研究ブログ

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「伊勢湾台風高潮データベース」と「鉛直台風」をオープン

伊勢湾台風で浸水した鍋田干拓地

本日は二つのウェブサイトをオープンしました(お知らせ)。

  1. 伊勢湾台風高潮データベース
  2. Vertical Typhoon(鉛直台風)
この記事では、主に「伊勢湾台風高潮データベース」の方を紹介したいと思います。

このサイトは、間もなく50周年を迎える伊勢湾台風の高潮災害を振り返るために、伊勢湾台風によって発生した高潮関連データをまとめてデータベース化することを目的としています。被災直後に撮影されて図書館に眠っていた空中写真や、1961年に発行された報告書などの歴史的な資料をデジタル化し、現代の地図と重ねられるようにしました。こうして完成したのが伊勢湾台風高潮データベース、そしてデータを地図で検索できる「伊勢湾台風高潮マップ」です。

上の航空写真は、伊勢湾台風高潮マップで検索した「鍋田干拓地」の被災直後の様子です。この「鍋田干拓地」は伊勢湾台風で最も被害が甚大だったと言われる場所で、台風襲来当時の入植農家164戸はすべて全壊流失、33戸では家族が全滅、入植者318名中の133名が死亡するという惨事となりました(伊藤安男著「台風と高潮災害ー伊勢湾台風ー」2009より)。犠牲者の多くは若い入植者や新婚早々の女性で、新しい地でこれから農業を始めようと張り切っていた人々が犠牲になりました。上の航空写真を見ると、海側の堤防(写真では下側)がほとんど残っておらず、ズタズタに引き裂かれていることがわかります。この堤防の切れ目から、高さ4メートルの高潮がどっと流れ込んだのです。

現在の鍋田干拓地(2009年)

災害後は鍋田干拓地の復旧も進み、現在も農地として利用されています。災害の教訓を生かして現在の鍋田干拓地は巨大な堤防で囲まれており、もはや台風の高潮による災害は過去のものとなったかもしれません。しかし巨額の費用を考えると、すべての場所にこれだけの分厚い堤防を作ることは難しいでしょう。

伊勢湾台風から50周年を迎え、その土地で起きた過去の出来事の記憶を新たにするのに、「伊勢湾台風高潮データベース」が活用できればと思っています。

なお宣伝ですが、このデータベースを活用したイベント「伊勢湾台風メモリーズ2009」を、9月12日(東京)と9月23日(名古屋)で開催します。詳細については一つ前のエントリ伊勢湾台風メモリーズ2009をご覧いただき、お越し下さい。なお防災科学技術研究所が併催する講演会台風災害を見る聞く学ぶの方は事前申し込みが必要です。
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伊勢湾台風メモリーズ2009



1959年9月26日、この日は「伊勢湾台風で大災害が発生した日」として多くの人の記憶に残る日となりました。あと1ヶ月余りであれから50年が経ちます。これを機会にあの日の記憶をもう一度呼び起こして、次の世代に伝えていこう、そんな動きがあちこちで始まっています。8月31日からは伊勢湾台風を題材にしたテレビドラマ「嵐がくれたもの」も始まります。

そんな動きの一つとして、私も下記のイベントを9月に開催します。しかも、東京会場と名古屋会場を巡回する(?)という豪華版でお届けします。

伊勢湾台風メモリーズ2009

  1. 9月12日 東京会場(日本科学未来館)(防災科学技術研究所と併催)
  2. 9月23日 名古屋会場(名古屋都市センター)
このイベントの目的は二つあります。

第一に、伊勢湾台風の災害を象徴する高潮を「実寸大」で再現するということです。みなさん、伊勢湾で未曾有の大災害を引き起こした「4メートルの高潮」って、実感を持って想像できるでしょうか?数字というのは抽象的なので、「へー、そんなものか」という以上の実感を持つことはなかなか難しいでしょう。でも自分の身長と比べてみたらどうでしょう?あなたは4メートルの高潮に耐えられますか??

第二に、これは名古屋会場で開催することの意義でもあるのですが、伊勢湾台風の実体験者の記憶を残したいということです。データを基に伊勢湾台風の高潮を再現したとしても体験できることには限界があり、それ以上の部分を想像するには実体験者の方の記憶が重要になってきます。しかし今回は50周年です。節目の年であると同時に、体験者の方の高齢化も進みつつあります。後世に向けて伊勢湾台風の記憶をネット上にアーカイブするなら今しかないのではないか、そんなことも考えています。

ちなみに今月は、台風8号による大雨の影響により、台湾では奇しくも1959年8月以来50年ぶりという大災害が発生しました。災害の要因は高潮と大雨とで異なりますが、台湾ではこの台風が「伊勢湾台風」に相当する存在として、長期間にわたって人々に語り継がれるのではないでしょうか。まだまだ大規模な災害が起こりうる世界であることを忘れてはならないでしょう。

高潮とはどんなものか、それを実感できるとともに、伊勢湾台風の記憶を新たにするイベントにできればと思っています。
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皆既日食まであと1ヶ月!



今年最大の天文イベントである皆既日食が、いよいよ1ヵ月後の7月22日に迫りました。東京では残念ながら部分日食しか見ることはできませんが、鹿児島の屋久島やトカラ列島まで足をのばせば、数分間の皆既日食を見ることができます。もしかすると、鹿児島や小笠原、もしくは中国まで足を延ばして皆既日食を実際にご覧になる方もいらっしゃるのでは?うらやましいです。。。皆既日食を見ると「人生変わる」そうですから、私も一生に一度は見たいものです。

ただ今回については、私は皆既日食を、地上からではなく宇宙から見ることにしました。とは言っても、宇宙船に乗って宇宙に行く、というわけではありません。その代わりに、宇宙空間を飛んでいる「眼」を使うのです。

上に示した画像は1998年8月22日の金環日食の際の気象衛星「ひまわり」画像です。よく見てください。地球上を左上から右下まで横切る、丸い黒い物体(?)が見えるのではないでしょうか。これが月の影によって地上が暗くなっている範囲、つまり地上で日食が見えている範囲を示しています。もちろんこの円の中心付近がもっとも皆既日食に近くなるわけです。天気予報でおなじみの気象衛星「ひまわり」で、実は日食観測を見ることができるなんて、ちょっと意外ではないでしょうか。

今回の日食でも2009年7月22日の皆既日食というページで、気象衛星画像の上を動く日食を観測しようかなと考えています。また上記ページでも取り上げたのですが、実は皆既日食帯の中にはいくつかのアメダス観測所がありますので、昼間に急に暗くなったり、気温が下がったり、という現象がもしかすると観測できるかもしれません。もちろん、晴れたら、なんですが。。。

ということで、もちろん現地に行くのがベストなのですが、私は東京から宇宙経由で皆既日食を見守りたいと思います。せっかくの貴重な皆既日食ですから、地球の大気の方もぜひ空気を読んで(笑)、ここは快晴にしてほしいものです。
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「台風メモリーズ」イベント報告ページ開設



今日はNIIオープンハウス初日でしたが、このところの連続ウェブサイトオープンの最後を飾る(?)ものとして、オープンハウス直前にオープンしたページを記録しておきます。これは、台風メモリーズという活動の一環として行ったイベントをまとめたページです。

日本科学未来館でのイベント(2009年3月29日)報告 - 台風メモリーズ

これまでにもご紹介したように、私は台風情報をウェブサイトを経由して提供しています。ただしコンピュータの小さな画面で見るよりは、自分の体よりも大きな巨大なスクリーンで見るほうが、より強い印象をもってデータを見ることができるでしょう。そのような試みの一つとして、日本科学未来館の部屋を一つ借り切って、一般の方々を対象としたイベントを開催したのです。

その詳しい内容については上記のページにまとめましたので、ここでは省略します。イベントの成功についての評価は微妙なところではありますが、少なくとも来場者の方にも楽しんでいただけましたし、私にも良い体験になったことは確かで、今後の発展を考えるきっかけとはなりました。

今年は伊勢湾台風50周年ということで、特に名古屋周辺を中心に伊勢湾台風の記憶をもう一度確かめようという機運が盛り上がっています。伊勢湾台風という日本の災害対策を根本的に変えた台風の記念すべき年に私も何か貢献できないだろうか、例えばこんなシステムを名古屋で実演してみたらどうだろうか、など、今後の展開をいろいろ練っているところです。ご協力してくださる方がいらっしゃれば、ご一報くださいませ。

オープンハウスは明日も引き続き開催ですので、皆様ご来場下さい。
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「Vertical Earth」をリニューアルしました



今日はいろいろなサイトを更新しましたが、中でも大きな更新は「Vertical Earth」のリニューアルです。

Vertical Earth - 地球システムの鉛直構造を統合した地球情報ポータル

これはVertical Earthプロジェクトの中心となるサイトで、先日公開した南極GISと同じプロジェクトとして進めているものです。地球科学データの統合という観点から、特にGIS的なレイヤの重ねあわせ(鉛直的な統合)と、ウェブサービスを活用した複数のデータベースの統合(水平的な統合)に着目して研究を進めています。

このサイトは、実はこれまでかなり派手めなデザインだったのですが、研究者向きとしてはちょっと派手すぎ(?)という感じもあったので、リニューアルを機に落ち着いたデザインに変えてみました。

また、デザインをリニューアルしただけでなく、現在のメインコンテンツの一つである「GPV Navigator」も、リニューアルによって使いやすくなりました。

GPV Navigator

こちらは、天気予報にも利用されている大気の数値データを閲覧するためのインタフェースとして作っているもので、鉛直方向、時間方向、変数方向に簡単に移動しながらデータを閲覧できるように工夫して作っています。画像を取り置きして比較できるなど、Ajaxをうまく活用したサイト(というか苦労して活用しているサイトと言ったほうがいいか。。。)なので、ぜひ見てみてください。上の図は、今日の、全世界の、上空(500hPa)面の湿度を可視化したものです。

ただ今日の時点では公開を見送った別のサービスもあります。これらは、明日からのNIIオープンハウスで来場者の方にはご説明する予定ですので、オープンハウスの方にもぜひお越し下さい。
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「中国石窟データベース」を公開しました



このところ、毎日のようにウェブサイトをリリースしていますが、今日もまた新たに一つ新しいサイトをリリースしました。

中国石窟データベース

これはディジタル・シルクロード・プロジェクトの一環として進めていたプロジェクトですが、特に専門家の方々にはなかなか使えるデータベースになっています。

例えば、石窟を調査する際の問題として、同じ石窟にいろいろな人が勝手に(?)番号をつけているために、同じ石窟に複数の番号がついていて混乱する、という問題があります。これは特に、複数の資料を参照する時に問題になります。資料Aで1番と書いてあるものが資料Bで1番と書いてあるものと、同じとは限らないわけです。

そこでこのデータベースでは、まず便宜的に統一的なIDを付与し、そこに従来の種々の番号をマッピングすることで、複数の番号体系を統合して使えるようにしました。こうするメリットは、資料をまたいだ横断検索が可能になる、ということです。例えばある石窟に関する図版を含むページを横断的に検索する、ということがようやく可能となりました。

例えば、 敦煌莫高窟第17号窟に関しては、『東洋文庫所蔵』図像史料マルチメディアデータベースに、この石窟に関するデジタル化された図版が121枚ある、ということが簡単に一覧できます。これは専門家にとってはかなり便利な機能ではないでしょうか。

ま、一般的には「なんだそれ?」という感じかもしれませんが、専門家からはかなり待ち望まれていたデータベースです。他にも統合できるデータがありますし、中国の研究機関とも協力しながら、今後もさまざまな方向に発展させていけるのではないかと考えています。
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「南極GIS」を公開しました



先週(6/2)のことになりますが、国立極地研究所で、通称「南極GIS」がオープンしました。

情報・システム研究機構 新領域融合研究センター GISポータルサイト

これは私が研究サブリーダを務めている鉛直地球ポータルサイトの一環として、国立極地研究所を中心に長年開発を続けてきたものですが、このたび晴れて一般公開となりました。このサイトの目的は以下のように紹介されています。

このサイトは、国民のみなさん、NPO、行政、企業、研究者などのみなさんが、身近な情報として南極に関する地図情報として見て頂き、生活や活動にご活用して頂くことを目的として公開しています。 

南極に関する地図情報は、これまで紙地図として保存されてきましたが、もはや紙地図では多くの人のニーズに応えられなくなりました。そこで、こうした紙地図をデジタル化するだけでなく、他の衛星画像や航空写真などと重ね合わせて分析できるようにすることで、今後の活用への道を開いていきたいと考えています。

ここで提供されているデータのリストは、

  1. 航空写真
  2. 垂直写真
  3. 地形図
  4. 海底地形図
  5. 地質図
  6. 写真図
  7. 衛星写真図
  8. 標高モデル
などとなっており、ややマニアックな(?)データではありますが、これから利用方法なども折に触れて紹介していければと思います。

なお鉛直地球ポータルサイトの方も今週にはリニューアルを予定しています。
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「3次元デジタルアーカイブ」を公開しました

小ネタですが、昨日新しいページをオープンしました。

3次元デジタルアーカイブ - バーチャル・リアリティ、バーチャルワールド、Google Earth | ディジタル・シルクロード

このページは、ディジタル・シルクロード・プロジェクトで進める様々な3次元デジタルアーカイブ関係プロジェクトの進行状況をまとめたものです。それぞれのプロジェクトは、他のデジタルアーカイブプロジェクトに比べるとこじんまりしたものですが、それなりに多様な試みをしていることが伝わるとよいかな、と思っています。

今年は当研究所のオープンハウスがSecond Life内でも開催されますが、本プロジェクトでもこのSecond Lifeオープンハウス会場の近くに、石窟を一つ建設しております。上記ページではこの石窟のデモビデオも見ることができます。

ただ、バーチャルワールド上でのオープンハウスだけではなく、ぜひリアルワールドの方のオープンハウスにもお越し下さい。開催は6/11(木)~6./12(金)です。皆様をお待ち申し上げております。
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「DSRアウトリーチ」を公開しました



昨日になりますが、「DSRアウトリーチ」というサイトを公開しました。

DSRアウトリーチ

これは、遷画~シルクロードというウェブサイトを中心にした、ディジタル・シルクロード・プロジェクトのアウトリーチ活動を報告するページです。

今年の3月20日から21日にかけて、日本科学未来館でイベント展示を実施し、このシステムを一般の来場者の方々に体験していただきました。その時の写真やビデオなども掲載しています。

けっこう驚いたのは、小学生のお子さんが、こちらで説明もしないのにスイスイとシステムを使いこなしていたこと。これはコンピュータシステムに対する「勘」が養われているからこそできることです。もちろん日本科学未来館というやや特殊な場でしたので、もともとこの種のシステム(ウェブサイト)に勘が鋭い子が多かったのだとは思います。

もう一つの発見だったのが、「課題発見力」に差があったこと。このウェブサイトで楽しむためには、何をやるかという目標を自分で決めなくてはならないのです。そういう目標をさっと決めて自分の目標に向かって一直線でまい進する子供たちもいれば、なんとなく目標を決められずに終わってしまう子供たちもいました。もちろん後者にあてはまる子供たちの方が多いのですが、前者の子供たちにはかなり頼もしさを感じました。

本当に子供たちの間で違いが出てくるのは、この「課題発見力」かもしれませんね。「コンピュータシステムに対する勘」は、ゲームなどである程度は養えますし、それがないとその先の段階には進めないという基礎的能力ではありますが、さらに自分独自の関心を意識して「課題」をさっと見つけるというのはなかなか難しいことで、これを自発的に進めていける子供たちは、将来有望な科学者の卵たちかもしれません。

みなさんも遷画~シルクロードにアクセスして、画像集めという遊び方における「課題設定力」を試してみてください。自分なりのテーマをうまく見つけられたでしょうか?またこんなシステムを使ってワークショップをやってみたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひお知らせ下さい。

なおDSRアウトリーチのサイト構築には、Researchmapと同様にNetcommonsを使っています。
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2009年台風シーズン始まる

台風200901号

こちらのブログへの書き込みが遅くなってしまいましたが、2009年の台風1号が5月3日に発生しました。今年もいよいよ台風シーズンの始まりです。デジタル台風のブログの方ではすでに情報の更新を始めています。

さて、このページでは右側にブログパーツを表示していますが、こちらにも最新の台風情報が表示されるようになりました。今年はいきなり台風2号まで発生しましたので、台風1号と台風2号の情報を切り替えながら見てください。特に「リポート」機能はわざわざ本物の役者さんにお願いして、台風の強さに応じた演技(?)をしていただきました。さて、猛烈な台風が発生したとき、彼は一体どうなってしまうのでしょうか。。。

今後、台風1号は小笠原諸島、台風2号はフィリピンに影響を与える可能性がありますが、より詳しい情報はデジタル台風または台風前線にアクセスしてみてください。

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