東日本大震災から1年半後~時の流れと記憶の忘却
東日本大震災から1年半後の9月11日、以下の2つのサイトを公開しました。
以下では、この2つのサイトを紹介したいと思います。
1. 311メモリーズ(東日本大震災メモリーズ)
2011年3月11日以降のマスメディアニュース記事を対象に、日ごとの重要キーワードを10個自動的に選び出し、それを時系列的に表示するサイトです。このデータの元ネタは東日本大震災ニュース分析・日々の重要キーワードですが、見せ方が異なるので全く違うデータのような印象を受けます。
このサイトの一つのコンセプトは「静かに動く年表」です。利用者は、通常のウェブサイトのように自らの意思で情報を探索することも可能ですが、積極的に情報を探索しないモードに入ると年表が勝手に動き出して、画面上のキーワードを勝手に選び、キーワードに関連する記事のタイトルを続々と表示していきます。年表という情報構造の上でのナビゲーションと、表示されるキーワードとの偶然の出会いというセレンディピティを活用し、情報の探索をシステムにお任せできる「委ねられるメディア」を作り出すというのが、サイトのもう一つのコンセプトです。
なぜこのようにしたのでしょうか?自らがクリックを繰り返して情報を探索する能動的なモードでは、どうしても目前の選択肢に意識が向いてしまうため、その情報が想起させる自らの記憶をゆっくりと振り返りづらくなります。一方でシステムに情報の探索を委ねる受動的なモードでは、画面上に次々と出現する情報を見つめることに集中できるため、そこから震災の記憶を振り返るという余裕も生まれます。私自身もこのサイトをぼんやりと眺めていると、震災以後に発生したいろいろな出来事とその影響について、思いを巡らせたい感覚が自然に生じてきます。そのような感覚が生じる原因の一つは、受動的なインタフェースにあるのではないかと私は考えています。
そしてここに音楽をつけることで、画面上での時の流れをより強く意識できるようになりました(作曲者の松井さんのブログ)。またデザインを黒背景の白文字としたことで、石碑に刻印された文字という雰囲気も生じました。今回の震災では、津波への警告を後世に伝えて集落を守った石碑が話題になりましたが(参考:東日本大震災被災地の半年後を訪ねる)、このサイトも震災の記憶を刻み込むメディアとしての役割を果たせるかもしれません。
震災の記憶は、たまに思い出さないければ、どんどん忘却が進んでいきます。あれほど衝撃的だった震災の記憶ですが、今はみなさんの中にどのくらい残っているでしょうか?あの時の生のデータに触れることによって震災の記憶をよみがえらせ、改めて震災を考えるきっかけになればと考えています。
2. 東日本大震災ニュース分析・タイムマップ
2011年3月11日以降のマスメディアニュース記事を対象に、どこの地名がどの時期により多く報じられたかを計算し、それを可視化した動画です。このデータの元ネタは東日本大震災ニュース分析・地名マップですが、見せ方が異なるので全く違うデータのような印象を受けます。
地名マップは、震災以後の時間を圧縮したフラットな情報表示となっているため、情報の広がりは見えますが時の流れは見えません。そこで、ある地名について報じた記事数から毎時間の「指数」を計算し、それを丸の大きさと色に変換して可視化することで、時間の流れと地名の出現の関係を把握できる「動く地図(タイムマップ)」を作りました。
この動画における「時の流れ」は、ニュース記事の影響度が時間とともに減衰する「忘却モデル」に基づいています。今回使っている忘却モデルは最も単純かつ短期的な影響のみを考慮したモデルですが、忘却に関する研究成果を用いてもっと精緻化することも可能です。そうしたモデルを使えば、震災の記憶を長期的に残していくための方法が見えてくるかもしれません。
以上のように、震災1年半を迎えて公開したサイトは、いずれも時の流れと記憶の忘却に焦点を合わせたものになりました。これはたまたまという面もありますが、やはり1年半という時期は、時の流れをどのように捉え、記憶の忘却に対してどのような態度を取るべきか、改めて考えるべき時期なのかもしれないと思います。
以下では、この2つのサイトを紹介したいと思います。
1. 311メモリーズ(東日本大震災メモリーズ)
2011年3月11日以降のマスメディアニュース記事を対象に、日ごとの重要キーワードを10個自動的に選び出し、それを時系列的に表示するサイトです。このデータの元ネタは東日本大震災ニュース分析・日々の重要キーワードですが、見せ方が異なるので全く違うデータのような印象を受けます。
このサイトの一つのコンセプトは「静かに動く年表」です。利用者は、通常のウェブサイトのように自らの意思で情報を探索することも可能ですが、積極的に情報を探索しないモードに入ると年表が勝手に動き出して、画面上のキーワードを勝手に選び、キーワードに関連する記事のタイトルを続々と表示していきます。年表という情報構造の上でのナビゲーションと、表示されるキーワードとの偶然の出会いというセレンディピティを活用し、情報の探索をシステムにお任せできる「委ねられるメディア」を作り出すというのが、サイトのもう一つのコンセプトです。
なぜこのようにしたのでしょうか?自らがクリックを繰り返して情報を探索する能動的なモードでは、どうしても目前の選択肢に意識が向いてしまうため、その情報が想起させる自らの記憶をゆっくりと振り返りづらくなります。一方でシステムに情報の探索を委ねる受動的なモードでは、画面上に次々と出現する情報を見つめることに集中できるため、そこから震災の記憶を振り返るという余裕も生まれます。私自身もこのサイトをぼんやりと眺めていると、震災以後に発生したいろいろな出来事とその影響について、思いを巡らせたい感覚が自然に生じてきます。そのような感覚が生じる原因の一つは、受動的なインタフェースにあるのではないかと私は考えています。
そしてここに音楽をつけることで、画面上での時の流れをより強く意識できるようになりました(作曲者の松井さんのブログ)。またデザインを黒背景の白文字としたことで、石碑に刻印された文字という雰囲気も生じました。今回の震災では、津波への警告を後世に伝えて集落を守った石碑が話題になりましたが(参考:東日本大震災被災地の半年後を訪ねる)、このサイトも震災の記憶を刻み込むメディアとしての役割を果たせるかもしれません。
震災の記憶は、たまに思い出さないければ、どんどん忘却が進んでいきます。あれほど衝撃的だった震災の記憶ですが、今はみなさんの中にどのくらい残っているでしょうか?あの時の生のデータに触れることによって震災の記憶をよみがえらせ、改めて震災を考えるきっかけになればと考えています。
2. 東日本大震災ニュース分析・タイムマップ
2011年3月11日以降のマスメディアニュース記事を対象に、どこの地名がどの時期により多く報じられたかを計算し、それを可視化した動画です。このデータの元ネタは東日本大震災ニュース分析・地名マップですが、見せ方が異なるので全く違うデータのような印象を受けます。
地名マップは、震災以後の時間を圧縮したフラットな情報表示となっているため、情報の広がりは見えますが時の流れは見えません。そこで、ある地名について報じた記事数から毎時間の「指数」を計算し、それを丸の大きさと色に変換して可視化することで、時間の流れと地名の出現の関係を把握できる「動く地図(タイムマップ)」を作りました。
この動画における「時の流れ」は、ニュース記事の影響度が時間とともに減衰する「忘却モデル」に基づいています。今回使っている忘却モデルは最も単純かつ短期的な影響のみを考慮したモデルですが、忘却に関する研究成果を用いてもっと精緻化することも可能です。そうしたモデルを使えば、震災の記憶を長期的に残していくための方法が見えてくるかもしれません。
以上のように、震災1年半を迎えて公開したサイトは、いずれも時の流れと記憶の忘却に焦点を合わせたものになりました。これはたまたまという面もありますが、やはり1年半という時期は、時の流れをどのように捉え、記憶の忘却に対してどのような態度を取るべきか、改めて考えるべき時期なのかもしれないと思います。