研究ブログ

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【新刊書籍案内】『国際日本学』第21号(法政大学国際日本学研究所)

去る2月10日(土)、法政大学国際日本学研究所の紀要『国際日本学』第21号が刊行されました。


今回は研究論文が6報、2022年11月に開催された第5回アルザス新世代ワークショップの成果報告である特集「日本のトランスナショナリズムと帝国」に関する緒言が1報と研究論文が3報、若手研究者論文が1報、史料紹介が1報、そして彙報が掲載されています。


私も論文「石橋湛山と政治資金の関係についての予備的検討」を寄稿し、近著『政治家 石橋湛山』(中央公論社、2023年)で部分で気に取り上げた石橋湛山と政治資金との関わりを1950年代の伊藤斗福との関係から検討しました。


本報は石橋湛山の政治資金のあり方を考えるための序論的な内容ながら、伊藤斗福との関係を主題的に取り上げた最初の研究となります。


論文の本文は後日法政大学学術機関リポジトリでも無償で公開されますので、ぜひご覧ください。


<Executive Summary>
Journal Notice: "International Japanese Studies" Vol. 21 (Yusuke Suzumura)


Hosei University Research Center for International Japanese Studies published "International Japanese Studies" Vol. 21 on 10th February 2024.

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【開催1週間前】青山フィルハーモニー管弦楽団第39回定期演奏会

来る4月29日(月、祝)、東京都立青山高等学校の青山フィルハーモニー管弦楽団の第39回定期演奏会が開催されます。会場は2019年の第34回から5年ぶり2度目となるたましんRISURUホール(立川市市民会館)です。


今回の公演の概要は以下の通りです。


****************
青山フィルハーモニー管弦楽団
第39回定期演奏会


【開催日】
2024年4月29日(月、祝)


【開場時間】
13時


【開演時間】
14時


【曲目】
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」
チャイコフスキー/バレエ組曲『くるみ割り人形』より
スッペ/喜歌劇『軽騎兵』序曲
エルガー/『威風堂々』第1番


【入場料】
無料(全席指定、事前予約制)


【詳細情報】
東京都立青山高等学校公式ウェブサイト
https://www.metro.ed.jp/aoyama-h/activities/2024/03/39.html
****************


青フィル77期生、78期生の皆さんの1年間の活動の集大成となる定期演奏会に、皆様のご来場をお待ち申し上げております。


<Executive Summary>
First Announcement: The Aoyama Philharmonic Orchestra 39th Regular Concert (Yusuke Suzumura)


The Aoyama Philharmonic Orchestra holds the 39th Regular Concert at the TAMASHIN RISURU Hall on 29th April 2024. In this concert they will perform Dvorak's 9th Symphony, Tchaikovsky's ballet suit The Nutcracker, Suppe's Light Cavalry overture, and Elgar's Pomp and Circumstance No. 1.

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目黒区長選挙及び目黒区議会議員補欠選挙

昨日、目黒区長選挙と目黒区議会議員選挙補欠選挙の投開票が行われ、前者については青木英二候補が、後者は橋本祥平候補が当選しました。青木候補は今回で6度目の当選、橋本候補は2度目の当選となります。


今回の投票率は区長選挙が36.21パーセント、区議会議員補欠選挙が36.18パーセントで、区長選については前回を2.88ポイント上回りました。


目黒区長選挙の投票率は1987年の44.25パーセント以来の高水準で、1975年に特別区長の公選制が復活してからの14回の選挙の中では第5位となります。


それだけ、今回の選挙への有権者の関心が従来の区長選に比べて高かったことが分かります。


これは、前回の選挙から争点の一つとなった青木氏の多選の問題が今回も議論の対象となり、複数の有力な候補者が立候補したことで選挙戦自体が活性化した結果であると考えられます。


その一方で、有権者の約63パーセントが投票しなかったということも事実です。


もちろん有権者一人ひとりが自らの住む自治体の首長を選ぶ機会に貴重な投票権を行使することは重要ですし、投票率が高くなることは理想的です。


しかし、身近なはずの基礎自治体は、有権者にとって身近なだけに各候補者の政策は似た話題を取り上げることになりがちで、それぞれの主張の違いを知るためには7日間という選挙期間は必ずしも十分ではないということが出来ます。


しかも、物価対策や賃金問題、あるいは税制などの日々の生活に直結する課題を解決するのは主に国会議員の役割であって基礎自治体の首長は十分な力を持っていないため、自分の一票がこれからの生活にどのように影響を与えるか想像しにくいという実情も、投票への意欲をそぐ一因となっています。


現在、目黒区長選挙だけでなく、国政選挙においても投票率の低迷や低下は大きな問題となっています。


それだけに、公職選挙においてどのような形で投票率を向上させることが出来るのか、あるいは有権者が主体的な関心をもって公職選挙と関わるかは、今後も不断の努力を擁する課題であることは間違いありません。


<Executive Summary>
The Ward Mayor Election and By-Election of City Assembly of Meguro 2024 (Yusuke Suzumura)


The Ward Mayor Election and By-Election of City Assembly of Meguro were conducted on 21st April 2024 and Candidate Eiji Aoki was elected as the Ward Mayor and Candidate Shohei Hashimoto became the new member of the City Assembly.

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『クラシックの迷宮』が示すヘンリー・マンシーニの多層的な音楽のあり方

昨日放送されたNHK FMの『クラシックの迷宮』は、作曲家のヘンリー・マンシーニが4月16日(火)に生誕100年を迎えたことを記念した特集「ヘンリー・マンシーニ生誕100年」が組まれました。


映画やテレビドラマ、さらに作中の歌曲まで多岐にわたる作品を手掛けたマンシーニが付随音楽の巨匠であることは論を俟ちません。

 

それだけに、司会の片山杜秀先生がどのような視点からマンシーニの音楽を読み解き、紹介されるかは今回の放送の大きな注目点の一つでした。


今回はマンシーニの代表作の一つである映画音楽『ピンク・パンサー』の主題曲から始まり、テレビドラマ『ピーター・ガン』や『ミスター・ラッキー』の中の作品を取り上げ、さらにやはりマンシーニの名声を不動のものとした映画音楽『ティファニーで朝食を』の「ムーン・リバー」を紹介するのは、穏当な構成です。


また、1960年代に大編成による映画音楽を否定し、小編成の作品やジャズやボサノバ風の音楽を書くとともに、米国の映画産業は健闘したものの世界的にはテレビの普及により映画の地位が相対的に低迷する中で、従来は映画でなければ実現できなかった作品がテレビでも製作されるようになったことを受け、活動の場をテレビ界に広げたのもマンシーニでした。


そのようなマンシーニの姿を描き出すのが今回の放送の後半の主眼であり、『シャレード』『アラベスク』『暁の出撃』などの映画作品の音楽や現在では「『刑事コロンボ』の曲」として親しまれる『NBCミステリー・シリーズ』の主題曲などが紹介されました。


そして、映画『スペース・バンパイア』の主題曲は後期のマンシーニの代表的な作品の一つであるだけでなく、一度は否定した大編成の管弦楽曲をジョン・ウィリアムズの音楽を念頭に置きつつ手掛けたという側面から評価したことは、新ロマン派に分類されるウィリアムズが映画音楽の分野に与えた影響を踏まえた、重要な指摘でした。


片山先生が「あれもなかった。こらもなかった、は百も承知であれこれ詰め込み、ヘンリー・マンシーニの生誕100年記念の特集を組みました。」という言葉で番組を締めくくったことが示すように、ヘンリー・マンシーニの多様で多層的な音楽のあり方を聴取者に印象深く伝えた、今回の『クラシックの迷宮』の特集でした。


<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Shows Multi-Layered Figure of Henry Mancini and His Music (Yusuke Suzumura)


The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured Henry Mancini to celebrate his 100th anniversary on 20th April 2024. On this occasion, this programme demostrates that multi-layered figure of Mancini and his music.

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NHK交響楽団第2008回定期公演

昨日と本日、NHKホールにおいてNHK交響楽団の第2008回定期公演が行われ、私は本日の公演を鑑賞しました。


今回はブルックナーの生誕200年記念として、交響曲第7番が演奏されました。指揮はクリストフ・エッシェンバッハでした。


緩やかな構えから無駄な力を省いたエッシェンバッハの指揮は一見すると軽やかなものです。


しかし、厚みのある低音が綿密に練習を行ってきた成果と相俟って作品の持つ晦渋さと朗らかさとを調和させることに成功しました。


第1楽章のホルンや第3楽章のトランペットなどは、楽章の始まりでやや演奏が乱れる場面があったものの、概して悠然とした速度は作品の構造と輪郭を鮮やかに描き出すだけでなく、例えば第2楽章の弦楽器の円やかさを含め、聞き応えのある仕上がりとなりました。


一方、舞台下手から指揮台を往来するエッシェンバッハは上半身を動かさず、すり足で一歩ずつ確かめるように歩いていた様子は気になるものでした。


もちろん84歳という年齢を考えれば相応の現象かもしれないものの、これからも永くその演奏に耳を傾けたいと思う聴衆からすれば、必ずしも安閑とできる光景ではありません。


残念ながらエッシェンバッハは来季は定期公演への出演の予定がないため、2025-26シーズン以降に再びその指揮に接することが待望されます。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2008th Subscription Concert (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra held the 2008th Subscription Concert at the NHK Hall on 19th and 20th April 2024 and I participated in the second day. In this time, they performed Bruckner's 7th Symphony. Conductor was Christoph Eschenbach.

 

 

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NHK交響楽団第2007回定期公演

去る4月13日(土)、14日(日)にNHKホールにおいてNHK交響楽団の第2007回定期公演が行われ、4月18日(金)にNHK FMで公演第1日目の実況録音が放送されました。


今回は前半にシューベルトの交響曲第4番『悲劇的』が、後半にブラームスの交響曲第1番が演奏されました。指揮はマレク・ヤノフスキでした。


悲劇性が強調されやすいシューベルトと、鬱勃とした苦悩の表情で始まる第1楽章から泰然として光り輝く第4楽章へと推移するブラームスは、しばしば抒情性が強調される演奏に結びつきます。


一方、今回のヤノフスキは作品に自ずから付随するように思われる悲劇性や抒情性を意図的に遠ざけることでそれぞれの交響曲の持つ枠組みを明瞭に描き出そうとしました。


例えばシューベルトの第2楽章における主要主題と副主題のためらいのない演奏は重めの節回しによって悲痛な面持ちを醸し出そうとする演奏とは一線を画すものであり、ある意味で悲劇性とは無縁であるかのように思われます。


しかし、推進力に満ちた演奏は颯爽としたものではなく、むしろ少しでも立ち止まると二度と前に行けないという悲壮感を漂わせたものであり、かえって作品が秘める前身のみを許された音楽という複雑な表情を浮き上がらせるものでした。


同様に、ブラームスは冒頭から一貫して足早ともいうべき進行によって巧みで芯の太い構成が活き活きと導き出されます。


それだけに、第4楽章の再現部のみ速度を緩めることで作品の持つ劇的な表情が聞き手により一層印象深く刻印され、閉塞から解放へというブラームスの交響曲第1番の特徴を際立たせることになりました。


これはヤノフスキが確固とした信念に基づいてシューベルトとブラームスの作品に向き合った結果です。


それとともに、両者ともNHK響にとって演奏する頻度の多い作曲家であることがヤノフスキの目指す音楽作りを可能にしました。


その意味で、大器晩成とも評されるヤノフスキが今だからこそ作り出せる演奏が、今回の公演で聞き手の前にもたらされたと言えるでしょう。


<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2007th Subscription Concert (Yusuke Suzumura)


The NHK Symphony Orchestra held the 2007th Subscription Concert at the NHK Hall on 13rd and 14th April 2024 and the first day was broadcast via NHK FM on 18th 2024. In this time, they performed Schubert's 4th Symphony and Brahms' 1st Symphony. Conductor was Marek Janowski.

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【評伝】ホワイティ・ハーゾグ氏--1970年代と1980年代の大リーグを象徴する偉大な指導者

現地時間の4月15日(月)、大リーグのセントルイス・カーディナルスなどで監督を務めたホワイティ・ハーゾグ氏が死去しました。享年92歳でした。


イリノイ州ニューアセンズ出身のハーゾグ氏はニューアセンズ高校で左投げ左打ちの選手として一塁手、投手、外野手を務め、バスケットボールでもガードを担当するなど優れた運動能力を示し、イリノイ大学やセントルイス大学が興味を示す逸材でした。


1949年に高校を卒業すると大学には進学せず、ニューヨーク・ヤンキースと契約したハーゾグ氏は、傘下のD級スーナー・ステート・リーグのマッカリスター・ロッキーズでプロ選手としての第一歩を記しました。


ヤンキースのマイナー球団を着実に上の級へと進む中で、ハーゾグ氏の明るい金髪がヤンキースに所属していたボブ・クザヴァの髪の色に似ているということで、「ホワイト・ラット」と呼ばれたクザヴァにあやかり「ホワイティ」という綽名を与えられたのでした。


当時は朝鮮戦争が続いていたため、1952年のシーズンを終えると陸軍に徴兵され工兵として軍役に服したハーゾグ氏は1955年に球界に復帰し、翌年ワシントン・セネタースで待望の大リーグ昇格を果たします。


その後、カンザスシティ・アスレティックス、ボルティモア・オリオールズ、デトロイト・タイガースと球団を遺棄したハーゾグ氏は、1963年に現役を引退します。


634試合に出場し、通算安打414、通算本塁打25、通算打点172、通算打率.257という成績で8年に及ぶ大リーグでの生活を終えたハーゾグ氏は、1965年にアスレティックスのコーチとなったことで、指導者の道を進むようになります。


翌年にはニューヨーク・メッツに移籍して監督のウェス・ウエストラムの下で三塁コーチを務め、1967年からは選手育成部長に就任するとともに、フロリダ教育リーグのメッツの監督も務め、初めて球団を指揮する経験をします。


その後6年にわたりフロリダ教育リーグを担当したハーゾグ氏の下からは、ジョン・ミルナー、ウェイン・ギャレット、アモス・オーティス、ノーラン・ライアン、ケン・シングルトンなど大リーグで活躍した選手たちが育ちました。


当時メッツの会長であったドナルド・グラントと対立していたハーゾグ氏は1972年に球団を去り、11月2日にテッド・ウィリアムズの後任としてテキサス・レンジャースの監督となります。このとき、ハーゾグ氏は40歳でした。


しかし、138試合で47勝91敗、勝率.341と成績が不振であったためハーゾグ氏はシーズン途中で解任されてしまいます。その後継者となったのは、後にハーゾグ氏とアメリカン・リーグの覇権を巡って激しく競い合うことになるビリー・マーティンでした。


翌年にカリフォルニア・エンゼルスの三塁コーチを務めたハーゾグ氏は、1975年にカンザスシティ・ロイヤルズ監督のジャック・マッキーオンが解任されたことを受けてシーズン途中でロイヤルズの監督となります。


ことのき、ロイヤルズにはジョージ・ブレット、ジョン・メイベリー、ポール・スプリットオフ、ハル・マクレー、フランク・ホワイト、フレディ・パテック、クッキー・ロハス、ダグ・バード、アモス・オーティス、デニス・レナード、ハーモン・キルブリューらがおり、ハーゾグ氏を迎えたチームは最終的にオークランド・アスレティックスに7ゲーム差を付けてアメリカン・リーグ西地区の2位となりました。


途中で球団を継いだハーゾグ氏は翌年も監督を務めると1976年から1978年まで3年連続で地区優勝を達成し、ロイヤルズを強豪球団とします。


ハーゾグ氏は優れた守備、本塁打ではなくライナー性の当たりを重視する打撃、機動力の活用、堅実な投手陣を前提として試合を進め、打ち勝つ野球ではなく確実に対戦相手よりも1点でも多く取ることを目指しました。


そのようなハーゾグ氏の試合運びは「ホワイティ・ボール」と呼ばれ、本拠地ロイヤルズ・スタジアムが球足が速く走者に有利な人工芝の球場であったことを巧みに利用したことで大きな成果を収めました。


一方で1979年に地区4連覇を逃すと、ロイヤルズを所有していたユーイング・カウフマンとの対立が表面化して解任され、セントルイス・カーディナルスの監督に迎えられます。


やはりロイヤルズ・スタジアムと同様にグラウンドに人工芝を張り、走者に有利な球場であったブッシュ・スタジアムを本拠地としたカーディナルスでも「ホワイティ・ボール」を実践したハーゾグ氏は1982年に念願のワールド・シリーズを制覇し、1985年と1987年にもナショナル・リーグを制覇します。


そして、1990年のシーズン途中で成績の低迷を理由に解任されると、1992年にエンゼルスのゼネラル・マネージャーに就任し、1994年1月に辞任するまで、選手、コーチ、監督、ゼネラル・マネージャーとして球界で45年間を過ごしたのでした。


本塁打と機動力を重視した攻撃的な野球を実践したビリー・マーティンの「ビリー・ボール」とともに1970年代から1980年代の球界を牽引したハーゾグ氏は、優れた監督であるだけでなく、球史に残る選手たちを育てた指導者でもありました。


1949年のヤンキースが指名したもう一人の選手がミッキー・マントルであったことを含め、大リーグの歴史に大きな足跡を残したのがハーゾグ氏であり、野球殿堂での顕彰をもってしてもその功績を語りつくすことはできない存在なのです。


<Executive Summary>
Critical Biography: Whitey Herzog, a Great Manager of the Baseball of the 1970th and the 1980s (Yusuke Suzumura)


Mr Whitey Herzog, a Home of Famer and fromer mangaer of the St. Louis Cardinals and other teams, had passed away at the age of 92 on 15th April 2024. On this occasion, we examine his efforts and achievements.

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ヘンリー・マンシーニの生誕100年を祝す

昨日はヘンリー・マンシーニが1924年4月16日に生まれてから100年目の記念日でした。


映画だけでなくテレビドラマからアニメ番組まで多数の音楽を手掛けたマンシーニは文字通り付随音楽の巨匠と呼ぶにふさわしい存在でした。


その中には映画『ティファニーで朝食を』(原題:Breakfast at Tiffany's、1961年)や『ピンクの豹』(原題:The Pink Panther)の連作(1963年から1993年)などの映画史に残る傑作やテレビドラマ『刑事コロンボ』(原題:Columbo、1968年から2003年)の主題曲のように今も人々に親しまれる作品などを世に送り出しました。


また、担当作品の多さは『スペースバンパイア』(原題:Lifeforce、1985年)のような、興行的には振るわなかった作品でも主題曲をはじめ主要な音楽をものするといったことからも窺われます。


その中で私が特に気に入っているのは、マイケル・ケインが「シャーロック・ホームズを演じたレジナルド・キンケイド」を演じ、アベン・キングズレーが「世界最初の犯罪学博士」であるジョン・ワトソンを務めた『迷探偵シャーロック・ホームズ/最後の冒険』(原題:Without a Clue、1988年)です。


「マンボ」と「マンバ」を取り違え、「マンボとマンバ、何か違いがあるのか」とワトソンに尋ねると「全然別物だ。マンボはカリブ海の愉快な踊り、マンバは恐ろしい毒蛇だ」と呆れられたり、ワトソンの描いた台本通りに事件の詳細を新聞記者たちに解説した際に著名な記者に「見る」(see)と「観察する」(watch)の違いを得意そうに説明し、「諸君は見るだけて、私は観察している」と豪語してワトソンにたしなめられる様子は作品の喜劇的な側面を象徴的に描き出します。


一方、名探偵ホームズがワトソンによって作り出された虚像であり、真に倒すべきはワトソンであることを知っているモリアーティー教授との対決では、「華麗な剣の使い手」として昼間の舞台でも夜の公演でも数多くの敵役を倒したホームズが"once more unto the breach"とシェークスピアの『ヘンリー五世』の台詞とともに劇場の奈落に飛び込む様子などはどこか滑稽に思われながら、事件が解決した後に状況の説明を求める記者団に概況を伝えた後に「私の友人なしには事件を解決することは出来なかった」と初めてワトソンへの謝意を伝えるところに二人のきずなの強さが示されるなど、"Without a Clue"は「ホームズもの」として様々な見せ場を持つ優れた作品です。


この様な作品を音楽面で支えたのがマンシーニで、特に主題曲のクラリネットの軽やかな吹奏と弦楽器の滑らかな旋律とはその音楽の魅力を凝縮したものでした。


惜しくもマンシーニは1994年に逝去し、今は新たな旋律を耳にすることは出来ません。


それでも、これまでの数多くの音楽はこれからも様々な作品を一層彩り豊かなものすることでしょう。


<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Dr Henry Mancini's 100th Anniversary (Yusuke Suzumura)


The 16th April, 2024 was Dr Henry Mancini's 100th Anniversary. On this occasion, I remember miscellaneous impressions of Dr Mancini.

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衆院3補選の告示に際しわれわれは候補者にを望むか

本日、4月28日(日)に投開票される衆議院の3選挙区における補欠選挙が告示されました。


今回は、以下の通り東京都第15区に9人、島根県第1区に2人、長崎県第3区に2人が立候補しています(以下、敬称略、届け出順)。


【東京都第15区】
福永活也(諸派、新)
乙武洋匡(無所属、新)
吉川里奈(参、新)
秋元司(無所属、元)
金沢結衣(維、新)
根本良輔(諸派、新)
酒井菜摘(立、新)
飯山陽(諸派、新)
須藤元気(無所属、新)


【島根県第1区】
錦織功政(自、新)
亀井亜紀子(立、元)


【長崎県第3区】
山田勝彦(立、元)
井上翔一朗(維、新)


東京都第15区は柿沢未途氏が江東区長選を巡る公職選挙法違反の罪に問われ、長崎県第3区は谷川弥一氏が政治資金パーティー収入を巡る政治資金規正法違反で立件されてそれぞれ辞職したことに伴う補選のため、両氏が所属していた自民党は独自の候補の擁立を見送りました。


そのため、特に東京15区では有力な候補者が不在となり、各党各派がそれぞれ独自の候補を擁立しつつも有利に選挙戦を進めうるだけの支持基盤を持つ者が見当たらないのが実情です。


もちろん、1946年の第22回衆議院議員総選挙における東京都第2区のように定数12人に対して133人が立候補したため票が分散し、12人目の当選者が法定得票数に達せず再選挙になったような事態が再び生じる可能性は高くないかも知れません。


しかし、乱立ともいうべき多数の候補者が立候補する場合、他の公職選挙と同様に多くの票を獲得できることが見込めない候補者の中には、しばしば自らの知名度を向上させるための宣伝の場として選挙を捉えていることが少なくないものです。


そして、そのような候補者の掲げる公約や主張は多くの場合有権者の注意を惹くことを目的とするために過激で実現が難しいものとなりがちです。


それだけに、良識ある東京15区の有権者はそのよき判断力を善用することが期待されますし、今回の3つの補選で唯一与野党が対立する候補者を擁した島根1区も、野党第1党と第2党の争いとなる長崎3区も、充実した論戦によって有権者がよりよい選択を行えるよう、候補者が誠意ある選挙戦を行うことが不可欠となります。


<Executive Summary>
What Is the Required Element for the Candidates of Three By-Elections? (Yusuke Suzumura)


Three By-Elections of the House of Representatives of Tokyo (the 15th District), Shimane (the 1st District), and Nagasaki (the 3rd District) were notified on 16th April 2024. On this occasion, we examine the required element for all candidates of each district.

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大谷翔平選手の「日本選手最多タイの通算175本塁打」の持つ意味は何か

現地時間の4月12日(金)、大リーグのロサンゼルス・ドジャースに在籍する大谷翔平選手が今季4号本塁打を放ち、大リーグでの通算本塁打数を175本として、松井秀喜さんが持つ日本選手の最多記録に並びました。


大谷翔平選手は、2021年7月4日に松井秀喜さんが2004年に記録した日本選手の年間最多本塁打31本に並びました。


その際に本欄が指摘したように、2005年から2020年までの16シーズンにわたり、松井選手自身を含め、野手として大リーグに所属した日本選手が年間最多本塁打記録を更新できなかったことは、一面において打撃術には優れていても長打力に劣るという大リーグにおける日本野手に対する通説的な考えが妥当であることを示唆します。


また、他面においては、2004年の松井選手が、日本屈指の長距離打者として大リーグに挑戦し、実力を遺憾なく発揮できたことを推察させるものでした[1]。


今回の通算本塁打記録も同様で、これまでにもその時々の日本のプロ野球界を代表する長距離打者が大リーグに挑戦したものの、長期にわたって活躍することが難しかったという点を含めて日本での実績を反映させることができないまま今日に至っていました。


そのような中で大谷選手がこれまで並ぶことも難しかった松井秀喜さんの記録に到達したことは、もちろん豊かな才能と、その資質をさらに向上させる不断の努力の成果です。


それとともに、いわゆるフライボール革命や様々な機器や手法の発達により、実力を備えた選手がより効率的に本塁打を放ちうる環境が整っているという日米の球界の現状の見逃せません。


従って、今後大谷選手が日本選手最多の通算本塁打記録を達成し、場合によっては今季中に秋信守選手が持つアジア選手の通算本塁打記録218本を更新したとしても、松井選手の功績も秋選手の偉業も色あせることはありません。


その意味で、新たな記録を樹立して歴史を塗り替えることは、それまでの歴史を過去のものとするのではなく、むしろ呼び起こす営みでもあり、新たな視座を通して先人の軌跡が改めてわれわれに示されるのです。


[1]鈴村裕輔, 2021年の大谷翔平選手は年間50本塁打を達成するか. 2021年7月6日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/a0cc62f26c53f2a0e59257f6dca28c66?frame_id=435622 (2024年4月15日閲覧).


<Executive Summary>
Mr Shohei Ohtani's 175th Career Home Run in Major League Baseball Shines a Light on the Past (Yusuke Suzumura)


Mr Shohei Ohtani of the Los Angeles Dodgers hit 175th career home run in Major League Baseball on 12th April 2024. On this occasion, we examine the meaning of Mr Ohtani's achievement to history of the MLB.

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