研究ブログ

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気象業界とシングルボイス論

この件、ひっそりと成り行きを見守っていたのだが、晴れて新聞沙汰(?)となったようなので、ここにも私の考えをまとめておきたいと思う。私はいちおう気象学会員として毎年会費を払っているので、ちょっとだけ文句を言う権利もあるだろう。

放射性物質予測、公表自粛を 気象学会要請に戸惑う会員 (asahi.com)

福島第一原発の事故を受け、日本気象学会が会員の研究者らに、大気中に拡散する放射性物質の影響を予測した研究成果の公表を自粛するよう求める通知を出していたことが分かった。自由な研究活動や、重要な防災情報の発信を妨げる恐れがあり、波紋が広がっている。

オリジナルの文書は東北地方太平洋沖地震に関して日本気象学会理事長から会員へのメッセージであり、問題になっているのはいわゆる「シングルボイス」論。元の文書にこんな一節がある。

防災対策の基本は、信頼できる単一の情報を提供し、その情報に基づいて行動することです。

これが気象業界でたびたび話題となる「シングルボイス」論、つまり情報の発信源を一つ(=気象庁やその他の省庁)に絞ることで信頼性を確保するという論のポイントである。例えば気象庁長官も長官記者会見要旨(平成21年10月15日)において、繰り返しシングルボイスの重要性に触れている。この会見で問題となっている「台風18号上陸問題」については、私の主観的な視点からのまとめをデジタル台風:2009年台風18号(メーロー|MELOR)にもかつていろいろ書いた。要するに私の主張は、インターネットの発達によって情報の公開よりも情報の統制の方が問題視される時代において、シングルボイス論はかつての意義を失っているのではないかというものである。

確かにシングルボイスでないがゆえの混乱は起こりうる。しかし今回の大災害でも明らかになったように、ソーシャルメディア時代は誰もが情報の発信者であり、デマもすみやかに拡散して、いずれにしろ混乱するのである。シングルボイスという概念のみで制御できる古き良き時代はもう終わってしまった。だから、このような混乱を複数の信頼できる情報で抑えることの方が、むしろ今は重要なのだと私は考える。それなのに、上記のシングルボイス論はきちんとした検証もされずに、長年にわたって金科玉条のごとく唱えられてきた。果たして現代の国民はシングルボイスを歓迎しているのだろうか。今回の大災害でも、いろんな意見を聞きたいという声が世間にあふれているような気がするのだが。。

さらに、たとえ国内で情報を統制できたとしても、インターネット時代の国民は海外にも目を向けることができる。今回の災害でも、国民は結局ドイツ等の国外機関の放射性物質飛散シミュレーション結果から情報を得ているのである。そんな中で日本の研究機関が独自の情報を出すことをやめたとして、何か実際的な意味があるのだろうか。この状況は、気象庁の台風情報に加えて、米軍台風情報が根強い人気を集めている状況を思い起こさせる。国民の情報ニーズはもはや軽々と国境を越えていくのである。

気象業界は、古くから「天気予報が外れた」と文句を言われ、最近は「地球温暖化陰謀論」などでも苦い経験を重ねており、情報発信に慎重にならざるを得ない事情があることは理解できる。しかし、ソーシャルメディア時代に相も変わらず「シングルボイス」を奉じてきた気象業界の時代遅れ感が、今回の大災害で図らずもあらわになったのではないだろうか。この文書を読めば、国民が最も情報を求めているときに情報を出せない気象学会員は何のために存在しているのか、国民がその存在価値に疑問をもっても不思議ではないだろう。このような緊急時においては、もっと国民への情報発信という意味での貢献を前面に打ち出すべきだと私は考える。

なお今回の問題に関しては、気象学会だけに問題があるというよりは、シングルボイス論の呪縛と、それに名を借りた業界秩序構造の維持という点に根本的な問題があると私は思っている。気象学会が悪い、気象庁が悪い、そうした責任者探しでは問題は解決しない。いったんシングルボイス論を取り払った上で、インターネット時代の新しい情報伝達方法に英知を結集することが重要になるだろう。

とにかく、研究者としては、社会に貢献できる機会を自粛させられるというのは何よりつらい。この問題は研究者の存在意義にもかかわる重要な問題といえる。旧来の秩序にとらわれず、研究者の責任において成果をどんどん出せるようにしてほしいものである。

(以下追記、この問題に関連する記事を追加)

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福島第一原発周辺の風向マップ:シミュレーションと観測値の違い

前回の記事で紹介した福島第一原発周辺の風向きマップ(前回の記事以降に名称変更)はおかげさまで多くの方にご利用いただいています。ただ、前回の記事であいまいなままにしていたのが、シミュレーションと観測値の違いです。もちろんシミュレーションの風と実際の風は異なるわけですが、そんな一般的な注意書きだけでは大して参考になりませんので、実際にどのくらい違うのかをもっと定量的に比較できるようにしました。

デジタル台風:リアルタイムアメダス風向・風速マップ(Google Maps/グーグルマップ版)



これは基本的に気象庁のアメダスで実際に観測した風向・風速を表示するためのページですが、そこに数値気象予報モデルGPVから計算した同時刻の風向・風速を重ね合わせることで、シミュレーションと実測がどのくらい一致するのかを目で見て確かめられるようにしました。上記ページを開いたあと、レイヤ選択で「GPV風向・風速」を選択してください。これで両者を地図上で比較できるようになります。

この図を見るといくつかの点に気付きます。

第一に、内陸の風が弱いところでは、両者の風向は必ずしも一致しないという点です。弱風の場合は風向が様々な局地要因に左右されるため、むしろ「風が弱い」ということの方に意味があり、風向はあまり信頼できる観測値とは言えません。

第二に、山地において風向が一致しない場所があります。これは地形的な影響が考えられます。たとえば谷のような地形では、そこに吹きこんできた風は谷の方向に沿って吹き抜けていきます。そのような場所では地形的な要因の方が強いので、GPVで粗く計算した風向とは一致しません。ちなみにこれはシミュレーションそのものの限界ではなく、もっと細かい地形の影響をシミュレーションに入れれば、そのような風をある程度計算することは可能です。単にそれを日本全国(世界全体)でやるのは計算が大変過ぎて無理ということによる問題です。

最後に、強風の場所や海岸沿い(特に風上が海)の場所では両者の風向が比較的一致しているという点です。これは、強風になると地域ごとの細かい要因よりも全体的な空気の流れが支配的になること、また海面は凹凸が小さいために地形のような影響をうけにくいこと、などが考えられます。こうした地域では信頼できるデータとして利用できそうです。

風というのは非常に難しい研究対象です。まず高さによってその様相は大きく異なります。特に地面に接する高さ数十メートル以内の領域では、様々な周期の乱流や日射による上昇気流(サーマル)が大気の流れを複雑にしており、そのすべてをシミュレーションすることはほとんど不可能です。また、先述したような地形の影響だけではなく、地表面の影響(市街地か、農地か、森かなど)も、そしてもちろん天気の影響(晴れか、曇りか、雨か)も受けますので、考慮すべき要因がとにかく多いのです。

このような複雑な影響を軽減するためには地面から少し離れた高さの風を計測する方がよいので、世界気象機関では風速を計測する基準を地上約10メートルに設定しています。GPV風向・風速データが地上10メートルとなっているのも、これを意図したものです(ただし高さを正確に計算しているというよりは、むしろ象徴的な意味合いの数字ですが)。

ただ、アメダス観測所にしても、いつでも地上10メートルの高さに風速計を設置できるわけではありません。例えば都市部に設置されたアメダス観測所では、規則どおりに地上10メートルに設置すると、ビル風の影響を強く受けることがあります。これは山地において谷の方向に吹く風と似ており、ビルという「地形」の影響を受けた後の風向を測ってしまうことになります。それではいけない(その地域の風向を代表していない)ので、もっと高い場所に風速計を設置して地形の影響を軽減することになりますが、そうすると障害物が地上よりも少なくなるため、今度は風速が見掛け上大きくなってしまいます。「正しい」風速を測るのはいろいろ難しいのです。

このように、アメダス観測所は実測なのだから「正しい」、シミュレーションは「正しくない」というような単純な話ではありません。ひとまず、内陸における風は局所的な違いが大きいことを理解したうえで、GPV風向・風速データをお使いください。

なお予想データについては、上記ページでは見られませんので、福島第一原発周辺の風向きマップ(Google Mapsタイリング版)の方をご利用ください。私の方では、引き続きいろいろな気象データをまとめていく予定です。

関連記事:福島第一原発周辺の風向・風速を公開しました
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福島第一原発周辺の風向・風速を公開しました

すでに3月22日の公開から1週間が経過してしまいましたが、今回の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震・関東東北大震災)に対応したウェブサイトをご紹介します。

福島第一原発周辺の風向・風速(Google Mapsタイリング版) | 2011年3月 東北地方太平洋沖地震 - 国立情報学研究所



このサイトでは、福島第一原子力発電所を中心とした東日本の風向・風速をGoogle Maps上で一望できます。33時間先までの予報データも閲覧できますので、今後の風向なども把握することができます。

これには気象庁の数値予報モデルGPV (Grid Point Value)、すなわち天気予報のためのシミュレーション結果をまとめた生データを使っています。気象庁ではこのシミュレーション結果を読み解き、そこにそれぞれの土地の特殊な条件を加えた上で、各地の天気予報を発表しているのです。したがって、実測した観測値そのものではないものの、大きなスケールにおいてはそれなりに信頼できるデータであると言えるでしょう。

その他、地震に関連する情報は、2011年3月 東北地方太平洋沖地震関連情報に今後も集約していきます。まだまだ初期段階ですが、息の長い取り組みとして続けていきたいと思います。

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さて、今回の地震については、なかなかブログエントリーを書くことができませんでした。毎日毎日、地震に関する映像や情報が心に衝撃を与え、自分が咀嚼すべき情報もあまりに多種多様で大量、自分は何をどう整理すべきなのか、呆然と情報を消費する日々が続きました。そして、「自分はこれまで一体何をやってきたのか」という情けない気持ちを整理することもできませんでした。

私はこれまで、こうした緊急時の情報処理に貢献することを重要な研究目標の一つにしてきました。私の研究者としての社会貢献は、このような混乱した場面で社会に役立つ情報を迅速に出せるよう、日ごろから情報基盤を準備しておくことである、とも考えていました。そしてそれは、既にそこそこは整えてきたつもりでした。

しかし今回の地震で、私は迅速に動くことができませんでした。もちろん地震発生当日(=帰宅困難徹夜中)から対応は開始しました。しかし、何を対象とすべきか、システムをどう作るべきか、試行錯誤をする間にも容赦なく時間は経過していきます。10日も経ってようやく上記ページは完成しましたが、自分としては「10日でこの程度か、何もできなかったな。。」という落胆ばかりを感じます。専門家として迅速に有用な情報を発信することはできなかったのです。

★★★

ただし今回の地震からの復興は長期間にわたる戦いです。落胆ばかりしていてもしょうがありませんので、自分にもできそうなことは何かをいろいろ考えました。その結果、以下の点を中心に活動を進めていこうかなと考えています。

1. 気象データおよび放射線データの可視化

福島第一原発は今後しばらくの期間は放射線(放射性物質)の放出源となりますので、周囲の風向などの気象データ、および放射線モニタリングポストや浄水場での放射線観測値を知りたい方々がたくさんいらっしゃいます。この点に関して、私は幸いにも手元に気象データをたくさん持ってますので(デジタル台風)、データの可視化に何らかの貢献ができると考えています。上記の「風向・風速マップ」はその第一弾という位置づけです。

2. 自然言語文ジオコーディングソフトウェア(GeoNLP)の開発

自然言語文の地名を解析する処理は、被災地における情報の整理や統合に大きな役割を果たすと考えられます。もちろん緯度経度があれば地図には落とし込めるのですが、日常的に位置を示すために利用されるシンボルは緯度経度ではなく地名ですので、現場では多くの情報が地名で整理されることになると思います。しかし、単純な住所のジオコーディング(地名から緯度経度への変換処理)とは異なり、自然言語文には構文的な関係や意味的な関係が含まれますので、そうした依存関係まできちんと読み解いてジオコーディングをするのはなかなか大変です。そうした作業をサポートするソフトウェアの開発を実は昨年から開始していますが、予定を前倒しして早急にリリースしたいと考えています。

3. デジタル震災文庫の構築

今回の大震災は、未来の日本の行方を左右する、時代の転換点となる出来事です。3.11は「あの日の記憶」として語り継がれ、今後の日本の原点となるでしょう。したがって、この大震災をそれぞれの視点から再構築しつつ論じることが、未来の研究者の大きなテーマになります。また津波に関する研究だけではなく、被災者に関する研究や、デマに関する研究なども、今回の大震災のデータが基礎データとなります。そうした研究を可能とするためには、大震災に関するあらゆるデータを後世にきっちり残していくことが我々の責務です。

例えば神戸大学附属図書館は、阪神・淡路大震災の記録を震災文庫としてまとめています。ここの文庫の収集対象は阪神・淡路大震災資料の共有化をめざしてに、以下のようにまとめられています。

被災地での「震災や復興に関する記録や資料類(以下、震災資料)」の収集・保存・公開は、ボランティア団体、図書館、行政関係機関などがおこないました。収集対象となったのは、図書類だけでなく、ビラやチラシ、ミニコミ、ボランティアの記録ノート類など震災の一次資料、いわば、整理したり、まとめる前の素材となる資料からでした。神戸大学附属図書館も、1995年4月から従来は取り扱わないビラやチラシ、ニュースレター類の収集にも努め、震災文庫として、10月から公開をはじめました。人と防災未来センター資料室の資料は、同年10月からはじめた兵庫県の調査事業を基礎にしています。人と防災未来センター開館後の2002年4月から公開を開始してきました。現在も、神戸大学震災文庫や人と防災未来センター資料室以外にも、人・街・ながた震災資料室、震災・まちのアーカイブなどそれぞれの機関が、震災資料を保管しています。このように被災地では、さまざまな機関が独自に震災資料の収集、公開をおこなっています。

しかし今回の大震災では、これに加えて「デジタル震災文庫」が絶対に必要です。多くの資料がボーンデジタルで公開され、ウェブサイトに続々とアップロードされています。これらを早急に集めてアーカイブしていかないと、大震災発生直後の状況は永遠に復元できなくなってしまうのです。

阪神・淡路大震災の際も、地震直後に立ち上がった神戸大学のウェブサーバが世界中に情報を発信したことが語り草となっていますが、確かキャプチャ画像が残っているだけで、オリジナルページはどこにも残っていないと記憶しています。2011年の大震災では、さらに大きなスケールで、初期の記録が失われる事態も生じかねません(グーグルなどが保存してくれてるかな?)。

おそらくツイッターやブログなどだと大規模にアーカイブしている方々もいるでしょう(例えばANPI NLP:メインページ)。しかし同様に、もっと収集しにくい地方自治体や公共的なウェブサイトなども幅広くアーカイブする必要があります(まあ国会図書館が一応やってますが、収集頻度がアレなので。。)。そして「デジタル震災文庫」を継続的に成長させつつ、整理して検索可能とすることが、現代に生きる研究者の大きな貢献であると考えています。これはもちろん、一人で完結するような取り組みではなく、大きなグループで取り組んでいく必要があるでしょう。

その他、私も参加しているLinked Dataのプロジェクトによる、震災関連データの統合やOpen Governmentへの動きなども重要な課題になるかもしれません。このあたりはまだ検討中の段階です。

以上、自分でも何か貢献できそうなプロジェクトをまとめてみました。無力感を感じた日々もありましたが、まだまだ先は長い戦いですので、気を取り直して自分も息長く取り組んでいきたいと思います。

関連記事:イラン・バム地震7周年
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公開学習会「災害情報を防災に活かす」のお知らせ

来週になりましたが、3月9日(水)につくばで以下の講演をします。ご興味がありましたら、ぜひご参加ください。一般向けの内容として、台風情報をどのように見ればよいかというポイントをまとめる予定です。

以下、防災科学技術研究所のメールマガジンからの転載です。

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■□ 公開学習会『災害情報を防災に活かす』
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【続報】
★石川地磁気観測所長によるニュージランド地震の速報が急遽盛り込まれまし
たので,是非ご参加ください.
★当日,学習会の様子をUSTREAMで試験配信予定です.
http://www.ustream.tv/channel/nied-disasterprevention-2011
※機材の状況や通信環境によっては配信を途中で中止する可能性があります.

◆自然災害情報室では,防災知識普及の一環として,学習会「災害情報を防災
に活かす」を開催します.皆様のご参加お待ちしております.
http://dil.bosai.go.jp/library/gakushukai/110309/20110309.pdf

日時:2011年3月9日 13:50-16:50
場所:防災科学技術研究所 研究交流棟 第1セミナー室
主催:防災科学技術研究所 自然災害情報室
共催:ジオネットワークつくば
募集人数:60名(先着順)
参加費:無料
参加申込:こちらのフォームから受付,事前申込期限3/8(火)まで.
http://dil.bosai.go.jp/cube/modules/pico/index.php?content_id=112

FAXの場合はFAX:029-863-7811へお送りください.
申込用紙↓
http://dil.bosai.go.jp/library/gakushukai/110309/20110309.pdf

※どちらもお名前,所属,参加人数,連絡先をご記入ください.

★プログラム:
13:50 開演挨拶

13:55-14:40 水谷武司(客員研究員)
「最近の災害から防災の教訓を学びとる
−地域・地区の災害危険情報を活かそう−」

14:45-15:30 松村正三(研究参事・地震研究部) 
「茨城県に起きる地震」

15:30-15:45 コーヒーブレイク

15:45-16:30 北本朝展(客員研究員・国立情報学研究所 准教授)
「台風ウォッチング」

16:35-16:50 石川有三 (客員研究員・気象庁地磁気観測所 所長)
速報「ニュージーランド地震について」(仮)

問合せ:防災科学技術研究所 自然災害情報室
E-mail:library@bosai.go.jp <@を半角にしてください>
TEL:029-863-7635
FAX:029-863-7811

◆備考:
・講演前後には自然災害情報室閲覧室がご利用いただけます.
(開館時間9:30−17:15)
・当日の防災科研の食堂は利用可能です(オープン12:00−14:00,ラスト
オーダー13:30).また研究所から出たところにコンビニエンスストアがござ
います.
・防災科研を通過する路線バスの本数が少ないためご注意ください.

つくばセンター発テクノパーク大穂行き「防災科学技術研究所」下車
7:22,7:50,8:07,9:35,10:00,10:55,13:20,14:50???

防災科学技術研究所発つくばセンター行き
???14:24,15:44,17:24,17:54,18:49,19:34,20:54

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詳しくは「台風ウォッチング」サポートページをご覧ください。
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霧島山(新燃岳)噴火と気象レーダー画像

昨日の2011年1月26日から、霧島山(新燃岳)が噴火を始めました。半径2キロメートル以内は立ち入り禁止(噴火警戒レベル3)、宮崎県では降灰被害が広がっており、今後の状況が懸念されます。

この噴火による噴煙がレーダー画像で意外にも(?)くっきり見えましたので、ウェブページでも提供することにしました。

2011年霧島山(新燃岳)噴火と気象レーダー・気象衛星画像

リアルタイムで更新している画像も以下に貼り付けます。



今後、気象衛星画像やその他のデータもこのページに集約して、どういうことが可能か、いろいろ試してみたいと考えています。

火山噴火は長引くと数年以上にわたって影響が続く災害ですので、できるだけ早く終息することを願っております。
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イラン・バム地震7周年



2004年12月26日に発生した「インド洋大津波」から今日で6年というニュースを見て、そういえば「イラン・バムの地震」から今日でちょうど7年なんだなということを思い出しました。あまり知られていないかもしれませんが、奇しくもインド洋大津波の1年前の2003年12月26日、イラン南東部のバムを襲った地震も死者4万人以上という大きな犠牲者を出した地震です。そしてこの地震により、現在はユネスコの世界危機遺産に指定されているバムの城塞は、その大部分が崩壊して瓦礫と化しました(上記の写真は地震で崩壊する前のバム城塞)。

2003年当時、私が関わっているディジタル・シルクロードプロジェクトでは、偶然にもバム遺跡の修復にかつて従事していたイラン人の大学院生が研究を進めていました。自分自身も修復してきた遺跡が跡形もなくなっただけでなく、遺跡修復に従事していた同僚たちにも人的被害が及ぶなど、地震に大きなショックを受けていた彼女を見て、私は地震国の日本に住む人間として何かできないだろうかと考えました。そして1995年の阪神・淡路大震災のあと、当時はまだ目新しかったウェブサイトが神戸の様子を世界に伝え続けたことを思い出しました。すぐに自分たちでできることと言えば、在りし日のバムの姿を多くの人に伝えることで、バムの災害に関する人々の関心を高めることではないだろうか。私たちは協力してウェブサイトを立ち上げることにしました。

仕事納めの時期ではありましたが、災害には一刻も早く対応することが鉄則です。二人でメールを交わして相談しながら資料集めとウェブサイトの構築を進め、大晦日の12月31日、地震から5日後に、ひとまず公開可能なレベルのウェブサイトが完成しました。それがイラン・バムの城塞です。日・英・ペルシア語の3ヶ国語と格闘しつつ、紅白歌合戦を聞きながらウェブサイトを公開した瞬間を思い出します。

ウェブサイトでは全世界の方々に、観光でバムを訪れたときに撮影した写真を送ってくださいとお願いしました。とにかくバムは地震前の資料が十分ではありませんでしたので、今後の調査と復元を進めるためには、散逸する前にできるだけ多くの資料を集める必要があります。私たちの呼びかけはささやかなものでしたが、それでも世界各地の私も全く知らない方々から、数百枚の写真を集めることができました。中には親切にもビデオを送ってくださった方もいました。バムは一般には知名度の低い遺跡かもしれませんが、その分わざわざ訪れた人には深い思い出があるのでしょう。日干しレンガで作られた世界最大級の構築物として、バム遺跡は知る人ぞ知る遺跡だったのです。

さて、こうして集めた資料をもとに、プロジェクトでは遺跡の3次元復元を目指しました。もちろん実際の遺跡を物理的に復元できればよいのですが、それには時間もお金もかかります。その代わりに目指したのは、いわゆるバーチャルな復元です。CADとCGのソフトウェアを使いながら、人手で丹念に建物の3次元モデルを復元していきました。と言っても実際には大変な作業で多くの試行錯誤を要しましたし、多くの人々の協力を得る必要がありました。最終的には、イスラム建築専門家が全体の作業を指揮しつつ、建築に関する専門知識を元に資料不足を補うことで、重要な建築物に関しては3次元モデルの構築が完了しました。これをCGソフトウェアでレンダリングした結果がバーチャル・リアリティにある画像です。

次に、集めた資料をどう管理するかも課題となります。遺跡の復元といっても、単に3次元モデルを作るだけでは不十分で、3次元モデルがどういうものなのか(いわゆるメタデータ)を記録することも不可欠です。その建物は何なのか、建物のこの部分は何なのか、それはどのような資料に基づくのか、作成には誰が関わったのか、そうした情報間の関係も管理する必要があります。そこでSemantic Webの技術(オントロジーやRDF)に基づく知識管理システムを構築しました。それがBam3DCGです。このサイトの公開日は2008年12月26日。ちょうどバム地震5周年の日でした。

それ以後も、バムの3次元復元プロジェクトはゆっくりと進行中です。最近もBam3DCGに関する論文がBest Paper Awardをいただいたり、標高モデルと観光写真の重ね合わせによる簡便な3次元モデルの構築に関する論文(参照)などを発表しました。ただし、現在も3次元モデルの構築が完了していない部分は、手動でも自動でも構築が困難という厄介な部分で、その構築手法自体がチャレンジングな研究課題です。また地震に関する記憶も風化する中、日本(というか中心は米国ですが)とイランの関係が悪化するという問題も影響し始めています。

7年前の地震の日から突如として始まったバムプロジェクト。全体の目標から見るとまだまだ道半ばというところですが、息の長いプロジェクトとして地道に取り組んでいくことになるのかなと思う、今日この頃です。
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「いきものタッチャー」の紹介動画を公開

COP10におけるいきものタッチャーの展示については以前の記事で紹介しましたが、そのコンセプトや会場風景などを紹介する動画がこのたび完成しました。



今回は撮影から編集までお任せしましたが、さすがにプロの仕上がりという感じです。

さて、シナリオだけは私が書いたのですが、字幕は画面に表示できる字数が少ないので、いかに簡潔に言葉を選ぶかが問われますね。文章のクセで、接続詞のように前の画面の文章を受けるような言葉をついつい入れたくなりますが、これを入れると時間の流れが乱れてしまって(?)、字幕としては却って読みにくくなるような気がします。そんな失敗箇所もいくつか残っており、まだまだ経験が必要だなぁという感じです。

【関連記事】
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COP10生物多様性交流フェアで「いきものタッチャー」を公開

今週は名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されています。生物多様性に関する今後の方向性を決める会議として、多くの国・機関からの出席者が激しい議論を戦わせていますが、明日までの会期中に新しい枠組みで合意できるのかどうか、まさに大詰めを迎えているところです。

さて、そんな熱い議論の横では、ただいまCOP10併催生物多様性交流フェアという催しが開かれています。私はこちらの方に、データ統合・解析システム(DIAS)プロジェクトの一員として、東京大学保全生態学研究室の皆さんや東京大学生産技術研究所の方と一緒に出展しています。下のようなテントを1個借り切って、ここで10月23日から29日までの1週間、ポスターや標本などを展示しつつ来場者の方に研究内容を説明しているのです。



ここで展示しているマルハナバチとチョウの標本は特に見事です。マルハナバチの標本を見ると、羽はきれいに横に広げられ、舌は引き出され、トゲもきれいに引き出されています。実はこの標本を作った人は日本でも指折りの昆虫標本作りの名手で、この超絶技巧も長年の鍛錬の賜物なのです。昆虫マニアたちも絶賛するプロの技をぜひ見てみてください。


とはいえ、私がこの記事で宣伝したいのは、この素晴らしい標本ではありません。いきものタッチャー - バーチャルモニタリングで生物種の見分け方を学習しよう!という、このイベントを契機に作ったシステムの方です。このシステムの基本的なアイデアは、ゲーム形式を用いた種の判別のトレーニングです。DIASで進めている市民参加型モニタリングにおいては、市民の方々が種を正しく判別する能力を養成することが重要な課題です。例えば外来種の防除を目的とするセイヨウオオマルハナバチ監視活動では、外来種のハチ(セイヨウオオマルハナバチ)だけを捕まえて、在来種のハチを捕まえないことが重要です。そのためには、外来種のハチだけを素早く見分けることができなければなりません。

そこで思いついたのが、ICカードの活用です。ICカードの表面に昆虫の写真を貼り付けて、カードをつかむことを「昆虫を捕獲する」行為に対応させれば、実際に自分の手で捕まえた昆虫(カード)が捕まえるべきものなのかどうかを、ICカードリーダで素早く判定できることになります。そしてフィールドに複数のカードをばらまき、その中から対象となる写真だけをすばやく集めるゲームにすれば、種の判別という問題にも関心を持ってもらえるのではないだろうか。いわば「バーチャルモニタリング」として、バーチャルに昆虫を捕獲する行為の体験を通して、実世界での種の判別について学んでいくわけです。

実物の「いきものタッチャー」の様子を以下に示します。



こんな感じでテーブルの上に20枚のカードがばらまいてあり、この中に5枚だけ外来種のハチの写真があります。真ん中の円の部分がカードリーダーで、ここにカードをタッチすると、外来種か在来種かの判定がモニター上に出ます。もし外来種のカードだったら正解!右側の木の容器の中に正解カードを集め、5枚のカードが集まったらゲーム完了です。その代わり、5枚集める前に制限時間の60秒が経過したら、ゲームオーバーです。

実際にこのゲームを参加者の方々に試していただいたところ、「面白かった」とかなり好評でした。ただ「難しかった」という意見も多かったですが。。。








子供たちに「ゲームやる?」と聞くと「やるやる!」と答えて、急に真剣に昆虫を見つめ始めます。また、ゲームの開始とともに時計の「チクタク音」が響き始めると、参加者の眼差しは一段と真剣になり、まるでやる気のスイッチがカチリと入ったかのようです。残り時間が少なくなるとだんだん焦り始めて、手当たり次第にカードをタッチし始める人もでてきます。ですので、いくら5枚のカードを見つけたとはいっても、それだけで生物種の見分け方を理解したとはいえません。でも、ゲームに熱中した一瞬だけでも生物にはいろいろな種がいるんだということに関心を持ってもらえたら、このゲームの目的としては成功なのかなと考えています。

なおこのゲームには裏の仕組みがあります。実はICカードでタッチした記録は、すべてログとしてサーバにアーカイブしているのです。この記録を分析すれば、みなさんがどのような間違いをしやすいのか、どのような角度だと見つけやすいのか、などの知識が得られるかもしれません。つまり、ゲーム機はデータ収集機でもあるわけです。私としてはここに本当の興味があります。

また、ゲームのアーカイブを応用すれば、ゲームのリアルタイム中継とか、ゲームのツイッター中継なども可能になります。これを見ながら、「ああ今日は雨だからお客さんが少なそうだな。。」などと、私も東京から会場の様子を想像しています。

さて、こんな風にいろいろ紹介しつつも、実はフェアは明日までなのです。この記事を読んで会場に来られる方はほとんどいないと思いますが、明日の午後は私も会場のデモに加わりますので、よろしければお立ち寄り下さい。

さらに蛇足ですが、鋭い方なら既におわかりのように、このシステムはハチやチョウだけにしか使えないシステムではありません。ICカードに貼り付ける写真を変えれば、植物でも動物でも、あらゆる種の判別ゲームに使えるはずです。しかもシステムに使っている部品はトータル10万円以下で揃えられそうな部品ばかり(ただしゲームソフトウェアは除く)。ゲームソフトウェアさえうまく一般化できれば、何セットも制作して幅広く同時展開できるかもしれませんね。
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アウトリーチ活動紹介動画を公開

私が最近行ったアウトリーチ活動を紹介する、2本の動画を公開しました。

まず伊勢湾台風メモリーズ2009の紹介動画です(こちらは音が出ます)。

映像中に出てきたシステムは、伊勢湾台風メモリーズ2009(バーチャル版)でお楽しみいただけます。またResearchmapにも過去記事がありますので、詳しくはそちらをご覧下さい。

次に遷画~シルクロードの紹介動画です(こちらは仕様により無音です)。

イベントの詳細につきましてはDSRアウトリーチで報告していますので、詳しくはそちらをご覧下さい。

やはり研究成果を動画にすると迫力が違いますね。もちろんこれは制作者の方々の努力の賜物ではありますが、改めて映像の効果を認識しました。私の周辺では、インタラクションデザインの方々などは研究成果として映像制作が必須になるので、シンプルながらも的確な映像を自分で作れる上手な方々がたくさんいます。一方で私の場合は研究成果として映像が必須だったわけではないので、これまで「いいなぁ」と思いつつも手をつけていませんでした。しかし今回初めて自分で企画してみて素材収集の重要性にも気づきましたので、今後はそのあたりも意識しながら研究を進めていこうかと思っています。

ただしイベント記録動画では、肖像権が悩ましい問題となります。例えば2本目の動画では子供たちのいい表情をたくさん紹介していますが、これについてはイベントを開催したワークショップコレクションのポリシーにしたがって問題ないと判断しました。とは言え、若干の懸念がないとは言えません。

念のためいちいち全員から書面で了解を取ればいいのでは、という意見もありますが、インタビューならともかくイベントで多くの人が関わっている場合には、映像撮影後にOKの人とそうでない人を区別するのは困難です。結局のところ、人の顔を全く映さないか、識別できない程度にして全体風景を映すか、あるいは事前アナウンスで了解を得たものとみなす、ぐらいしか選択肢はないような気がします。今回は種々のファクターを考えて公開すると判断しましたが、私によい解決策があるわけではないので、今後もいろいろ勉強していきたいと考えています。
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「ペリオ敦煌図録解説」をオープンしました

ペリオ敦煌図録解説をオープンしました。



このサイトは、かの有名な中国・敦煌の莫高窟に関するポール・ペリオの調査(蔵経洞の写真)をまとめたペリオ敦煌図録に対して、敦煌研究院などの専門家が執筆した解説をリンクしたものです。中国語のテキストという点もあって、一部の専門家でないと価値がよくわからないコンテンツかもしれません。少なくとも専門外の私にとっては豚に真珠(?)という感もありますが、少なくとも専門家にとっては有用な資料集だと思っています。

さて、私としてこのサイトで興味があるのは、テキストそのものというよりは、こうした形態での学術出版の可能性です。このサイトでは、すべての解説は「東洋文庫所蔵」貴重書デジタルアーカイブという電子書籍や、中国石窟データベースというデータベースと、個々の項目レベルで密接に結びついています。もともとの紙の資料集と比べてウェブ版は使い勝手が大幅に向上しており、このケースでは研究成果のウェブ出版には大きなメリットがあるといえます。

データベースと密接に結びついた学術出版は、こうした資料集のほかにもいろいろ考えられます。ある物質に関する実験結果、ある場所に関する調査記録、ある概念に関するエッセイ。様々な種類のテキストが構造化されてデータベースと密接に結びついた形態は、今後の学術出版の一つの方向性となるでしょう。そう考えたとき、現在のいわゆる「論文」というフォーマットは、学術出版の形態としてどこまで有効性を保てるのでしょうか。それとも、もっと別のフォーマットがありうるのでしょうか?

ところで、わざわざ論文という形に整えたものを後から項目ごとにバラバラにして整理するぐらいなら、最初から「マイクロ論文」のように細かい単位で知見を積み重ねていくほうが、データベースとの親和性はよくなる気もします。140文字のツイッターが流行していますが、論文の世界にもマイクロ化は広がっていくでしょうか?
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