ブログ

聖書外郭のキアスムス➂

通常は聖書の正典としてみなされないダニエル書補遺「ベルと竜」やⅡマカバイにもキアスムスがみとめられる。以下は、ダニエル書補遺「ベルと竜」(「聖書 新共同訳」日本聖書協会)におけるキアスムスの一例である。

 

 

A アスティアゲス王が死んで先祖の列に加わり、ペルシア人のキュロスが、その王国を継いだ。αダニエルはこの王の側近を務めており、王のすべての重臣たちよりも高く用いられていたβバビロニア人たちはある偶像を礼拝しており、その名をベルといった。人々は毎日、十二升の上質の小麦粉と四十匹の羊と六樽のぶどう酒を、その像のために費やしていた。王はベル神を敬い、毎日、礼拝にやって来た。しかし、ダニエルは自分の神を礼拝していた。そこで、王はダニエルに言った。「お前はなぜベル神を礼拝しないのか。」ダニエルは、γ「わたしは手で造った偶像などではなく、天地を造られ、すべての生き物を支配しておられる生ける神を礼拝しているからです」と答えた。

B すると、王はダニエルに言った。「ベル神が生ける神であるとお前は思わないのか。毎日、どれだけベル神が召し上がり、お飲みになっているかお前は見ていないのか。」αダニエルは笑って言った。「β王様、だまされてはなりません。あれは内側は粘土で、外側は青銅でできていて、飲み食いするわけがございません。」

C 王は怒って、ベル神の祭司たちを呼びつけて、言った。「これほどの費用のものを平らげているのはだれか、わたしに告げることができないなら、お前たちは死を免れない。しかし、もし、αベル神が食べておられることを証明するなら、ダニエルこそ死を免れない。ベル神を冒涜したからだ。」ダニエルは王に、「あなたのお言葉どおりになさってください」と言った。

D さてベル神のα祭司たちは、女、子供を除いて、七十名いた。王はダニエルを伴って、ベルの神殿に入った。ベル神の祭司たちは言った。「さあ、王様、私どもは外に出ています。

E あなたが食物をお供えし、ぶどう酒に香料を混ぜてそこに置き、α扉をしっかり閉ざしてあなたの指輪で封印してください。そして、明朝早くおいでになって、ベル神が全部食べてしまわれたのを御覧になれない場合には、私どもは死を甘んじて受けましょう。しかし、その反対であったならば、我々を陥れようとしてうそをついたダニエルこそ死ぬべきです。」

F α祭司たちは事態を軽く見ていた。というのは、彼らは、供物台の下に、隠し扉を作っており、いつもそこから入っては供え物を飲み食いしていたからである。

F´さてα祭司たちが出て行くと、王はベル神に食物を供えた。一方、ダニエルは自分の召し使いたちに命じて灰を運んで来させ、王しかいないのを確かめてそれを神殿中にまかせた。

E´それから、皆、外に出てα扉を閉め、王の指輪で封印し、立ち去った。

D´夜になり、いつものように、α祭司たちとその妻や子供たちがやって来て、すべてを食い、飲み尽くした。 

C´その翌朝、王は早々と起きてやって来た。ダニエルも一緒だった。王は言った。「ダニエルよ、封印に異常はないか。」ダニエルは、「王様、異常はございません」と答えた。王は扉が開かれるとすぐに、目を供物台の上に注いだ。王は大声で叫んだ。「α偉大なるかなベル神よ、あなたには一かけらの偽りもない。」 

B´しかしαダニエルは笑って、王が中に入らないように押しとどめ、「その床を御覧ください。あの足跡がだれのものかをお調べください」と言ったβ王は、「なるほど、これは男と女と子供との足跡だ」と言い、憤って、祭司たちをその妻や子供たちと共に捕らえさせた。ついに彼らは、供物台の上のものを平らげるために出入りした隠し扉を王に示した。

A´王は彼らを処刑し、ベル神のα処置をダニエルに任せた。ダニエルはベル神とその神殿を打ち壊した。さて、一匹の巨大な竜がいた。βバビロニア人たちは、これをあがめていた。王はダニエルに言った。「この竜が生ける神ではない、といかにお前でも言えまい。これを礼拝せよ。」ダニエルは王に言った。γ「わたしは、わたしの神である主を礼拝します。その方こそ生ける神だからです。王様、お許しをいただければ、剣も棍棒も用いずに、この竜を殺してみせましょう。」王は「許す」と言った。

 

 

「ベルと竜」は、大きくは、上記の「ベル神」との関わりについての記事と、その後の「竜」との関わりについての記事によって構成されている。ここで見いだせるキアスムス様式は、聖書正典における他書の構造と似ているといえる。