研究ブログ

国立女性教育会館・NWECの内閣府移管に伴う問題点

昨年2022年6月以降、山川菊栄記念会の世話人として厚生労働省に対して、初代局長を山川菊栄が務めた労働省婦人少年局等作成資料(旧・女性と仕事の未来館保管)の譲渡先を、この国が初めて開始した女性の人権にかかる政策の歴史的証左として国立公文書館移管とするよう要望行動を行った。日本学術会議の歴史とジェンダー分科会でも参考人として途中報告をした。

結果は大方の人が思うように国立女性教育会館・NWECへポスターやパンフレット、調査報告資料など約4000点が寄贈となった。しかし、私個人は、民主党仕分けで閉鎖となった前掲の未来館と対照的に何とか生き残ったNWECの未来像に、一抹の不安を覚えていた。その不安は現実のものとなった。

去る12月13日に読売新聞と埼玉新聞がNWECの年度内閉鎖を報じた。

埼玉県内に一部機能を移転し全国に300以上ある男女共同参画推進センター等施設のナショナルセンターとして内閣府が所管し、女性活躍に資する官民対象の研修プログラムを提供していくというのが主旨であった。のちに「年内閉鎖」は誤報とわかったが、1月の通常国会に内閣府から改正法案が提案される。それに先立つ検討会の議事録も内閣府サイトに公開されている。

国立女性教育会館は、1977年に宿泊施設を伴う国内外の「婦人教育」等の研修施設として開館した。国連婦人年1975年から間もなくの誕生で埼玉県嵐山の広大な敷地に立った国の象徴的なハードだった。その後自治体では、県立として神奈川県立婦人総合センターが1982年、公設民営として横浜市の横浜女性フォーラムが1988年、先鞭をつけて開館した。筆者はこの横浜女性フォーラム開館準備を含む横浜市の女性関連施策担当だったので、NWECに宿泊経験がある。80年代後半そのホールでは国連関連の国際会議の開催もあり、最も運営に花があった時期と記憶している。

その後の活動で膨大な図書・資料をライブラリに、そして女性史資料をアーカイブに蓄積している。いまのところ内閣府はアーカイブの保全は考えているが、図書資料は未定とのことである。

このようなNWECの内閣府移管に伴う問題点として以下にまとめてみた。

この問題は、独立行政法人として運営されている研究組織の将来的な統廃合にも起こりうることだと思われる。稼げない学術はいらないという姿勢が明確な国になってしまっているいま、各方面の議論の参考にしていただければ幸いである。

1. ハードとしてのNWEC

(1)昨年度の補正予算でNWEC外壁工事費が内閣府についている。理由として地域の災害時の緊急避難施設となっているということである。そうだとすれば、将来的にも防災上必要なハードではないのか。


(2) NWECは、PFIという民間との長期契約でハードの運営権は地元の企業がもっている。所有権は国(独立行政法人)。その契約は、2025年まで。PFIという国が効率的という手法を用いても国民負担換算では約5億円という数字がでている施設である。
一方、NWECが公開している令和4年度財務諸表(R4年4月からR5年3月)に

「 Ⅵ.資産除去債務関係 埼玉県から借用している土地(会館敷地等)の返還時において、不動産賃借契約に基づき必要となる 原状回復に係る債務及び石綿障害予防規則等の規定に基づく建物のアスベスト除去義務に係る債務を 有しているが、当該債務に関連する賃借資産の使用期間は明確でなく、また、将来会館を取り壊して移 転する予定もないことから、資産除去債務を合理的に見積ることができない。そのため、当該債務に見合 う資産除去債務を計上していない。 」p11、赤字は筆者。

と書かれている。つまり、埼玉県から借りている土地の期限ははっきりしていない、ハードをこわして移転する予定はないと明記している。この昨年度末の財務諸表の文言を額面通り受け止めるとすれば、恒久的にハードは存在すると読める。

しかし、このハードの扱いという難問であり官僚の手柄にはまったくならないマターが、文科省と内閣府の谷間に落ち込んだままになる恐れも大いにある。つぎに述べるライブラリ・アーカイブの保存の必要性から、現状ハードの確保を強く要望する。


2.NWECのライブラリ・アーカイブについて


(1)図書、資料、アーカイブ資料の保全~「ジェンダー平等ナショナルライブラリ・アーカイブ」へ

アーカーブの保存する資料の年代域は明治期以降昭和までとなっており、酸化の恐れや鉛筆書き資料によっては文字消滅の危険性がある。保存には温湿度の空調設備、定期的燻蒸などそれなりの予算がかかる。中途半端に移転した場合、責任ある保存活用に不安が大いに残る。

上記ハードの問題点から考えると、現施設で「ジェンダー平等ナショナルライブラリ・アーカイブ」(仮称)としての保存活用をこれまで通り維持しながら、予算をつけていくことが最もリーズナブルな解決策である。

また、全国の受け入れ先のない女性史資料が問題化してきているなか、その受け皿としても期待できる。


(2)NWECサイトから提供している各種データベースや女性デジタルアーカイブシステム(下記参考一覧)の継続公開

冒頭に述べた、昨年の厚生労働省が主導した旧労働省婦人少年局関連資料の譲渡事業においても、WEB公開中の同資料のデジタルデータである「行政データベース」の保全については当初全く考慮されておらず、公開停止となる恐れがあった。国内のみならず海外の研究者も引用利用しているデータベースである。そのため山川菊栄記念会では継続公開要望を数度行った。(今年6月に女性労働協会サイトで再開を確認ずみ。)

(1)のようにライブラリとアーカーブの一体保存活用の継続が必要なのは、現在NWECサイト上で提供されている以下のようなデジタル情報の一体性からも言えることである。NWECサイトから公開されているすべてのデジタル情報の保全提供サイトを確保する必要がある。


(3)人的資源の確保

現在NWECサイトでは、情報課職員の採用が3年雇用の正規と半年のパートと出ている。現状の体制を「ジェンダー平等ナショナルライブラリ・アーカイブ」(仮称)に拡充していけるよう、人員と予算の配分を傾けていただきたい。

以上

 


<参考>
NWECデータベース一覧を転記
https://www.nwec.go.jp/database/list/index.html


赤字は山口追記

 

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日本国憲法の男女平等条鋼に尽力したベアテ・シロタ・ゴードン書簡資料を含む。また、デジタルアーカイブには掲示がないが、現在展示中の旧女性としごと館保管の労働省婦人少年局等作成資料約4000点は、昨年厚生労働省から譲渡を受けたばかりの資料群である。
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