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統計コミュニティは統計不正にどう対応したか: 毎月勤労統計調査問題における政府・専門家・非専門家のはたらき (『東北大学文学研究科研究年報』73号)

毎月勤労統計調査における東京都での対象事業所の不正抽出問題が騒がれてから5年。当時はよくわからなかった問題点が、その後の研究を通じてわかってきました。政府や統計専門家のほか、日本の公的統計に興味を持つ人々がこの問題の解明にどのように貢献してきたのか(しなかったのか)をまとめた論文を、『東北大学文学研究科研究年報』(73号) に掲載しました。

田中重人 (2024)
統計コミュニティは統計不正にどう対応したか: 毎月勤労統計調査問題における政府・専門家・非専門家のはたらき
東北大学文学研究科研究年報 73:198-169.
http://hdl.handle.net/10097/0002000821
http://tsigeto.info/24a

【要約】
公的統計の不正が長い間隠されてきた事例が、この数年で複数みつかった。これらの問題の検証にあたり、日本の統計コミュニティ、すなわち統計に対する関心とそれをあつかう能力および相当の日本語能力を備える人々は、じゅうぶん貢献したようにはみえない。それはなぜか。本稿は、厚生労働省が「毎月勤労統計調査」(全国調査) の労働者数推計に2018年から誤った方法を持ち込んだ問題をあつかう。2018年以降の文献を検討した結果、政府内でこの統計を審査した各種委員会も、政府外の統計専門家も、厚生労働省が用意した資料と説明に依拠していたため、推計方法変更とそれによる偏りの徴候を見逃していたことがわかった。コミュニティ中心部を占める専門家たちは、政府内統計担当者の主張に非批判的であり、公開データで独自の検証をおこなうことなく追認してきたのだ。この問題に関して、日本の統計コミュニティは、周辺部にいる非専門家を別とすれば、データに基づく検証を軽視してきたといえる。

【目次】
1. 統計コミュニティとその役割
- 1.1. 「私物」としての公的統計
- 1.2. 公的統計はなぜ「私物」でありうるのか
- 1.3. 「統計コミュニティ」とは
2. 毎月勤労統計調査問題と本稿の課題
- 2.1. 母集団労働者数推計に関する層間移動事業所のウエイトの変更
- - 2.1.1. 毎月勤労統計調査の母集団労働者数推計の概要
- - 2.1.2. 層間移動事業所のあつかい
- - 2.1.3. 2018年のウエイト計算方法変更
- - 2.1.4. 誤った再集計による過去データへの波及
- 2.2. 本稿の課題
3. 非専門家による指摘
- 3.1. 山田正夫の指摘
- 3.2. TATの指摘
- 3.3. 明石順平の指摘
4. 統計専門家の対応
- 4.1. 松本健太郎の記事
- 4.2. 日本統計学会「公的統計に関する臨時委員会報告書」
- 4.3. その他のデータ分析例
- 4.4. 田中重人の指摘
5. 政府の活動
- 5.1. 厚生労働省
- 5.2. 毎月勤労統計調査等に関する特別監察委員会
- 5.3. 統計委員会
- - 5.3.1. ベンチマーク更新時のギャップの検討
- - 5.3.2. 抽出率逆数に関する資料
- - 5.3.3. 時系列比較のための推計値
- 5.4. 厚生労働省の有識者懇談会
- 5.5. 厚生労働省「毎月勤労統計調査の改善に関するワーキンググループ」
6. 議論
- 6.1. 結果のまとめ
- 6.2. 公的統計と統計コミュニティの未来

【補足】
(1) 計算に使ったデータとスクリプト、および図にプロットしたデータは http://doi.org/10.17605/OSF.IO/RS8T7 から入手できます。
(2) 解説を https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20240319/24a に書きました。

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事典項目の執筆:「公的統計の利用」『家族社会学事典』丸善出版 (2023年12月)

日本家族社会学会 (2023)『家族社会学事典』(丸善出版) の項目「公的統計の利用」(146-147頁) を執筆しました:

田中重人 (2023)「公的統計の利用」日本家族社会学会『家族社会学事典』丸善出版 (pp. 146-147).  http://tsigeto.info/23k
ISBN:978-4-621-30834-9
出版社ページ: https://www.maruzen-publishing.co.jp/item/b305112.html

公的統計 (すなわち政府その他の公的機関が作成する統計) について、それを研究において利用するための原則と注意事項を、「公的統計の目的と目的外利用」「個人情報の管理と匿名化」「集計表」「メタデータ」の4項目をとりあげて説明しました。公開される集計を利用する方法と、ミクロデータを利用する方法 (日本の統計法の規定では匿名データ、調査票情報、あるいはオーダーメード集計) の両方をふくみます。

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日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法: 2020年の記録 (『文化』86巻3/4号)

日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対応を特徴づける用語である「クラスター」について、この用語の初出である2020年2月からおよそ1年間の用法の変遷を記述した文章を『文化』(86巻3/4合併号) に掲載しました。

田中重人 (2023)
日本のCOVID-19対応における多義語「クラスター」の用法: 2020年の記録
文化 86(3/4): 239-219, 208
http://tsigeto.info/23a
http://tsigeto.info/Tanaka-2023-Bunka.pdf (印刷版PDFファイル)

東北大学の機関リポジトリ TOUR https://tohoku.repo.nii.ac.jp で公開されるはずですが、9月18日まで新規登録が停止 (https://www.library.tohoku.ac.jp/news/2023/20230609.html) しているため、しばらくかかる見込みです。その代わりに、印刷版PDFファイルを http://tsigeto.info/Tanaka-2023-Bunka.pdf で公開しています。

 

【要約】
「クラスター」は、2020年初頭以降の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) への日本の対応を特徴付ける用語である。この用語の2020年2月から2021年1月までの用法を、政府文書やマスメディアによる報道などの関連文献から収集した。

その結果、政府と専門家が2020年2月末から3月上旬にかけてこの用語を使い始めたときには、すでに、ひとりから大勢への感染 (A)、拡大する可能性のある感染連鎖 (B)、1か所で生じる大規模感染 (C)、という3つの意味が共存していたことがわかった。その後、Aは姿を消し、BとCが残った。保健所による積極的疫学調査では、「クラスター」は一貫してBの意味である。一方、自治体は、すくなくとも2020年6月以降は、5人以上が感染したという具体的な基準で、意味Cを使用している。日本政府は、いったんはそれとおなじ意味で「クラスター」を使用するようになったが、その後、意味Bを併用するようになり、さらにCの意味を拡張して、4人未満の小規模な感染をふくめて「クラスター」と呼ぶ (意味C') ようになった。

このような用法の変化は、政府とそれに関連する専門家がCOVID-19に対応するためにとってきた戦略に潜在的な変化が生じたことを反映している。彼らは、COVID-19流行の初期段階においては、少数のスーパースプレッダーによる大規模感染に焦点を当て、それを「クラスター」ということばであらわしていた。しかし、流行が長期化する中で、対策の焦点は、小規模な感染の連鎖に移っていった。2020年7月以降、彼らは、日常的な活動 (特に飲食) の感染リスクを判断するために、小規模な感染の事例を「クラスター」と呼び、その情報を収集するようになった。そこでは、「クラスター」はもはや対策の対象となる脅威そのものを指すのではなく、脅威につながる可能性のある行動の情報を現場から集めるために便宜的に使うことばとなっている。

【目次】
1. 疫学における「クラスター」
2. COVID-19第1波: 「クラスター」概念の創出と拡散
- 2.1. 「クラスター」の登場
- 2.2. 積極的疫学調査における「クラスター」
- 2.3. 「集団感染」と「クラスター」
- - 2.3.1. 厚労省による「集団感染」「クラスター」の解説 (2月29日)
- - 2.3.2. 専門家会議「見解」(3月2日、3月 9日)
- - 2.3.3. 日本公衆衛生学会「クラスター対応戦略の概要」(3月10日)
- - 2.3.4. 厚労省「全国クラスターマップ」問題 (3月15日)
- 2.4. 第1波後半の二重構造
- 2.5. 第1波における3種の「クラスター」
3. COVID-19第2波: 「クラスター」の小規模化
- 3.1. FETP「クラスター事例集」
- 3.2. 小規模感染事例をふくむ「クラスター等」
- 3.3. 第2波における「クラスター」定義の変容
4. COVID-19第3波: 質的把握の重視
- 4.1. 「クラスター」事例ヒアリング
- 4.2. 「集団感染」の小規模化と会食への警戒
- 4.3. 複数感染事例としての「クラスター」定義
- 4.4. 緊急事態宣言と「クラスター」集計基準の再変化
- 4.5. 第3波における「場面」の質的把握
5. まとめ

【補足】
(1) 最初のページ (p. 239) 「10か月あ」と「まりを対象に」の間で改段落されていますが、これはまちがいで、本来はそのままつづいているはずところです。あとで何らかのかたちで訂正が出ると思います。
(2) 論文に盛り込めなかったことの補足を https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20230907/23a#diss に書きました。

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「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題 (『東北大学文学研究科研究年報』70号)

「3密」ということばが使われはじめてからちょうど1年。このほど、このことばの来歴と変遷をたどった文章を『東北大学文学研究科研究年報』(70号) に掲載しました。

田中重人 (2021)
「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題
東北大学文学研究科研究年報 70:140-116.
http://hdl.handle.net/10097/00130599
http://tsigeto.info/21a

【要約】
日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対応を特徴づける概念である「3密」「3つの密」について、その創出と変容の過程を調べた。政府・専門家による文書を探索した結果、つぎのことがわかった。(1) 換気が悪く、人が多く、近距離での接触があるという3条件すべてを満たす状況を回避すべきという提言が公表されたのが2020年2月29日。(2) これら3条件に「密閉」「密集」「密接」という名称があたえられ、まとめて「3つの密」ということばができたのが3月18日。(3) 3条件が同時に重なった場を「3つの密」と呼ぶ定義があたえられたのが4月1日。(4) 条件が1つでもあれば「3つの密」と呼ぶ定義に変更されたのが4月7日。(5) この定義変更について説明・広報はなく、変更後の定義にしたがうことが徹底されているわけでもない。(6) 3密回避の方針は従来と変わっていないとのメッセージが政府と専門家の文書にふくまれるため、定義変更があったことが一般的に認知されず、「3密」が何を指すかについての解釈に齟齬が生まれる結果になっている。

【目次】
1. 「3密」概念をめぐるコミュニケーション問題
2. 課題と方法
3. 資料からわかる時系列
- 3.1. 前史
- 3.2. 厚生労働省Q&A
- 3.3. 専門家会議3月2日「見解」
- 3.4. 「3つの条件が重なった場」
- - 3.4.1. 専門家会議3月9日「見解」
- - 3.4.2. 専門家会議3月19日「状況分析・提言」
- 3.5. 「3 (つの) 密」
- - 3.5.1. 首相官邸「3つの「密」を避けて外出しましょう」
- - 3.5.2. 「3つの密」から「3密」へ
- - 3.5.3. 専門家会議4月1日「状況分析・提言」
- 3.6. 緊急事態宣言と定義変更
- - 3.6.1. 対策本部3月28日「基本的対処方針」とその審議過程
- - 3.6.2. 諮問委員会4月7日会議
- - 3.6.3. 「基本的対処方針」4月7日改正
- 3.7. 「3密」と「ゼロ密」
- 3.8. 専門家の態度の変化
4. 議論
- 4.1. 「3密」の定義とその変遷
- 4.2. 政府は何を要請していたか
- 4.3. 科学的根拠
5. 結語

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Preprint 「「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題」

「3つの密」「3密」という概念が生まれて変質してきた過程について、 https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200921/3m で紹介した資料等を基にした論文を書きました。OSF Preprints でとりあえず公開しています:

Tanaka Sigeto. 2020. 「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題. OSF Preprints. October 3. http://doi.org/10.31219/osf.io/25ba6
(The Emergence and Modification of the Concept of "(Overlapping) Three Cs": A Problem in Public Communication in Japan's Coronavirus Disease (COVID-19) Response)

目次

1. 「3密」概念をめぐるコミュニケーション問題
2. 課題と方法
3. 資料からわかる時系列
4. 議論
5. 結語

 

要約

日本の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 対応を特徴づける概念である「3密」「3つの密」について、その創出と変容の過程を調べた。政府・専門家による文書を探索した結果、つぎのことがわかった。(1) 換気が悪く、人が多く、近距離での接触があるという3条件すべてを満たす状況を回避すべきという提言が公表されたのが2020年2月29日。(2) これら3条件に「密閉」「密集」「密接」という名称があたえられ、まとめて「3つの密」ということばができたのが3月18日。(3) 3条件が同時に重なった場を「3つの密」と呼ぶ定義があたえられたのが4月1日。(4) 条件が1つでもあれば「3つの密」と呼ぶ定義に変更されたのが4月7日。(5) この定義変更について説明・広報はなく、変更後の定義にしたがうことが徹底されているわけでもない。(6) 3密回避の方針は従来と変わっていないとのメッセージが政府と専門家の文書にふくまれるため、定義変更があったことが一般的に認知されず、「3密」が何を指すかについての解釈に齟齬が生まれる結果になっている。

The concept of "three Cs" (situations characterized by three conditions of closed space with poor ventilation, crowding, and close contact with a short distance) has played an important role in Japan's COVID-19 response. The government and experts have employed this concept to guide people in avoiding such situations in order to prevent outbreaks. To investigate the emergence and modification of this concept, the author traced government documents. The findings were as follows. (1) On February 29, 2020, the government, for the first time, appealed to the public to avoid places with the three overlapping conditions. (2) On March 18, a new Japanese phrase was coined that was later translated as "the (overlapping) three Cs." (3) On April 1, experts defined the term as a place that satisfied all the three conditions. (4) On April 7, the government modified the definition to include places with at least one of the three conditions. (5) However, the government and experts have not explained the difference between the two definitions to the public. (6) Rather, they insist that their policy on the need for avoiding these three conditions has been consistent and unchanged. Their conduct has led to miscommunication and misunderstanding among the public.

 

追記 [2021-03-19]

つぎのかたちで公刊しました:

田中重人 (2021)
「3密」概念の誕生と変遷: 日本のCOVID-19対策とコミュニケーションの問題
東北大学文学研究科研究年報 70:140-116.
http://hdl.handle.net/10097/00130599
http://tsigeto.info/21a

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感染症対策「日本モデル」を検証する: その隠された恣意性 (『世界』934号)

岩波書店発行の月刊誌『世界』2020年7月号 (=934号) の特集1「転換点としてのコロナ危機」に、つぎの小文を寄稿しました。

感染症対策「日本モデル」を検証する: その隠された恣意性
http://tsigeto.info/20b

本稿で「日本モデル」と呼んでいるのは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の2020年4月1日「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(第2回) に出現した用語で、「市民の行動変容とクラスターの早期発見・早期対応に力点を置いた日本の取組」をあらわすものです。

本稿では、その前提となった、少数の感染者がいわゆる「3密」の状況で大量の2次感染を起こすという想定を検証します。根拠となった2020年2月26日までの感染状況の分析結果と、専門家が改変して説明に使用してきたグラフを検討し、恣意的な仮定に基づいた解釈がおこなわれていたこと、別の仮定を置けば日本モデルは支持できなくなることをあきらかにします。(https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20200408/making などとほぼおなじ内容です。)

さらに、新型コロナウイルス感染症に関して、本件以外にも疑わしいデータが政策判断に使われてきたことを指摘し、第三者による批判・検証が可能な情報を公開するように主張します。

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7月21日(日)連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ 第4回「人口政策に組み込まれた「不妊」」(東京麻布台セミナーハウス)

「少子化対策」という文脈で実施される不妊〝治療〟支援。「妊活」だけでなく、近年では「卵子の老化」キャンペーンに煽られた「卵活」も生じています。不妊への不安につけこむ医療とその関連産業やメディア、早期の妊娠・出産を促す政治勢力の動きは、私たちの意識、行動、選択に何をもたらしているでしょうか? 仕掛けられた世界一の不妊〝治療〟大国ニッポン、その現状を探ります。


  • 日時: 2019年7月21日(日) 14:00 - 16:30
  • 会場: 東京麻布台セミナーハウス (大阪経済法科大学) 2階 大研修室
  • 参加費: 500円(学生・非正規雇用の方などは300円)
  • 当日参加も可ですが、準備の都合上、なるべく下記へお申込みをお願いします

プログラム

  • 報告1.鈴木りょうこ:科学・ビジネス・政治がつくり出す「生殖」市場
  • 報告2.柘植あづみ:「卵子の老化」と卵子提供によって子どもをもつこと
  • フロア討議

主催: 高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会

共催: リプロダクティブ・ライツと健康法研究会

勉強会案内URL:https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190517/seminar4

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5月11日(土)連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ 第3回「優生保護法の負の遺産」(東京麻布台セミナーハウス

「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とした優生保護法。合意のない強制的な不妊手術や中絶が、やっと可視化されてきました。

一方、優生保護法には母性の生命健康の保護というもう一つの目的がありました。堕胎罪がありながら中絶が条件付きで合法化され、その適用条件が拡大された背景にどんな社会状況や議論があったのかを探ります。

少子化時代の人口政策と優生思想について、過去と現在をつなぐ勉強会、ぜひご参加ください。


  • 日時:2019年5月11日(土)11:00-13:30
  • 会場:東京麻布台セミナーハウス (大阪経済法科大学) 2階大研修室
  • 参加費:500円(学生・非正規雇用の方などは300円)
  • 申込み:準備の都合上、なるべくお申込みをお願いします。当日参加も可。

プログラム

  • 報告1.柘植あづみ:引揚者の「不法妊娠」中絶問題と優生保護法の成立前夜
  • 報告2.大橋由香子:優生的な不妊化措置と、堕胎罪―中絶許可が意味するもの
  • フロア討議

主催: 高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会

共催: リプロダクティブ・ライツと健康法研究会

勉強会案内URL:https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190413/seminar3

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Preprint: Monthly Labour Survey Misconduct since at Least the 1990s (Tanaka S. 2019-03-05)

オンラインメディア『wezzy』記事 (2019-02-07)「「毎月勤労統計調査」は90年代以前から改ざんされていた? データ改ざんに甘い社会」をベースにした英語論文を公表しました。2001-2003にかけての誤差率の変動を分析したブログ記事 (2019-01-25)「捨てられていたサンプル: 毎月勤労統計調査2001-2003データの検証」の内容も付録としてつけてあります。

TANAKA Sigeto (2019-03-05) Monthly Labour Survey Misconduct since at Least the 1990s: Falsified Statistics in Japan. http://tsigeto.info/19m

This paper is based on a Japanese article published on an online media site wezzy. Its Appendix is based on a Japanese blog article by the author.

Abstract:The Monthly Labour Survey, which is one of the major economic statistics published by the Government of Japan, has been under criticism since January 2019 due to its negligent survey conduct and misinformation regarding its results. This paper approaches this scandal from a viewpoint of how the indicators of the quality of the survey were falsified and misreported. Based on published information regarding sample size and sampling errors, the author outlines three problems. (1) Since at least the 1990s, the survey’s sample size has been reported as larger than it actually was. (2) Since 2002, a significant portion of the sample has been secretly discarded. (3) Since 2004, the sampling error has been underreported by ignoring errors occurring in the strata of large establishments. These problems have escaped public attention as the government and academics are not critical of the falsification of basic information that determines the quality of the survey.

DOI:10.31235/osf.io/2bf3z(on SocArXiv)

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「毎月勤労統計調査」は90年代以前から改ざんされていた?: データ改ざんに甘い社会 (wezzy 2019-02-07)

厚生労働省「毎月勤労統計調査」をめぐる問題について、オンラインメディア『wezzy』に記事を書きました:

田中 重人 "「毎月勤労統計調査」は90年代以前から改ざんされていた? データ改ざんに甘い社会" https://wezz-y.com/archives/63479 (wezzy 2019.02.07)
・1990年代以前からの調査対象削減
・2002年以降の抽出率データ改ざん
・2004年以降の誤差率データ改ざん
・データ改ざんに甘い社会

記事で使ったデータは http://tsigeto.info/maikin/ に載せてあります。

この記事の抜粋と解説:
"データ改ざんに甘い社会で統計の信頼性を云々することの無意味さについて" (2019-02-08)  https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190208/wezzy

記事中の2番目の話題について、データと計算方法:
"捨てられていたサンプル: 毎月勤労統計調査2001-2003データの検証"  (2019-01-25)  https://remcat.hatenadiary.jp/entry/20190125/maikin2003
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連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ (第1回 4/1 東京)

「高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会」主催で、「少子化対策」にかかわる情報を検討、吟味していく勉強会を始めます。

<連続勉強会:「国難」のなかのわたしたちのからだ>
第1回:書き換えられる女のからだ――またも改ざん? 「女性の年齢と卵子の数の変化」グラフとその言説の検証

「妊娠しやすさは22歳がピーク」グラフのウソが暴かれた……と思いきや、政府・自治体・専門家により「女性の年齢と卵子の数の変化」というおかしなグラフが拡散されています。その隣には「卵子数の減少が妊娠しにくくなる原因」といった怪しい説や、「妊娠適齢期をふまえた」ライフプラン設計の奨めも…。

「22歳ピーク」グラフもそうですが、これは出典どおりのグラフに差し替えればOK、という単純な話ではありません。少子化対策が「結婚支援」を掲げて人口増加政策であることを自ら明らかにしたいま、国家権力はまことしやかに「医学・科学」を騙って、優しい顔つきでわたしたちのからだ、性、生き方に介入してきています。一緒に考えませんか。

日時: 2018年4月1日(日)14:00-16:30(開場13:30)
会場: 渋谷男女平等・ダイバーシティセンター・アイリス第1・第2会議室 (渋谷駅西口徒歩5分 渋谷区文化総合センター大和田8F http://www.shibu-cul.jp/)
参加費: 500円(学生・非正規雇用の方などは300円)

申込み準備の都合上、なるべく下記へお申込みをお願いします。(先着40名)

プログラム

司会: 柘植あづみ(明治学院大学教員)

報告1「巧妙になった新・高校保健副教材」西山千恵子(大学非常勤講師)
報告2「少子化をめぐる政策のその後の動きについて」皆川満寿美(中央学院大学教員)
報告3「ライフプラン冊子には何が書いてあるのか」田中重人(東北大学教員)
報告4「卵子数グラフの怪!――女性の人生は「卵」の数にあらず!」高橋さきの(翻訳者、お茶の水女子大学非常勤講師)

主催者・連絡先等

高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会
申込み・問合せ先: stopkyouzai* gmail.com
(* を @ に変更してお送りください)
協力:女政のえん

URL: http://d.hatena.ne.jp/remcat/20180321
ポスターPDF: http://tsigeto.info/misconduct/poster20180401.pdf
関連情報: http://tsigeto.info/misconduct/j.html
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「10歳の壁」の虚妄:箕面市「子ども成長見守りシステム」データから読みとるべきこと

昨年12月25日、 読売新聞社サイト YOMIURI ONLINE 「深読みチャンネル」に「「10歳の壁」から貧困家庭の子どもを救え」と題する記事が載りました: http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20171222-OYT8T50029.html

「Yahoo! ニュース」でも、年明けの1月7日に、おなじ記事が配信されました: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180107-00010000-yomonline-life

毎日新聞も、2017年12月30日大阪朝刊に「学力格差:「貧困」小4から 「学習・生活習慣、身につかず」 日本財団が箕面で調査」という記事を載せています: https://mainichi.jp/articles/20171230/ddn/041/040/019000c

これらの記事のもとになっている、箕面市の「子ども成長見守りシステム」データを使った日本財団の研究について、資料を集めて検討した結果、トンデモであるとの結論に達したので、解説します。

http://d.hatena.ne.jp/remcat/20180111/minoo


要点はつぎのとおり:

  • データをみるかぎり、貧困世帯の子供の「学力」は全国平均にくらべてやや低い程度であり、大きな格差はない
  • 貧困世帯の子供の「学力」が成長にしたがって低下するという解釈をデータから導くことはできない。むしろ、全国の児童生徒の平均的な傾向と同様に、貧困世帯の子供も順調に学力を伸ばしていることが、データからは示唆される
  • 「小学校4年(10歳ごろ)時に、家庭の貧富の差による「学力格差」が急拡大する」というのは根拠のないデマ
  • 経済状態による格差よりも地域間の格差のほうが大きそうである。このことを考慮せずに、特定の地域のデータの分析結果を一般化するのは非常に危険
  • 「学力」を測定しているとされる調査やそれを使って算出したスコアの測定・算出方法が不明であり、またその妥当性・信頼性・代表性が吟味されていない

「「10歳の壁」の虚妄:箕面市「子ども成長見守りシステム」データから読みとるべきこと」本文

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『学術の動向』22巻8号 (2017年8月) 記事「非科学的知識の広がりと専門家の責任: 高校副教材「妊娠のしやすさ」グラフをめぐり可視化されたこと」

日本学術協力財団の雑誌『学術の動向』22巻8号(=通巻257号) (2017年8月) に書いた記事「非科学的知識の広がりと専門家の責任: 高校副教材「妊娠のしやすさ」グラフをめぐり可視化されたこと」が J-STAGE (科学技術情報発信・流通総合システム) で公開されました。

http://doi.org/10.5363/tits.22.8_18

「「卵子の老化」が問題になる社会を考える―少子化社会対策と医療・ジェンダー」という特集の一部です。

この記事と特集、その元になった2016年6月18日の日本学術会議シンポジウム、そしてそもそも医学批判に私が首を突っ込むきっかけになった文部科学省作成の保健科目用副教材『健康な生活を送るために』(2015年度版)における「妊娠のしやすさ」改竄グラフ問題についてはすでに何度か書いているので、そちらもお読みください。

J-STAGEからこの記事の全文PDFファイルがダウンロードできます。それほど長い文章でもないので、お読みいただければ内容はわかると思います。今回は、たぶんあまり一般には理解されていないであろうポイントについて、重点的に解説します。

目次は以下のとおり:

  1. 「妊娠のしやすさ」グラフの大元の研究自体が、都合のよいデータだけを抜き出したものである
  2. ダメ論文は被引用状況からわかる
  3. 非公表の調査結果が政策・世論操作に使われてきた

つづきはこちらから →http://d.hatena.ne.jp/remcat/20171217

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ウィメンズヘルスリテラシー協会

「ウィメンズヘルスリテラシー協会」は、女性の健康についてのリテラシー向上を掲げて2017年7月に発足した一般社団法人です。9月28日に「ウィメンズヘルスリテラシーサミット」なるものを開くという告知が流れてきていますが、団体のウェブサイト等には、関係者や活動内容についての情報がほとんどありません。BuzzFeed がこの団体をとりあげた記事などを元に、この団体の正体を探りました。
http://d.hatena.ne.jp/remcat/20170920/whla
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【記事紹介】I LADY. 「新・女子力テスト」とニセ医学

『messy』というオンライン雑誌に記事を書きました。

I LADY. 「新・女子力テスト」とニセ医学:ジョイセフ×電通「粉かけ罰ゲーム動画」の背景

健康に関する質問を女性出演者にぶつけ、正解できないと粉をぶっかける「新・女子力テスト」宣伝動画なるものがYoutubeにアップロードされていた件に関連して、この記事では、この動画が宣伝する「新・女子力テスト」なるものの医学的根拠のあやしさと、その背後にあるジョイセフ (国際NGO) や産婦人科団体の科学的リテラシーの低さについて説明しています。

(1) 「模範解答」の出典のあやしさ
(2) 「先進国の中で最下位レベル」の根拠のあやしさ
(3) 繰り返される問題
(4) 「正しい知識」を得ることの困難

この記事に載せていないデータの一部は http://d.hatena.ne.jp/remcat/20161114 で解説しています。
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Slides: Dynamics of Ideology and Institution (3rd ISA Forum of Sociology 2016, July 11)

Date: 2016-07-11 (Monday) 10:45-12:15
Slides: 16x-slide.pdf (2016-07-11)
Handout: 16x.pdf (2016-07-11)

Title: Dynamics of Ideology and Institution: Probable Scenarios for Changes in Beliefs about Gender and Family in Japan

Author: TANAKA Sigeto (Tohoku University)

Abstract:

This paper put forward a proposal for elaborating ideology analysis. In parallel with development of empirical analysis to specify causality in the real social phenomena, we should develop methods for analysis of ideology to explore dynamics of what we perceive and think about the real society. Using them in combination, we obtain a powerful tool to foresee the future.

This paper proposes a framework of ideology-institution dynamics with causal modeling (IIDCM). IIDCM defines ideology as a system of interdependent beliefs classified into three categories: beliefs about facts (how the society is), about ideals (how the society should be), and about norms (what we should do). A feedback cycle is assumed as follows. We have beliefs about facts based on our observations of society. We have also beliefs about ideals as criteria to evaluate whether the social condition is good or bad. Such criteria and beliefs about facts jointly justify a norm to realize a better society. If the norm is institutionalized, it determines people’s action and brings social outcomes. And if we observe the social outcomes through empirical analysis, it will make changes in our beliefs about facts.

IIDCM theorizes relationships among ideology, institution, and people’s action. We can write a scenario and select the cast to predict social changes, using IIDCM as a basic framework. This paper takes an example of fertility issue in Japan. Political responses to low fertility in Japan since late-1980s have been too conservative to set ideological changes about gender and family. However, facing the population shrinking, the government (and people) are now seriously recognizing the necessity of drastic social changes. We can write probable scenarios, with the framework of IIDCM, according to what policy will be selected and how public opinion will change hegemonic ideology related to gender and family. (See http://tsigeto.info/iidcm/ for details)

Keywords: methodology, norm, policy, social change

Conference: 2016 Third ISA Forum of Sociology
Session Selection: Scenarios and Future Societies
Abstract URI: https://isaconf.confex.com/isaconf/forum2016/webprogram/Paper78902.html
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シンポジウム 「卵子の老化」が問題になる社会を考える (6月18日 東京)

【シンポジウム】少子社会対策と医療・ジェンダー ― 「卵子の老化」が問題になる社会を考える

日時:2016年6月18日(土)午後1時~5時(開場12時半)
会場:日本学術会議講堂 (〒106-8555 東京都港区六本木 7-22-34)
   東京メトロ千代田線「乃木坂」駅5出口より徒歩1分

参加費無料、参加申し込みの必要はありません、直接会場にお越しください。(先着300名まで)
f:id:remcat:20160406161656j:image

総合司会

河野銀子(山形大学教授、学術会議連携会員)

企画主旨説明・ファシリテーター

柘植あづみ(明治学院大学教授、学術会議連携会員)

研究報告

  • 田中慶子(家計経済研究所研究員) 「妊娠・出産をめぐる女性の意識 ― インターネット調査から」
  • 白井千晶(静岡大学教授) 「卵子提供で子どもをもった高齢妊娠女性への調査から」
  • 菅野摂子(電気通信大学特任准教授) 「出生前検査と高齢妊娠の不安と選択」
  • 田中重人(東北大学准教授) 「高校副教材『妊娠しやすさグラフ』をめぐり可視化されたこと」

問題提起・提言 

  • 阿藤誠(元国立社会保障・人口問題研究所・所長)
  • 早乙女智子(産婦人科医、京都大学・客員研究員)

コメンテーター

  • 江原由美子(首都大学東京・教授、学術会議連携会員)
  • 小浜正子(日本大学・教授、学術会議連携会員)

(敬称略)



主催:日本学術会議第1部会社会学委員会ジェンダー研究分科会
協力:日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究(B)「医療技術の選択とジェンダー:妊娠と出生前検査の経験に関する調査」(研究代表者 柘植あづみ 25283017)研究グループ(略称 妊娠研究会)
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吉村泰典「妊娠のしやすさ」改ざんグラフコレクション

22歳をピークとして「妊娠のしやすさ」が急激に低下する改竄グラフをつくったのが吉村泰典内閣官房参与 (慶應義塾大学名誉教授、日本産科婦人科学会元理事長、日本生殖医学会元理事長、吉村やすのり生命の環境研究所 所長) であることがはっきりしたところで、これまでに確認されている改竄グラフ5枚 (+高校副教材に載った1枚) の情報をまとめました。

→ 
http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160331/falsified
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高校保健副教材「妊娠のしやすさ」グラフの不適切さを検証

田中重人 (2016)「「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの:プロパガンダのための科学?」(特集 一億総活躍の中の男女共同参画:第4次基本計画を読む 『生活経済政策』230: 13-18) について、東北大学からプレスリリースを出しました:

「高校保健副教材「妊娠しやすさ」グラフの適切さ検証-人口学データ研究史を精査」
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/03/press20160330-02.html

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東北大学大学院文学研究科の田中重人准教授は、2015年の高校保健副教材 (文部科学省作成) の「妊娠のしやすさと年齢」グラフに関し、その元データを掲載した1978年の論文(1) とそれを引用した文献を網羅的に調べました。その結果、このデータは早婚の女性に限定して推定したものであり、結婚からの時間経過による性行動変化と加齢の効果とを混同している との専門家からの批判がある(2) こと、この批判への反論や再検証はないまま放置されてきたことがわかりました。また、副教材グラフは、原典の論文ではなく、それを不正確に写した別の論文からの曾孫引きであるために本来の値からはずれた曲線になっており、原典には存在しない「22歳がピーク」という印象 を作り出しています。このようなグラフを学校教材に採用するのは不適切と田中准教授は指摘しています。
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このプレスリリースに関する解説を http://d.hatena.ne.jp/remcat/20160331/pr に書きました。
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【論文】「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの

下記の論文を出版しました。

2015年8月、妊娠・出産に関する「医学的・科学的に正しい知識」をはじめて盛り込んだ保健副教材改訂版が高校に配布されました。その第20節「健やかな妊娠・出産のために」に載っていたのが、女性の妊娠のしやすさは22歳で頂点を迎え、そのあと急激に低下していく、という、加齢による減少を誇張したグラフでした。この論文では、このグラフ改竄事件の経過と、このグラフの元となった研究について、解説と評価を加えます。また、科学的研究への信頼と男女平等 (男女共同参画基本計画) に関して、この事件からえられる教訓を引き出します。

私たちが専門家を信頼できるのは、彼らは相互に厳しい批判を繰り返してダメな研究成果をふるい落としているはずであり、そのような淘汰の過程をくぐり抜けた確実性の高い知識について、誠実に解説してくれるものという前提があるからだ。今回の「妊娠のしやすさ」グラフ改竄事件から得るところがあるとすれば、このような信頼をおくことのできない専門家集団が実在するという事実を明るみに出したことであろう。
(p. 16)

目次:

  • 「妊娠のしやすさ」改ざんグラフ問題
  • グラフの来歴
  • 「医学的・科学的に正しい知識」の危うさ
  • 性差に基づく男女共同参画?

論文に関する情報:

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