2010年度 (筑波大)

講義情報 (2010年度・筑波大)

2010年度・担当講義一覧

2010年度は微積分I演習(1学期)、線形代数III(3学期)、解析I演習(1学期)、解析II演習(3学期)、関数論(1・2学期)を担当しました。また、3学期の総合科目「数学の美しさと面白さ」のなかで『実数, 指数関数, オイラーの公式』というタイトルで4回話しました。

それぞれの講義・演習の情報をまとめて見るには、右上の「カテゴリ選択」タブから科目名を選択してください。

総合科目 (4回目・1月24日)

最終回。オイラーの公式について。

まず、sin{x} と cos{x} の (x=0における) テイラー展開を書き下す。
sin と cos の微分がそれぞれ cos, -sin であることを認めれば、
書き下すこと自体はそれほど難しくない。
そして、このようにして得られた展開式は、任意の実数 x について正しい
(収束半径は無限大だということ)。

次に、複素関数の話。
複素関数とは、独立変数が複素数の関数。
多項式や有理式で定義される関数を複素関数と見なすのは難しくないが、
では、この講義でも扱った指数関数を考えるにはどうすれば良いか。
そこで、テイラー展開を使う。
複素数の収束の概念さえ定義すれば、テイラー展開の無限和に複素数を代入することで、
独立変数が複素数の場合にも拡張することができる。
そして、このように拡張しても指数法則 e^(x+y)=e^x e^y が成り立つ。
これはベキ級数の間の等式として等しいからだ。

以上の準備をしておけば、オイラーの公式は容易に導ける。
指数関数のテイラー展開の独立変数 x を ix におきかえて、
テイラー展開を計算していけば、自然に sin と cos の展開が現れる。
これがオイラーの公式。
最後に、指数関数の指数法則から三角関数の加法定理が出ることを話して、
竹山の担当分は終了。


補足:竹山担当分のレポート課題としては
「講義で扱った 4つのテーマから一つ選び、高校生にも分かるように自分の言葉で解説せよ」
という出題をしました。
学生さんのレポートは、みな力作揃い (明らかに手を抜いてるのもありますが) で、
とても感心しました。「自分で説明してみて良く理解できた」という感想もあったりして、
こちらの狙いとしては成功だったと思います。

解析II演習 (2月8日・15日・22日)

更新が遅くなったので、その後、解決した問題を列挙しておく。

2-10, 2-11, 2-12, 2-13, 2-14, 2-15, 2-16, 2-17, 2-18, 2-19,
2-20, 2-21, 2-22, 2-23(1), 2-24(1), 2-25, 2-27.

この演習では、求積法を主に扱いましたが、常微分方程式の話としては、
解の存在や延長などの定性的な理論も知っておいてほしいところです。
みなさんの今後の努力に期待します。

線形代数III (2月23日)

最終回。部分空間の和と直和の話。

まず、部分空間の和の定義。和が部分空間であること。
直和の定義。ここでは一般の個数の部分空間でも通用するように、
「和で書いたときの表示が一意的になる」と定義する。
そして、定理として、2個の部分空間の場合は、
直和であることと、共通部分がゼロしかないことが同値になること。
以上の話の例を 2次元の数ベクトル空間で。
最後に、和の次元公式とその証明の概略を述べて終了。

今日の反省:更新が遅れました。もう既に試験も終えて、
成績を出す締切が近づいています。
やはり 3学期の線形代数は難しいようです。
抽象ベクトル空間の話になって、ものの見方を学ぶことになるので、
たとえば多項式や関数が「ベクトル」に見えるようになってこないと、
この辺りの話は理解したとは言えないと思います。
今年度は物理学類の学生さん対象の講義でしたが、
この講義で話した抽象ベクトル空間という考え方は、
物理学でもかならず必要になりますので、よく復習しておいてください。

線形代数III (2月16日)

まず、前回の補足として、線型写像の階数(=像の次元) が、
その表現行列の階数に等しいことを、事実だけ述べる
(証明は前回プリントにして配布済)

今回は次元定理。
その証明の準備として、基底の拡張の話。
有限次元ベクトル空間において線形独立なベクトルがあれば、
そこに次元に足りない分だけベクトルを付けくわえて基底を構成することができる。
証明は難しくないが、時間の都合でプリントにして配布。
以上の準備の下で、次元定理の証明。
次元定理の応用としては、

1. 次元が同じベクトル空間の間の線形写像については
(1) 単射であること (2) 全射であること (3) 全単射であること
が同値になる。

2. 斉次1次連立方程式が非自明解を持つことと、
係数を並べた行列が full rank でないことは同値。
さらに、解の自由度は、未知数の個数から rank を引いたものになる
(ここで次元定理を使う。斉次方程式の解とは kernel の元のこと)。

次回は 2月23日。和と直和。

線形代数III (2月2日)

今回は線形写像の行列表示について。

まず、数ベクトル空間の間の線形写像の行列表示についての復習。
対応する行列は、標準基底の行き先を標準基底で展開した等式を、
行列の形で書き直すことによって現われる。

抽象ベクトル空間の場合も、同様に考えれば線型写像から行列が定まる。
すなわち、f: U -> V が線形写像だとすると、U, V の基底をひとつ決めて、
U の基底の行き先を V の基底で展開した等式を行列の形で書けばよい。
このようにして定まる行列を、f の表現行列という。
定義によって、表現行列は基底の取り方に依存することに注意。

後半は、基底の取り替えによって表現行列がどう変わるかについて。
基底の変換行列の定義。変換行列は正則であること。
最後に、基底を取り替えると、
表現行列は基底の変換行列でサンドイッチしたものに変わること。

今日の反省:今回は表現行列の階数と、
線型写像の rank の対応の話までしたかったのだけれども、時間切れ。
今年度の講義は物理学類対象ということもあって、
証明よりも考え方の解説に時間をかけている。
その分、以前に担当したときよりも時間に余裕ができるかなと思っていたのだけれども、
そうも行かないようだ。以前よりも、板書のペースを落としたということもあるけど。

来週の水曜は 11日の振替のため、次回は 2月16日。次元定理。

線形代数III (1月26日)

今回は線形写像とベクトル空間の同型について。

まず、抽象ベクトル空間の間の線形写像、その核と像の定義。
定義そのものは、数ベクトル空間のときと変わらない。
核、像が部分空間であること。単射であるための必要十分条件は核が {0} となること。
このあたりの事実の証明も、数ベクトル空間のときと同じ
(と言うよりも、まったくそのまま通用するような証明を、数ベクトル空間のときに与えた)。

次に全射の定義。全射とは、おおざっぱには像が行き先の集合全体を覆いつくすということ。
正確には「任意の○○に対して、ある××が存在して~」と定義する。
そして、全単射の定義。

最後に、ベクトル空間の同型の定義。
同型が同値関係であること (詳細はプリントで配布)。
n 次元ベクトル空間は、n 成分の数ベクトル空間と同型であること
(基底をひとつ決めるごとに同型写像が定まる)。
以上のことから、次元の等しい(有限次元)ベクトル空間は互いに同型であることが分かる。

今日の反省:同型という概念は、なかなか掴みにくい。
それは代数という考え方を感覚的に理解するのと、ほとんど同義だと思うので、
ある程度の経験は必要なのかなとも思う。
今日の講義では、前から数列目に座っている学生さんが、
講義そっちのけで思いっきり別の本(マンガの単行本?)を読んでいて、
静かにしているから注意はしなかったが、非常にげんなりした。
こちらの話を聞かずに、板書をただ写しているだけだったら、
教科書を一人で読んでいるのと変わらないので、たぶん講義に来る意味はないと思います。
どこか別のところで、思いっきり読書を楽しんだ方が幸せです。

次回は線形写像の行列表示。

線形代数III (1月19日)

今回は次元の話。

2成分の複素数ベクトル空間を考える。
このとき、基本ベクトルはもちろん基底をなすが、
それ以外にも x_{1}=(1, 0), x_{2}=(0, 1) (正確には転置をとった列ベクトル) とすれば、
x_{1}, x_{2} は基底をなす。
このように、同じベクトル空間であっても、基底のとり方はいろいろある。
しかし、基底をなすベクトルの個数 (上の例では 2個) は一定であることが見てとれる。

以上の前置きをふまえて、今回の主定理を述べる。すなわち、
有限生成ベクトル空間の基底をなすベクトルの個数は、基底のとり方によらず一定の値である。
この定理は次のことから従う:
「n 個のベクトルからなる基底をもつベクトル空間において、
任意にとった n 個のベクトルが線形独立であれば、それは基底をなす。」

ベクトル空間の基底をなすベクトルの個数を、そのベクトル空間の次元という。
上の事実から、有限次元ベクトル空間の次元は、
その空間において線形独立なベクトルの個数の最大値に等しい。
さらに、任意の部分空間の次元は、全体の次元以下であることも分かる。

今日の反省:線形代数の講義は、この辺りから少しずつ話すのが難しくなる。
ひとつひとつの細かいステップを述べていると時間がなくなるし、
聞いても理解できないような話になってしまうので、多少は端折る必要が出てくる。
学生さんが復習してくれることを期待するしかないのだけれども、
もう少しなんとかできないだろうかと毎年悩むところ。

次回は 1月26日。線形写像とベクトル空間の同型。

線形代数III (1月12日)

今回は基底について。

数ベクトル空間における基本ベクトルは、次の二つの性質をもつ。
(1) 任意のベクトルは、基本ベクトルの線形結合として書ける。
(2) (1) の表し方は一意的である。
この性質の (2)は、基本ベクトルは線形独立である、ということにほかならない。
以上のことをふまえて、抽象ベクトル空間において「基本ベクトルのようなもの」を考えたい。

その準備として、線形独立の定義 (の復習)。
2次以下の多項式のなすベクトル空間において、
線形独立なベクトルの組の例。独立でないベクトルの組の例。
線形独立の拡大条件 ( x_{1}, ... , x_{n} が線形独立で、
x がこれらの張る部分空間に属さなければ、この n 個のベクトルに x を加えても線形独立)。

次に基底の定義。基底の例。
有限生成なベクトル空間には基底が存在すること (証明はプリント) を述べて終了。

今日の反省:前回の記事の影響か、今回は私語がまったく聞こえてこなかった。
抽象ベクトル空間に入ると、話が次第に難しくなる (計算の話ではなくなってくる) ので、
話すのにも工夫が必要になってくる。
今年度は物理学類の学生さんが対象なので、細かい証明の話は講義であまりせず、
プリントにして配布するつもりでいる。

次回は 1月19日。次元。

総合科目 (3回目・1月18日)

今回はテイラー展開という考え方について。

まず、高校での微分の定義の復習 (微分係数は接線の傾き)。
この定義式を 1次近似式と読みかえる。
例として (4.01)^(1/2) の近似値の計算。

テイラー展開は、近似式の次数を上げることで、より良い近似を得ようという考え方である。
2次近似式の導出 (導関数に1次近似を適用して積分する)。
得られた2次近似式が、確かにより良い近似を与えることを確かめるために、
もう一度 (4.01)^(1/2) の計算。

導関数に2次近似式を適用して積分する、という計算を同様にくりかえしていくと、
一般に n次近似式が得られる。
そして、n の値を大きくしていくともとの関数に限りなく近づくのだとすると、
もとの関数は無限級数の和として表示できることになる。
これがテイラー展開 (テイラー級数展開と呼ぶこともある)で、
このような展開ができるとき、もとの関数は解析的であるという。
最後に、前回定義したネイピア数 e について、
それの定める指数関数 e^x のテイラー展開の計算をやって終了。

次回は 1月24日。オイラーの公式。

解析II演習 (1月11日)

今回解決した問題:1-9, 1-10, 1-11, 1-12(1)(2)。

今回はクレーロー型方程式の解法と、
定数係数線形微分方程式の記号解法についての問題を配布。

来週 1月18日は、17日の講義の振替のため、次回は 1月25日。

線形代数III (12月22日)

今回から抽象ベクトル空間の話。

まず、抽象化とはどういう考え方なのかについて。
そして、ベクトル空間の定義。8つの公理の使い方の例。
ベクトル空間の例として、数ベクトル空間と、次数を制限した多項式の空間。
部分空間・線形結合・ベクトルが張る部分空間の定義 (数ベクトル空間の場合と同じ)。
最後に、有限生成の定義をして終了。
以下この講義では、有限生成のベクトル空間のみを考えて、
基底の存在などについて述べていく。

今日の反省:抽象ベクトル空間の導入については、
上手く話ができているかどうか毎回不安になる。
今年度は物理の学生さんが相手の講義なので、
線形性という概念についてしっかりと述べたいところではあるのだけれど、
感覚だけを言語化しても伝わらないだろうから、難しいところ。

以下は愚痴めいてしまうけれども、人数の多い講義のせいか、
学生さんの講義の受け方がどうしても気になってしまう。
机の下で携帯などをいじっていたり、
講義の途中で教室に入ってきて文庫本を読み出したり。
これらの場合は静かにしてくれているので、気分は悪いが注意しないけれども、
明らかに私語を発している学生もいる。
もちろん、すべての学生に講義を受ける権利はあるが、
ほかの学生さんが講義を聴くのを妨害する権利は誰にもない。
自分では小声のつもりでも、教室中に大きく響き渡っている。
繰り返しになるけど、竹山の講義では出席を絶対にとりません。
また、話の内容は途中から聴いて分かるようには準備していません
(というか相当の時間をかけて「話の流れ」を準備しています)。
講義を真剣に聴くつもりが無いのなら、
教室以外の場所で時間を過した方がよほど幸せになれます。

次回は1月12日。基底の存在。

総合科目 (2回目・12月20日)

今回はネイピア数と指数関数の定義の話。

井原西鶴の浮世草子「日本永代蔵」に出てくる大阪泉州の水間寺の話。
水間寺では1年に10割の複利で金貸しをしていたが、
ある男がここで1貫の金を借り、地元に帰って運用して稼ぎ、
13年後に水間寺に帰ってきて 8192 貫の金をきちんと返した、という話。
この 8192 は 2の13乗で、これが複利計算。

そこで、借りる立場からは
(1) 1年に10割の複利  (2) 半年に5割の複利
のどちらが得か、という問題(「どちらも同じ」ではない)。
(2) は期間と利率を(1)の2等分にしたものだが、これを n等分にして、
nを無限大にする極限を考えた利率がネイピア数。
この極限が存在することは、前回やった連続性公理から出る。

後半は指数関数の定義。y=2^{x} を定義したい。
x が自然数のときは「2を掛ける回数」を独立変数として定義できる。
x が整数のときは高校で習ったように定義するのだが、
なぜそのように定義するかと言うと、それは指数法則が成り立つようにするためである。
同じ考え方で有理数の場合までは定義できるが、
有理数は体なので(四則演算で閉じるので)指数法則だけでは実数全体に拡張できない。
そこで、前回やった有理数の稠密性を使って実数全体に拡張する。
このようにして定義した指数関数もやはり指数法則を満たす。ただしこれは自明ではない。

次回はテイラー展開の考え方。

線形代数III (12月15日)

線形結合と線形写像の像 (image) について。

前おきとして、1次連立方程式が解を持つためには、
「右辺」をどのように取らなくてはいけないか、という問題を考える。
この問題を行列が定める線形写像の言葉で言いかえれば、
その写像の像を記述しなさいという問題になる。以上が前おき。

線形写像の像の定義。像が部分空間であること。
写像の像を基本ベクトルの像を使って記述するために、
線形結合の定義。いくつかのベクトルが張る部分空間の定義。
最後に、写像の像は基本ベクトルの像が張る部分空間と一致することを証明して終了。

今日の反省:という前おきで話を始めてみたのだが、
最後の結論は結局「解を持つときには解を持つ」と言ってるので、
トートロジーになってしまってはいる。
ただ、線形写像という枠組みで見ているので、螺旋階段を一周登っている感じではある。
この辺のことは、きっちりと話しておくべきだったかも知れない。

次回は抽象ベクトル空間。

総合科目 (1回目・12月13日)

全4回のオムニバス講義の初回。
初回だけれども、竹山担当分のレポート課題を出した。
講義で扱う四つのテーマのなかから一つ選び、
高校生にも分かるように自分の言葉でまとめなさい、という課題。
みなさんの力作を期待します。

初回は実数の定義と性質について。
この講義ではカントール流の定義を採用して、
実数とは有理数の列(正確にはコーシー列)である、と定義する。
このとき、異なる二つの列が同じ実数を表すという約束も含めて定義する
(正確に言うと、有理数のコーシー列からなる集合に同値関係を入れて、割る)。
この約束に従えば、1=0.9999・・・という等式が正しいと言える。
こういう等式が正しいかどうかをきちんと述べるには、
実数とは何かという定義をしなければならない、という話。

講義の最後では、次回への布石として実数の二つの性質の紹介。
一つは有理数の稠密性。もう一つは連続性公理で、「有界単調数列の収束」の話をした。

次回はネイピア数と指数関数の定義。

解析II演習 (12月14日)

今回解決した問題:1-1, 1-2, 1-4。

1-1(2)は失題です (作問のときに計算間違いをしていました)。ごめんなさい。

今回は1階線形方程式の解法についての問題を配布。

次回は12月21日。

線形代数III (12月8日)

部分空間と線形写像の核の話。

前おきとして、斉次連立1次方程式の解全体の集合が線形性を持つ、という話。
そして、係数を並べた行列を考えて、この行列が定める線形写像を考えると、
解の集合はその核 (kernel) と見れること。

以上の前おきのもとに、まず部分空間の定義と例。
次に、線形写像の核の定義。核が部分空間であること。
後半は、写像の単射性の定義と、線形写像が単射であるための条件
( kernel がゼロしかない) の話をして終了。

今日の反省:今回は予定よりも少し早く話を終える。ペースが速いかも知れない。
この講義を担当するときは、最初の3回で数ベクトル空間の話をするのだけれども、
いろいろな概念を導入するときに、どういう動機付けを与えるのかを考えねばならない。
特に今年度は物理の学生さんが対象なので、その辺のことも意識しつつ。
というわけで、毎年同じ講義ノートというわけにはいかないのだ。

次回は12月15日。線形結合と線型写像の像 (image)。