔先生(名古屋大学)/石原莞爾の世界最終戦争論
  2. 村松晋先生(聖学院大学)/甲府中学校長・大島正健をめぐる精神史―時代における生徒への求心力
  3. 大木康充先生(大東文化大学)/田中王堂における「国民哲学」の提唱
  4. 鈴村裕輔(名城大学)/斎藤隆夫と石橋湛山


なお、私の報告資料についてはresearchmapの「資料公開」欄でご案内していますので、こちらもあわせてご覧ください。


*資料公開「斎藤隆夫と石橋湛山」
https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/229033/8eb238003e24798600e25dd0bb985a7f?frame_id=714653


<Executive Summary>
The 6th Research Meeting of the Rissho University Research Center for Ishibashi Tanzan Studies' Research Project "Thoughts and Human Network Connected to Ishibashi Tanzan" (Yusuke Suzumura)


The Rissho University Research Center for Ishibashi Tanzan Studies' Research Project "Thoughts and Human Network Connected to Ishibashi Tanzan" held the 6th Research Meeting at Rissho University and via online on 9th March 2024. On this occasion, there were four presentations including my paper "Saito Takao and Ishibashi Tanzan."

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【追悼文】鳥山明さんについて思い出すいくつかのこと

去る3月1日(木)、漫画家の鳥山明さんが逝去しました。享年68歳でした。


『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』といった作品によって鳥山明さんが日本の読者のみならず世界の漫画愛好家から広く支持され、『ドラゴンクエスト』の連作のイラストでも親しまれたことは周知の通りです。


また、細部まで丁寧に描く画風や『ドラゴンボール』の後半からの作画の変化とは、大変印象的でした。


一方、『Dr.スランプ』と『ドラゴンボール』を除けばその他の作品は短期の連載もしくは読み切りであるという点は鳥山明さんに特徴的であると言えるでしょう。


しかも、いずれの作品も鳥山明さんならではの着想と画風によって描かれた、余人の追随を許さないものであり、『SAND LAND』や『銀河パトロール ジャコ』などは、他の漫画家であれば代表作になっても不思議ではない優れた作品でした。


あるいは、『鳥山明◯作劇場』に収められた諸編のような濃密でありつつ微笑みを湛えた作品も忘れがたいもので、単行本第1巻の扉の作者からの言葉の中に「〇の中に『名』や『傑』、あるいは『迷』などどのような字が入るかは読者の皆さんが決めてください」という趣旨の一文があったことは、印象深いものです。


今後も多くの人たちから愛される作品を残された鳥山明さんのご冥福をお祈り申し上げます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Mr Akira Toriyama (Yusuke Suzumura)


Mr Akira Toriyama, a manga authoer with pieces such as #Dr. SLUMP" and #DRAGONBALL", had passed away at the age of 68 on 1st March 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memoris of Mr Toriyama.

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【追悼文】五百旗頭真先生について思い出すいくつかのこと

昨日、五百旗頭真先生が逝去されました。享年80歳でした。


政治学者、教育者としての五百旗頭先生のご活躍はもとより、ひょうご震災記念21世紀研究機構などでの防災・減災対策への取り組みや提言でも重要な役割を果たされたことは周知の通りです。


五百旗頭先生とは、私が2011年9月から2012年8月までサントリー文化財団の鳥井フェローを拝命していたこともあり、フェローの任期中、そしてその後も財団の催事でご一緒する機会を頂戴しました。


例えば、鳥井フェローとサントリフェローの中間報告会や山崎正和先生が塾長を務められた「知」の試み研究会などで、その明快で話題の核心を突くお話を伺うことは、私にとって大変重要な学びの機会でした。


特に2012年8月に小田原で開催された2泊3日の研究合宿に陪席した際、朝食後にテニスラケットを手にした五百旗頭先生から「あなたはテニスをしますか?」と質問されたことは、ひときわ印象的でした。


何故なら、私がテニスの経験がなくご一緒するには役に立たないことをお伝えすると、「それは残念。次までに練習するように。宿題ですよ」とおっしゃっていただいたからです。ことのきの五百旗頭先生の悠揚迫らざる様子は、「それは残念」の一言とともに、今も時折思い出される場面です。


ただ、その後も私がテニスを行うことがなかったため「宿題」の答え合わせを出来なかったのは、五百旗頭先生には大変申し訳ないことをしてしまいました。


ところで、五百旗頭真先生と最後に直接お話ししたのは2017年11月17日に経団連会館4階402号室で行われた、サントリー文化財団の主催による「『アステイオン』創刊30周年記念フォーラム「時代を論じて--鋭く感じ、柔らかく考える」の席上でした。


このとき、私は五百旗頭先生のご講演の内容を、私自身の体験を交えながらまとめ、WEBアステイオンに発表するする機会を頂戴しました。


平成の30年にわたる歩みを概括し、その次の時代を見通すための文字通り気宇壮大なお話は聞き手を魅了するもので、魅力的な講演をまとめた際にその妙味を読み手に伝えられるかは重要な問題でした。


それでも、原稿を確認していただいた際、「とてもよく書いていただき嬉しく思います 一か所だけより正確に言えば、手を入れました. MI」と手書きのお返事を頂戴したことは、私にとって大きな励みとなったものでした。


こうして完成した私の記事「冷戦後の世界と、新しく過渡的だった平成という時代」は、現在もニューズウィーク日本版に転載されて一般公開されていますので、ぜひご覧ください。


*冷戦後の世界と、新しく過渡的だった平成という時代
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/12/post-9204_1.php


最近でも、2019年2月に日本経済新聞の「私の履歴書」を担当されたり、2021年に福田赳夫の初の本格的な評伝となる『評伝福田赳夫』(岩波書店)を監修されるなど、精力的に活動されてきました。


それだけに、今回の訃報は私にとってあまりに突然のことであり、もうお目にかかることができないかと思うと、実に残念なことです。


改めてこれまでの五百旗頭真先生のご指導に感謝するとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Professor Dr Makoto Iokibe (Yusuke Suzumura)


Professor Dr Makoto Iokibe, Former President of the National Defense Academy of Japan and Professor Emeritus of Kobe University, had passed away at the age of 80 on 6th March 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memoris of Professor Dr Iokibe.

 

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【開催3日前】法政大学国際日本学研究所公開研究会「テキストを眺めて考える-知識創造につながる探索的情報アクセス技術-」

来る3月9日(土)、法政大学国際日本学研究所(HIJAS)の公開研究会「テキストを眺めて考える-知識創造につながる探索的情報アクセス技術-」が開催されます。会場は法政大学市ヶ谷キャンパス大内山校舎Y406教室で、オンラインによる動画配信と併用して実施されます。


今回の報告者はHIJAS兼担所員である法政大学情報科学部の赤石美奈先生で、様々な題材の文章を分解し、異なる視点から情報断片を再構成することで潜在文脈を顕在化する手法と事例が紹介される予定です。


どなたでもご参加いただけますので、HIJASの公式ウェブサイトで詳細情報をご確認の上、ぜひともご来場ください。


*法政大学国際日本学研究所公式ウェブサイト
https://hijas.hosei.ac.jp/news/20240309info-2.html


<Executive Summary>
Announcemnet: HIJAS Open Research Meeting of 9th March 2024 (Yusuke Suzumura)


The Hosei University Research Center for International Japanese Studies (HIJAS) will hold an Open Research Meeting at Hosei University on 9th March 2024. The lecturer is Professor Dr Mina Akaishi.

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【テレビ番組出演報告】『出川哲朗のクイズほぉ~スクール』(NHK教育テレビ、2024年3月4日放送)

昨日、私も監修者として参加したNHK教育テレビの番組『出川哲朗のクイズほぉ~スクール』が放送されました。


今回は野球の特集で、私は「野球X国語」と題して行われた第2問「日常の言葉になった野球用語」と第3問の「野球で使われる和製英語!?」を監修しました。


こうした機会を頂戴したことは大変ありがたく、関係者の皆さんのご配慮に御礼申し上げます。


なお、今回の放送はNHKプラスで3月11日(月)の19時59分まで視聴することが可能です。


*NHKプラス
https://www.nhk.jp/p/ts/611P8WX76Y/plus/


<Executive Summary>
TV Appearance Report: NHK Educational TV's "Degawa Tetsuro's Quiz Ho School" (Yusuke Suzumura)


I appeared on a TV program of the NHK Educational TV named with "Degawa Tetsuro's Quiz Ho School" on 4th March 2024. On this occasion, I supervised questions and answers concerning in terms of baseball in Japanese.

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NHK交響楽団の「コンサートマスターの新体制」について思ういくつかのこと

本日、NHK交響楽団が2024年4月からのコンサートマスターの新体制を発表し、コンサートマスターであった伊藤亮太郎氏の退任とゲスト・コンサートマスターであった郷古廉氏の第1コンサートマスターへの就任及び川崎洋介氏のゲスト・コンサートマスターとしての招聘を発表しました[1]。


これにより、2024年度のNHK響のコンサートマスターは、特別コンサートマスターである篠崎史紀氏を含めた3人体制となります。


篠崎氏の退任後空席であった第1コンサートマスターの座を郷古氏が引き継いだこと、また堀正文氏が務めたソロ・コンサートマスターは2015年2月の退任後も空席のままであることは、今回の人事の特徴的な点と言えるでしょう。


あるいは、2023年6月に初共演した川崎氏をゲスト・コンサートマスターとしたことは、聞き手の思う以上に演奏者にとって良い客演であったことを物語ります。


ところで、NHK響のゲスト・コンサートマスターというと川崎氏の前任である郷古氏、さらには2023年3月に退任した白井圭氏と、近年では日本人の演奏家が務めているものの、以前はライナー・キュッヒル氏を招いていましたし、遡ればペーター・ミリング氏、カール・ズスケ氏と、斯界を代表する世界的な奏者を招いていたことが思い起こされます。


キュッヒュル、ミリング、ズスケの各氏はそれぞれ楽団との相性が良く、演奏者を巧みに牽引した姿が思い出深いものです。


一方、近年の3氏は名声の点で及ばないものの、時に力強く、時に内側から盛り立てるように演奏者と関わる様子が印象的です。


こうした違いはコンサートマスターとしての各氏の取り組み方の違いであるとともに、NHK響が外国の著名な演奏者の薫陶を受ける時期を経て、自らコンサートマスターを育てる段階に達したことを推察させます。


その意味で、新たな顔触れとなるNHK交響楽団のコンサートマスター陣がどのような形で演奏者と関わるか、今後の演奏が一層注目されます。


[1]今後のコンサートマスターの体制について. NHK交響楽団, 2024年3月4日, https://www.nhkso.or.jp/news/20240304.html (2024年3月4日閲覧).


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of the New Lineup of the Concertmasters of the NHK Symphony Orchestra (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra annoucnes the new lineup of the concertmasters on 4th March 2024. On this occasion, I express my miscellaneous impressions of the concertmasters of the orchestra.

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2024年度予算案を巡る「異例の土曜国会」の持つ意味は何か

昨日、衆議院本会議において2024年度予算案が与党などの賛成多数により可決しました。これにより、憲法の第60条第2項の規定に基づき、予算案は参議院に送付されてから30日で自然成立するため、今年度中に成立することが確定しました。


今回は、通常は平日に行われる国会審議が土曜日に開催されたことで、種々の対応に追われる国会や各省庁の職員が出勤せねばならず、いわゆる「働き方改革」に逆行するとの指摘があります[1]。


確かに、衆議院では火、木、金曜日の13時から、参議院では月、水、金曜日の10時から本会議を開くことを原則としており[2]、土曜日の本会議の開催そのものが異例であることが分かります。


また、一人ひとりの職員には公務員としての務めとともに日々の生活があり、慣行とは異なる日に国会審議が行われることはそれぞれの生活に少なからぬ影響を与えます。


そのため、今回のような土曜日の国会審議が続くようなら、そのような開催形式を前提とした勤務形態に改める必要があります。


一方、本会議の開催日は原則であり、あらゆる原則には例外が伴う以上、必要であれば異例の対応も職務の一環としてなさなければならないという見解もあることでしょう。


しかも、予算案という国政の根幹となる事項の審議であるため、原則にとらわれることなく充康何な対応がなされるべきであると考えることもできます。


ただし、今回の場合は、与党側が能登半島地震からの復興支援のための費用を含む予算案を速やかに成立させるべきだと主張し、野党側はいわゆる政治資金問題を巡り国会審議が停滞したことが原因であると指摘しており、党利党略を優先させた結果であることが推察させます。


実際、岸田文雄首相は2月29日(木)に衆議院で開催された政治倫理審査会に現職の首相として初めて出席することで「首相の説明責任」を求める野党側の要望に応え、これによって暗に来年度予算案の年度内成立への協力を求めたと言えますから、ここにあるのは政治的な駆け引きのみであるといっても過言ではありません。


それだけに、もし今後も各党派の利益や個利個略が優先され続けるなら、人々は政治への不信感ではなく無関心へと傾き、結果として政治から活力を奪うことになりかねません。


与野党ともそれぞれの主張はあるとしても、その一つ一つが日本の国政の将来に直結していることに、今一度自覚的であることが求められると言えるでしょう。


[1]異例の「土曜国会」. 日本経済新聞, 2024年3月3日朝刊5面.
[2]本会議の基本原則. 衆議院, 公開日未詳, https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/kokkai/kokkai_gensoku.htm (2024年3月3日閲覧).


<Executive Summary>
What Is the Meaning of an Unusual Saturday Deliberation in the House of Representatives? (Yusuke Suzumura)


The budget bill was approved at the Plenary Session of the House of Representatives on 2nd March 2024. It was an unusual deliberation, since yesterday was Saturday which was originally a day of no deliberations. On this occasion, we examine the meaning of this unusual situation for the future of Japanese politics.

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『クラシックの迷宮』の生誕200年記念特集が示すスメタナの多様な姿

今日のNHK FMの『クラシックの迷宮』は、1824年3月2日に生まれたスメタナの誕生日と生誕200年を記念した「スメタナ生誕200年」が放送されました。


今回は、ノイマン、クーベリック、コシュラー、ターリヒ、ビエロフラーヴェクらの指揮によるチェコ・フィルハーモニー管弦楽団、プラハ交響楽団、BBC交響楽団、トロント交響楽団、NHK交響楽団などの演奏が紹介されました。


スメタナといえばチェコの国民楽派の象徴的な存在であり、特にオーストリア=ハンガリー帝国に支配されていたチェコの独立と民族的な自立への願いを音楽によって表現した作曲家として知られます。


一方、司会の片山杜秀先生は、以下のような視点からスメタナを捉えます。

 

  1. チェコ人としての独自性を出そうとして、ねじくれまくった生涯を送った。
  2. 新しいものに絶えず関心を持ち、ハプスブルク帝国といった狭い枠に囚われず、広くヨーロッパの音楽に注意を払った。
  3. リストの音楽への関心を通してワーグナーと結びつき、リストの交響詩とワーグナーの交響楽としてのオペラを自らのものとして育て上げた。


こうしたスメタナの理解について、片山先生は「スメタナがワーグナーの影響を受けたというのはうがった見方というご意見もございましょうが」と反論を念頭に置きつつ、どのような形でスメタナがリストやワーグナーの音楽を受容して行ったかを、具体的な作品の基づきながら検討が加えられました。


それとともに特に印象的だあったのは番組の最後に紹介された人形劇『ファウスト博士』序曲でした。


冒頭の混沌とした様子から浮き上がるような終わり方まで、「現在でも通用する作品」という片山先生の言葉通りの作品であるとともに、演奏時間にして4分に満たない小品の中にも様々な要素を織り込むところに、スメタナの多層的な姿が垣間見られました。


その意味で、今回の放送は従来のスメタナ像から出発しつつ、そのような理解を乗り越えた先に見える新たなスメタナの姿を映し出そうとする、いつにも増して意欲的で野心的なものであったと言えるでしょう。


<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Introduces the New Aspect of Smetana and His Music (Yusuke Suzumura)


A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcast via NHK FM featured Smetana to celebrate his 200th birthday on 2nd March 2024. It might be a meaningful opportunity for us to understand new aspect of Smetana, who is recognised as the founder of Czech nationalistic music.

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【開催2日前】野上記念法政大学能楽研究所能楽セミナー「アニメと能楽」

2月21日(水)の本欄でもご紹介した通り、来る3月3日(日)、法政大学市ヶ谷キャンパスのボアソナード・タワー26階のスカイホールにおいて、私が客員研究員として参画している野上記念法政大学能楽研究所による能楽セミナー「アニメと能楽」が開催されます。


今回の能楽セミナーでは、アニメーションと能楽の協働を対象に、研究者が実演者がそれぞれの専門分野に基づいて検討を行います。


どなたでもご参加いただけますので、以下の詳細をご覧の上、ぜひともご来場ください。


*野上記念法政大学能楽研究所公式ウェブサイト
https://nohken.ws.hosei.ac.jp/activities/events.html


<Executive Summary>
Second Announcement: The Nogami Memorial Noh Theatre Research Institute of Hosei University's Noh Theatre Seminar Seminar "Animation and Noh Theatre" (Yusuke Suzumura)


The Nogami Memorial Noh Theatre Research Institute of Hosei University will hold Noh Theatre Seminar "Animation and Noh Theatre" at Hosei University on 3rd March 2024.

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岸田文雄首相の衆議院戦時倫理審査会への出席が持つ3つの大きな意味

本日と明日、自民党の政治資金問題を巡り、衆議院の政治倫理審査会が開催されます。


今回は、いわゆるパーティー券の収入の還流問題について、自民党の安倍派及び二階派の幹部5人とともに、岸田文雄首相が自民党総裁として全面公開の下で線稟申に出席します[1]。


岸田首相が現職の首相てして政倫審に出席するのは、衆参両院をあわせて初めてのこととなります。


それでは、岸田首相はなぜ異例の対応を決めたのでしょうか。


今回の判断は、少なくとも以下の3つの点で岸田首相に利をもたらすと考えられます。


(1)異例の出席をみずから行い、会の様子を全面公開とすることで、当初は出席に消極的であり、出席を決めた後も非公開を希望した他派の幹部との決断力の違いを強調できる。
(2)「説明責任」を強調しての参加のため、野党が求める「首相の説明責任」に応える形となり、野党の要求を受け入れるという「貸し」を作る。
(3)来年度予算を年度内成立の期限となる3月2日までの衆院通過を、野党への「貸し」の返済として暗黙のうちに求められる。


上記の3点は、一面において自民党内の権力闘争であり、他面では国会対策という性格を持ちます。


こうした対応はもとより国民の声を念頭に置くものではなく、その是非は議論の対象とならざるを得ません。


それでも、来年度予算案の年度内成立を最優先し、昨年12月に政治資金問題を抱える閣僚や党役員を交代させたのが岸田首相です。


従って、党運営の主導権を確保するだけでなく、国会内の駆け引きとして有効な対策を選ぶことは合理的となります。


むしろ、岸田首相の対応によってより難しい選択を迫られるのは野党側となります。


すなわち、野党側は政権党の党首として現職の首相が政倫審に出席するという絶好の機会を得たことで、岸田首相から実のある答えを引き出せるのでなければ、単に岸田首相に「説明責任を果たした」という証拠を与えるだけになってしまいます。


しかも、岸田首相に政倫審出席という借りを作ったことで、相応の返礼として衆議院で予算案の成立に同意するので、野党は「能登半島地震の対策費を含む予算の年度内成立を阻むのは野党」といった批判を与党側から受けかねません。


その意味で、岸田首相は自民党にとって不利な状況の中から最善の手段を選んだのであり、これまで政治資金問題で攻勢にあった野党側は予算案への対応を含めて、難しい判断を迫られることになりました。


それだけに、明日までの2日間開かれる衆院政倫審の行方が注目されます。


[1]政倫審、全面公開で開催. 日本経済新聞, 2024年2月29日朝刊1面.


<Executive Summary>
What Is the Meaning of Prime Minister Fumio Kishida's Participation in the Deliberative Council on Political Ethics of the House of Representatives? (Yusuke Suzumura)


The Deliberative Council on Political Ethics of the House of Representatives will hold on 29th February and 1st March 2024 and Prime Minister Fumio Kishida will participate in the council as the President of the Liberal Democratic Party. On this occasion we examien the meaning of this decision by Prime Minister Kishida.

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【テレビ出演報告】MBS『よんチャンTV』(2024年2月20日放送)

去る2月20日(火)、毎日放送の情報番組『よんチャンTV』で私の談話が紹介されました。


今回はスタンフォード大学への進学が決まった花巻東高等学校の佐々木麟太郎選手について、学修や野球競技の環境、学生としてのあり方などについてお話しました。


『よんチャンTV』での談話の紹介は昨年12月28日(木)以来で、今回こうした機会を提供して下さった関係者の皆さんに感謝申し上げます。


<Executive Summary>
TV Appearance Report: MBS' "Yonchan TV" (Yusuke Suzumura)


I appeared on a TV program of the MBS named with "Yonchan TV" on 20th February 2024. On this occasion, I explained background and prospect of Mr Rintaro Sasaki's enrollment in Stanford University.

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佐々木麟太郎選手のスタンフォード大学への進学が日本の学生スポーツ界に与える副次的効果は何か

花巻東高等学校で野球部に所属する佐々木麟太郎選手が米国のスタンフォード大学に進学することについて、私の見解は日刊ゲンダイの関連する記事にまとめられているとともに、本欄でもご紹介している通りです[1]-[4]。


また、こうした内容に基づき、テレビ番組などでも佐々木選手の進学の意義などについてお話しています。


一連のお話の中で特に私が取材される方に強調する点が、スタンフォード大学も所属する全米大学体育協会(NCAA)はスポーツと学業の両立を標榜し、所属するディビジョンごとに学生に所定のGPAを満たすことを求めており、日本においてもNCAAを手本とした一般財団法人大学スポーツ協会(UNIAVAS)が2019年に発足したことです。


UNIVASについては、既存の大学運動部と競技連盟、あるいはUNIVASと競技連盟の関係を見直すことなく、既得権が温存されたままとなっており、大学スポーツを抜本的に変革するというUNIVASの設立の目的の実現を難しくしているという点については、本欄がかねてより指摘するところです[5]。


あるいは、日本には大学および短期大学を合わせて約800校があるにもかかわらず、2023年12月時点でUNIVASの加盟校が221校であること[6]は、その取り組みが発展途上にあることを示します。


しかしながら、学業と競技活動を両立できる学生の育成というUNIVASの理念は加盟大学にとって運動部に所属する学生の学修状況に変化をもたらしていますし、未加盟の大学などにとってもUNIVASの方針は参照すべき手本の一つとなっています。


このような状況は学生スポーツのあり方を考える上で重要ながら、大学スポーツの関係者以外には浸透していませんでした。


従って、今回の佐々木選手のスタンフォード大学の進学はNCAAの存在が日本において少しでも知られることになり、結果としてNCAAを手本としたUNIVASの名前が取り上げられる機会が増えるなら、その意義は大きなものです。


それだけに、佐々木麟太郎選手のスタンフォード大学への進学は、一人の高校生としての佐々木選手の進路の選択に関わるだけでなく、日本の学生スポーツ界にとっても副次的ではあっても重要な意味を持つと言えるでしょう。


[1]米スタンフォード大進学の麟太郎は「学費」だけでも年間1240万円…そんな大金払えるの?. 日刊ゲンダイ, 2024年2月14日, https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336214 (2024年2月27日閲覧).
[2]「野球部入部時期は?」「学費は?」…麟太郎が進学 米スタンフォード大をQ&Aで徹底解説【前編】. 日刊ゲンダイ, 2024年2月15日, https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336216 (2024年2月27日閲覧).
[3]「学業は?」「裏口入学は?」…麟太郎が進学 米スタンフォード大をQ&Aで徹底解説【後編】. 日刊ゲンダイ, 2024年2月15日, https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336218 (2024年2月27日閲覧).
[4]鈴村裕輔, 期待される佐々木麟太郎選手のスタンフォード大学における学業とスポーツでの活躍. 2024年2月15日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/2aa3598f3b2a4aa5c57d46d5ae27541c?frame_id=435622 (2024年2月27日閲覧).
[5]鈴村裕輔, 三度時期尚早なUNIVASの設立を批判する. 2019年2月28日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/7d5e360e63147ad371a3a46adb17a84f?frame_id=435622 (2024年2月27日閲覧).
[6]加盟団体. 一般財団法人大学スポーツ協会, 2023年12月20日, https://univas.jp/meaning/group/ (2024年2月27日閲覧).


<Executive Summary>
What Is the Meaningful Second Order Effect of Mr Rintaro Sasaki's Enrollment in Stanford University? (Yusuke Suzumura)


Mr Rintaro Sasaki of Hanamaki Higashi High School will be enrolled in Stanford University on 13th February 2024. On this occasion, we examine the meaningful second order effect for university student's sports in Japan.

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NHK交響楽団第2006回定期公演

去る2月14日(水)、15日(木)にサントリーホールにおいてNHK交響楽団の第2006回定期公演が行われ、第1日目の模様が2月24日(土)にNHK FMで放送されました。


今回は、前半にラヴェルのスペイン狂詩曲とプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番、後半にファリャのバレエ音楽『三角帽子』の全曲が演奏されました。ヴァイオリン独奏はアウグスティン・ハーデリヒ、ソプラノ独唱は吉田珠代、指揮はパブロ・エラス=カサドでした。


2023年のバイロイト音楽祭で『パルジファル』を指揮するなど進境著しいエラス=カサドの充実ぶりがよく示された今回の定期公演は、ファリャの『三角帽子』の彩りが豊かで起伏に富む仕上がりが何よりも印象深いものでした。


NHK響と『三角帽子』といえば、1994年9月の第1238回におけるピンカス・スタインバーグの指揮による第2部の演奏が行儀のよさの中に笑窪を浮かべた、よく整えられた内容になっていました。


一方、この日は解放感に溢れ、決して暗くなり過ぎず、しかも放埓さに傾斜することもない、均整の取れた演奏は聞き手の注意を集めて逸らさないものでした。


このような演奏に吉田珠代の伸びやかなソプラノ独唱が加わることで、より一層伸びやかで陰影に富んだファリャとなりました。


これに対し、前半のプロコフィエフはハーデリヒの正確さと、時に姿を見せる遊び心に満ちた旋律の揺らぎが魅力的で、伴奏が独奏によく追いつき、作品の輪郭を明瞭に描き出しました。


そして第1曲目のラヴェルは他の2曲に比べれば落ち着いた雰囲気をまとっていたものの、これもプロコフィエフとファリャの劇的な内容を考えればむべなるかなというもので、それだけよく練り上げられた公演であったと言えるでしょう。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2006th Subscription Concert (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra held the 2006th Subscription Concert at the Suntory Hall on 14th and 15th February 2024 and the first day was broadcast via NHK FM on 24th February 2024. In this time, they performed Ravel's Spanish Rhapsody, Prokofiev's Violin Concerto No. 2, and Falla's The Three-Cornered Hat. Solo violin was Augustin Hadelich and solo sporano was Tamayo Yoshida. Conductor was Pablo Heras-Casado.

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ザ・ガーデン自由が丘本店の閉業に際して思い出すいくつかのこと

本日、ザ・ガーデン自由が丘の自由が丘本店が営業を終了しました。


1966年に島商とシェル石油が共同出資したシェルガーデンがシェル石油の給油所に併設される形で開業し、2007年の全面改装を経て今日に至ることは広く知られる通りです。


さらに、1983年に経営を現在のセゾングループに委ね、1995年には店名をザ・ガーデン自由が丘に変更した後も、自由が丘本店は建物の上部に"SHELL GARDEN"の表記を残していたことは、ここが開業の地であることを視覚的に示していました。


私にとって自由が丘本店は自宅の最寄りのスーパーマーケットということもあって生まれて間もない頃から買い物をする両親に連れられて訪れた場所であり、特に若草幼稚園に通っていた際には、毎週水曜日が昼食前に降園する日となっていたこともあり、しばしば母に連れられ、園のお友だちとそのお母様とともにお昼をいただいたものでした。


あるいは、蝶ネクタイを締めて時折店内に立っている社長の島田孝克さんの夫人が歌手の島田祐子さんという話も、知るともなしに知ったものです。


また、輸入食材や雑貨を幅広く揃えるという店の特徴から、外国製のお菓子を買うこともしばしばでしたし、私がレゴブロックを初めて購入したのもシェルガーデンでした。


これに加えて、初めてと言えば、牛ヒレ肉のロッシーニ風を最初に口にしたのも、シェルガーデンの2階に入店していたブイトーニで家族で夕食をいただいたときのことでした。


いわば私にとって馴染み深い場所の一つがザ・ガーデン自由が丘の自由が丘本店でしたし、実際、小学校の友人のお母様がお店で働くなど、身近な存在でした。今でも私の母などは「シェル」と呼ぶのは、そのような親しみの表れです。


一方、自由が丘地域は東横線自由が丘駅の駅前再開発に代表されるように急速に相貌を改めています。


それだけに、今回のザ・ガーデン自由が丘本店の閉業は自由が丘の大きな時代の変化を象徴する出来事と言えるでしょう。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of the Main Store of The Garden Jiyugaoka at Jiyugaoka (Yusuke Suzumura)


The Main Store of The Garden Jiyugaoka at Jiyugaoka, Meguro-ku opened in 1966 closes on 25th February 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memories of the shop.

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ロシアによるウクライナへの侵攻開始から2年を経て思ういくつかのこと

今日、2022年2月24日(木)にロシアがウクライナに侵攻してから2年が経ちました。


侵攻したロシアの側にはロシアなりの理由があるとしても、侵攻されたウクライナの側に非がないだけでなく、武力によって他国の領土を併呑しようとする行為が到底受け入れられないことは論を俟ちません。


従って、欧州の安全保障の中核である北大西洋洋条約機構(NATO)や政治の中心である欧州連合(EU)だけでなく、NATOの盟主である米国がウクライナの支援を行うことは、ウクライナ問題が欧州域内に留まらず、その後の展開如何によっては国際社会により大きない影響をもたらす出来事であることを示しています。


国際的な紛争には中立の立場をとることが多い日本政府もウクライナへの支持を明確に示したのは、昨年の先進国首脳会議(G7)の議長国であったという外交的な側面だけによるものではありません。


むしろ、多くの日本の人々にとって欧州での出来事と思われがちなロシアによるウクライナへの侵攻も、世界地図を眺めればユーラシア大陸の東端で国境を接するのが日ロ両国であるという地理的な条件に従えば、ロシアの領土的野心に対応するためにも明快な立場を示すことは当然となります。


もとより、こうした各国の対応にはそれぞれの思惑や利害があります。そして、ロシアへの支持や支援を行う国も明確に存在します。


それだけに、日本も当事者となったロシアによるウクライナへの侵攻の帰趨がどのようなものになるのか、今後も注視されます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions to the 2nd Anniversary of Russia's Invasion to Ukraine (Yusuke Suzumura)


The 24th February, 2024 is the second anniversary of Russia's invasion to Ukraine started on 24th February 2022. On this occasion, we examine the meaning of the Ukraine War to Japan.

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石橋湛山は首相を辞任しなければなかったのか

2月23日は、石橋湛山が1957(昭和32)年に首相を辞任した日です。


2か月の療養が必要という医師団の診断を受け、書簡を通して退陣を表明した石橋の判断は「まことに淡々として、一身の感情や利害を棄てて、政治の停滞を避けようという行動」[1] 、「せっかく待望の地位をえながら、その志を果たせなかった気持ちは、まったく同情にたえない」 [2]、「石橋書簡は保守党再建の捨石となるために、正しいと思って身を引くのだという情熱に満ち溢れていた」 [3]と、当時からおおむね好意的でした。


また、世論や野党も石橋の退陣を望まず、むしろ首相臨時代理の職を設け、病状が回復した後に公務に復帰する声が根強くありました[4]。


しかし、石橋湛山は周囲の要請ではなく、自らの「政治的に良心に従う」として辞職しています。


それでは、石橋湛山には退陣以外に選択肢がなかったのでしょうか。あるいは、世論の声に従うことができる、何か別な方法があったのでしょうか。


私が著書『政治家 石橋湛山』(中央公論新社、2023年)の中で、「医学的判断の妥当性」「政権内の方針」「自民党内の状況」「野党との関係」「世論との関係」という5つの視点から検討した結果は、「自民党内の状況」が大きく影響していたことを示しています[5]。


ここには、総裁選挙において7票という僅差で勝利し、党内のほぼ半数が支持しなかったという政権の基盤の弱さゆえに加療のための長期の休養が難しく、政権を担当し続けることが不可能であったという、石橋湛山を取り巻く現実的な状況がありました。


それとともに、有権者から惜しまれつつ辞職したことは、かえって石橋湛山が中国やソ連との関係改善に取り組むだけの政治力を維持することを可能にしました。


その意味で、石橋湛山の辞任は一見すると不幸な出来事であったものの、実際には国民の信頼の獲得に成功したことで、今日に至るまで肯定的とも言える石橋湛山の像を確立するために大きく貢献したと言えるのです。


[1]当を得た石橋首相の進退. 読売新聞, 1957年2月23日朝刊1面.
[2]石橋内閣の総辞職. 毎日新聞, 1957年2月23日朝刊1面.
[3]九週間の短命内閣. 朝日新聞, 1957年2月23日朝刊1面.
[4]鈴木委員長、首相を見舞う. 朝日新聞, 1957年2月2日朝刊2面.
[5]鈴村裕輔, 政治家 石橋湛山. 中央公論新社, 2023年, 第4章.


<Executive Summary>
What Was the Meaning of Ishibashi Tanzan's Resignation of 23rd February 1957? (Yusuke Suzumura)


The 23rd February, 1957 was the day of Prime Minister Ishibashi Tanzan's resignation. On this occasion, we examine the meaning of his resignation focusing on its political meaning.

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「日経平均株価の最高値更新」はいかなる意味を持つか

本日、東京株式市場の日経平均株価は終値で前日より836円高い3万9098円68銭を記録し、従来の最高値である1989年12月29日の3万8915円87銭を更新しました。


1990年の大発会から値を下げ始めた日経平均株価は、日本企業の業績回復や物価下落からの脱却への期待から海外の買いが進み、34年1か月と24日ぶりの新記録達成となりました。


前回はいわゆるバブル景気のさなかであり、土地や株式への投資が過剰となり、実際の経済のあり方以上に人々の思惑が景気を下支えしていた時代でした。


そのため、この先の永遠に続くかと思われた株価の上昇はひとたび調整局面に入ると人々の猜疑心を喚起し、利食い売りの加速によって株価の下落が加速し、その後の長期の株価の低迷に直面したことは周知の通りです。


一方、今回の株価の高騰は、2022年2月24日のロシアによるウクライナの侵攻に端を発する世界的な資源高の影響と米国との金利差による円安とが日本の物価上昇を招き、長く続いたデフレーションの克服という状況をもたらしたという側面が強いといえます。


人々の生活に直結する賃金の上昇は物価の上昇に遅れる形で進んでおり、結果として実質賃金の下落を招き、暮らし向きの改善を実感する機会に乏しいの実情です。


いわば、1989年当時は経済の実態を超えた思惑が株価の最高値をもたらし、今回は日本経済の実力を超えた外的な要因によって最高値を更新したことになります。


その意味で、前回と同様に今回も危うい状況の下での記録の達成であり、このまま史上初の日経平均株価の4万円台まで進むかは予断を許さないところです。


それでも、「失われた10年」と呼ばれた長期の経済の低迷が20年となり、30年を迎え、国力の衰退が叫ばれて久しく、かつて「世界第2位の経済大国」と呼ばれた日本はいつの間にか「もはや先進国ではない」とまで指摘されるようになりました。


その様な中で、従来の記録を12473日ぶりに塗り替えたことの心理的な意義は小さくありません。


経済活動であれ景気であれ、最後は人がかかわることであるなら、今回の出来事を契機として実体経済の活性化が促進される可能性も高まることでしょう。


それだけに、今後の株価の動向だけでなく、日本経済の行方も大いに注目されるところです。


<Executive Summary>
What Is the Meaning of Nikkei 225's New Highest Record? (Yusuke Suzumura)


Japan's benchmark Nikkei 225 breakes its 1989 record 38,915.87 and gets 39,098.68 on 22nd February 2024. On this occasion, we examine the meaning of new record to real economy of Japan and mind of Japanese people.

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【開催10日前】野上記念法政大学能楽研究所能楽セミナー「アニメと能楽」

来る3月3日(日)、法政大学市ヶ谷キャンパスのボアソナード・タワー26階のスカイホールにおいて、私が客員研究員として参画している野上記念法政大学能楽研究所による能楽セミナー「アニメと能楽」が開催されます。


今回は、近年広がりを見せるアニメーションと能楽の協働について、実演者や研究者がそれぞれの専門家ら検討を加え、その可能性を追求します。


どなたでもご参加いただけますので、以下の詳細をご覧の上、ぜひともご来場ください。


*野上記念法政大学能楽研究所公式ウェブサイト
https://nohken.ws.hosei.ac.jp/activities/events.html


<Executive Summary>
First Announcement: The Nogami Memorial Noh Theatre Research Institute of Hosei University's Noh Theatre Seminar Seminar "Animation and Noh Theatre" (Yusuke Suzumura)


The Nogami Memorial Noh Theatre Research Institute of Hosei University will hold Noh Theatre Seminar "Animation and Noh Theatre" at Hosei University on 3rd March 2024.

 

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【テレビ番組出演報告】『モーニングショー』(テレビ朝日、2024年2月19日放送)

昨日放送されたテレビ朝日の『モーニングショー』において、私の談話が紹介されました。


今回は、2月16日(金)の放送に引き続き、花巻東高等学校からスタンフォード大学に進学する佐々木麟太郎選手の話題についてお話しました。


こうして今回も貴重な機会を頂戴したことは大変ありがたいことで、関係者の皆様に改めて感謝申し上げます。


<Executive Summary>
TV Appearance Report: TV Asahi's "Morning Show" (Yusuke Suzumura)


I appeared on a TV program of the TV Asahi named with "Morning Show" on 19th Februray 2024. On this occasion, I explained the meaning of Mr Rintaro Sasaki's entrance into Stanford University.

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陳舜臣さんの生誕100年によせて

昨日、作家の陳舜臣さんが生誕100年を迎えました。


1924(大正13)年2月18日に兵庫県神戸市で生まれた陳さんが最初は推理小説で名を成し、その後歴史小説を本格的に手掛けるようになってからは中国、琉球、インドなど広く太平洋地域を舞台とする諸作品を上梓し、独自の境域を開拓して斯界の第一人者となったことは周知の通りです。


私も、中学2年生であった1990年8月に初めて著作に触れて以来、陳さんはその作品を愛読している作家の一人です。


残念ながら陳さんは2015年1月21日(水)に90歳で逝去されました。


その際、私は陳さんを追悼する一文を本欄で紹介しています[1]。


そこで、今回陳さんの生誕100年を記念し、以下に旧稿を改めてご紹介します。


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【追悼】陳舜臣氏--対象への豊かな理解と確かな着眼点
鈴村裕輔


1月21日(水)、作家の陳舜臣さんが死去しました。享年90歳でした。


推理小説の作家として出発した陳さんが中国の歴史に取材した歴史小説家として一家をなし、20世紀後半の日本を代表する国民的作家として多数の作品を上梓したことは広く知られる通りです。


私が初めて陳さんの作品を読んだのは中学校2年生の夏休みに母方の実家の山口県宇部市に帰省した1990年8月のことで、祖父が私に蔵書の一部を譲ってくれた際、司馬遼太郎の作品とともに多数収められていたのが陳さんの単行本や文庫本でした。


祖父は、私が小学校6年生から中国の古典思想や古典文学に興味を持ち始めたことを知っていたため、私に譲る蔵書の中に陳さんの書籍を50冊ほど入れてくれたのでした。


中学校を卒業するまでに譲り受けた陳さんの本を読み終えると、その後は自分で既刊本や新刊本を買い求め、当時入手しうる陳さんの書籍の大部分を手元に置くことになりました。


いずれも興味深い作品ではあったものの、とりわけ印象深いのは、『秘本三国志』(文春文庫、1983年)、『中国の歴史』(講談社文庫、1990-1991年)、『阿片戦争』(講談社文庫、1992年)、『太平天国』(講談社文庫、1988年)、『唐詩新選』(新潮社、1989年)でした。


陳さんの作品は、一見すると大きな展開の中にあってささやかな支流や地下水脈を形成する出来事や人物を丹念に追及し、あらゆる断片は置換可能な等質的なものではなく、その一つひとつに異なる性格や要素が備わっていることを描き出す点に特徴がありました。


例えば、『阿片戦争』における、迫りくる英国艦隊に対して関天培の指揮する清軍の奮戦ぶりや、『太平天国』において、翼王を名乗った石達開が清軍を包囲した際、降伏を迫る石達開に対して清軍側が「清の皇帝は知っているが、翼王などは知らぬ」と徹底して抗戦する構えを見せた場面の描写などは、歴史という大きな流れにおいては顧慮されない挿話ながら、一人ひとりの人間のあり方を読者の目の前に生きいきと蘇らせる、陳さんの優れた筆致の典型といえるでしょう。


この他にも、陳寿の『三国志』や羅貫中の『三国演義』では限られた記述しかない張魯と架空の人物である母の少容を中心に描く『秘本三国志』や、『中国の歴史』における「人物を描くためにはその人が没してから50年程度を経なければならない。何故なら、それまでの間は関係者が生きている可能性が高く、公平な描写ができないからだ」という趣旨の記述などには、陳さんの小説に対する態度や歴史への眼差しが垣間見られるといえます。


このように、日本の文学界で独自の地位を占めた陳さんではあったものの、1994年に脳出血を発症したために、作家として大成の時期を迎えるはずであった70歳代以降の執筆活動が停滞したことは、仕方がないとはいえ残念なことでした。


しかも、近年は新刊書がほとんどなかったこともあり、書店でも文庫本の扱いが減り、書棚にその名前を見出すことが難しくなったことは、世の移ろいが実感され、寂しく思われたものです。


それでも、取り上げる対象への理解の豊かさと着眼点の確かさ、そして誠実さと諧謔の精神とが同居する陳さんの作品は、これからも読み継がれてゆくことでしょう。


私が体系的に読書を行った初期に大きな位置を占めた改めて陳さんのご冥福を、改めてお祈りいたします。
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[1]鈴村裕輔, 【追悼】陳舜臣氏--対象への豊かな理解と確かな着眼点. 2015年1月22日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/1aa6297f88aabcea3c53e4dfe96a1e83?frame_id=435622 (2024年2月19日閲覧).


<Executive Summary>
Celebrate Mr Chin Shunshin's 100th Anniversary (Yusuke Suzumura)


The 18th February 2024 was the 100th Anniversary of Mr Chin Shunshin, an author born on 18th February 1924 and passed away at the age of 90 on 21st January 2015. On this occasion I reintroduce my past article concerning Mr Chin.

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青山フィルハーモニー管弦楽団ウィンターコンサート2024

昨日、東京都立青山高等学校5階ホールにおいて、青山フィルハーモニー管弦楽団のウィンターコンサート2024が開催されました。


今回は、14時からと15時30分からの2部制によりおこなわれ、いずれも弦楽五重奏としてback numberの『水平線』、管弦楽としてチャイコフスキーのバレエ組曲『くるみ割り人形』の「行進曲、そしてドヴォルザークの交響曲第9番『新世界』の第1楽章が演奏されました。


ウィンターコンサートは青フィルにとって年度内最後の青山高校内での公演となります。そして、ウィンターコンサートが終われば、残された主催公演は1年間の活動の集大成である定期演奏会のみとなります。


それとともに、青フィルが毎年訪問演奏を行っている東京都立青山特別支援学校の皆さんを公演に招待したことは、音楽を通した相互の交流の促進に寄与するものです。


それだけに、演奏者の皆さんにとって最大の目標である定期演奏会に向けて意を新たにする格好の機会となるウィンターコンサートがつつがなく行われたことの意味は大きく、残された活動期間がより一層充実したものになることが期待されます。


<Executive Summary>
The Aoyama Philharmonic Orchestra Winter Concert 2024 (Yusuke Suzumura)


The Aoyama Philharmonic Orchestra held the Winter Concert 2024 at the Tokyo Metropolitan Aoyama High School on 17th February 2024.

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『クラシックの迷宮』の特集「指揮者・小澤征爾をしのんで」の的確な評言と音源が描き出す小澤征爾さんの魅力

本日NHK FMで放送された『クラシックの迷宮』は今年2月6日(火)に逝去した指揮者の小澤征爾さんを追悼する特集「指揮者・小澤征爾をしのんで」が放送されました。


当初の予定を急遽変更しての放送であり、逝去が発表されてから追悼特集が組まれるまでの期間が番組の歴史の中で最短であったことは、それだけ小澤征爾さんが音楽界に残した功績の大きさを物語ります。


また、司会の片山杜秀先生による以下のような小澤征爾さんへの評価は、一聴に値するものでした。

 

「この人しかいない、一世一代の個性の爆発によって日本の音楽界、世界の音楽界に欠かせない存在となった」
「1962年のNHK交響楽団との短い蜜月の時代の頂点となる演奏がメシアンのトゥーランガリラ交響曲」
「『NHK交響楽団50年史』の言葉を借りれば小澤征爾さんとNHK交響楽団の関係は『意思の疎通を欠く』ものであった」


こうした評価を踏まえて紹介されたのは、1962年にNHK交響楽団と収録したメシアンのトゥーランガリラ交響曲と小澤征爾さんの指揮法の師である齋藤秀雄の没後10年を記念した1984年の桐朋学園齋藤秀雄メモリアル管弦楽団によるバッハの『シャコンヌ』でした。


イヴォンヌ・ロリオをピアノ、本荘玲子をオンド・マルトノに迎えたトゥーランガリラ交響曲は、作曲者自身が「理想の演奏」として絶賛したことが大いに頷ける演奏で、作品の持つ繊細で幾重にも重ねられた旋律の層を丹念に解きほぐしつつ一つの音楽へと形作る様子が収録から60年以上を経てもありありと蘇る内容でした。


また、バッハは齋藤秀雄の編曲によって壮麗な雰囲気を濃厚にまとう作品となったにもかかわらず、時折見せる軽やかな表情の中に大編成の作品だけでなく室内楽の演奏でも群を抜く手腕を発揮した小澤征爾さんの音楽作りの確かさが改めて確認されました。


上掲の評言の中に、間接的とはいえいわゆる「N響事件」を取り上げたことを含め、その活躍の幅の広さを可能な限り的確に伝えようとした、いつにも増して意義深く聞き応えのある、今回の『クラシックの迷宮』でした。


<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Expresses Sincere Condolences to Dr Seiji Ozawa (Yusuke Suzumura)

A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcast via NHK FM featured Dr Seiji Ozawa to commemorate his death on 17th February 2024. It might be a meaningful opportunity for us to understand Dr Ozawa's great contribution to the development of "classical music."

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【テレビ番組出演報告】『モーニングショー』(テレビ朝日、2024年2月16日放送)

本日放送されたテレビ朝日の『モーニングショー』の大谷翔平選手に関する特集の中で花巻東高等学校からスタンフォード大学に進学する佐々木麟太郎選手の話題も取り上げられました。


放送の中では、私の談話及びオンラインでの取材を受けた際の様子が紹介されました。


私は主に米国の大学に入学することの難しさやスポーツと学業の両立の重要さなどについてお話しました。


テレビ朝日のワイドショーで私の談話が紹介されるのは2012年1月20日に放送された『モーニングバード!』でのダルビッシュ有投手がテキサス・レンジャースに移籍することが決まったとき以来12年ぶりとなります。


今回、こうした貴重な機会を頂戴したことは大変ありがたく、関係者の皆様に感謝申し上げます。


<Executive Summary>
TV Appearance Report: TV Asahi's "Morning Show" (Yusuke Suzumura)


I appeared on a TV program of the TV Asahi named with "Morning Show" on 16th Februray 2024. On this occasion, I explained the meaning of Mr Rintaro Sasaki's entrance into Stanford University.

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期待される佐々木麟太郎選手のスタンフォード大学における学業とスポーツでの活躍

現地時間の2月13日(火)、花巻東高等学校で野球部に所属する佐々木麟太郎選手が米国のスタンフォード大学に進学することが発表されました[1]。


佐々木選手が米国の大学に進学することに関する私の見解は、日刊ゲンダイの関連する記事にまとめられている通りです[2]-[4]。


記事の中でも指摘したように、卒業するためには日々の積極的で主体的な学修が必要な米国の大学に入学することは、たとえ当初の所属が語学研修の課程である場合であっても大きな挑戦となります。


また、全米大学体育協会(NCAA)はスポーツと学業の両立を標榜し、所属するディビジョンごとに学生に所定のGPAを満たすことを求めています。


スタンフォード大学は3つあるディビジョンの最上位であるディビジョン1に属しており、GPAは2.3以上が必要となります。


この基準はNCAAの加盟大学に等しく課されるものであり、佐々木選手も例外なく学業に励むことが不可欠です。


さらに、日本とは異なる行動様式や習慣は、日常生活を送る上で様々な困難をもたらすことになるでしょう。


それでも、さらなる高みを目指してあえてより難しい進路を選んだ点に佐々木選手の判断の意義があるとともに、高校生の進学のあり方そのものの可能性を広げる役割を持つといっても過言ではありません。


それだけに、今後佐々木麟太郎選手が勉学にスポーツに、どのような活躍を示すのか、野球の歴史の研究とともに学生の外国の大学への派遣と受け入れに携わる一人の教員として注目されます。

 

[1]花巻東・強打の佐々木 米スタンフォード大へ. 日本経済新聞, 2024年2月15日朝刊39面.
[2]米スタンフォード大進学の麟太郎は「学費」だけでも年間1240万円…そんな大金払えるの?. 日刊ゲンダイ, 2024年2月14日, https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336214 (2024年2月15日閲覧).
[3]「野球部入部時期は?」「学費は?」…麟太郎が進学 米スタンフォード大をQ&Aで徹底解説【前編】. 日刊ゲンダイ, 2024年2月15日, https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336216 (2024年2月15日閲覧).
[4]「学業は?」「裏口入学は?」…麟太郎が進学 米スタンフォード大をQ&Aで徹底解説【後編】. 日刊ゲンダイ, 2024年2月15日, https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/336218 (2024年2月15日閲覧).


<Executive Summary>
We Prospect Mr Rintaro Sasaki's Great Activities in Stanford University (Yusuke Suzumura)


Mr Rintaro Sasaki of Hanamaki Higashi High School will be enrolled in Stanford University on 13th February 2024. On this occasion, we examine possibilites and difficulties for Mr Sasaki to be a student of a US university and prospect his activities.

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トランプ前米国大統領による米国のNATOの防衛義務に関する発言はいかなる意味を持つか

現地時間の2月10日(土)、米国のドナルド・トランプ前大統領が北大西洋条約機構(NATO)について防衛義務を遵守しない可能性があることに言及しました[1]。


トランプ氏の発言はNATO加盟各国の反発と同氏が今年11月の大統領選挙で勝利した場合の米国の対外政策の変更を懸念させる一方、欧州側にとっては織り込み済みの内容でもあります[2]。


ところで、米国が「世界の警察官」ではないと明言したのは2013年9月10日のバラク・オバマ大統領でした[3]。


オバマ大統領の発言は、東西冷戦下では西側諸国の盟主として「世界の警察官」の役割を果たすことが米国の国家の利益となった時代が過去のものとなり、冷戦後に一時は「世界唯一の超大国」となった米国もその後の状況の変化により「世界の警察官」という役目が国家の利益よりも負担を大きくするという現実的な問題に直面した結果でした。


そして、2017年にトランプ氏が大統領に就任すると、米国軍が駐留している各国にさらなる諸経費の負担を求め、応じない場合は米国軍の撤退を示唆したものです。


結果的にトランプ氏の発言が実現することはなかったものの、オバマ氏が開いたと言える米国の国際的な紛争への積極的な介入の回避という路線は、形を変えながらもトランプ氏を経て現在のジョー・バイデン大統領に至っても否定されていません。


むしろ、19世紀以降、米国に根強く残るのが対外的な孤立主義であることを考えれば、トランプ氏のNATOへの防衛義務に関する発言は、表現の内容こそ問題があるとしても、米国の伝統的な外交政策を踏まえたものと言えます。


実際、オバマ政権以降の米国の対外政策に対して各国が危機感を抱いたからこそ、NATOの加盟国の3分の2が国防費を国内総生産(GDP)比2%以上に増やすという目標を達成する見込みとなっています[4]。


また、防衛費をGDP比1%以下に抑えてきた日本においても、岸田文雄首相が2027年度までに同比2%程度まで上昇させることを明言した背景は、こうした米国の姿勢に求められます。


その意味で、トランプ氏の発言は一見すると突飛で滑稽であり、米国らしくないははずべきもの[5]であるかもしれないものの、決して異色のものではありません。


それだけに、われわれに求められるのは、過激で誇張されたトランプ氏の発言そのものではなく、その発言を生み出す構造への十分な注意ということになるでしょう。


[1]Trump said he might ignore NATO’s duty to defend. Here’s what the group does. The Washington Post, 11th February 2024, https://www.washingtonpost.com/national-security/2024/02/11/what-is-nato-trump-alliance/ (accessed on 14th February 2024).
[2]Trump’s NATO jibe won’t be a surprise for Europe — but it could spell a reckoning. NBC NEWS, 12th February 2024, https://www.nbcnews.com/news/world/trumps-nato-europe-russia-threat-rcna138344 (accessed on 14th February 2024).
[3]Remarks by the President in Address to the Nation on Syria. The White House, 10th September 2013, https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2013/09/10/remarks-president-address-nation-syria (accessed on 14th February 2024).
[4]国防費GDP2%目標「加盟国2/3達成へ」. 日本経済新聞, 2024年2月14日夕刊3面.
[5]トランプ氏発言「間抜け」. 日本経済新聞, 2024年2月14日夕刊3面.


<Executive Summary>
What Ia the Meaning of Former US President Donald Trump's Comment for NATO? (Yusuke Suzumura)


Forme US President Donald Trump said that he would ignore NATO's duty to defend on 10th February 2024. On this occasion, we examine a structure and meaning of his comment.

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【テレビ番組出演報告】『せやねん!』(毎日放送、2024年2月10日放送)

去る2月10日(土)、毎日放送の情報番組『せやねん!』に私の談話が紹介されました。


今回は大リーグのロサンゼルス・ドジャースに所属する大谷翔平選手について同僚のミゲル・ロハス選手が「新加入選手は最初のバス移動の際に恒例の行事を行わなければならない」と発言したことを受け、大リーグにおける選手のバス移動のあり方や新加入選手への扱いなどをお話ししました。


『せやねん!』において談話が紹介されるのは9月23日(土)の放送に続いて3回目であり、このような機会を提供して下さった関係者の皆さんに感謝申し上げます。


<Executive Summary>
TV Appearance Report: MBS' "Seyanen!" (Yusuke Suzumura)


I appeared on a TV program of the MBS named with "Seyanen!" on 10th Februray 2024. On this occasion, I explained an initiation for Mr Shohei Ohtani into the Dodgers mentioned by Mr Miguel Rojas.

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改めて考える小澤征爾さんの社会的な存在感の高さ

2月6日(火)に逝去した指揮者の小澤征爾さんについて、私が思い出したいくつかのことについては2月9日(金)の本欄でもご紹介した通りです[1]。


訃報が発表されてからの国内外の様々な媒体の報道は、新聞、テレビ、ラジオ、インターネットを問わずその足跡を丹念に紹介するだけでなく、あるいはレコード店の追悼特集を報じ、あるいは聴衆の声を取り上げるなど、一人の指揮者の長逝という枠組みを超える扱いがなされています。


何より象徴的なのは新聞各紙が2月10日(土)の朝刊の1面で逝去を報じたことで、例えば洋楽関係者として初めて文化勲章を受章した朝比奈隆さんの場合、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞は1面で取り上げたものの日本経済新聞は27面で報じるなど、主要全国紙の中でも対応が分かれたものです。


また、他の多くの指揮者はどれほど著名であっても評伝とともに社会面で報じられるのが一般的であることを考えれば、小澤征爾さんが音楽界の発展に果たした役割が大きかっただけでなく、「世界的指揮者」という呼び名を冠せられる稀有な存在であったことが改めて実感されます。


もちろん、現在、日本出身の指揮者で世界各地の楽団の音楽監督や首席指揮者などを務める人たちは数多くいます。その意味で、日本国外で活動することそのものが大きな意味を持っていた時代とは比べるべくもないでしょう。


それでも、今後このように社会的な出来事として取り上げられる指揮者が日本から登場するかと考えると、少なくとも現時点で思い浮かぶ名前は皆無と言ってよいでしょう。


これは、一面において日本出身の指揮者の国際化の進展の結果であり、他面では斯界の開拓者の一人であったからこそ様々な困難に直面し、それを乗り越えるたびに新たな名声を博した集大成の一端が今回の扱いに垣間見られことが推察させます。


それだけに、小澤征爾さんの残した芸術的な成果がどのように扱われるかとともに、小澤さんに比肩し、あるいは超える存在が現れるのか、興味深く思われます。


[1]鈴村裕輔, 【追悼文】小澤征爾さんについて思い出すいくつかのこと. 2024年2月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/707753b4a81f10c5e3cb9bd060be9a23?frame_id=435622 (2024年2月11日閲覧).


<Executive Summary>
What Is the Meaning of the Death of Dr Seiji Ozawa (Yusuke Suzumura)


Dr Seijo Ozawa, a Former Principal Conductor of the Vienna State Opera, had passed away at the age of 88 on 6th February 2024. On this occasion, I examine the meaning of the death of Dr Ozawa.

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「国際政治とクラシック音楽の関係」を解き明かした『クラシックの迷宮』の特集「混迷の時代の“雪解けクラシック”」

昨日NHK FMで放送された『クラシックの迷宮』は「混迷の時代の“雪解けクラシック”」と題し、フルシチョフ政権下で進んだ米ソ関係の改善が東西両陣営の「雪解け」だけでなく交響管弦楽の分野にも影響を与えたことが、演奏者や演奏会の交流を通して紹介されました。


取り上げられたのは、マルグリット・ロンが1955年にモスクワにおいてキリル・コンドラシンの指揮によるモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団と行ったラヴェルのピアノ協奏曲の演奏からウラディミール・ホロヴィッツが1986年にレニングラードで行ったショパンのポロネーズ第6番の実況録音までの約30年にわたる音源でした。


特に「雪解け」の象徴となったのが、宗教全般が統制の対象とされていたソ連において、「宗教音楽」として長らく演奏を禁止されていたバッハをアイザック・スターンがレニングラードで演奏したことで、番組の中で紹介された無伴奏バイオリン・パルティータ第2番の「シャコンヌ」は歴史的な演奏といっても差し支えのないものでした。


この他にも1950年代末から1960年代半ばの公演の実況録音を中心とし、1962年に米国に亡命中のストラヴィンスキーがモスクワでソヴィエト国立交響楽団を指揮した『オード』から第2曲「エグログ」やカラヤンとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が1969年にモスクワ音楽院で行ったリヒャルト・シュトラウスの交響詩『英雄の生涯』から「英雄の隠遁と完成」が取り上げられ、音楽を通した東西両陣営の文化の交流が着実に進んでいた様子が改めて示されました。


こうした背景を考えれば、今回は取り上げられなかったもののNHK交響楽団が1960年に日本の演奏団体として初めて海外公演を行った際にモスクワを訪問した意味と意義の大きさが間接的ながら浮き彫りになります。


もちろん、「雪解け」がただちに冷戦の終結へと至らなかったのは、番組でも司会の片山杜秀先生が指摘したように、ベルリンの壁が建設されたのが1961年であったことからも分かります。


それでも、ひとたび始まった音楽上の交流が途絶することはありませんでしたし、紆余曲折を経て冷戦の終結とソ連の崩壊を迎えたことは、われわれのよく知るところです。


その意味で、今回の放送は、音楽を通して世界の歴史が大きく転換した様子を了解するという、気宇壮大な試みであったことが分かります。


こうした着眼点は片山杜秀先生ならではであり、『クラシックの迷宮』だからこそ実現できる特集です。


それとともに、ソ連が東側諸国の盟主であるだけでなく、文化的にも「大国」であったことを改めて伝える、意義深い放送でした。


<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Shows the Relationships between International Politics and Classical Music (Yusuke Suzumura)


A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcast via NHK FM featured detent and its influence on classical music on 10th February 2024. It might be a meaningful opportunity for us to understand relationships between international politics and classical music.

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NHK交響楽団第2005回定期公演

2月9日(金)、10日(土)、NHKホールにおいてNHK交響楽団の第2005回定期公演が行われ、第1日目の様子がNHK FMで実況中継されました。


今回はワーグナーの『ジークフリートの牧歌』とリヒャルト・シュトラウスの交響詩『英雄の生涯』が演奏されました。指揮は大植英次でした。


大植がNHK響の定期公演に出演するのは1999年6月の第1382回以来24年8か月ぶりのことです。


前回は「海外にポジションを持つ日本人若手指揮者シリーズ」として上岡敏之が第1383回を、大勝秀也が第1384回を担当しました。


当時の大植は1998年9月に音楽監督を務めていたミネソタ管弦楽団との来日公演を実現し、これからの音楽界を支える逸材と思われたものでした。


実際、私も1998年9月24日に行われたミネソタ管の公演をサントリーホールで鑑賞し、その軽やかながら勘所を押さえた音楽作りに大いに期待した次第です。


その後、朝比奈隆の逝去を受けて大阪フィルハーモニー交響楽団の音楽監督を務めたことは一面において大抜擢であり、他面では将来を嘱望された存在にふさわしい人事でした。


それだけに約25年ぶりにNHK響の定期公演に出演したことは、大植がこの四半世紀の間にどのような経験を重ね、指揮者としていかなる発展を遂げたかを知るには格好の手掛かりとなりました。


第1曲目の『ジークフリートの牧歌』は説明の必要もない佳曲であるとともに、ワーグナーが大編成の作品だけでなく室内楽の分野でも卓絶した力量を備えていることを示す一曲です。


そのような作品の絶妙に重ねられた音のひだを一枚ずつ剥がしてゆき、再び一つの音楽にまとめ上げる大植の姿はあたかも優れた外科医のようであり、一篇の交響曲を聞くかのような濃厚な演奏を実現しました。


また、『英雄の生涯』は楽団から濁りのない音を引き出すとともに、各奏者が劇的な音楽を劇的に演奏する環境を整えたところは、大植の手腕の確かさを物語ります。


しかも、時に苦悩し、時に格闘する英雄の姿を豊かな表情とともに聞き手に届ける様子は『英雄の生涯』の持つある種の歌劇的な要素をも描き出しており、聞き慣れた作品に新たな相貌を与えるものでした。


わずか2曲ではあったとしても、この25年の間に大植が演奏会場においても歌劇場においても優れた実績を残してきたことが改めて確認された、今回の公演でした。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2005th Subscription Concert (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra held the 2005th Subscription Concert at the NHK Hall on 9th and 10th February 2024 and the first day was broadcast via NHK FM on 9th February 2024. In this time, they performed Wagner's Siegfried Idyll and Strauss' Ein Heldenleben. Conductor was Eiji Oue.

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【追悼文】小澤征爾さんについて思い出すいくつかのこと

去る2月6日(火)、指揮者の小澤征爾さんが逝去しました。享年88歳でした。


1959年に第9回ブザンソン国際指揮者コンクールで第1位を獲得して以来、岩城宏之さんとともに世界の楽壇において日本やアジア出身の指揮者の存在感を高めることに大きく貢献し、世界的な指揮者として名声を博したことは周知の通りです。


また、1961年から1962年にかけての「N響事件」や1972年に始まる「日フィル争議」を受けた新日本フィルハーモニー交響楽団の結成など、日本の音楽界において特筆すべき出来事の当事者であったり深く関わったことも広く知られるところです。


私にとって小澤さんというと録音よりも実演での印象が強い指揮者でした。


例えば、2002年7月2日にサントリーホールで鑑賞した第18回〈東京の夏〉音楽祭2002年「音楽と文学」のオープニングコンサートで新日フィルを指揮したベルリオーズの幻想交響曲と『レリオ、または生への回帰』や、2003年2月20日の新日本フィルの第351定期演奏会でのベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番や交響曲第3番『英雄』は、いずれも場内の空気の流れが目に見えるような演奏で、その中心に小澤さんがいたものでした。


一方、録音といえば1966年にトロント交響楽団と録音したベルリオーズの幻想交響曲は、何かになろうとする何者でもない青年の苦悩と葛藤を直接的に表現した印象深い音源でありその後多くの録音を様々な楽団と手掛けた中でも特に興趣の尽きない一枚となっています。


ところで、小澤さんということで思い出されることのひとつは、青山フィルハーモニー管弦楽団の夏季合宿がホテルジャパン志賀で行われていた頃、アンサンブルホールに掲げられた著名な音楽家の顔写真の中の一人であったことです。


カラヤン、バーンスタイン、ジュリーニ、シノーポリといった世界に冠たる指揮者を撮影したドイツ・グラモフォンの写真を用いたパネルに納まる小澤さんの様子を初めて眺めたのは1992年8月のことであり、その感興は、今でも忘れ難いものです。


奇しくも日本が戦後の復興を成し遂げて世界第2位の経済大国となった1950年代末から1960年代は小澤さんが活躍の場を日本から世界へと広げる時期でもあり、ある意味で小澤さんの歩みは伸び行く日本の姿を音楽の分野で表現するものでもありました。


その意味でも、戦後の日本を代表する偉大な音楽家の一人であった小澤征爾さんのご冥福をお祈り申し上げます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Dr Seiji Ozawa (Yusuke Suzumura)


Dr Seijo Ozawa, a Former Principal Conductor of the Vienna State Opera, had passed away at the age of 88 on 6th February 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memories of Dr Ozawa.

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NHK交響楽団第2004回定期公演

去る2月3日(土)、4日(日)にNHKホールにおいてNHK交響楽団の第2004回定期公演が行われ、本日NHK FMで第1日目の様子が放送されました。


今回は前半にヨハン・シュトラウス2世のポルカ『クラップフェンの森で』とショスタコーヴィチの舞台管弦楽のための組曲第1番から「行進曲」「リリック・ワルツ」「小さなポルカ」「ワルツ第2番」が、後半にショスタコーヴィチの交響曲第13番『バビ・ヤール』が演奏されました。バス独唱はアレクセイ・ティホミーロフ、男声合唱はオルフェイ・ドレンガル男声合唱団、指揮は井上道義でした。


第1曲目のシュトラウス2世は井上にとっては必ずしも手中に収めている作曲家ではなく意外な選曲ではあったものの、緩急の豊かな展開と鳥笛の長閑でときにおどけた様子は公演の冒頭を華々しく飾りました。


第2曲目の舞台管弦楽のための組曲第1番は1990年代まで誤ってジャズ組曲第2番とされてきた作品で、知らぬ者もいない大作曲家であっても作品の混同や訛伝があることを教えます。


1930年代から1950年代にかけて手掛けた映画音楽やバレエ音楽をまとめた本作は、楽器編成の彩りの豊かさと背景の異なる曲を集めたことによる表情の多様さが印象的であり、ショスタコーヴィチを得意とする井上ならではの軽やかな音楽作りが印象的でした。


一方、後半の交響曲第13番は第1楽章における循環主題が作品全体を統一し、第3楽章から第5楽章まで連続して演奏される重厚な交響曲です。


独唱のティホミーロフの劇的な歌唱と合唱のオルフェイ・ドレンガル男声合唱団の明瞭な発声はマーラーに通じる奥行と陰影に富んだ演奏を作り出しました。


それとともに、演奏者に対して時に挑発し、時に格闘するような指揮は井上ならではのものに他なりません。


2024年をもって指揮活動からの引退を表明している井上にとって、NHK響の定期公演への出演は今回が最後になる予定です。


1978年5月の第752回定期公演に出演した際は31歳の期待の新鋭であり、取り上げた作品もロッシーニの歌劇『どろうぼうかささぎ』序曲、ネルソン・フレイイレを独奏に迎えたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、プロコフィエフの古典交響曲、そしてドビュッシーの交響詩『海』という耳触りは良いものの特徴に欠ける組み合わせでした。


それが46年後には曲目を見るだけで誰が指揮台に立つかが一目瞭然であるところに、この間の井上道義の歩んだ道のりの長さが実感されます。


その意味でも、井上道義にとっても楽団にとっても、意義深い公演となったと言えるでしょう。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2004th Subscription Concert (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra held the 2004th Subscription Concert at the NHK Hall on 3rd and 4th February 2024 and the first day was broadcast via NHK FM on 8th February 2024. In this time, they performed Johann Strauss II's Im Krapfenwald’I, Shostakovich's March, Lyrical Waltz, Little Polka, Waltz II from Suite for Variety Orchestra No. 1 and Symphony No. 13 "Babi Yar". Solo bass was Alexey Tikhomirov, male chorus was Orphei Drängar. Conductor was Michiyoshi Inoue.

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【旧稿再掲】過去を蘇らせ現在に伝えた赤松良子さんの「私の履歴書」

今日、元文部大臣で日本ユニセフ協会会長の赤松良子さんの訃報が発表されました[1]。享年94歳でした。


赤松さんが労働官僚として男女雇用機会均等法徳厚案と策定を推進したり、細川護熙内閣と羽田孜内閣で文部大臣を務めるなど、その事績については広く知られる通りです。


いわば戦後の日本における女性の社会進出の先駆となったのが赤松さんであり、日本社会の発展に貢献した功績は大きなものです。


ところで、赤松さんは2021年12月に日本経済新聞の連載「私の履歴書」を担当されました。


その内容は赤松さんの半生のみならず、日本の社会の変化の様子を印象的に描き出すものであり、私も連載終了後に「過去を蘇らせ現在に伝えた赤松良子さんの「私の履歴書」」として読後感を本欄で紹介しております[2]。


そこで、今回この記事を紹介して赤松さんの追悼といたします。


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過去を蘇らせ現在に伝えた赤松良子さんの「私の履歴書」
鈴村裕輔


2021年12月度の日本経済新聞の連載「私の履歴書」は、元文部大臣の赤松良子さんが担当されました。


赤松さんは、労働省婦人局長として男女雇用機会均等法の立案と策定を推進し、国連日本政府代表部公使にとして日本の女子差別撤廃条約への批准に携わるなど、女性の地位の向上と権利の保障と拡充に尽力したことで広く知られます。


洋画家赤松麟作と母浅香のもとに生まれ、父母の愛情に包まれながら成長する様子や、「職業婦人」に憧れた幼少期、津田塾専門学校で英語劇を演じ、「可能な限りの資格を身につけ男性と対等に勝負できるスタートラインに立ちたい」と進学した東京大学での学びと労働省に入省してからの官界での活動と、30回の連載は毎回赤松さんの起伏に富む活動が印象的に紹介されています。


特に、婦人参政権25周年となった1971年に首相であった佐藤栄作が感謝状を渡す相手の選考を行い、平塚らいてうや神近市子らを訪問したり電話をかけたこと、女子差別撤廃条約の批准促進の過程で市川房枝と深く交流したことなどは、赤松さんが戦前の女性解放運動や婦人運動と系譜に連なることを示すばかりでなく、こうした先人の取り組みがあったからこそ、現在へと至る様々な制度の確立があったことを改めてわれわれに教えます。


それとともに、男女雇用機会均等法などの法制度の整備の当事者である赤松さんが往時を振り返ることで、一つの法律が出来るまでどのような過程を経たかが現在に伝えられることは、法制史の観点からも意義深いものです。


また、細川護熙内閣と羽田孜内閣で文部大臣を務めた際に、官僚時代から取り組んできた女性の社会的地位の向上の一環として根拠のない男女差別の見直しを推進し、旭日章の受章が男性のみであることや、甲子園の高校野球全国大会でベンチに女子マネジャーが入れない点などに疑問を呈し、改善の方途を示したたことなども、赤松さんの重要な功績です。


もちろん、「私の履歴書」の内容は赤松さんの視点に基づきますから、異見もあることでしょう。


それでも、「女性の社会進出」を体現し、後に続く人々に進むべき道の一つを示した赤松さんのこれまでの歩みが改めて紹介されたことの意義は大きく、単行本として出版されることでより多くの人たちに新たな学びと気付きを与えることが期待されます。
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[1]日本ユニセフ協会会長 赤松良子元文相が死去 94歳
. NHK NEWS, 2024年2月7日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240207/k10014350921000.html (2024年2月7日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 過去を蘇らせ現在に伝えた赤松良子さんの「私の履歴書」. 2022年1月15日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/2fb5b9764b3cd740a22d98babd4cb045?frame_id=435622 (2024年2月7日閲覧).


<Executive Summary>
Commemorating the Death of Former Education Minister Ryoko Akamatsu (Yusuke Suzumura)


Former Education Minister Ryoko Akamatsu had passed away at the age of 94 on 7th February 2024. On this occasion, I commemorate the death of Former Minister Akamatsu to show my review of her My Résumé which was run on the Nihon Keizai Shimbun from 1st to 31st December 2021.

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雪の日に思ったいくつかのこと

昨日は強い冬型の気圧配置で東京都心でも2年ぶりの積雪を記録しました。


都心の雪ということで思い出されるのが2014年2月8日と14日の降雪です。


特に2月8日は23区内でも20センチを超える積雪を記録して交通機関が大きな影響を受け、私も帰宅時に東横線の大幅な運行制限となったため、中目黒駅から目黒通りを歩いたものでした。


さらに、帰宅後は近隣の皆さんとともに家の前の雪かきをしたのも、今では良い経験となっています。


ところで、10年後の今回は積雪量こそ10年前には遠く及ばない7センチ程度で、雪かきの必要もなかったものの、長男が保育園から降園する時間帯に雪が降っていたこともあり、帰宅の際には「転ぶと危ないから、しっかり手を繋いでね」「走ると危ないからゆっくり歩いてね」と細心の注意を払いながら家路につきました。


物心がついてから初めて本格的な降雪を目の当たりにしたこともあり、長男も「ゆき、たくさんふってるね」「すごくさむいね」と大きな目をさらに大きくしながら、一歩ずつゆっくりと足を運んでいました。


そして、10年前とは方向が反対とはなりつつ、同じ目黒通りを進んだのですから、われながら隔世の感を禁じ得ないところでした。


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of the Day of Snowing (Yusuke Suzumura)


The 5th February, 2024 was the day of snowing in Tokyo. On this occasion, I express my miscellaneous impressions of snowing.

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アジアカップ準々決勝での日本対イラン戦について思ういくつかのこと

去る2月3日(土)、カタールのアルラヤンでサッカーのAFCアジアカップの準々決勝が行われ、日本はイランに1対2で敗れました。


最新のFIFAランキングで17位の日本と21位のイランが対戦した今回の試合は、アジアサッカー連盟(AFC)における二強の顔合わせでした。


前半に守田英正選手が先制点を挙げたものの後半はイランが同点に追いつき、最後はペナルティーキックにより逆転したことは、今大会の実質的な「頂上決戦」にふさわしい、見応えのある試合となりました。


もちろん、伊東純也選手の離脱は他の選手たちに少なからぬ動揺を与えたであろうものの、それ以上にイランの猛攻という表現がふさわしい攻撃が日本の勝利に対する執念を上回ったと言えるでしょう。


「アジア1位」であり、大会史上最多となる4度の優勝を達成している日本にとって、AFCアジアカップの優勝は当然目指すべきものと思われるかもしれません。


しかし、今回の試合は、3回という日本に次ぐ2番目の優勝回数を記録しているイランの底力を改めて示します。


それとともに、予選をも視野に入れれば、AFCに加盟する各国・地域の実力の向上をも伝えます。


その意味で、日本が準々決勝で敗退したことは残念ではあるものの、今後の試合への興味が衰えることはありませんし、どの国が今大会の栄冠を手にするのか、一層注目されるところです。


<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Result of Japan in the AFC Asia Cup 2024? (Yusuke Suzumura)


Japan was defeated by Iran at the occasion of the match for the AFC Asia Cup 2024 held on 3rd February 2024 and Japanese players lost the opportunity to enter the semi-final. On this occasion, we examine the meaning of the result of the match.

 

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NHK交響楽団第2003回定期公演

去る1月24日(水)、25日(木)にサントリーホールにおいてNHK交響楽団の第2003回定期公演が行われ、2月3日(土)にNHK FMで第1日目の実況録音が放送されました。


今回は、前半にモーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲、後半にベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』が演奏されました。ヴァイオリン独奏は郷古廉、ヴィオラ独奏は村上淳一郎、指揮はトゥガン・ソヒエフでした。


普段はオーケストラの中音域を担い、その音が演奏会場に力強く響く機会の少ないヴィオラながら、弦楽器の源流として占める位置が重要であることは論を俟ちません。


その様なヴィオラに焦点を当て、豊かな魅力を伝えるがモーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲です。


明快な構成と簡潔な旋律を村上のヴィオラが素直に表現する様子は、終始控え目な郷古のヴァイオリンを得て、微笑みを絶やさない演奏を生み出しました。


伴奏の管弦楽も独奏者をよく追いかけており、十分に練り上げられた仕上がりとなっていました。


また、後半のベートーヴェンは冒頭の2つの音に演奏者の集中力の高さがよく示されていました。


そこに、近年の主流となっているベートーヴェンによる速度の指示を尊重しようとする立場によるソヒエフが演奏者を牽引することで、躍動感と軽快さがより強調される内容となりました。


特に第3楽章でのホルンの三重奏の印象が残る中で始まった第4楽章の疾走感の強さは今回さの演奏の特徴をよく表現しており、「英雄」という愛称が長らく持っていた大言壮語的な表情を和らげるために力を発揮しました。


今回は、作品のあるがままの姿に迫ろうとするソヒエフの姿勢がモーツァルトとベートーヴェンを通して過不足なく聞き手に伝えられた、充実した公演になったと言えるでしょう。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2003rd Subscription Concert (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra held the 2003rd Subscription Concert at the Suntory Hall on 24th and 25th January 2024 and the first day was broadcast via NHK FM on 3rd February 2024. In this time, they performed Mozart's Duo for Violin and Viola and Beethoven's 3rd Symphony. Solo violin was Sunao Goko and solo viola was Junichiro Murakami. Conductor was Tugan Sokhiev.

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『クラシックの迷宮』の妙味を堪能できた「山田太一追悼特集」

本日NHK FMで放送された『クラシックの迷宮』では、2023年11月29日に逝去した脚本家の山田太一さんを追悼する特集が組まれました。

 

ゲーム音楽やアニメ音楽から古楽まで様々な作品を取り上げ、「クラシック音楽」の奥行きと幅、そして可能性の広がりを絶えず追及するのが『クラシックの迷宮』です。


しかし、山田太一さんは脚本家ではあっても作曲家でも歌手でも演奏者でもありません。そのような山田太一さんを追悼することは、いかにして可能になるでしょうか。


司会の片山杜秀先生は「音楽番組を名乗っておりますので」と前置きしつつ、山田太一さんが師事した木下恵介に注目し、木下が弟で作曲家の木下忠司とともに作り上げた映画やテレビドラマを手がかりに、山田さんと音楽の関係を検討しました。


新たに作られた音楽を用いることがある一方で、既存の曲を活用することが珍しくなかった木下恵介の手法を「主題歌や主題歌に準じる歌が先にあり、その歌が十分に流れ、観客や視聴者がある感情に到達するよう、歌のテンポや長さに合わせて映画を撮る」と規定する片山先生は、木下にあこがれて最初は映画監督を目指し、その後木下がテレビ界に進出するのに伴って脚本家として活動するようになった山田太一さんの作品作りの中に、師の影響を認めます。


そして、日本の社会を大げさな設定や展開ではなく、身近な話題や情景を通して描き出し、小さな話に大きな主題をかぶせる木下の手法を摂取した山田太一さんが、音楽によって物語の世界を規定しながら様々な作品を描き上げた過程を丹念に辿ります。


その結果、『男たちの旅路』『藍より青く』『それぞれの秋』『獅子の時代』といったテレビ史に残る傑作や名作が並べられる中で浮かび上がるのは、成熟した登場人物の完成された話ではなく、未成熟な人物たちの、もがき、苦しみ、それでいながら何かを目指すひたむきさであり、未成熟さの持つ危うさと可能性に山田太一さんが大きく期待してた姿です。


番組の冒頭でジャニス・イアンの"Will You Dance?"を紹介し、「洋楽ファンにはおなじみのジャニス・イアンの名曲でございますが、今日はその特集ではございませんで」と『岸辺のアルバム』に繋げ、山田太一さんを縦糸として各時代の音楽を振り返るという試みは、まさに片山杜秀先生ならではのものであり、このような試みに、「クラシック音楽」の可能性を追求し続ける『クラシックの迷宮』の妙味が詰まっていると言えるでしょう。


<Executive Summary>
The Essence of "Labyrinth of Classical Music" Is Demonstrated with the Feature Programme of Taichi Yamada (Yusuke Suzumura)


A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcast via NHK FM featured Taichi Yamada on the occasion of his death on 3rd February 2024. It might be a meaningful opportunity for us to understand a possibility of "classical music" throgh this pioneering challenge.

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武藤敏郎さんの「私の履歴書」が描き出した東京五輪の「問題の構造」

2024年1月期の日本経済の連載「私の履歴書」を担当したのは元財務次官の武藤敏郎さんでした。


「自分に向いていないようなら弁護士に転身する」と大蔵省に入り、接待汚職事件や2001年の省庁再編による金融と財政の分離による大蔵省の解体と財務省の誕生といった時代の転換点に当事者の一人として関わりつつ、財務次官として官界での栄達を極めた前半生と、「将来の日銀総裁」と目されながら衆参両院で多数党が異なる「ねじれ国会」のために野党民主党の反対によって国会の同意が得られないなど、不遇をかこつことになる退官後の歩みは、当時の国会内外の状況を色濃く反映したものであり、興味深い内容でした。


特に民主党との間柄の悪さについては、日銀副総裁であった武藤氏の総裁就任に強硬に抵抗した仙谷由人氏が、国会同意人事の秘訣の数か月後に金融に関する法律的な問題をテーマにプロジェクトを設けるにあたり協力を要請した際、武藤氏が「丁重にお断りした。」という一文からもよく分かります。


ただ、こうした武藤氏の歩みは官界出身者の「私の履歴書」では定型的な「政治と官僚との関係」の事例の一つであり、必ずしも真新しいものではありません。


むしろ、東京オリンピック大会組織委員会事務総長に就任してからの足跡を振り返る内容に、当事者ならではの独自の視点を見出すことができます。


すなわち、2020年2月からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴って東京オリンピック・パラリンピックを延期するか否かが問題となった際、2年間の延期を提案した大会組織委員会の森喜朗会長に対して1年間の延期での対応を主張したのが安倍晋三首相自身であったことや、「コロナ禍」による1年間の延期が保険事故と認められ、500億円の保険金を受け取ったことなどは、東京オリンピックを巡るある種の秘話と言える、重要な話題です。


一方、国際オリンピック委員会(IOC)の前では組織委がいかに無力であるかは2019年にマラソンの会場を東京から札幌に変更する案をIOCが主導し、組織委が全く介入できなかったという趣旨の記述が示す通りです。


さらに、森喜朗氏による女性を蔑視する発言が社会問題化し、2021年2月に組織委会長の辞任と橋本聖子国務相の就任に発展した点については、森氏のそれまでの功績が大きかったために意外な結末に至ったという旨を指摘しています。


これは、新国立競技場の建設を巡るザハ・ハディト氏の設計案の問題や大会エンブレムの模倣疑惑などについて思いがけない出来事であったという立場をとっていることに通じる、武藤氏の一連の出来事に対する態度が当事者としての切迫感に乏しい、どちらかと言えば拱手傍観するかのような様子を示しています。


こうした武藤氏のあり方は、実際に大会の運営に携わるのは一人ひとりの職員であり、様々な業務を大所高所から指導することはあっても一つひとつの事項には関わらないという名誉職としての事務総長の役割りに由来します。


それとともに、官界での生活が長く、退官後も官僚機構と関係の深い機関に所属していたため、武藤氏が政界の動向には敏感でも社会のあり方には十分な興味や関心を抱いていないであろうことを推察させるものです。


同様の事情は人々の側にも当てはまるのであり、首相在任中は有権者からの評価の低かった森氏が会長を務め、政官界では著名な武藤氏であっても日本に住む人々の大多数にとっては無名の、あるいは縁遠い存在であった人物が組織委員会の事務総長となったところに、東京五輪に関する問題が起きた際に人々からの支持を得ることが難しい状況を作ったと言えるでしょう。


その様な意味において、武藤敏郎氏による今回の「私の履歴書」は、東京五輪が内包していた「問題の構造」を明瞭に描き出すものだったのです。


<Executive Summary>
Toshiro Muto and Half of His Life Seen from My Résumé (Yusuke Suzumura)

Professor Toshiro Muto, a former Vice-Minister of Finance, wrote My Résumé on the Nihon Keizai Shimbun from 1st to 31st January 2024.

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単行本化が期待される辻原登さんの小説『陥穽 陸奥宗光の青春』

昨日、日本経済新聞朝刊の連載小説である辻原登さんの『陥穽 陸奥宗光の青春』が完結しました。


明治時代を代表する外交家として条約改正問題や日清戦争時の三国干渉問題に対応した陸奥宗光の少年時代から青年期に至る時期を中心的に取り上げ、その豊かな才能を坂本龍馬や桂小五郎ら幕末維新期の俊英たちに愛されつつ、その傲岸不遜さゆえに多くの敵を作り、維新後も政府転覆を企てて投獄されるなど、変転極まりない様子を描き出すのが本作です。


特に歴史上の人物としての陸奥の行動に終始付きまとった自己中心的でありながらどことなく卑屈さを感じさせる雰囲気を、父である伊達宗弘が紀州藩の政争に巻き込まれて没落した幼少期の体験に求め、絶えず高みを目指しつつも俗事にどこまでもかかわるという人間的な陸奥のあり様を立体的に作り上げるのが本作の魅力の一つとなっています。


さらに、陸奥の才気煥発ぶりを示す逸話として群を抜く記憶力の良さを挙げたり、鼻持ちならない人柄の一端を示す事例として坂本龍馬の寵愛ぶりを隠さない様子を紹介するのも、類書をはるかにしのぐ迫力を持つものです。


それとともに、明治政府転覆計画の失敗のために投獄されている場面から筆を起こし、物語が幼少期の話に戻ってからも、絶えず獄中での生活の様子と少年期や青年期の逸話へと反復する様子は、作品にある種の暗い翳をもたらします。


そこにあるのは、坂本龍馬の様に維新回天の直前に落命したり、伊藤博文の様に幾多の困難を乗り越えて元勲として新政府の中枢に座るのでもなく、一時は維新の功臣となりながらも政権運営の路線対立から下野を余儀なくされた陸奥の悲運であり、蹉跌でもあります。


こうした起伏に富んだ構成と陸奥自身の魅力に富んだ生涯を史伝風に書き著すことで、本作は透徹した視点から陸奥宗光の生涯を通覧し、それによって陸奥と同じように鬱勃とした志を持ちつつ宿願を果たせなかった多くの若者たちの姿をも析出しています。


その意味で、本作はつかの間の成功とそのあとに襲い来る失敗を繰り返した陸奥宗光の青春時代を通して、幕末維新期の人々のあり様を活写しているのです。


326回という連載回数は短いものの、与えられた回数の中で陸奥の多様な姿を浮き彫りにした本作の一日も早い単行本化が期待されます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Noboru Tsujihara's "Kansei: Mutsu Munemitsu's Springtime of Life" (Yusuke Suzumura)


A serial novel "Kansei: Mutsu Munemitsu's Springtime of Life" for the Nihon Keizai Shimbun written by Mr. Noboru Tsujihara concludes on 31st January 2024. It is remarkable novel which describes active figures of Mutsu Munemitsu, who was once a champion of the Meiji Restoration and later was a prisoner.

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岸田文雄首相の第213回国会における施政方針演説はどのように評価できるか

昨日、岸田文雄首相が衆参両院の本会議において施政方針演説を行いました[1]。


現在の日本社会において喫緊の課題である令和6年能登半島地震を最初に取り上げ、被災地の復興だけでなく現地を訪問した際の所感を明記したことは、非常災害対策本部長でもある岸田首相として当然の対応です。


また、2022年2月以来進む物価上昇について、賃上げと減税とを主な対策として挙げたことは、実現可能か否かは別として、日本に住む人々が日々実感する重要な問題に対する一つの解法を示したという意味で評価に値します。


一方、昨年来問題となっている自民党の政治資金問題については、岸田首相が自ら先頭に立って派閥を「お金」と「人事」から完全に決別した政策集団とし、政治改革を継続する旨を表明したものの、自民党内の問題を国政政党一般に敷衍するかのような態度は、問題の所在をあいまいにするだけでなく、どこまで自民党の廓清に真摯に取り組むか、その意欲を疑わせるものです。


それでも、安全保障問題において防衛力の強化を強調し、皇位の安定的継承の問題に取り組む意欲を示し、大阪・関西万博の主要な費用について外部の専門家の知見も活用し、適正性の確保を訴えるなど、政権として種々の課題に本格的に取り組む意思を示したことは見逃せません。


何より、「新しい資本主義」という岸田首相にとっては重要ながら内容の判然としない用語の利用が1回のみに留まるとともに、過去10年間の施政方針演説で散見された古典や故事からの恣意的な引用を行わず、2016年の熊本地震を参照して能登半島地震からの復興への決意を示したことは、岸田首相が長期政権への意欲を十分に持っていることを推察させるものです。


その意味で、今回の施政方針演説はいくつかの容易に目につく問題点を抱えつつも、おおむね妥当な内容になったと言えるでしょう。


[1]第二百十三回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説. 首相官邸, 2024年1月30日, https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2024/0130shiseihoshin.html (2024年1月31日閲覧).


<Executive Summary>
Prime Minister Fumio Kishida's Policy Speech Became the Moderate (Yusuke Suzumura)


On 30th January 2024, Prime Minister Fumio Kishida made his Policy Speech at the both Diets. On this occasion, we examine a meaning of the speech.

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衝撃的な出来事を適切に理解するために求められるのはいかなる態度か--芦原妃名子さんの訃報を受けて

昨日、漫画家の芦原妃名子さんが栃木県内で死亡しているのが見つかり、周囲の状況から自ら命を絶ったとみられます[1]。


芦原さんは2023年10月から12月に日本テレビでドラマ化された漫画『セクシー田中さん』の原作者で、脚本や登場人物の設定を巡り日本テレビ局側と見解の相違があったとされます[1]。


今回の出来事と番組の内容に関する問題が直接関係するか否かは、今後警察当局の捜査などで明らかになることでしょう。それだけに、われわれには、予断を排して事態の推移を注視することが不可欠です。


それとともに、今後この出来事を考える上で、われわれは以下の3つの点に注意する必要があります。


すなわち、第一は、人は「暇だから」「面白そうだから」といった理由から自ら命を絶つことはなく、その背後にそうするよりほかに選択肢がないという事情が存するという点です。


もちろん、そのような事情が他の人からすれば些細な出来事かも知れないものの、当人にとって抜き差しならぬ問題であるという点は見逃せません。


第二の点は、衝撃的な出来事に接すると人は表面的な事柄に注意を惹きつけられるものの、人目を引く要素のみを見つめることは問題の解決には繋がらないということです。


あらゆる事柄には表面に現れる部分の背後に、目立たないながらも事柄の核心を形成する要素があるのであり、そうした部分に視線を向けなければ、問題の全容を適切に理解することは難しくなります。


また、第三の視点として、何事であれ何かを、あるいは誰かを責め立てれば問題が解決するというものではないことにも、あらためて注意を払いたいものです。


何故なら、そうした態度は新たな悲劇をもたらすことはあっても、状況をよりよい方向に転換させることはまれだからです。


われわれがある話題に対して注意と関心を持続させることは決して容易ではなく、どれほど大いに注目される事項であってもいずれは記憶の中に沈潜することは珍しくないものです。


それだけに、一時の喧騒の背後にいかなる問題があるのかを見極めるという態度がより重要となります。


そして、そのようなあり方が、自ら最も重たい選択を行った芦原妃名子さんへの実のある追悼となるのです。


[1]芦原妃名子さん栃木県内で死亡. 日本経済新聞, 2024年1月30日夕刊11面.


<Executive Summary>
What Are Important Attitudes for Us to Understand the Meaning of a Devastating Event? (Yusuke Suzumura)


Ms Hinako Ashihara, a manga author, had passed away at the age of 50 on 29th January 2024. On this occasion, we examine important attitude for us to understand a devastating event like the death of Ms Ashihara, who ended her life.

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オフシーズンも危険と隣り合わせの大リーガー

2023年11月28日(火)、日刊ゲンダイの2023年11月29日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第151回「オフシーズンも危険と隣り合わせの大リーガー」が掲載されました[1]。


今回は、大リーグにおけるフリーエージェント市場を中心とする年俸の高騰の背景を、球団の経営環境のあり方から分析しています。


本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


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オフシーズンも危険と隣り合わせの大リーグ選手
鈴村裕輔


間もなく2月となり、大リーグもオフシーズンが終わりスプリング・トレーニングの季節を迎える。


大リーグの選手にとっては、オフシーズンもなすべきことは多い。


家族や友人たちと感謝祭を過ごし、クリスマスを迎えるのは当然としても、日々の過ごし方はシーズン中以上に気を遣うのである。


それは、体調の維持や健康管理だけに限らない。いかにして事故を起こさず、また事故に巻き込まれないかが重要になる。


オフシーズンに事故に巻き込まれた大リーグ選手として現在まで語り継がれるのは、1972年12月31日のロベルト・クレメンテの一件だ。


ニカラグア地震の発生を受けて救援物資を運ぶ途中、航空機の故障を原因とする飛行機事故により落命したのがクレメンテだった。


そして、通算3000本安打でシーズンを終え、どこまで記録を伸ばせるか注目を集めた中での遭難だっただけに、大リーグ機構は慈善活動や社会活動を行う選手に送っていたコミッショナー賞の名称をロベルト・クレメンテ賞に改めたし、全米野球記者協会は特例としてクレメンテをただちに野球殿堂入り選手に選出するなど、生前の功績を讃えた。


だが、クレメンテの場合は例外で、その他の選手の場合は自らが引き起こした事故によって大きな代償を払っている。


2018年以来ヤンキースの監督を務め、6年間で5回ポストシーズンに進出しているアーロン・ブーンは、選手時代の2004年1月にバスケットボールを行った際に左膝の靭帯を断裂している。


ブーンはヤンキースと交わした契約の中でバスケットボールをすることが禁じられていた。それにもかからずバスケットボールを行って怪我をしたため、ブーンはただちに解雇されている。


また、最近でもオフシーズン中にオートバイを運転し、左手首を骨折する事故にあったフェルナンド・タティス・ジュニア(パドレス)は、2022年3月に手術を受けることとなった。


この年は術後の回復を待つためにマイナーリーグでの調整を行っていたものの、この間に禁止薬物の使用が確認されたため、大リーグの公式戦80試合の出場停止が課されている。


このように、試合中は一瞬の不注意が大きな事故に繋がる選手たちは、オフシーズンも様々な危険と隣り合わせなのである。
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[1]鈴村裕輔, オフシーズンも危険と隣り合わせの大リーガー. 日刊ゲンダイ, 2023年11月29日号27面.


<Executive Summary>
An Off-Season Is not for the Days of Rest for the MLB Players (Yusuke Suzumura)


My article titled "An Off-Season Is not for the Days of Rest for the MLB Players" was run at The Nikkan Gendai on 29th November 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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【開催報告】野球文化學會第7回研究大会

本日、野球文化學會第7回研究大会が開催されました。会場は法政大学市ヶ谷キャンパス大内山校舎Y803教室でした。


今回も例年通り2部構成で行われ、第1部の研究発表では7名の会員の報告がありました。また、第2部のシンポジウムは「甲子園100年と高校野球」と題し、基調講演1件と一般報告3件が行われました。


研究発表の報告者と論題並びに外報は以下の通りでした(座長:中村哲也理事[高知大学])。


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(1)伊藤正浩(野球地域史研究会・近代仙台研究会)/「試合前挨拶発祥の地記念碑」が建つまで-野球地域 史振興への活動事例報告-
仙台を発祥とする野球の「試合前挨拶」が「公認野球史」となり、さらに記念碑が設置されるまでの過程を自身の体験に基づいて検討した。


(2)高井正秀(野球文化學會)/1934年日米野球の草薙球場は眩しかったか
1934年11月20日の日米野球第10戦(草薙球場)での沢村栄治の快投について、「日光に直面したから打ち悩んだ」というベーブ・ルースの談話の妥当性を当時の気象条件などから検討した。


(3)鷲崎俊太郎(九州大学)/なぜ西鉄は球団の愛称にライオンズを選んだのか? -西鉄初代社長・村上巧児の経営方針からの分析-
「球団の愛称名は球団のメッセージが込められたもの」という考えに基づき、西鉄球団の愛称が「ライオンズ」となった経緯を、西鉄の初代社長である村上巧児の経営方針から分析した。


(4)松原弘明(電気通信大学)/プロ野球球団の〈市民球団化〉に対する内容分析:1980年代後半から2003年までの新聞3紙の報道を対象として
日本の新聞報道においてプロ野球団に対して〈市民球団〉という表現が用いられた頻度と記事の内容を1984年から2003年までの読売、朝日、毎日の3氏を対象に検討し、時代ごとの〈市民球団〉の含意の特徴を検討した。


(5)トレバー・レイチュラ(京都外国語大学)/日米プロ野球の通訳者
来日する外国人選手や渡米する日本人選手において過去の実績と実際の活躍とが関係しない点に着目し、通訳者が選手の成功にどのように寄与するかを聞き取り調査の結果に基づいて検討した。


(6)中間茂治(大阪府公立小学校)/中学野球から見た部活動地域移行がもたらす問題性~今後の中学校野球部の在り方について
2023年度から始まった中学校の運動部活動の地域移行について、弊害が強調される学校部活動のあり方を再検討することで、クラブチームの持つ問題点を明らかにするとともに、両者が選択肢として併存することが望ましいことを。


(7)石村広明(東京都立産業技術高等専門学校)/投球データを用いた高専男子学生の投能力解析の評価の試み
東京都立産業技術高等専門学校の1-4年生30名を対象に、遠投を回転数などの投球データから評価した結果、オーバーヘッドポジションでの運動経験の有無が投球動作における腕の振りの強さや巧緻性に影響を与えている可能性が推察された。
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また、第2部のシンポジウムの登壇者と論題並びに概要は以下の通りでした(座長:鈴村裕輔会長[名城大学])


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(1)基調講演
田名部和裕(公益財団法人日本高等学校野球連盟顧問)/高校野球:改革の契機
1968年の第50回全国高等野球選手権大会以降50年間の高校野球の「改革の契機」を検討し、高校球界にとって大きな改革の契機となったのが1995年の阪神・淡路大震災であり、その知見が現在にまで生きていること、「高野連は頭が固い」と思われがちなものの、実際には柔軟に改革を行っていることが紹介された。


(2)一般講演(1)
中村順司(元PL学園高等学校野球部監督)/甲子園と私
1976年にコーチとして母校PL学園高等学校野球部に復帰し、1980年8月に監督に就任して以降の甲子園での戦績と各時代の取り組みを概観するとともに、PL学園時代に指導をした生徒が現在のプロ野球界で中心的な指導者となっていることから、今後もその活躍を外から眺めてゆきたいという考えが示された。


(3)一般講演(2)
向井格郎(阪神甲子園球場長)/開場100周年を迎える阪神甲子園球場~100年の歴史と記念事業~
関西のみならず日本全国から広く支持される存在である「甲子園」の歴史と2022年8月から始めた100周年記念事業"KOSHEN CLASSIC"の概要が説明され、日本のスポーツ文化に留まらない価値と魅力を備え、フェンウェイパーク、リグレーフィールドに次いで世界で3番目に古い、現存する球場として次の100年に向けて歩み出す決意が示された。


(4)一般講演(3)
安藤嘉浩(元朝日新聞編集委員)/阪神甲子園球場生誕100周年に寄せて
朝日新聞に掲載された甲子園の特集記事「あの夏」や「甲子園の魔物をたどって」に基づき、甲子園とい場の持つ独特の雰囲気の実際の姿が検討されるとともに、阪神甲子園球場が枝川と申川を廃川にした後の三角州に建てられたという地理的特徴の意味が検討された。
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「甲子園100年」という節目の年に、日本のスポーツ文化を考える際に欠かせない「甲子園」の価値を多角的に検討した今回の研究大会は、野球の奥行きの深さと広がりを示すとともに、野球文化学の発展に寄与するものでした。


また、会場には会の内外から50名を超える方が来場し、学会の活動への関心の高さが窺われました。


なお、今回の研究大会の概要については学会誌『ベースボーロジー』第18号に掲載される予定です。


<Executive Summary>
The Forum for Researchers of Baseball Culture the 7th Research Conference (Yusuke Suzumura)


The Forum for Researchers of Baseball Culture held the 7th Research Conference at Hosei University on 28th January 2024.

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『クラシックの迷宮』が思いこさせるルイジ・ノーノの音楽界への偉大な貢献

今日のNHK FMの番組『クラシックの迷宮』は、今年1月29日に生誕100年を迎えるイタリアの作曲家ルイジ・ノーノを特集しました。


第二次世界大戦後の前衛音楽の分野でピエール・ブーレーズ、カールハインツ・シュトックハウゼンと並ぶ中心的な存在であったものの、66歳の若さで亡くなったことと政治的な主張の強い作風であったことから実際の演奏はもとより放送でも耳にする機会が少ないのがノーノです。


そのような中で、ノーノの初期の作品から晩年に至るまでの作品や、ノーノの代表的な作曲技法であるテープ音楽や佳曲だけでなく、管弦楽作品や歌劇を取り上げ、さらにクラウス・ビュルガーのテューバによる『ドナウのためのポスト・プレ・リュード』を紹介するなど、その音楽の展開の過程だけでなく、作風の多様さや多層性が強調されたのが、今回の特集の勘所でした。


こうした特徴に加え、司会の片山杜秀先生の解説は、時にイタリアの政治風土に触れ、時にヨーロッパの楽壇の傾向に言及することで、ノーノが単に戦後の前衛音楽を牽引しただけでなく、当時の社会的、文化的な雰囲気を濃厚に身にまといつつ作曲活動を行ったことが示されました。


今年はブルックナーが生誕200年を迎えるなど、より知名度の高い作曲家への注目が集まる中で、いわば歴史の中に埋もれかけつつあるノーノを取り上げ、その音楽を概観することは『クラシックの迷宮』ならではの試みであり、それだけ意義深い特集になったと言えるでしょう。


<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Make Us Remember Efforts and Achivements of Luigi Nono (Yusuke Suzumura)


A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcast via NHK FM featured Kuigi Nono to celebrate his 100th Annibersary on 27th January 2024. It might be a meaningful opportunity for us to understand an importance of Nono's efforts and achievements.

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【掲載案内】HIJAS公開研究会「石橋湛山とトランスナショナリズム」開催報告

本日、法政大学国際日本学研究所(HIJAS)の公式ウェブサイトに、私が2023年12月15日(金)に開催されたHIJASの公開研究会「トランスナショナルな日本」の第3回「石橋湛山とトランスナショナリズム」の開催報告が公開されました。


詳細は、以下のHIJASの公式ウェブサイトをご覧ください。


*法政大学国際日本学研究所公式ウェブサイト
https://hijas.hosei.ac.jp/news/20231215report.html


なお、当日の配布資料についてはresearchmapの「資料公開」欄で紹介しておりますので、あわせてご覧ください。


*【発表用資料】石橋湛山とトランスナショナリズム
https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/229033/da1a6d269ad90d38b592cfcb45a1ed2b?frame_id=714653


<Executive Summary>
Release of the Official Report for the HIJAS' Public Research Meeting "Ishibashi Tanzan and Transnationalism" (Yusuke Suzumura)


The Official Report for the Hosei University Research Center for International Japanese Studies' Public Research Meeting "Ishibashi Tanzan and Transnationalism" held on 15th December 2023 is released today. You can check it on the Official Website of the HIJAS (https://hijas.hosei.ac.jp/news/20231215report.html).

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「味を占める」ということ

「昔はああだったのに、今はこうなって」というとき、「こうなって」には肯定的な評価が入る場合と否定的な意見が当てはまる場合とがあります。


前者の場合は、例えば以前は傍若無人であった人が、今では良識と分別のある姿へと変貌した際に用いられます。


また、後者の事例はその反対で、かつては人格者と思われていた人が今では周囲の顰蹙を買う言動ばかりするといった場合が該当します。


いずれの事例も、その人が備えていた性質が月日の経過によって顕わになったのか、あるいは何らかの事情によって以前の姿と変わることになったことが推察されます。


そして、後者の場合、ある日突然変化が生じるというわけではなく、最初は「こうしたらどうだろうか」と今までの自分とは異なることを恐る恐る行い、もし大きな反発があれば元の姿に戻るものの、反響が少なければ徐々に周囲の顰蹙する言動の程度が増してゆくことになります。


このような過程は「味を占める」ということに他ならず、結果としてより刺激の強い味を求めて大胆な行動をとるようになるのです。


ここで重要なのは最初は恐る恐る行っているという点で、この時点ではまだ「味を占める」前であるため、行きつつある道を引き返すことも不可能ではありません。


しかし、実際に今の場所に踏みとどまることは難しく、しばしば周囲の期待や評価を裏切る事態へと至るのです。


このように考えるなら、「味を占める」という現象は、実に恐るべき力を持っていると言えるでしょう。


以前と全く違う、悪い方向へと変貌した人を見る際には、ぜひとも思い出したい機序です。


<Executive Summary>
Why Did They Get a Taste for the Evil? (Yusuke Suzumura)


In some cases, there are individuals whose attitude changed fundamentally in a bad direction. On this occasion, we examine a mechanism of such change with an activity to get a taste for the evil.

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noteのアカウント開設からを4年を迎えて

去る1月22日(月)、2020年1月22日(水)にnoteのアカウント(https://note.com/yusuke_suzumura)を開設し、投稿を開始してから満4年が経ちました。


開設以来1462日間で13万8千件を超える閲覧があったことは、大変ありがたいことです。


今後も、研究・教育活動から各種の評論、日々の活動まで大小さまざまな事柄を取り上げてゆきたいと思います。


ぜひとも、引き続きご覧ください。


<Executive Summary>
The 4th Anniversary of Creating an Account on note (Yusuke Suzumura)


The 22nd January, 2024 was the 4th anniversary of creating an account on note on 22nd January 2020.

 

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【開催報告】名城大学ウィンタープログラム2024

本日、1月5日(金)に始まった、名城大学国際化推進センターが主催するウィンタープログラム2024の全日程が終了しました。


今回は5か国・地域の6大学から19人の皆さんが参加され、3週間にわたり名古屋市を拠点として日本の文物を学習・体験されました。


私も、座学である"Invitation to International Japanese Studies"と3回のフィールドワークを担当しました。


3週間という限られた期間ではあったものの、参加された皆さんが日本に関する話題について新しい知見を得られたなら、喜ばしい限りです。


それとともに、万端の手配を整えられた事務局の皆さんと参加者の皆さんのフィールドワークや日々の活動を支援したステューデント・アシスタントの皆さんの支援に感謝する次第です。


<Executive Summary>
Ending of the Meijo University Winter Program 2024 (Yusuke Suzumura)


The Meijo University Winter Program 2024 was held from 5th to 23rd January 2024. On this occasion, I held a course named "Invitation to Japanese Studies" for 19 students from 5 countries.

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「三派閥の解消」は自民党の派閥問題を解決するか

昨年表面化した自民党の派閥の政治資金問題は、岸田派、安倍派、二階派が解散を表明するという事態に発展しています。


自民党の党内政治の基礎単位であり、政権運営にとっても重要な役割を果たしている派閥が相次いで解散を表明するのは異例です。


もちろん、岸田文雄首相が岸田派の解散を表明した背景に、派閥の政治資金問題で他派の機先を制し、有利な状況で党内世論をまとめ上げようとする思惑があることは想像に難くありません。


また、今年9月に予定されている自民党総裁選では、現行の制度に変更がなければ20人の推薦人が必要であり、「派閥」という名称と組織がなくなったとしても、これまで派閥が担ってきた総裁選の基礎単位という役割そのものが雲散霧消するわけではありません。


むしろ、来る総裁選を経て解散した派閥が終結するということは容易に予想されますし、名前と形を変えて「派閥」に類する組織が新たに誕生するとしても不思議ではありません。


実際、政治資金問題が発覚していない茂木派や麻生派は派閥を存続させる意向であり[1]、党内でも派閥そのものの解消に消極的、もしくは否定的な意見が根強いことが分かります。


特に麻生派については、岸田首相が率いてきた宏池会から分派したという背景があり、両派の合流による「大宏池会」の構想は自民党の派閥問題を考える際の重要な問題点の一つでした。


従って、今後実際に岸田派が解散したとして、総裁選後ないし適切な時期に岸田派に所属していた議員が再び集まるとき、その母体となるのが麻生派であり、「大宏池会」が実現する可能性は皆無ではないと言えるでしょう。


もしそうなれば、派閥の解散を宣言することで党内の議論を先導するとともに派閥問題に意欲的である姿勢を示し、さらに宏池会関係者にとって様々な問題を含みつつも念願であった「大宏池会」を実現するという意味で、岸田首相は自民党の歴史に残る手腕を持った政治家ということになります。


それだけに、派閥問題を巡る今後の動向がどのようなものになるか注視されます。


[1]麻生氏、派閥存続の意向. 日本経済新聞, 2023年1月21日朝刊5面.


<Executive Summary>
Are Dissolutions of Three Factions of the LDP's a Solution of the Faction Problems? (Yusuke Suzumura)


Prime Minister Fumio Kishida declares the dissolution of the Kishida Faction and other two factions, the Abe Faction and the Nikai Faction, say the same plan. It seems an important turning point for the Liberal Democrati Party's intnar-party politics. At the same time, however, it is a kind of fake attitude to avoid public blame. In this meaning we have to pay our attention carefuly to examine the changes of the problem.

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【開催1週間前】野球文化學會第7回研究大会

12月3日(日)、12月27日(水)、1月16日(火)の本欄でもご案内した通り、来年1月28日(日)、私が会長を拝命している野球文化學會の第7回研究大会が開催されます。会場は法政大学市ヶ谷キャンパス大内山校舎Y803教室です。


今回も、大会は2部構成で、第1部では会員が研究報告を行い、第2部ではシンポジウムが行われます。


第1部では、野球文化学の発展に寄与する最新の研究成果6件が報告されます。


第2部は「甲子園100年と高校野球」で、2024年8月1日に開場から100周年を迎える阪神甲子園球場と、その象徴ともいうべき高校野球の関わりについて検討します。


登壇者は田名部和裕さん(日本高等学校野球連盟顧問、野球文化學會会員)、中村順司さん(PL学園野球部元監督)、向井格郎さん(阪神甲子園球場長)、安藤嘉浩さん(元朝日新聞編集委員)で、田名部さんによる基調講演と中村さん、向井さん、安藤さんが一般講演を行います。


ご興味、ご関心のある方であれば会員ではない皆さんもご参加いただけます。


詳細は野球文化學會の公式ウェブサイトでご案内していますので、ぜひご参加ください。


*野球文化學會公式ウェブサイト
https://baseballogy.jp/


<Executive Summary>
Fourth Announcement: The Forum for Researchers of Baseball Culture the 7th Research Conference (Yusuke Suzumura)


The Forum for Researchers of Baseball Culture will hold the 7th Research Conference at Hosei University on 28th January 2024.

 

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NHK交響楽団第2002回定期公演

昨日、NHKホールにおいてNHK交響楽団の第2002回定期公演が開催され、NHK FMの実況中継で鑑賞しました。


今回は、リャードフの交響詩『キキモラ』とプロコフィエフのバレエ組曲『ロメオとジュリエット』が演奏されました。指揮とプロコフィエフの編曲はトゥガン・ソヒエフでした。

 

録音はともかく実際に演奏される機会に乏しいリャードフの作品の中でも、さらに取り上げられる頻度の少ない『キキモラ』はこの日の公演の聞きどころとなるものでした。


見通しの良い構成の下に巧みに使い分けられた緩急が印象深い作品は、岩山の魔法使いの下でイングリッシュホルンの奏でる猫の子守歌を聞く幼いキキモラの様子を表現するピッコロとオーボエの様子が、冒頭から聞き手の注意を逸らさない仕上がりとなっていました。


2曲目のプロコフィエフは本来の組曲版の配列をソヒエフが並べ直したものです。


プロコフィエフが原曲から再構成した組曲を元に戻す形で「モンタギュー家とキャピュレット家」から始めたところに、ソヒエフの意志の固さがよく表れていました。


また、演奏者にとっては馴染みのある作品だけに、劇的な音楽をより陰翳深く演奏しており、とりわけ低音部の芯の太さは印象深いものでした。


改めてソヒエフの音楽作りの幅の広さと手堅さとが示された公演になったと言えるでしょう。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2002nd Subscription Concert (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra held the 2002nd Subscription Concert at the NHK Hall on 19th and 20th January 2024 and broadcast via NHK FM on 19th January 2024. In this time, they performed Liadov's Kikimora and Prokofiev's ballet suite Romeo and Juliet. Conductor was Tugan Sokhiev.

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NHK交響楽団第2001回定期公演

去る1月13日(土)、14日(日)にNKKホールにおいてNHK交響楽団の第2001回定期公演が行われ、1月18日(木)にNHK FMで第1日目の実況録音が放送されました。


今回は、前半にシチェドリンの編曲によるビゼーのバレエ音楽『カルメン組曲』、後半にラヴェルの組曲『マ・メール・ロワ』とバレエ音楽『ラ・ヴァルス』が演奏されました。指揮はトゥガン・ソヒエフでした。


13曲からなるビゼーは管楽器を用いず、弦楽器と打楽器のみという編成が特徴的で、『カルメン』だけでなく『アルルの女』の「ファランドール」が挿入されるなどシチェドリンの独特の編曲が印象深い作品です。


どちらかといえば『カルメン』の悲劇的な側面に焦点が置かれた構成で、各曲の輪郭が明瞭なだけにややもすれば統一感を失いがちながら、「運命の動機」を効果的に配置することで聞き手に物語の展開を容易に辿らせるとともに劇的な原曲により深い陰影を引き出す表情を与えていました。


演奏そのものは、第1曲目の「導入」での集約力の高さが第2局目の「踊り」でやや緩み、足元のおぼつかなさが眼だったものの、第3曲目の「第1間奏曲」で体勢を立て直してからは作品の起伏を巧みに表現し、弦楽器と打楽器のみという編成が一見すると独特であっても不自然なものではないことを示しました。


特に第7曲目「第2間奏曲」や第11曲目「アダージョ」の細やかな愛情と哀切さを湛えた旋律を控え目に演奏しつつ勘所を押さえたところなどは、ソヒエフの音楽作りの確かさを物語るものでした。


一方、後半のラヴェルは、フランスの作曲家を得意とするソヒエフらしさがひときわよく表れた、伸びやかな演奏となりました。


『マ・メール・ロワ』は第5曲目「妖精の園」の華やかな演奏が5つのおとぎ話を連ねた作品をひときわ鮮やかなものにしましたし、『ラ・ヴァルス』は溢れ出る躍動感が聞き手の注意を引き付けて離しませんでした。


この日は歌劇やバレエ音楽を得意とし、フランスの作曲家の音楽も知悉するソヒエフの持ち味がよく発揮された、後味の良い公演となりました。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2001st Subscription Concert (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra held the 2001st Subscription Concert at the NHK Hall on 13th and 14th January 2024 and broadcasted via NHK FM on 13th January 2024. In this time, they performed Bizet's Carmen Suite edited by Shchedrin, Ravel's Ma mère l'Oye and La valse. Conductor was Tugan Sokhiev.

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東京都立青山高等学校の創立84周年を祝す

本日、東京都立青山高等学校が1940(昭和15)年1月18日に東京府立第十五中学校として設置されてから83年目を迎えました。


進学指導重点校として毎年着実な進学実績をあげるとともに、伝統校として教養教育に力を入れ、部活動や学校行事などの課外活動にも意欲的に取り組むのが、現在の青山高校です。


こうした青山高校が高く評価されているのは、全都から多くの有意な中学生の皆さんが目指す学校となっていることが示す通りです。


それだけに、青山高校にはこれからも都立高校の発展の牽引役の一端を担うことが期待されるとともに、在校生の皆さんが青山高校での生活を経て、それぞれの能力をよりよく陶冶させることが願われます。


<Executive Summary>
On the Occasion of the 84th Anniversary of the Tokyo Metropolitan Aoyama High School (Yusuke Suzumura)


On 18th January 2024, the Tokyo Metropolitan Aoyama High School celebrated its 84th anniversary since the 18th January 1940. Aoyama High School was established as the Tokyo Metropolitan 15th Junior High School in 1940 and still now one of top schools of Tokyo Metropolitan High Schools.

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阪神・淡路大震災の発生から29年目に際して思ういくつかのこと

本日、1995年1月17日に阪神・淡路大震災が起きてから29年が経ちました。


東京都内で感じた「朝早くのちょっとした揺れ」が神戸市や近隣地域に未曾有の被害をもたらしたこと、燃え盛る炎や倒壊した様々な建築物を映し出す現地からの映像、そして大学入試センター試験の2日後に私と同じ受験生の皆さんが被災したことは、今でもありありと思い起こされるものです。


当時は社会党、自民党、新党さきがけの連立政権であり、村山富市首相をはじめ社会党の閣僚は災害対策の経験が十分でなかったこともあって政府の初動体制の遅さが指摘されたものです。


しかし、実際には当時としては戦後最大規模の震災となるなど、どの政党が政権を担当していても困難な局面であったことは疑いえないところです。


むしろ不慣れな災害対策に取り組みつつ、多くのボランティアの皆さんが被災地の支援に向かったことで「ボランティア元年」と呼ばれたことは、日本の防災体制がさらに発展したことも含め、今なおわれわれにとって重要な出来事です。


来年は新たな節目となる30年目を迎えます。


それを前に、改めて阪神・淡路大震災がどのような意味をわれわれ自身にとって、そして日本社会にとって持っていたかに、思いを致したいと考える次第です。


<Executive Summary>
On the Occasion of the 29th Anniversary of the Great Hanshin-Awaji Earthquake (Yusuke Suzumura)


The 17th January, 2024 is the 29th Anniversary of the Great Hanshin-Awaji Earthquake of 1995. Such “Memorial Day” is an essential event for us, since no one could not keep all impressions forever.

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【開催2週間前】野球文化學會第7回研究大会

12月3日(日)、12月27日(水)の本欄でもご案内した通り、来年1月28日(日)、私が会長を拝命している野球文化學會では、第7回研究大会を開催いたします。会場は法政大学市ヶ谷キャンパス大内山校舎Y803教室です。


今回も、大会は会員が研究報告を行う第1部と、シンポジウムを行う第2部の2部構成となっています。


第1部では、野球文化学の発展に寄与する最新の研究成果6件が報告されます。


第2部の主題は「甲子園100年と高校野球」で、2024年8月1日に開場から100周年を迎える阪神甲子園球場と、その象徴ともいうべき高校野球の関わりについて、日本高等学校野球連盟顧問で野球文化學會会員の田名部和裕さんによる基調講演と、中村順司さん(PL学園野球部元監督)、向井格郎さん(阪神甲子園球場長)、安藤嘉浩さん(元朝日新聞編集委員)による一般講演が行われます。


高野連、指導者、開催場所、報道機関という4つの異なる視点から検討される「甲子園100年と高校野球」に、ぜひともご期待ください。


ご興味、ご関心のある方であれば会員ではない皆さんもご参加いただけます。


詳細は野球文化學會の公式ウェブサイトでご案内していますので、ぜひご参加ください。


*野球文化學會公式ウェブサイト
https://baseballogy.jp/


<Executive Summary>
Third Announcement: The Forum for Researchers of Baseball Culture the 7th Research Conference (Yusuke Suzumura)


The Forum for Researchers of Baseball Culture will hold the 7th Research Conference at Hosei University on 28th January 2024.

 

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「1994年の中音」から30年目によせて

本日、1994年1月15日(土)に東京文化会館大ホールにおいて平成5年度東京都高等学校総合文化祭音楽部門中央大会(中音)が開催されてから30年が経ちました。


私は、このとき第2地区による管弦楽として、青山、駒場、新宿、戸山、学芸大学附属の5校の皆さんとともに出場し、チャイコフスキーのスラヴ行進曲を指揮しました。


8月に行われた指揮者と曲目の選考に始まり、顔合わせ、初練習、そして毎回の練習は、それらのいずれもが私にとって有益な体験でした。


特に、青山高校の体育館での練習の際、半面をバレー部の皆さんが使用し、防護ネットを隔ててわれわれ2地区オケが練習をしたのは、1985年に竣工した現在の青山高校の体育館の利用の歴史の中で、唯一の事例となります。


また、学芸大学附属高校の講堂は出演者全員を収容できる広さがあるということで、練習を行う上で重要な施設でした。


しかし、冬季休業中の利用のため暖房設備を使用できず、持参した昼食用のおにぎりが凍り付いたことも、今では愉快な思い出です。


あるいは、駒場高校を利用した際は、校地の広さがひときわ印象的で、体育祭の時には校庭の対角線上に線を引いても「100m」ではなく「100ヤード」となった青山高校との違いに驚いたものでした。


実際の演奏も、回数こそ10回ほどであったものの皆さんの反応の良さもあって毎回限られた時間の中で効果的な練習を行うことが出来ました。


本番は序盤で第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの速度感の違いというそれまでの練習では見られなかった出来事があったものの、当日参加した団体の中で最も人数の多いい2地区オケの名にふさわしい、充実したものになったと感じられました。


この30年間で参加者の規模はさらに増え、取り上げる曲目も多岐にわたります。


それでも、一人ひとりの参加者の真摯さは昔も今も変わらず、2地区オケそのものも中音の象徴的な存在として活躍しています。


今度も、東京都の高等学校における音楽文化の振興のために中音の果たすべき役割は大きく、その一層の発展が願われます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of the Central Convention of Tokyo Metropolitan High School Culture Association, Division of Musical Arts of 1994 (Yusuke Suzumura)


The 15th January, 2024 is the 30th Anniversary of the Central Convention of Tokyo Metropolitan High School Culture Association, Division of Musical Arts of 1994. On this occasion, I remember miscellaneour memories of the convention.

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次男の満1歳の誕生日によせて

本日、私の次男が満1歳の誕生日を迎えました。


2023年1月14日の午前7時42分に3388グラムで誕生した次男も、おかげさまで大病にかかることもなく、今では「ぱぱ」「まま」と口にし、伝い歩きをするなど、健やかな毎日を過ごしています。


それだけに、これまで伸び伸びと育ってきたわが次男がこれからも一層たくましく朗らかに成長できるよう、親としての務めをよりよく果たそうと意を新たにする次第です。


<Executive Summary>
Celebrating Our Second Son's First Birthday (Yusuke Suzumura)


The 14th January, 2024 is our second son's first birthday. On this occasion I swear to do my best as his father.

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チェレプニンの重要性と可能性を教えた『クラシックの迷宮』の特集「アレクサンドル・チェレプニン生誕125年」

今夜のNHK FMの『クラシックの迷宮』はアレクサンドル・チェレプニンが今年1月21日に生誕125周年を迎えるのを記念し、「アレクサンドル・チェレプニン生誕125年」と題して放送されました。


日本の聴衆にとって、チェレプニンは伊福部昭を指導したことでその名をとどめていると言っても過言ではないでしょう。


しかし、ロシア革命の影響で祖国ロシアを離れてグルジア(現在のジョージア)を経由してパリに亡命し、その後は長らくパリを拠点として活動したことでフランス印象主義を受容した作品を作ったり、グルジアで聞いた音楽から抽象的な作品ではなく「ストレートな民族主義」への憧れを抱いたりしたこと、さらに1934年から1937年にかけて日本と中国を訪れ、伊福部や早坂文雄ら新進の作曲家たちを指導したことなど、その活動は多岐にわたります。


また、「アジア的な響き」への憧れや、様々な5音音階を重ねることで9音音階に集約できるとしたことは、後に石桁真礼生らが試みた新たな音階への取り組みの先駆をなすものでもありました。


今回の放送は、そのようなチェレプニンの姿を具体的な作品と司会の片山杜秀先生の解説を通してより立体的に、より奥行きを持って伝えるものとなりました。


番組の冒頭で片山先生が「125周年という区切りは刻みすぎではないかという声もありましょうが、西洋では100はもちろんのこと、ハーフということで50、クォーターの25も大切にされておりまして、75や125というものも重要でございます」と特集の趣旨を説明したことは、企画の正当性だけでなく、依然として多くの聴取者にとってなじみの薄いチェレプニンを取り上げる意義を伝える者であったと言えるでしょう。


それだけに、今日の放送を通してチェレプニンの足跡と作品が体系的に検討されたことは重要で、いつにも増して貴重な回となりました。


<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Demonstrates an Importance of Alexander Tcherepnin (Yusuke Suzumura)


A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcast via NHK FM featured Alexader Tcherepnin to celebrate his 125th Annibersary on 13th January 2024. It might be a meaningful opportunity for us to understand an importance of Tcherepnin as a composer of the 20th century.

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NHK交響楽団の2024/25シーズン定期公演の詳細発表に思ういくつかのこと

本日、NHK交響楽団の2024-25シーズンの定期公演の出演者および曲目が決定しました。


形式面では、最も大きな変化があるのがCプログラムとなります。


新型コロナ感染症の感染拡大を受けて2021-22シーズンから公演時間を60-80分とし、休憩を設けないでいたCプログラムが、従来の「休憩あり、2時間」の形式に復帰します。


また、楽団の欧州楽旅の実施に伴い、2025年4月のCプログラムは実施されません。


これらはいずれも「コロナ禍」が一定の終息を見たことを受け、本来の姿で公演を行えるようになったことを示しており、この間の道のりの長さと、関係者の皆さんの努力のほどに思いが致されます。


演奏の面では、ディマ・スロボデニューク(2024年11月Bプログラム)、アンドレス・オロスコ・エストラーダ(2024年11月Cプログラム)、ペトル・ポペルカ(2025年A、Bプログラム)、ギエドレ・シュレキーテ(2025年5月Cプログラム)、タルモ・ペルトコスキ(2025年Cプログラム)とNHK響と初共演、もしくは定期公演に初登場となる指揮者が5人となることが注目されます。


近年にない顔ぶれとなった理由は、一方でヘルベルト・ブロムシュテットやウラディーミル・フェドセーエフら聞き手にとって馴染み深い大家を招聘し、他方で今後の楽壇を担う指揮者たちとの共演の機会を設けるという、意欲的で楽団の今後を見据えた結果であると言えるでしょう。


もちろん、首席指揮者のファビオ・ルイージや名誉指揮者のパーヴォ・ヤルヴィなど、現在の楽団を牽引する指揮者も揃っています。


2026年の楽団創立100周年に向けた重要な1年となる2024-25シーズンの各公演がどのようなものとなるのか、今から楽しみです。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra's Subscription Concerts of 2024/2025 (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra released detailed information of the Subscription Concerts of 2024/2025 on 12th January 2024.

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バイロイト音楽祭2023

去る2023年12月25日(月)から31日(日)まで、NHK FMで『バイロイト音楽祭2023』が放送されました。


今回の公演で取り上げらた7作品の放送の順番は以下の7作品でした。


2023年12月25日(月)/楽劇『ラインの黄金』
2023年12月26日(火)/楽劇『ワルキューレ』
2023年12月27日(水)/楽劇『ジークフリート』
2023年12月28日(木)/楽劇『神々のたそがれ』
2023年12月29日(金)/歌劇『タンホイザー』
2023年12月30日(土)/歌劇『さまよえるオランダ人』
2023年12月31日(日)/舞台神聖祝典劇『パルシファル』


『ニーベルングの指環』4部作を指揮したのはピエタり・インキネン、『タンホイザー』がナタリー・シュトゥッツマン、『さまよえるオランダ人』がオクサーナ・リーニフ、『パルシファル』がパブロ・エラス=カサドでした。


昨年のバイロイト音楽祭はインキネンの軽快な音楽作りがひときわ印象的でした。


『ラインの黄金』はインキネンの目指した軽やかさの中に劇的な要素を圧縮した音楽作りが演奏者に完全に共有されていたとは言い難く、しばしば指揮者が演奏者を置いてゆくかのような場面も見られました。それでも、第1幕冒頭の音の重ね方に揺るぎない信念を感じさせるものでした。


一方、『ワルキューレ』は、疾走しつつも振り落とされることのない演奏者の姿から、インキネンの音楽作りがよく了解された様子が窺われました。また、ゲオルク・ツェッペンフェルトのフンディングの重量感のある歌唱は大変印象深く、幕が下り始めると間を置かずに拍手と歓声が起きたことも当然という仕上がりでした。


『ジークフリート』は全編を通して濃密な仕上がりとなり、特に第二幕の躍動感溢れる様子が聞き手の注意を惹きつけて離しませんでした。これに加えて、細かな動きが求められる箇所でも速度を緩めることのないインキネンの指揮は、演奏者の水準の高さをよく示したと言えるでしょう。


『神々のたそがれ』は完成度の高い公演で、特に第三幕冒頭のラインの乙女たちによる歌唱は、第二幕の重苦しさからの解放と、その後の劇的な展開を重ね合わせると、ひときわ澄み渡って聞こえました。


続く『タンホイザー』は、クラウス・フロリアン・フォークトのタンホイザーの清々しさとともに、ナタリー・シュトゥッツマンの勘所を押さえた音楽作りも印象深く、劇的な躍動感に満ちた公演となりました。


歌劇『さまよえるオランダ人』は、オランダ人役のミヒャエル・フォレがバイロイト祝祭歌劇場の時間を止めるような素晴らしい歌唱で聞き手の注意を一身に集めた、聞き応えのある公演となりました。また、オクサーナ・リーニフの指揮も序曲の冒頭から抑制された様子の中に芯の熱い音楽を作り上げ、作品の魅力をさらに高めました。


そして、『バイロイト音楽祭2023』の放送の掉尾を飾ったのは『パルシファル』で、グルネマンツを演じたゲオルク・ツェッペンフェルトの安定した歌唱が作品全体をよく引き締めていました。


毎年これを聞くと年末になったことが実感されるバイロイト音楽祭の実況録音の放送は、今回もいずれも聞きごたえのある内容となり、今から12月の放送が待望されるところです。


<Executive Summary>
NHK FM's Programme "The Bayreuth Festival 2023" (Yusuke Suzumura)


The NHK FM broadcast a featured programme "The Bayreuth Festival 2023" on 25th through 31st December 2023. In this time seven works including The Ring of the Nibelung were performed.

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年俸高騰の裏に経営環境の劇的な改善

去る11月14日(火)、日刊ゲンダイの2023年11月15日号23面に連載「メジャーリーグ通信」の第150回「年俸高騰の裏に経営環境の劇的な改善」が掲載されました[1]。


今回は、大リーグにおけるフリーエージェント市場を中心とする年俸の高騰の背景を、球団の経営環境のあり方から分析しています。


本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


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年俸高騰の裏に経営環境の劇的な改善
鈴村裕輔


2023年の大リーグはレンジャースのワールドシリーズ初制覇で幕を下ろした。次に待つ大きな話題はFA選手の移籍交渉である。


今年のFA市場の最大の関心は大谷翔平(エンゼルス)の動向だ。エンゼルス以外にも投打のいずれでも起用する球団があるのか、ある場合にはどのような規模の契約となるのか、さらに投打のいずれかを選ぶことを希望する球団ばかりの場合、エンゼルスに残留するのかなど、関係者の大きな注目を集めている。


ドジャースが10年5億2000万ドルという条件で大谷との契約を目指しているともいわれており、改めて大リーグの契約規模の大きさが示された形だ。


このような高額の契約が取りざたされるのも、大リーグが年俸総額制を採用していないことが一因である。


だが、どれほど獲得したい選手ではあっても、各球団の支払い能力に応じて契約が決まるというあり方が、大リーグの一般的な球団経営である。そのため、経営者たちが高額な契約に耐えうるだけの資金力を備えなければ、たとえ選手側が要求しても満足のゆく回答は得られない。


確かに、大リーグでは、毎年所定の年俸総額を超えると、その超過金額に応じて追加の負担金が課せられる贅沢税の制度がある。


しかし、贅沢税の支払いよりも有力選手の獲得がもたらす経営上の利点の方が大きいと判断されれば、各球団は躊躇なく選手を入団させる。


これに加えて、球場の債務返済分を控除した後の30球団の収入が2022年に過去最高の103億ドルを達成するなど、大リーグを取り巻く経営環境の良好さを見逃すことが出来ない。


コロナ禍を受けた無観客での公式戦の実施(2020年)や観客数の制限(2021年)を考えれば、種々の制約なしに観客を受け入れられた2022年に入場券販売やスイートやクラブシートなどのいわゆるプレミアム座席の売り上げが大幅な伸びを実現した。


そして、今季は2017年以来6年ぶりに大リーグ全体の来場者数が7000万人台を回復するなど、各球団の経営陣にとっては選手の補強のためにより一層資の金を投入するための原資に厚みが増す条件が整っている。


このように、近年ますます進む大リーグでの年俸の高騰は、経営者たちのが置かれた状況の良さが大きく影響しているのである。
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[1]鈴村裕輔, 年俸高騰の裏に経営環境の劇的な改善. 日刊ゲンダイ, 2023年11月15日23面.


<Executive Summary>
The MLB Teams Enjoy the Recovered Business Environment (Yusuke Suzumura)


My article titled "The MLB Teams Enjoy the Recovered Business Environment" was run at The Nikkan Gendai on 15th November 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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【追悼文】八代亜紀さんについて思い出すいくつかのこと

昨年12月30日(土)、歌手の八代亜紀さんが逝去しました。享年73歳でした。


八代亜紀さんが1971年に歌手として登場して以来長年にわたり活躍し、『なみだ恋』や『舟唄』、あるいは『雨の慕情』など数多くの作品で広くした親しまれたことは周知の通りです。


また、画家としても優れた技量を示し、洗練された感性から様々な作品を残したことは、もう一つの重要な分野であった俳優業とともに、八代さんの豊かな才能の一端を示すものでした。


ところで、八代さんのご自宅と所属事務所は、私が17年にわたって住んだ旧宅から徒歩3分の場所にありました。


自由通りの緩やかな坂道を目黒通りに向かって進むと右手には八代さんの絵画を展示したり、近所の住民の皆さんに向けて開講していた陶芸教室の案内などが掲示されたりしていたものです。


芸能人や著名人の自宅を訪問するテレビ番組で八代さんのご自宅が紹介された際などは、普段利用する通りを収めた映像が、何やらいつもと違う雰囲気で映し出されているように思われ、興味深く感じられたこともありました。


また、2007年にこの住まいから徒歩5分ほどの場所に転居すると、都立大学駅から自宅に帰る際に目の前を通る近所の靴屋の店先に、八代亜紀さんの新曲が出るたびにポスターが貼り出されていました。


その中でも、『人生の贈りもの』のポスターは大変印象深く、「地域から愛される歌手」という八代さんの姿を実感したものです。


50年以上にわたって歌謡界を牽引し続け、私にとっても「近所の大歌手」であった八代亜紀さんのご冥福をお祈り申し上げます。


<Executive Summary>
Miscellaneous Memoris of Ms Aki Yashiro (Yusuke Suzumura)


Ms Aki Yashiro, a singer and painter, had passed away at the age of 73 on 30th December 2023. On this occasion, I remember miscellaneous memoris of Ms Aki Yashiro.

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